東方千年探 ~魔理沙のはじめての文通~   作:ふーてんもどき

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十話

 

 

 

 ヒマワリが咲き誇る丘の上空で、二人は対峙していた。一方は箒の柄に立って空を飛び回り、一方はスカートの裾をはためかせながらふわふわと宙に浮いている。

 

「ハアッ、ハアッ、ハアッ…………」

 

「もう終わり?」

 

 幽香の挑発に、魔理沙は答えない。服は汗でぐっしょりと濡れ、肩を上下させて荒い息を吐く。そんな限界の見え始めた魔理沙に対し、幽香は涼しい顔をして日傘を差している。仮にも決闘の最中だというのに、野道を散歩でもしているような優雅さだった。

 

 魔理沙はあらゆる手を尽くした。今自分が持ち得るスペルカードをいずれも適切に使い、時にはフェイントを巧みに織り交ぜて攻め立てた。間違いなく全力を出したと言える。

 

 それなのに相手は無傷。いや、疲れてすらいない。一つ一つが高密度の弾幕となる魔理沙のスペルカードを全てかわし、名も付けていない単純な妖力弾で相殺して見せたのだ。それは圧倒的な実力を持つ者にのみ許される絶技。人間程度の反射神経ではどう転んでも不可能な、神がかりとすら言える卓越した技巧であった。

 その悠然とした一挙手一投足に込められたしなやかな美は、ただ派手な弾幕を撃つだけでは決して至れない領域にある。

 

 弾幕ごっこを始めて僅か十分。魔理沙の劣勢は明らかであった。

 

「もうタネも尽きたかしら。けれど驚いたわ。まだ子どもなのに、こんなにも多くの魔法を扱えるなんて。なかなか良いものを見せてもらった」

 

「勝手に、終わらせんじゃねえ!」

 

 魔理沙が吼えて突貫する。立っていた箒の柄に跨り、身体を極力倒すようにして風の抵抗を減らす。

 

 幽香の言う通り、ほとんどの手はすでに使い果たしていた。残る望みはあと一つ。それに一縷の希望をかけて、魔理沙は最後の勝負に出たのだ。

 

 真っ直ぐに、猛烈な速度で飛来する少女の姿を見つめながら、幽香は不敵に笑って一枚の紙を掲げた。

 

「花符・幻想郷の開花」

 

 スペルカードの宣言と共に、花吹雪のごとき無数の弾幕が幽香から放たれる。魔理沙がぎょっと目を剥き、一瞬とはいえ特攻の覚悟を忘れさせるような、妖力の暴風雨が襲いかかる。ただでさえ数が多いそれらは、風に舞う花びらのように不規則な動きをして魔理沙の行く手を阻んだ。

 

 しかし避ける。当たらない。花弁の一つとして、魔理沙に触れることはない。

 

 人間の少女にあるまじき回避性能に、今度こそ幽香は感嘆し目を大きく開いた。

魔理沙が幽香の凶悪な攻撃を回避できているのは、これまでに霊夢と何度も試合をした経験があってこそだった。幻想郷の守護者としての役割を持つ博麗の巫女を務めるほどの才気は尋常ではなく、魔理沙は霊夢の理不尽とすら言える実力の前に幾度となく敗北を喫している。それでも諦めなかった成果の一端が今、この場で発揮されていた。

 

 無限に思える花弾幕の隙間を縫うように、魔理沙は幽香に接近し続ける。五感が研ぎ澄まされる。自分が一本の槍になった感覚。大きかった回避動作が徐々に洗練され、必要最小限の動きで避けるようになる。

 対して幽香は動かない。眩しいものを見るように目を輝かせながら、一層弾幕の放出に力を入れ、魔理沙を待ち構える。

 

 嵐を抜け、魔理沙が幽香の目と鼻の先に到達する。両者の視線が交錯する。

 

 その瞬間、たおやかに差し出された幽香の指先から強烈な光線がほとばしった。魔理沙が目前に迫ったと同時にそれは放たれた。かつて妖犬に対して使ったような威力は込められていないが、回避はまず不可能。人間どころか妖怪ですら、目視と共に光の奔流に飲まれるが必然である。

 

 そう、目視してからでは遅い。

 

「そこだっ!」

 

 気炎万丈の一声。ぎりぎりまで相手を引き付けた幽香の攻撃は、魔理沙が最も欲していたものだった。

 そのための突貫だった。弾幕ごっこにおいて有効な一定以上の距離を潰し、わざわざ相手の懐にまで飛び出たのはこの一撃のため。つまりは予見していたのだ。弾幕に隠された、幽香が放つこの光線を。

 

 だからこそ避けることが出来た。

 魔理沙は飛ぶ速度をそのままに大きく体勢を傾けて、光線の真下を掻い潜るようにして間一髪でかわしてみせた。すさまじい遠心力に体が悲鳴を上げ、意識を持っていかれそうになるが、全身に魔力を漲らせ歯を食いしばってこらえる。

 

 今、幽香の視点ではちょうど魔理沙の姿と自分の放った光線が重なり合ったはず。つまり敵を見失った状態にある。それは無敵の大妖怪がほんの一瞬だけ思考を硬直させることを意味する、値千金の刹那。

 

 その一瞬を手にした魔理沙は、幽香の足元でミニ八卦炉を構えた。すでに魔力の充填を終えた八卦炉が、複雑な幾何学模様を光らせる。

 

「恋符・マスタースパーク!」

 

 魔理沙の奥の手が炸裂した。さきほど自身が放ったものに酷似した閃光が、幽香を真下から飲み込んだ。色とりどりの光が煌めくのは、八卦にまつわる元素をなべて魔力へと変換したためか。荒々しくも美しさを内包したそれは雲を突き抜け、空にまで達した。

 全身全霊、不可避の一撃だった。魔理沙にとってこれ以上はないと思えるほどに。

 

 そうして勝利を確信し笑みを浮かべる魔理沙は、しかし次の瞬間、凍り付くことになる。

 

「今のは、かなり良かったわね」

 

 マスタースパークが消えたそこには、変わらず無傷の幽香が浮かんでいた。開いた瀟洒な傘を、魔理沙に向けている。状況を見るに明らかだった。幽香は魔理沙の攻撃を防いだのだ。あの瞬き一回にすら満たない時間の中、たった一本の傘で。

 

「これは幻想郷で唯一枯れぬ花。誇っていいわよ、私にこの傘を使わせたこと」

 

 幽香が言うと同時、魔理沙の全身に強い衝撃が走った。幽香の傘の先端から妖力によって作られた大輪の花が咲き、魔理沙を打ち据えたのだ。

 それはヒマワリだった。蕾から放射状に開かれた黄色い花は、満開となって魔理沙を討つと、その花弁を散らして空気に溶けて消えてしまう。妖力が見せた幻の花ではあったが、たった一瞬とは言え地上にあるどのヒマワリよりも大きく、美しく咲き誇った。

 

 しかしまともに攻撃を食らった魔理沙はそれどころではない。空中でのバランスを失い、どうにか立て直そうとするも、魔力の制御が乱れて箒から落ちかける。

 

「わ、あ、わああっ」

 

 そうして上下が逆さになり地上へ落ちようとした時、振り回していた魔理沙の手が掴まれ、ぐいと引っ張り上げられた。尋常ではない力が少女一人分の体重を難なく支える。

 

「はい、おしまい」

 

 魔理沙を助け起こした幽香が言った。さっきまでの闘争の空気は完全に霧散しており、家で茶を飲んでいた時の穏やかな雰囲気に戻っている。

 

「さ、一旦下へ降りましょう。そのまま掴まっていなさい」

 

「ひ……一人で降りられるから……!」

 

 魔理沙は幽香の手を振りほどき、再び自力で空中に浮くと、少しずつ降下し始めた。魔力の消耗と、緊張が切れたことによって一気に押し寄せた疲労感のせいで、その飛び方はふらふらと危なっかしい。

 幽香はそんな魔理沙の様子を眺めつつ苦笑し、ゆったりと魔理沙のあとに続いて地上へ降りて行った。

 

 

 

「はーっ、負けた負けた」

 

 魔理沙はヒマワリ畑にある小径に降り立つと、足を投げ出して座り込んだ。そのまま仰向けに倒れ込み、手を広げて寝そべる。開き直ったその声にはありありと不満の色が浮かんでいた。手札を全て切らされ、その上で華麗に打ち取られたのだ。文句のつけようもない完敗であった。

 

「服が汚れちゃうわよ」

 

 幽香が魔理沙の隣に降り立つ。疲れ切った魔理沙はしばらく動かないという意思を込めて手をひらひらと振った。

 

 ヒマワリの大輪が咲きこぼれる小径の間を柔らかな風が通り過ぎ、魔理沙の額に浮かぶ汗を乾かしていく。それが大変涼しく感じ、五体投地している下草の感触さえ心地よく思われた。息を深く吸うと、土や草や花々の豊かな匂いが胸いっぱいに広がっていく。

 

「…………夏だな」

 

「ええ、夏ね」

 

 魔理沙の呟きに、幽香は側にあるヒマワリを眺めつつ応える。魔理沙は仰向けに寝転んだまま続けた。

 

「なあ幽香、この夏だなあって感じを知らないってのは、どんなんだろうな」

 

「え?」

 

「文通相手がそう言うんだよ。花とか虫とか、晴れた空も見たことないって。それじゃあきっと、季節に匂いがあるなんてことも分かんないんだろうなあって」

 

 幽香は傘を閉じて屈みこみ、魔理沙の方を向いた。

 弾幕ごっこで幽香が勝った際に教えると約束していた話を魔理沙がし始めたのだと気付いたのだ。

 

「文通ね…………その口ぶりだと、お相手は幻想郷の人間や妖怪じゃないのよね」

 

「うん。でも単純に外の世界ってわけでもなくて…………幽香って、タイムスリップって信じる?」

 

 魔理沙はそれから、八柳誠四郎という千年先の未来の人物から送られてくる手紙のことについて話した。とりわけ、未来では自然が失われているらしいことを詳しく聞かせると、幽香は「まあ」と驚いた様子だった。花妖怪である彼女にとって、植物のない世界のことなどにわかには信じられなかったのだろう。

 

 事情を一通り説明し終えると、幽香は納得したように頷いた。信憑性など欠片も無い話だと普通なら笑われそうなものだが、悠久の時を生きるこの大妖怪相手に、そんな心配は不要だったらしいと魔理沙は内心で安堵する。

 

「それで、押し花を作って送りたいってわけ。良いアイデアね」

 

「だろ?」

 

 事情を理解して魔理沙の手紙に贈り物を添えるという考えを褒めた幽香だったが、口元に手を当てて難しい顔をした。

 

「手紙のやり取りって、ガラス瓶でしているんでしょう。難しいというか、無理なんじゃない? ヒマワリを贈るのは」

 

 当たり前と言えば当たり前すぎる事実に、魔理沙は開いた口が塞がらなかった。押し花にすればある程度小さくなるとは言っても、ヒマワリの花が瓶に収まるわけがない。

 なぜそんなことにすら思い至らなかったのか。魔理沙の顔が赤く火照った。

 恥ずかしがってか寝返りを打ってそっぽを向いてしまった魔理沙の背中を、幽香は親が子をなだめるようにポンポンと叩いた。

 

「小さな花にしておけばいいじゃない。それでも十分気持ちは伝わるわよ」

 

「…………」

 

「そんなにヒマワリが良いの?」

 

 魔理沙が小さく頷く。幽香は「じゃあ」と言って立ち上がり、側にあるヒマワリに手を伸ばし、その花びらを一枚プツリと取った。

 

「これで妥協しなさいな」

 

 魔理沙はむくりと起きあがり、幽香の差し出した黄色い花弁を受け取った。しばらく眺めた後、しぶしぶといった様子ではあるが、ヒマワリの花びらを持ってきた紙に包んで本の間に挟み、カバンにしまった。

 

「あとはあなたの手紙の書き方次第ね」

 

「私、文才はあるほうなんだぜ」

 

「へえ。じゃあ今度、私とも文通してみる?」

 

「やだ。なんかヤダ」

 

 提案を断られて幽香は「えー」と残念そうに言う。

 

「なら、またこうして弾幕ごっこでもしましょうよ。今日のはなかなか楽しかったし」

 

「一方的に勝っておいてよく言うぜ。あーくそ、悔しいなあ」

 

 大声で悔しい悔しいと言う魔理沙を見ながら幽香は微笑んだ。

 

「いいえ。良い勝負だったわ。特にあなたが最後に使ったあの大技は凄かったなあ。たしかマスタースパークだったかしら。ただの人間の子供があんなのを撃てるだなんて思わなかったもの」

 

 マスタースパークの話を持ち出されて、魔理沙の肩がピクリと反応する。

 

「見たところ、私が撃つ光線とどこか似ているのよね。あなたのその魔道具が関係しているのかしら」

 

 ちょっと見せて欲しいと言われて、魔理沙は少し迷った後、懐からミニ八卦炉を取り出して幽香に渡した。普通なら決して他人に貸したりはしないが、他ならぬ尊敬している相手とあっては魔理沙も断る気にはなれなかった。

 

 幽香は不思議な金属で出来たその八角形を物珍し気に観察しながら、時折「へえ」とか「ふうん」と感心するように呟く。

 

「私のは自分の妖力に加えて太陽のエネルギーを素にしているんだけど、これも外部からエネルギーを吸収して魔力に変換する機能が備わっているのね。それも太陽光だけじゃなくてもっと多目的な…………ああ、だから八卦炉というわけ」

 

「分かるのか?」

 

 魔理沙が驚いた声を上げると、幽香は「なんとなくね」と答える。

 

「いいわね、これ。すごく便利じゃない。でも使いこなすには相当苦労したでしょう?」

 

 魔理沙は一瞬、押し黙った。図星だったからだ。

 家を出て魔法使いになる道を選んだ時、霖之助からは「まずはこれを使えるように頑張りなさい」と言われ、このミニ八卦炉を持たされた。

 

 自然のエネルギー、すなわちマナを魔力に変えるという機能を使いこなすには、ある程度の魔力操作の技術が必要になる。理論をしっかり知った上で、感覚で覚えなければいけないそれをモノにするのに魔理沙は一年近くかかった。それは少女にとっては長く険しい道のりであり、うんともすんとも言わないミニ八卦炉を投げ捨てたくなったことだって何度もあった。

 

 それでも諦めず、試行錯誤の末に扱えるようになったことは紛れもなく魔理沙の誇りだった。そうして撃てるようになったマスタースパークは魔理沙の切り札と呼ぶにふさわしい大技だ。

 

 しかし少女はふと、立ち止まって考える。ここが自分の目指していた場所なのかと思うことがある。その漠然とした思いが、魔理沙の足を止めて、将来への不安を喚起させる。

 

「……私くらいにもなると楽勝だって。今度はもっと強化した凄いやつ見せてやんよ」

 

「そう。楽しみだわ」

 

 魔理沙はよっこらせと立ち上がり、スカートについた汚れを軽く手で払ってから箒に跨った。

 

「もう行くの?」と幽香。

 

「うん。これから押し花作ったり手紙書いたりしなきゃだし。今日はありがとな」

 

 そう言ってから、魔理沙はふわりと浮き上がる。空へ上っていく彼女に向かって幽香は手を振った。

 

「またいらっしゃい。いつでも歓迎するわ」

 

 聞き覚えのある言葉だった。どこで言われたのだったか、魔理沙は不意に熱くなった目頭を押さえながら、魔法の森へと帰って行った。

 

 幽香は小さくなっていく少女の背中を見送りながら、感慨に耽るように細く長く息を吐いた。

 

 

 

 直後、温和だった幽香の表情が引き締まった。

 

「で、いつまで覗き見をしているつもりかしら」

 

 幽香がそう言うと、彼女の背後の空間がパックリと裂けて、深遠なる闇を覗かせた。次元を超越する、異質な力の行使。

 その裂け目から現れたのは、妖怪の賢者と呼ばれる八雲紫その人であった。扇子を広げ口元を隠しながらクスクスと笑う。その笑い声が不愉快だったのか、幽香は眉をひそめた。

 

「流石ね。いつから気付いてらして?」

 

 幽香は後ろを振り返ることなく、しかし体の隅々にまで妖力を漲らせ、臨戦態勢を取りながら答えた。

 

「私と魔理沙が弾幕ごっこを始めた時から。滑稽だったわよ、大慌てで駆けつけてきた貴女は」

 

 あからさまに煽られても紫は涼しい顔を崩さなかった。

 

「そう言う貴女も、人間の少女相手にずいぶんと戦いを長引かせていたけれど、風見幽香ともあろうものがどうしたのかしら」

 

 紫が言い終わらないうちに、幽香から膨大な量の妖力が溢れ出した。人間であれば卒倒するであろうその圧力を受けても紫は平然とし、同じく凄まじい妖力の発露によって相殺した。

 

 幽香が首を傾け、目の端で紫を見つめる。妖気によって赤く光る瞳が言外に、さきほどの勝負を侮辱する発言は許さないと物語っていた。もしくは死力を尽くして戦った魔理沙を人間の少女風情と評する物言いに憤ったのか。いずれにせよ、その眼光は紫すらも閉口させるのに十分な力を持っていた。

 

「あの子を監視して何をしようとしているのかは知らないけど、あまり無粋な真似はしないことね」

 

 幽香がそう言うと、紫はすっと目を細める。

 

「千年後の未来とこの幻想郷が縁を結んでいるという話は、さきほど魔理沙から聞いていたでしょう。あの子が文通をしていると」

 

「それがなにか?」

 

「繊細な問題よ。私は幻想郷の管理者として、未知の存在を裁定する義務がある」

 

「ご苦労なことね。で、あの子がやっていることを止めようってわけ?」

 

 再び、幽香からの威圧感が高まる。紫は「誤解しないでほしいわ」と心外そうに言った。

 

「私も無粋は好まないの。ただ今回は貴女に一つお願いがあるだけ。聞き入れて下さるかしら」

 

「お願い?」と幽香が聞き返す。

 

「魔理沙が未来に行きたいと言っても、手を貸さないこと。未来から人を招きたいと言う場合も同じように不干渉を貫いていただくわ」

 

 幽香はしばらくの間、紫の真意を探るように黙考していたが、やがて妖気を収めて臨戦態勢を解除した。

 

「大変ね。妖怪の賢者とやらも」

 

 そうして紫の方を見ずに家へ向かって歩き出す。何歩か歩いたところで「恩に着るわ」という紫の声がして、背後に感じていた大妖怪の気配は雲散霧消した。来た時と同じく、スキマの能力を使って八雲邸へと帰ったらしい。

 

「はあ、なんでああも胡散臭いのかしらね」

 

 幽香はなんとはなしに空を見上げながら、ため息交じりに言った。あの妖怪の相手は疲れる。今日はもうゆっくりしようと思いつつ、強張った腰を反らしてぽんぽんと叩いた。

 

 

 

 

 

 

 幽香は知らない。彼女と話した紫もまた、疲弊していることに。

 

「あー怖かったあ…………もー、何。何なのあの殺気は。私何か悪いことした?」

 

「紫様、帰って来るなり寝転ばないでください。みっともない」

 

「藍まで私に意地悪を言う」

 

「どうせ紫様が迂遠な言い回しをなされたのでしょう」

 

「だって幻想郷の管理者だもの。なめられたらお終いだもの」

 

 着替えもせずに自室の布団の上で俯せになった紫は、従者の小言に耳を塞ぎながら、そのまま寝落ちするまで愚痴をこぼし続けたのであった。

 

 

 


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