個性が「穢土転生」な件   作:ボリビア

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とりあえず完結。
感想の返信ですが、この回を投稿してから返します。


10年後な件

 10年の月日は人を変える。

 例えばホークスは今やNo.1ヒーローになっているが、次世代のオールマイトである緑谷君に抜かれそうだ。

 オールマイトが現役の時代をヒーローの黄金期とするならば今こそ第二の黄金期と言えるだろう。

 原作ヴィランが一掃されて、原作より壁は減ったが越えるべき壁を安全に越えた原作世代の生徒はヒーローとして活躍している。

 特に緑谷、爆豪、轟、通形の四人はエンデヴァー引退後に一位を譲られたホークス、同じく二位にスライドしたジーニストと並ぶ勢いがある。

 この間発表されたヒーロービルボードチャートは過去最高の投票数の中、一位から六位までの人気投票がほぼ横並びになるほどだ。

 恐らく来年にはホークスも一位の座を譲り渡す事になりそうだ。

 

「…平和になったな。」

 

「そうですねぇ。

 異能解放軍も無事に解体されましたし、AFOや敵連合、ギガントマキアの刑も無事に執行されましたし。

 扉間君も無事に大学卒業出来ましたし。」

 

「最後のは余計だ。

 そもそもあの留年は俺のせいじゃないし。」

 

「原因は確かにそうですが、あの時の扉間君なら波風立てずに事を運べたでしょう。」

 

 留年は知恵を貸していた案件について、事件が思ったよりややこしく複数の組織を跨いでの仕事になったのだが、その時に俺に指揮権が与えられたのだ。

 後は手柄や年功序列やら嫉妬やらのせいで必修単位を一つ逃したのだ。

 

「仕方ないだろう、手柄欲しいと言ったからくれてやったのに欲張った向こうが悪い。」

 

「確かにそうですね。

 …それにしても扉間君も成長しましたね。

 要注意監視対象からヒーロー公安委員会特別顧問ですから。」

 

 ヒーロー公安委員会特別顧問は俺専用の肩書きだ。

 10年間で個性より頭脳を活躍する機会が多くあり、その功績と既に引退したが公安委員長の尽力で設けられた立場である。

 具体的な権限として特別予算や独自捜査権、制限なしのデータ閲覧等で要するに公安の名前使って好きに動いて良いという立場だ。

 俺への命令権は公安委員長が持つが、公安委員長就任の推薦権を俺は持っているため、おいそれと公安委員会でも手が出せない立場になる。

 悪用しようと思えば色々やれる位には強い権力だが、それだけ信用するという事だろう。

 

「立場は強いけど部下とか事務とか一人もいないし、幾つかの部署や幹部には嫌われてるけどな。」

 

 陸の孤島感凄い。

 

「まったくもう。

 褒めてるんだから素直に受け取ってくださいよ。

 一応結婚したのに。」

 

「だからこれくらい気安いんだよ。」

 

 言い忘れていたが、俺は現在自宅でテレポンに膝枕されている。

 互いの薬指には指輪をつけて。

 詳細は省くが俺も素直になったという事だ。

 

「そもそも、結婚だってPlus Ultraが成仏したのが切っ掛けですし。

 根っこが素直じゃないんですねぇ本当。」

 

「まあ、いつか成仏する可能性に気付いたから告白したがそうじゃなきゃ俺の寿命辺りで告白していたよ。」

 

「死ぬ寸前じゃ素直とは言いませんねぇ。」

 

 穢土転生から逃れる術は解呪以外にも一つだけ方法がある。

 生前の未練が果たされて成仏する事だ。

 正直Plus Ultraが成仏するまで忘れていた。

 Plus UltraはAFOの刑が執行されてから直ぐに成仏した。

 生前の因縁の相手といっても過言ではないAFOが死に、その因子を持つ者達も死んで未練が果たされたのだ。

 本人は最期まで共にあれずにすまないと謝っていたが、俺は未練が果たされて良かったと思っている。

 次に成仏したのはグラディエーターだった。

 彼も黎明期にAFOの軍勢と平和を得る為に戦ったヒーローだ。

 子孫である麗日お茶子がヒーローデビューを果たして直ぐに成仏の兆候が気付いた彼は最期に俺と組み手をしてから成仏した。

 結果は惜敗したが、あれほど満ち足りた敗北は二度と味わえないと思う。

 次に成仏したのは監獄長だ。

 俺が特別顧問に就任した時に、監獄長からの最初の仕事として監獄の監査を行った。

 小さいのから大きい物まで様々な改革を提案、実行し、初期の成果が確認出来ると次の日にひっそりと成仏した。

 振り返るとあの監査自体が監獄長からの贈り物なのだろう。

 あの経験は今も捜査に生きている。

 次はカロリだ。

 カロリは本当にあっさりしてた。

 監獄長が成仏して直ぐに、お手製のレシピ本を残して成仏した。

 レシピ本はやたらと一人前が強く表示されていたのでつまりそういう事だろう。

 …そしてテレポンが今日らしい。

 

「…そろそろか。」

 

「…ええ、本当はもっと一緒に居たいですが意識がたまにフワッとするのでそろそろでしょう。

 膝枕もやめましょうか、今成仏したら死体の膝枕になりますし。」

 

 膝枕から起き上がって、テレポンを見つめられる様に真正面に座り直す。

 その姿は10年前と変わらないが、身体中から少しずつ塵が流れている。

 

「扉間君は背が伸びましたね。

 …本当はもっと貴方と一緒に居たいですが、貴方の成長や女として幸せを実感したり今のヒーローの活躍を見ると私も次に進みたくなってしまいます。

 貴方の側にいると、味方であり続けるという約束が果たせず申し訳ありません。」

 

「…大丈夫だ。

 例え成仏しようとも俺は皆と共にいる。

 10年でようやく学べたよ。」

 

「ふふっ。

 本当に成長しましたね。

 では最期に貴方との時間は私にとって、彼らにとってもかけがえのない時間でした。

 貴方はもう大丈夫。

 愛しています。」

 

「ああ、俺も愛している。」

 

 テレポンは自分の指輪を俺に握らせながら微笑んで成仏した。

 形が崩れて、生け贄となった死体が横に倒れて現れた。

 俺は手のひらの指輪を一度握り込み、懐にしまい電話をかける。

 一度目の前の死体を見るが、そこにテレポンは居ない。

 

「私です。

 死体の処理を頼みます。」

 

 死体の処理を依頼して自宅を出る。

 涙を流す事は無い。

 覚悟はしていたし悲しい出来事ではない。

 愛する者が未練を全うしたのだ。

 

「…妻との思い出に耽りたいのだが。

 さて、同僚に向けるべきではない物騒な物を構えた君たちの用件は何かな?」

 

 フラフラと歩いて人気のない路地についた途端にこれだ。

 挟み込む形で男達が囲んできた。

 手にはサイレンサー付きの拳銃握りしめているのは立派だが、何人か震えているのが滑稽で笑いそうになる。

 

「…。」

 

 問いかけに返答は無いが代わりに弾丸も飛んでこない辺りこいつらは俺を知らないらしい。

 

(捨て駒か。)

 

 俺が彼等に対処出来るのか分からない奴らが下っぱを使って調査しようとしているのだろう。

 ヒーロー黄金期ではあるが完全に平和ではないし公安は常に人不足だ。

 無駄な事はやめて欲しい。

 

「撃たないなら退いてくれ。

 独りの気分なんだ。」

 

「……撃て!!」

 

 一歩歩いて漸く前から後ろからも弾丸が飛んでくるが俺に届く前に黒い霧に触れる。

 弾丸は黒い霧を通して彼等の手足へとデリバリーした。

 手足を射たれて動揺している彼等を観察すると一人だけ反撃した事自体に驚いてる奴がいた。

 直ぐに黒い霧を使いそいつを目の前に召喚する。

 

「お前が指揮官か。

 あー、なるほど。

 色々聞こうと思ったがお前の顔には覚えがあるぞ。

 上司も分かった。

 お、なんだカメラついてるじゃないか。

 生放送?」

 

 傷口を踏みつけながら聞くと、どうやら生放送らしい。

 

「生放送なら見せた方が早いよな。」

 

 黒い霧で人形達を呼び出す。

 茶髪の継ぎ接ぎ男、女子高生、全身タイツ、仮面を付けたシルクハットの紳士、手がたくさん付いた少年。

 全てを縛り上げているため、全員の全身に罅が大量に入っているが敵連合と言われていた死人達だ。

 

「見えるか?

 四人のヒーローは確かに成仏した。

 でも丸腰じゃない。

 後ろのこいつらは護身用でね。

 お前らなんかとっくの昔にこっちは把握しているよ。

 ちなみに公安委員長は彼等について知っている。」

 

 個性を一度でも使用した時点で天国に行けるなんて思ってない。

 ならせめて地獄に行く人間を減らせる様に頑張るのが俺のヒーロースタイルって事にした。

 

「脅すような感じで申し訳ないが、公安も人手不足だ。

 余計な事せずに仲良くやっていこう。」

 

 伝える事は伝えたし、人形を引っ込めて路地を出る。

 さて、妻との思い出を振り返ろうか。

 




このまま放置も嫌なのでとりあえず完結にしときます。
原作の展開とか読んだりしておまけ書きたくなったら続き書く感じで。

今までお付き合いありがとうございました。

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