ある敵の独白
嫌な流れになっている気がする。
TVでは死穢八斎會逮捕の件が流れなくなっても二人は戻って来なかった。
そして、黒霧も多分捕まった。
俺たちは七人から四人になってしまった。
金もない、人もいない。
「なぁ死柄木、これからどうなる?」
死柄木は黙ったまま答えない。
金がなく、装備もボロボロ、四人に減った事で出費が減るかと思ったが、敵組織への強盗で負担が増えた分、寧ろ装備がボロボロになった。
俺達には先がない。
前に、死柄木の先生だったAFOの側近のドクターも逮捕された可能性があると死柄木は週刊誌を見せながら言ってきた事がある。
見出しには『病院にて人体実験!?秘密の地下施設の実態!!』と書かれてあった。
情報はこれひとつだが、ヒーローが踏み込んだのは事実で、院長の男も逮捕されたのも事実。
所謂、週刊誌なので内容は妄想に近そうな内容だが、少ない事実から逮捕された医者はドクターだと死柄木は考えてる。
黒霧が探していた戦力に関しても情報はほぼない。
地下のバーから始まった俺達は、今や地方の寂れた建設現場の事務所まで落ちぶれた。
最近会話も少なくなってる。
人の機微に敏感なトガちゃんと騒がしいトゥワイスが居なくなって単純に静かになっただけではない。
それぞれが敵連合に対して不満を抱え始めている。
コンプレスは片腕を失った上に仲間を二人失った事が堪えたのか、仮面を付けっぱなしになった。
仮面の下でどんな顔をしてるのか見たくない。
荼毘は最近、拠点に戻る頻度が少なくなった。
近場の奴らは燃やしてしまい、スカウトに時間が掛かってると言っているが、本当は俺達の次を探してるんじゃないのか?
死柄木も口数が減り、考える事が多くなった。
俺もそうだ、俺は田舎で異形種であることを理由に虐められて、空っぽのまま育って、ステインの最後に感動して敵連合に参加した。
今の敵連合にステインの意思を全うできるのか分からない、何処に向かっているのか分からない。
ここで死柄木にぶちまけてしまえば良いと思った事もあるが、多分それが、敵連合の致命傷になる気がする。
俺達には先がないのか、見えていないだけなのかどっちなんだ死柄木?
ある雄英生の疑問
あの事件から暫くがたった。
TVでは死穢八斎會の件がニュースになっており、ミリオ先輩が活躍した事も話題になっている。
僕はあの事件に参加した雄英生で一番怪我が少なかったというか無傷だった。
あの時、ナイトアイや僕の前を走った二人の公安ヒーローが全て片付けてしまった。
あの敵連合の二人すら一瞬で倒してしまった。
公安ヒーロー。
打ち合わせの後、先生に聞いた話を思い出す。
『公安ヒーローというのは、主に表に出ちゃいけない事件や慎重に対処する事件に対して動くヒーローだ。
政治家の汚職とかテロ組織とかな。
基本的に外部と協力せずに公安だけで動くんだが、今回は特例だろう。
グラディスが言っていたが、敵連合が個性破壊弾を手に入れる事を危険視したんだろうな。
まあ、表に出ないことで出来るヒーロー活動もあるってことだ。』
相澤先生曰く昔スカウトされたが断った事があるらしい。
彼らの活躍を思い出す。
グラディスさんの庭での一瞬の鎮圧や、迫り来る壁を破壊し続けたスピードとパワー。
ジュールさんの遠距離吸熱による無力化。
それに、彼らをサポートしていた人達。
彼らの動きから、視界共有や物と人を入れ換える個性、後は鎧ごと再生させていたから壊理ちゃんみたいな巻き戻しの個性だろうか。
どれも遠距離からの支援で行えるなんて正直聞いたことがないし、AFOの事が頭を過り、複数個性持ちなのかと疑ってしまう。
機密保持契約にサインしてるから本当はダメなんだけど、オールマイトにこの事を相談してしまった。
「公安ヒーローが複数の個性持ちか…。
緑谷少年の疑念は尤もだが、公安ヒーロー達は信頼して良いと思うよ。
はっきりとは言えないというか、此処だけの話というか、公安には友人で私を助けてくれたヒーローがいてね。
彼がいるから心配する必要はないと思うよ、うん。
あ、これ本当にオフレコね、マジで。」
僕の疑念よりも、オールマイトを助けてくれたヒーローが気になって身を乗り出して聞こうとしてしまった。
オールマイトは教えてくれなかったが、オールマイトが言うなら大丈夫なのかもしれない。
オールマイトの言葉で疑念が和らいだ分、無力感が沸き出る。
僕は結局、あの娘を助けると言って何も出来なかった。
二人の公安ヒーローやミリオ先輩が率先して動いて全部解決してしまった。
あの娘が無事で本当に良かったと思うけど、同時に無力感も感じている。
僕はあの場に必要ではなかった、壊理ちゃんを助けるという思いやミリオ先輩が先行してるから進んだけど、切島君のフォローに行くのが正解だった気がしてくる。
つい、そのこともオールマイトに呟いてしまう。
「緑谷少年、確かに君の言う通りかもしれない。
でも少女は助かったし、悪を捕まえる事が出来たのは良いことさ。
それに、君はまだ成長期だ。
今、無力感を感じてるなら、これから成長して今度は君が彼らを助けられるヒーローになれば良いのさ!
私もサポートするから、一緒に頑張ろう!」
オールマイトの言葉にハッとする。
そうだ、結果は良かったのだ。
これ以上を求めるなら僕の我が儘になる。
これからだ、これからもっと頑張って強くなって、今度は僕が来たって示せばいいという事を忘れていた。
オールマイトに礼を言って、自分の部屋に駆け込む。
先ずは、グラディスさんの動きを全部分析しよう。
あの人の体の動きを組み込むことが出来れば、更に成長出来るはずだ。
継承するはずだった敵の独白
先生を上回った奴がいる。
あの事件の時、先生はわざと俺から離れたというのに後で気付いた。
俺に「考えろ。」と言って、俺のもとから離れたのは、俺を成長させる為なんだろうという事にも気付いた。
先生は居なくなってもドクターがいる。
恐らく、俺が相応しいと判断したらドクターが俺にナニカを与える。
脳無や先生の個性、ドクターの技術を考えればすぐに分かった。
俺にAFOを与えるのだと、それに見合った肉体に改造して。
だけど先生の計画はぶちのめされた。
あの週刊誌によるとドクターが捕まったのは、先生が捕まってから直ぐだった。
地下施設とやらも何もかもぶっ壊されて、先生が遺そうとしてくれた物は全て失くなった。
どう考えても、先生の計画を全部知った上での行動だ。
最初は先生にはドクター以外の協力者がいて、そいつが先生をはめたのかと考えたが、それなら先生もドクターもいない今こそ俺達に接触して利用するなり、捕まえるなりするはずだ。
だからこそ最悪な事に、外部の恐らく警察か何かの誰かに先生の計画を全て気づいて暴いた奴がいる。
判ってるのはそいつがヒーローではないって事だ、ヒーローが先生の計画に気づいてるなら林間合宿を襲った時に対策を建てるはずだし、先生の元に徒党を組んで襲撃をかけるはずだ。
敢えて、計画を進めさせて先生が捕まってからドクターを捕まえたんだ。
その狡猾さでヒーローな筈がない。
しかも、そいつはヤクザの一件にも関わっている。
ヤクザどもの計画は聞いていたし、襲撃があると分かっていた、攻めてくるヒーローの資料もあった。
ヒーローの戦力を考えて、あいつらなら逃げれると確信して貸し出したんだ。
なのに、あいつらは戻って来なかった。
それに、あの組長がインターン如きに捕まるなんざありえねぇ。
いくらインターンの情報が無いとはいえ個性破壊弾を持ってたのに捕まるだと?
どう考えても影で動いた奴がいるし、俺の勘が先生の計画を暴いた奴だと言っている。
別に、先生の遺産とかはどうでもいい。
オールマイトが守った世界を壊す。
これは俺自身が決めた目標だ、先生の遺産なしだろうとやり遂げてやるさ。
だが、先生の計画を暴いた奴は警戒しなくちゃいけない。
俺の邪魔だし、一応、恩師の仇だし殺してやる。
いいねぇ、頼りはなし、数も減った、お先真っ暗って訳だ。
クソゲー以外の何物でも無いがやってやるさ。
先がない敵連合と活躍出来なくてちょっとナイーブな緑谷少年と元後継者の話。
敵連合は二人がいない分空気が死んでるし、コンプレスがヤバい。
緑谷君はヤクザ編で活躍0なのでちょっとナイーブ。
そう言うときはオールマイトに投げるのが一番よ。
死柄木は先生の計画とかどうでもいいが、謎の存在Xが邪魔だと認識。
本当はもっと謎の存在X(主人公)の話しさせたいけど、今は彼らの原作崩壊の影響を書きたくなった。