東方千年探 ~魔理沙のはじめての文通~   作:ふーてんもどき

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十九話

 

 

 

 魔理沙はふわふわと温かな夢見心地の中を漂っている。

 

「魔理沙、魔理沙」

 

 どこかから懐かしい声が聞こえる。魔理沙の名前を優しく呼ぶのは母だった。病弱でいつも床の間にいた母。おいそれと外に出られないので、連れ立って歩いた記憶もほとんどない。しかしこちらへ向ける優しい微笑みを、絵巻物を読み聞かせてくれたその声を、魔理沙はしかと憶えているのだった。

 

「魔理沙、起きなさい」

 

 肩を揺すられる感覚がある。母のひざ元に顔を埋めている魔理沙は目を閉じたまま、心地よい微睡みに身を任せる。郷愁に焦がれて空いた胸の穴を埋めていくような幸福感が少女を包み込む。ずっとこのまま、こうしていたいと思うほどに。

 

「もう起きなければいけませんよ」

 

 いやだ。起きない。

 魔理沙は口元を綻ばせながらもいっそう目を固く瞑った。今は、今だけは存分に甘えてもいいだろう。だってずっと会えていなかったのだから。離れていてもずっと心配していた。体の調子は大丈夫だろうかと慮っていた。もう何年もそう思い続けてきたのだから、今この夢の中だけは…………。

 

「起きて、魔理沙」

 

 と、それまで意識を蕩けさせていた魔理沙はすうっと頭の冴える感覚を覚えた。それと同時に今まで感じていたぬくもりが消え、気持ちが冷えていく。

 

 そうだ。もう何年も会っていない。声も聞いていないし、顔も見ちゃいない。魔法使いになりたいと言って家を飛び出してから、ずっとだ。

 そうだった。私は母さんに、まだ何も、してあげられていない。

 

 

 

 

 

 

 魔理沙が目を開けると、本の山が乱立していた。突っ伏している机の上には本の他に巻物やら羊皮紙やらが散らばっている。のっそり顔を上げると、頬に紙がくっついてくる。乾いた涎で張り付いていたのだ。ぺりぺりと剥がしながら横を向くと、パチュリーが立ってこちらを見下ろしていた。

 

「やっと起きた。もう朝よ」

 

 そう言われてからしばらくして、ここが自宅ではなく紅魔館の書庫であることを魔理沙は思い出す。魔法の勉強のために泊まり込んでいたのだ。顔にくっ付いていた紙には夜遅くまで魔導書を読み込んで得た知見が記されており、無意識に丸めてようとしていたのを慌てて伸ばす。涎でインクが滲んでしまっているが、文字の判別はなんとかつきそうだった。魔理沙はホッと息をつき、ようやくパチュリーに「おはよう」と言った。

 

 

 

 

 

 

 地底で核融合の実験に立ち合った魔理沙は、ミニ八卦炉の持つ潜在能力を知ることとなった。名付けるとするなら『エネルギーを操る程度の能力』と言ったところか。それは魔力を熱に変換するだけに留まらず、あらゆるエネルギーに干渉し得る破格の力だった。道具である以上耐久性などに限界はあるが、それを差し引いても汎用性に富んだ性能は唯一無二のものだろう。知識人のパチュリーをして、放射性物質を即座に安定化させる方法など他に知らない、と言わしめるほどに。

 

 その事実を告げられた時、魔理沙の頭に一つの考えが浮かんだ。この力を使えば千年後の未来の世界を救えるかもしれない、と。放射線とやらに汚染されている世界と、そこに住まう誠四郎を自分だけが救えるのではないか。

 一度そう思ったら、もう止められない。可能か不可能かという問題は忘却のはるか彼方に吹き飛び、どうしたら実現できるかというその一点のみに魔理沙の思考は巡らされた。

 

 八柳誠四郎を幻想郷に連れてくることは出来ない。ならば彼のいる世界を生きていける環境に戻す。その考えを起点に魔理沙はこれからの計画を立てた。以前、八雲紫に自分を未来へ連れて行ってくれと言った時「何も出来ないのに行ってどうする」と一蹴された。しかし今は光明が見えている。ミニ八卦炉の力を使えば可能なのだ。そして毒に侵されているであろう誠四郎を回復させるために薬を携えて行けば良い。幸いにして、幻想郷には蓬莱の薬という不老長寿の妙薬さえ作り出せる者がいる。

 

 全ての条件を揃えてしまえば、あとは再び八雲紫に直談判を掛けにいくだけ。もう無力ではないと知らしめる。無駄ではないと証明する。そうして未来へ行く片道切符をこの手にするのだ。そう思うにつけ魔理沙は興奮し、心臓が早鐘のように脈打った。

 

 無論、簡単ではない。やらなければいけないことが幾つかある。

 

 まずは魔理沙自身がみっちりと勉強すること。魔法の性能は持っている知識に比例する。この世の事象を根本から理解してこそ、自然摂理の具現である魔法という技術は真価を発揮するからだ。少なくとも、霊烏路空の最低火力とやらを魔力に変換するだけで音を上げているようでは話にならない。未来を救うのだという壮大な使命感が魔理沙を机に向かわせた。

 

 二つ目にミニ八卦炉の強化を行うことにした。これはパチュリーから提案されたことだった。パチュリーの扱う七曜の魔法を組み込むことで性能を向上させる。より複雑な機構となるそれを扱うためにも、魔理沙にはさらなる刻苦勉励が必要不可欠であった。

とは言っても、独学には限界がある。

 

「はあ、難しいよー。八卦も七曜も同じようなもんだろ。なんで今さら勉強なんか…………」

「原理が違うと前にも言ったでしょう。八卦思想は中国の易学が発端だけど、私の七曜の魔法は錬金術が土台になっているのよ。まだまだ覚えることはたくさんあるわ。文句言わない」

 

 結果、パチュリーが教鞭を振るうことになった。基本は紅魔館に泊まり込み、たまに地底に赴き間欠泉センターの実験を手伝うこともある。ここしばらく、魔理沙は自宅を空けたままであった。

 

 パチュリーに詳しい事情は話していない。しかし二人の間に利害の一致があり、懇切丁寧に魔法を一から教えてもらえている。魔理沙がミニ八卦炉を使いこなせるようになれば、パチュリーが担っている核融合の研究もさらに捗るというものだ。パチュリーほどの魔女であればミニ八卦炉を解析するなりしてその技術を自分のものにするという方法もあっただろうが、そうはならず魔理沙を鍛える道を選んだ。まあ、他人を使うことに何らかの意味があるのだろうと魔理沙も一人納得し、教えを受けている。

 

 食事は紅魔館の方から提供してもらえているので、魔理沙が外出するときはパチュリーの仕事に付き添って地底に行くくらい。

 

 もしくは無縁塚に手紙の確認をしに行くかのどちらかである。

 

 昼夜を問わない魔法修行の日々であっても、文通だけは変わらず続けている。ただ、魔理沙から送る手紙の内容は少し変わった。幻想郷の風景や徒然なる日常ついて書くことが少なくなり、今行っている勉強や、それが誠四郎のいる未来を救うことになるという話を書くようになった。誠四郎に少しでも生きる希望を持ってもらいたいという思いから、魔理沙は筆を走らせた。

 

 そうして向こうから届いた手紙が魔理沙を奮起させる。明確な目標があり、そこに向かって進んでいるのだという実感が、魔理沙の誇りとなり自負心の肥やしになっていた。たまに知恵熱が出そうなほど疲弊することがあっても、かつて自分が誠四郎に送った手紙を思えば総身に活力が宿る。

 

 八雲紫に未来の真実を告げられて一度は無力に打ちひしがれた日。その夜にメッセージボトルへと込めた想いが衝動の炎となって魔理沙を突き動かしていた。

 

 

 

『待っていてください。私の魔法で、必ずあなたを救ってみせます』

 

 

 

 

 

 

「顔洗ってきなさい。寝ぐせも酷いわよ」

「あいあい」

 

 パチュリーの言葉に適当に返事をしつつ、魔理沙は書庫の隅にある手洗い場へと向かった。寝ぼけていても涎の跡が残る頬っぺたのあたりが気持ち悪かった。

 一応の身だしなみを整えて戻ってみると、さっきまで突っ伏して寝ていた机の上に朝食が置かれている。紅魔館のメイド長が運んできてくれたらしかった。サンドイッチは食パンも卵もふんわり柔らかく、ポタージュスープの温かさが寝起きの頭を覚まさせてくれる。

 

「香霖堂の方から連絡が来ていたわよ」

 

 自分では滅多に用意しないちゃんとした朝食を味わっていると、パチュリーがそう言ってきた。

 

「こーりんが?」

「ミニ八卦炉の調整のためにあなたに来て欲しいそうよ」

 

 現在、ミニ八卦炉は森近霖之助に預けられている。パチュリーと魔理沙で考案した設計をもとに改良してくれているのだ。もともとミニ八卦炉は霖之助が作ったものなので、この仕事の適任は彼を置いて他にはいない。一カ月で済ませて欲しいと言ったときには温厚な彼もさすがに渋い顔をしていたが、そうじゃなきゃ間に合わないと切羽詰まった表情の魔理沙に折れて「分かった」と了承してくれた。

 そして今日は、依頼してからそろそろ一カ月弱が経とうという日。本業の古道具屋もこなしながらなので厳しい期限だったはずだが、もう調整段階に入っているのだ。彼の仕事に対する真摯さは魔理沙であっても素直に感心するものがある。

 

 これでもう少しすれば、無事にミニ八卦炉は強化されて返って来ることだろう。魔理沙は約一月もの間離れ離れになっていた相棒との再会を思い、心が沸き立った。パチュリーの付きっきりの指導もあって確かな成長を感じている。その成果を未来で振るう日が待ち遠しくて仕方がなかった。

 

「じゃあ行ってくるよ。他のところにもついでに寄って来るから、ちょっと遅くなるかもだけど」

「分かったわ。いってらっしゃい」

 

 居ても立ってもいられないといった様子で、魔理沙は怒涛の勢いで外出の支度をすると息つく暇も無く出掛けて行った。

 

 頬を紅潮させて出て行った魔法使い見習いの少女を見送ったパチュリーは、手近にあった本を広げていつものように読書を始める。かのように思われたが、数ページめくったところでパタンと閉じて、物憂げなため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 魔理沙が香霖堂に入ると、霖之助が茶を出してもてなしてくれた。立ってするような話でもないということで勘定台の奥にある座敷に上がり、火鉢を挟んで向かい合う。一段高くなっている座敷からは店内の様子が一望できる。相変わらず眩暈がするほどに物で溢れ返っていて、それが魔理沙には居心地が良かった。

 幼い頃、霊夢と連れ立ってよくこの座敷に上がり込んだものだ。火鉢も、餅を焼いたり持ってきた握り飯を焼きおにぎりにした記憶のある思い出深い品だった。

 

「これに魔力を通してみてくれ」

 

 霖之助は修理工房になっている店の奥から持ってきたミニ八卦炉を魔理沙に手渡す。

 

「なんか、あんまり変わってないな」

 

 魔理沙が残念そうに言う。長らく待った期待感に反して、ミニ八卦炉の見た目は以前と何ら変わったところがなかった。

 

「依頼されたのは内側の改造だからね。と言うか、そういう設計にしたのは魔理沙たちじゃないか」

 

 外側は元の八卦の紋様を残し、内側に七曜の術式を。

相乗効果を生むように仕組まれた二重構造は無駄がない。言い換えれば遊びがない。早さを何より優先した結果だが、魔理沙はその遊びのなさに「うーむ」と渋い顔をする。

 

「龍とか虎とか彫ってもらうんだったかな。これじゃあ強化した感じが薄いぜ」

「折角作ったのにひどいな。あと魔術式を彫り込んでいる魔道具なんだから、術式に支障が出るような彫り物はできないよ」

「あ、鳳凰とか格好いいかも。鳳凰どうよ、こーりん」

「僕の話を無視するな」

 

 文句を垂れる魔理沙に、試しに使ってみてくれと霖之助が言う。

 

「そっとだぞ。間違っても火柱を立てたりマスタースパークを撃つんじゃないぞ」

「分かってるってば」

 

 なんだか地底でも同じようなことを言われた気がする。そんなにも無鉄砲に見えるのかと心外に思いつつも、魔理沙はミニ八卦炉に魔力を流し込み————。

 

「おっ……」

 

 その手応えに驚く。今までのものとは魔力の伝わり方が格段に違っていた。霖之助の言う通り、慣れるまでは注意しなければ無闇に高火力を出してしまうかもしれない。それほどまでに道具としての性能が上がっていた。

 

「どうだい」

 

 霖之助に聞かれて魔理沙は強く頷く。

 

「うん。すげえよ、これ。魔力をちょっと流しただけでも違うって分かる」

「それは良かった。そのままでも使えそうかな」

「使えるっちゃ使えるけど、まだしっくり来ない部分があった気がする。慣らさないと上手く火力調節出来んかも」

「じゃあ調整する箇所を調べるから、もう一度弱く魔力を流してみてくれ」

 

 魔理沙がミニ八卦炉に魔力を込めると八卦の術式が淡く光る。おそらく内側の七曜の魔術式も作動していることだろう。ただ魔理沙の言う通り全体に淀みなく魔力が巡っているわけではない。霖之助は半妖の目によってその問題個所を見極め、設計書に書き込んでいく。

 

 見つけた修正点を直すべく霖之助がミニ八卦炉を弄っては、魔理沙が具合を確かめる。個人のために作られるオーダーメイドの魔道具の調整はその地味な作業の繰り返しだった。

 

「あ、こーりんも文の新聞とってんのか」

 

 仕事をこなす霖之助の横で、魔理沙は座敷の隅に置いてあった新聞の束を拾い上げた。日付を見ると今朝の朝刊だった。

 

「“も”ってことは魔理沙も読んでいるのかい」

「まあ、ちょっとな」

 

 霖之助は霧雨家との付き合いが長い。もはや家族のようなものだ。魔理沙が実家を出た詳しい経緯を知る彼に「父親が寄稿しているコラムを読むために買っている」とは言いづらかった。それではまるで、実家に未練があるようで格好悪いではないか。

 

 意外だと言わんばかりの霖之助に魔理沙は曖昧な答えを返しつつ、左端にあるコラム『古道具小噺』に目を通す。今回も煙草に関する話だ。煙草の葉っぱの種類や、何を混ぜたらどういう味になるだとか、数日寝かせると旨くなるだとか、やたらマニアックなことが書かれている。

 

 こんなもん誰が読むんだと魔理沙は思いながらも、ふと以前にも抱いた疑問が頭に浮かんだ。

 

「こーりんさ」

「なんだい。今けっこう繊細な作業をしているんだけども」

「父さんって、昔はタバコ吸ったりしてたのか?」

 

 魔理沙の記憶では、父は喫煙家ではなかった。古道具の中でも煙管などを蒐集する趣味があることは、家族のみならず里でも周知の事実だったが、それを実際に使っている姿を見たことは一度も無い。愛煙家であれば着物に染み付くはずの煙の臭いも、父からは全然しなかった。

 

 なのにこの記事に書かれている内容ときたら、まるで煙草の味を熟知した人間のそれである。父は他人にも自分にも厳格な昔気質の性格だ。当てずっぽうや知ったかぶりをこの世で最も憎む人間である。魔理沙も子供の頃、それで散々怒られている。だから煙草の味の蘊蓄(うんちく)を語るなら実際に吸っていたのだろうと考えるのは自然なことだった。

 

「ああ、そりゃもう、いつもモクモクさせていたね。魔理沙は知らなかったのかい?」

「だって吸ってるとこ見たことないし…………」

「そうか。そういえば彼が禁煙してからもう二十年以上は経つのか。長く生きているとその辺の感覚が曖昧になっていけないね」

 

 霖之助曰く、若かりし頃の魔理沙の父は大変な愛煙家だったらしい。日がな煙管に口をつけ、彼の通った後は紫煙が尾を引くとまで言われたほどだったとか。古物商としての性か道具類のこだわりにも余念が無く、その蒐集癖から一時期は「霧雨店はタバコ屋になりそうだ」とまで噂されたこともあったという。

 

「あの人はいつも右の懐に煙草を忍ばせていたよ。たしか今でもお気に入りだった煙管をお守り代わりに持ち歩いているって聞いたなあ」

「へえ……でも、そんなに好きなのに禁煙したのか?」

 

 よく分からんと言った風に魔理沙は首を傾げる。煙草は体に悪いと聞くし禁煙自体は不思議でも何でもないが、人生を賭けるほどに熱中していたものをパタリと止めてしまった父の心境は魔理沙には理解し難いものがあった。自分なら誰から何と言われようと止めないのにと思う。

 

「煙草を止めた理由は単純だよ」

 

 霖之助は言った。

 

「君のお母さんだ」

 

 その一言を聞いて、ようやく魔理沙も合点がいった。

 

 母は昔から肺や喉が弱い。生来の喘息持ちなのだ。それで体力も無く、日がな床に就いていることも少なくなかった。

 

「びっくりしたよ。縁談がまとまった日の夜、彼はいつになく重苦しい顔をして金勘定をしていた僕の隣に座った。いつものように一服やるかと思って火を着けてあげようとしたら止められた。俺はもう吸わん、ってさ。まるで誰かとの今生の別れみたいに、血を吐くように言うものだから流石に面食らったね。で、実際にその日から全く吸わなくなって更に驚いたもんさ。誰も、君のお父さんが煙草を止められるなんて思っていなかったからね」

 

 それは魔理沙が初めて聞く、魔理沙が生まれる以前の父の話だった。何故今まで誰からも聞かなかったのだろうと思う。いや、何故今まで、自分の親の軌跡を気にしたことも無かったのだろうかと。

 

 父は商売にしか目を向けない人だと思っていた。一本気で融通が利かず、自由人の魔理沙とは何かと性が合わない。小うるさい言いつけも、たくさんの習い事もうんざりするばかりだった。そんな父の知られざる一面を聞いて、魔理沙は呆気にとられる他なかった。

 

「まあ、これ以上話すと怒られそうだから止めておくけど」

 

 霖之助はそう言ってミニ八卦炉に細工を施していた作業の手を止め、魔理沙の方を向いた。その顔には温和な微笑みが浮かんでいる。

 

「手紙くらいは返しておあげ。あれで家族思いなんだよ、あの人は」

 

 霖之助の言葉にガツンと頭を殴られたような衝撃を受ける。毎月、仕送り金と共に送られてくる母からの手紙。たまに兄の字も混ざっていることは気付いていたが、父も関わっているとは知らなかった。駄々をこねて家を出て以来、愛想を尽かされているとばかり思っていたのに。

 

 しかし実家からの手紙にはやはり父らしい筆の跡はなかったように思う。他に考えられることは、あの仕送り金か。毎月、魔理沙が食っていく分くらいは入っている茶封筒。まだ一度も手を付けずに鍵付きの箱に整然と収めているそれを、魔理沙はまざまざと脳裏に思い浮かべた。

 

 それからミニ八卦炉の調整が済むまでの間、魔理沙は黙りこくって何やら考え込んでしまった。とりあえず、久しぶりに魔法の森の自宅に寄って行こうと決めたのは、香霖堂を出て飛び立った後のことだった。

 

 


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