東方千年探 ~魔理沙のはじめての文通~   作:ふーてんもどき

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二十一話

 

 

 

 弾幕ごっこの最中、魔理沙は己の成長を実感していた。

 魔力の運用がスムーズだった。血潮が全身を巡るように、淀みなく魔力を光弾に変えて放てる。さわりとは言え七曜の魔法を理解したからか無駄な漏出も少なかった。今までより遥かに少ない魔力量で弾幕を張ることが可能になっている。

 

「ハアッ……ハアッ……」

 

 空の飛び方も巧みだった。弾幕に力を入れすぎるとどうしても直線になりがちだった動きが洗練されている。風を読むために力む必要がない。複雑な軌道を描く箒さばきは、これまでなら決着がついていただろう数多の光弾を紙一重で躱していた。

 

「ねえ魔理沙」

 

 出力も、速度も、技巧も。一カ月前とは比べるべくもない。努力は確実に魔理沙の糧となり、目に見える成果として表れている。

 

「そろそろ諦めたら?」

 

 それでも尚、博麗はあまりに遠かった。

 

 感情を一切合切排したかのような声が魔理沙に投げかけられる。肩で息をする魔理沙は「うるせえ」と相手を見上げて激昂する。対照的に、遥か上空に陣取っている霊夢は涼しい顔をしていた。息を乱すどころか汗の一つさえかいていない。

 

 日はとうに落ちている。欠けた白い月が夜空に浮かび、二人の少女を淡く照らしていた。

 霊夢の周りには二種類の陰陽玉が円を描くように飛んでいる。博麗を表すように紅白に塗り分けられたそれは時に弾幕を放ち、時に結界を張って霊夢の死角を補う。まさしく難攻不落の要塞。攻防一体の性能を誇る博麗の秘宝は、着々と魔理沙を追い詰めていた。

 

「なんでそんなに反対するんだよ…………! 関係ないだろ、霊夢には!」

「博麗の巫女としての務めよ」

 

『霊符・陰陽印』

 

 魔理沙の叫びを押さえつけるように霊夢が新たな弾幕を展開する。陰陽玉が瞬時に無数の分身を作る。うっすらとした光を放つ半透明なそれは、儚い見た目とは裏腹に暴力的な速度をもって魔理沙に殺到した。

 息つく暇もない。魔理沙は舌打ちをして弾幕の間隙を縫う。自在に飛び回るものと、魔理沙を執拗に追尾するものの二つがある光弾は、反撃の余地すら与えない。場は、最早ごっこ遊びとは言い難い熾烈な戦いの様相を呈していた。

 いやそれは戦いと呼べるものなのか。第三者から見れば勝負ですらなく、一方的な狩りを彷彿とさせる光景だっただろう。それほどまでに両者の間には隔絶された実力差が横たわっていた。

 

「魔符・スターダストレヴァリエ!」

 

 数瞬の猶予もない中で、魔理沙はスペルカードを切る。以前までなら不可能だったことだ。展開された星屑のごとき弾幕は天の川のように光の尾を引いて霊夢を襲う。

 これで霊夢は回避に注意を割かなくてはならない。ほんのわずかとは言え弾幕の操作が乱れるだろう。そこに反撃の活路を見出した魔理沙は次の攻め手を準備しようとする。

 

「霊符・二重結界」

 

 魔理沙が放った弾幕の着弾と同時に、告げられるスペルカード名。霊夢の周囲に発生した結界によって魔理沙の攻撃は受け流され、逆に魔理沙を襲う弾幕には極小の霊力弾が新たに加わった。

 攻勢に転じたと思った矢先に追い詰められる。見開いた魔理沙の目に一瞬、絶望の影が差した。

 

 それでも魔理沙は避け続ける。三百六十度余すことなく周囲を弾幕で埋め尽くされている中で、魔法が使える程度のただの人間がもがいていた。

 魔理沙を包み込むそれは巨大な蜂球のようにも見える。悠然とその光景を見下ろしている霊夢は、しかし追撃の手を緩めなかった。矢継ぎ早のスペルカード宣言により、先に放った弾幕が減っていく側から新たに注ぎ込んでいく。眩い光球に阻まれて、もはや対戦相手の姿は見えない。それでも尚、霊夢は苛烈に攻め立てる。

 

 一見して過剰とすら言える霊力弾の暴雨が降り注ぎ続ける。そうまでして徹底的に攻撃を重ねる理由は一つ。魔理沙がまだ沈んではいないからだ。

 

 弾幕の巣の中から、一つの流星が飛び出した。箒に乗った魔理沙だった。弾幕が掠ったのか服の所々が裂けており、箒の房も短くなっている。箒には被弾した名残である光の粒子がまだ付いていて、それが流れ星のように夜空へ線を描いていた。

 間一髪、なんとか窮状を脱した魔理沙の顔に油断の色はない。弾幕に掴まらないよう飛び回りながら、闘志を燃やした瞳で霊夢を睨み上げる。以前であればここまで意地になって喰らいついてくることはなかった魔理沙の姿を見て、霊夢は不愉快そうに眉をひそめた。

 

「なんだってあんたは…………」

 

 漏らしかけた呟きを噛み殺す。名状しがたい感情を飲み込み、一瞬だけ歪んだ表情もすぐに元の冷たい無表情に戻す。

 

 魔理沙は霊夢のいる場所よりも高く飛んだ。対して霊夢は動かず、その代わりに彼女の弾幕が逃すまいと魔理沙の後を追う。

 上へ上へ。星になったよだかの如く、光の線を描きながら空へと昇っていった魔理沙は、次の瞬間、一転して進路を真逆に変えた。追ってきた霊夢の弾幕が恐るべき速さで目前へと迫るも、それを紙一重のところで躱す。

 

 余力は残り僅か。このままではジリ貧だ。そう考えた魔理沙は最後の攻勢に打って出た。直線的に相手へと肉薄するその様は、太陽の畑で風見幽香と対峙した時にとった戦法と酷似していた。自由落下も加えた速度は並大抵ではなく、いま霊夢が展開している弾幕では魔理沙を捉えきることはできない。いくつかが掠めつつも、そのどれも決定打にはならなかった。

 

 みるみる内に彼我の距離が縮まっていく。魔理沙は後ろ手に持ったミニ八卦炉に魔力を流し始めた。八卦と七曜の術式が起動する。淡く光るそれは持ち主の魔力を火付けとして大気中の魔素をふんだんに取り込む。霊夢に到達するまでの数秒にも満たない時間。魔理沙のためだけに調整された魔道具はたったそれだけの猶予で、今までに撃ってきたマスタースパークとは比べるべくもない熱量を集めてしまった。

 

 仕込みは万端。ここまできて魔理沙が注意を払うのはたった三つだけだ。

 ミニ八卦炉が暴発しないよう制御すること。飛び落ちる速度を決して緩めないこと。そして————。

 

「霊符・夢想封印」

 

 それは博麗の巫女が何代にもわたって受け継いできた基本にして絶対の技。霊夢が誇る、もっとも練度が高い切り札の一つ。

 タイミングは完璧だった。さすがは博麗の巫女と言ったところ。必殺の敵意を持った相手をぎりぎりまで引き付けられる観察眼と胆力。人でありながら大妖怪である風見幽香が成したことを寸分違わず再現してみせるその才覚は紛れもない天性のものだ。違う点があるとすれば、幽香が放ったのが何気ない極太の光線だったのに対して、霊夢は色とりどりの弾幕を放射状に展開したこと。それによって魔理沙は上下左右への逃げ場を失い、反撃の好機を潰される。間違って躱して弾幕に当たるも良し、真っ直ぐに飛んだまま霊夢の持つお祓い棒の餌食になるも良し。

 

 だからこそ魔理沙は勝ち筋を見出していた。親友として誰よりも近くで博麗霊夢を見てきたからこそ、この大一番、彼女なら絶対にそうするであろうという確信があった。技術や読み合いでは勝てない。故に狙うは一点突破。博麗の卓越した技も天与の勘も、まとめて叩き伏せてみせよう。

 

「恋符・マスタースパーク!」

 

 衝撃波が生まれるほどの急停止と共に、霊夢の目と鼻の先でそれは炸裂した。正しく全身全霊。大気に満ちるオドを取り込んだ七色の光線は博麗霊夢を、陰陽玉が張った防御結界ごと飲み込んだ。全てを灰燼に帰さんとする超火力。霊夢が得意とする然しもの結界も、強化された魔理沙の奥義の前には意味を成さない。

 

「霊符・夢想封印・集」

 

 成さないはずだった。

 

 背後から聞こえた声に魔理沙が振り向こうとした瞬間、躱したはずの弾幕が翻って一斉に襲いかかってきた。何故、どうしてと考える暇もない。急停止の反動で動けない魔理沙に、それらを防ぐ術は残されていなかった。

 

「ぐあっ…………!」

 

 四方八方から迫りくる弾幕に直撃し、空中での自由を失って落下していく。そのまま地面に衝突するかに思われたが、魔理沙はなんとか体勢を立て直して自力で無事に降りることが出来た。

 

 完敗である。博麗神社の裏庭に膝と手をついた魔理沙は、項垂れて歯噛みする。最後の大技が当たったと思ったのは幻想だったのだ。全てを薙ぎ払うはずだった奥の手に対して、霊夢は御札で分身を作ることによって悠々と回避していた。いつ、どうやって本物と入れ替わったのかは分からない。しかし瞬間移動のごとく背後に回られていたという事実がそれを証明している。

 到底追い付けない、抜群の戦闘センス。だが何よりも、手加減されたことが魔理沙に言いようのない屈辱を与えていた。肌に残る、弾幕を受けた感覚。魔理沙が地面に落ちる前に制御を効かせられたのは彼女の意地によるものでなければ、偶然でもない。霊夢が『そうなるように』わざわざ力を微調節したからだ。魔理沙が気を失って墜落しないよう適度に手を抜いた。弾幕ごっこは非殺生を旨としているので当然と言えば当然の配慮であるが、実際に行うのは至難の業だ。それも勝負の山場、瞬き一回にも満たない時間の中で。そのことが何よりも雄弁に、彼我の力の差を物語っていた。

 故に完敗。一分一理、言い訳すら許されない完敗だった。

 

「これで十一敗」

 

 頭上から降ってきた声に魔理沙が顔を上げる。まだ息を乱している魔理沙とは正反対で、霊夢の顔に疲労は見られない。冷徹に対戦相手を見下ろすその姿は、まるで先の戦いなど無かったかのようだ。

 

 夕時から始めた弾幕試合はすでに十一回繰り返されており、その全てにおいて魔理沙は敗北している。霊夢の多彩な手札に翻弄されたのも、決着の一撃で手加減をされたのも、今回に限ったことではない。二桁を超える対戦のほとんどがその焼き増しのようなものだった。魔理沙がいかなる手を使おうと敵わない。差異があるとすれば、過剰な威力だと思い使用を自制していた改良ミニ八卦炉によるマスタースパークを使ったことだが、それを以てしても博麗霊夢には届かなかった。

 

 何も通じない。未来の世界を救うために用意した手札すら、何でもないかのようにあしらわれた。魔理沙はうずくまって額を地面に擦り付け、悔しさのあまり痛みも無視して砂利を拳で叩く。

 

「もう、十分でしょ」

 

 地を這うような傷ましい姿を見下ろしながら霊夢は言った。うんざりとした感情がその冷たい声音から伝わってくる。

 勝機など欠片もないことは惨憺たる戦績が証明している。いや、そもそも互いの主張をかけての弾幕勝負。道理で言えば、最初の一回目で負けたことで魔理沙の意見が通る余地はとっくに無くなっているのだ。それでも「もう一勝負」と食い下がること十一回。その尽くを霊夢は完膚なきまでに叩き伏せてみせた。どこの誰であれ、ここまでされれば負けを認めざるを得ない。

 しかし魔理沙は俯いたまま、駄々をこねる子供のように、首を横に振る。それを見た霊夢の目が大きく見開かれた。

 

「あんたねえ、いい加減にしなさいよ!」

 

 ついに鉄面皮を崩して霊夢は叫んだ。

 

「未来未来ってバカの一つ覚えみたいに! 何なのよ、本気でどうにかなると思ってるわけ!? 私に勝つことだってできないのに!」

 

 容赦のない言葉が、尚も地面に這いつくばっている魔理沙の背中に投げつけられる。魔理沙は言い返すことも顔を上げて睨み返すこともせず、黙して言われるがままとなっている。

 

「少し考えれば分かるでしょ。世界を救うなんて大それたこと出来やしないって。私は…………博麗の巫女だって、この幻想郷を守るのが精々なのに。身の丈に合わないことばかりして、本当に意味わかんない…………!」

「…………違う」

 

 戦いの中ではついぞ冷酷無慈悲な無表情を崩さなかった霊夢が、息を乱して声を荒げる。ややあって、それに答えた魔理沙の声はひどく弱々しかった。

 

「私が、結んだ縁なんだ。だから私が助けてやらなくちゃいけないんだ。そのために勉強して、ミニ八卦炉だって強化して————」

「私にも通用しなかったのに?」

 

 まるで自分に言い聞かせるように呟く魔理沙に、霊夢は言葉を被せる。

 

「魔理沙の見つけた方法が少しは有効だったとして、それが何になるっていうのよ。紫が言っていたでしょ。あの世界はとっくに終わっているって。いったい何年かけるつもりなの? その間どうやって暮らしていくつもりなの? そもそも本当に救えるっていうちゃんとした根拠があるの?」

「いいから、通せよ」

 

 魔理沙は膝に手をついてよろよろと立ち上がった。どう見ても満身創痍で、もう十分に戦える状態ではない。しかしその手には、まだミニ八卦炉が握り締められていた。

 

「霊夢には関係ないって言っただろ。いいから紫に合わせろよ」

 

 怒気の滲んだ声は、ほとんど自棄になっているようにしか聞こえない。それを受けて霊夢は開いていた瞳孔をすっと細め、冷たく相手を見据える。魔理沙は涙の滲んだ目で霊夢を睨みつけ、ミニ八卦炉を向けていた。もう魔力を流しているのか、小さな香炉に再び光が集まり始めている。

 

 開戦の合図も何もない。霊夢がため息を吐いたのと、魔理沙が再度マスタースパークを撃ったのはほぼ同時だった。そして矢の如く飛来する光の束を前にして、霊夢は短く、とあるスペルカードの名を告げた。

 

「夢想天生」

 

 それが今宵、魔理沙が最後に聞いた霊夢の声だった。

 

 

 

 

 

 

 昼前になって魔理沙は目が覚めた。無骨な枠組みのベッドと、その周りに散らばっている数多のガラクタ。見慣れた光景だ。寝ている場所は紛れもなく魔法の森にある自宅、その屋根裏部屋である。

 

 魔理沙は体を起こそうとして、全身に走った痛みに呻いた。筋肉痛か。それに魔力枯渇による特有の気怠さもある。

 ぼんやりとしていた頭が冴えていき、それと共にだんだんと眠る前の記憶を思い出していく。

 

 そうだ。たしか自分は未来へ行くための権利をかけて、霊夢と戦っていた。そして負けた。負け続けた。この上ない無様を晒してまで繰り返し挑み、その度に返り討ちにされたのだ。肉薄した場面もあったが、最後は霊夢の持つ反則級の切り札の前に手も足も出なかった。

 

 だんだんと鮮明になっていく昨夜の記憶。魔理沙は手で目元を覆って、痛いほどに唇を噛みしめた。悔しくて涙がこみ上げてきたが、泣くとさらに惨めになる気がして痛みで激情を堪えた。

 

 霊夢に敗れた後、おそらくはその場で気絶したはずなのにどうして自宅のベッドの上で寝ているのか。一瞬そんな疑問が頭を過ったが、深く考えずとも分かることだった。わざわざ運ばれたのだ。酷使した体が悲鳴を上げているが、それは内側だけの問題で、弾幕によって負ったはずの外傷はほとんど見当たらない。どうやら霊術を使ってか、傷まで癒されたらしい。それらことがより一層、魔理沙に敗者としての自覚を植え付ける。負けた実感が、あとからあとから止めどもなく湧いてくる。

 

 慟哭を抑え込む魔理沙の顔を覆っていない方の手が、何かに触れた。横目で確認すると、それは魔理沙がいつも外行きに使っている肩掛け鞄だった。霊夢がベッドの傍らに置いていったようだ。中身を確認する。どうやら無くした物はないらしい。

 その中から魔理沙は鈍色に光るミニ八卦炉を見つけ、取り出した。パチュリーの協力のもと設計し直し、霖之助に改良を施してもらった愛用の道具。華々しく未来を救う要になるはずだった物。

 

 魔理沙は目を吊り上げて、ミニ八卦炉を投げ捨てようとした。しかし腕を振りかぶったところで思い留まり、なるべく遠くの方にそっと置いた。惨めになるだけだ。魔理沙は心の中でそう繰り返し唱える。仮にもパチュリーや霖之助の好意で得たそれを、ぞんざいに扱うことはできなかった。

 

 しばらく魔理沙はベッドの上から動かなかった。寝直すでもなく何か考え事に耽るわけでもなく、ただ茫然とその場に横たわっていた。

一時間か、二時間か。窓から差し込む光の傾きが目に見えて変わった頃、魔理沙のお腹が鳴った。大きなその音は、静謐な部屋の中によく響いた。魔理沙の口から自嘲するような乾いた苦笑が漏れる。

 

「こんな時でも、腹は空くもんだな」

 

 のそりと立ち上がり、台所に向かう。何か簡単につまめるものをと思ったが、湿気た煎餅以外にはこれといった食料が無かった。ここしばらく紅魔館の厄介になっていたので何も管理できていなかったのだ。最後に買出しに行ったのはだいぶん前。そう、人里の街中でばったり兄と出くわしたあの日だったか。一カ月ほど前なのに随分と昔のことのように感じられる。某日は博麗神社にも顔を出した。そして翌日、紫から未来の真実を伝えられたのだったか。

 

 もそもそとして不味くなった煎餅を齧りながら当時のことを振り返っていた魔理沙は、無意識のうちに眉間にしわを寄せる。どうしても拭いきれないヘドロのようなわだかまりが胸に詰まっているかに思われた。

 

 何ができるのだ、という昨晩の霊夢の声が思い起こされる。確かに、何もできないかもしれない。嫌というほど無力を思い知らされた魔理沙は柄にもなくそんな思いを抱く。しかし心の奥底にあるものがそれを許さなかった。

 

 諦めろと冷めた声がする。諦めたくないと思う。

身の程を弁えろと自分の中の常識が告げる。弁えて堪るかと思う。

 

 気付いた時には魔理沙は文机に向かっていた。文通はしばらく前に誠四郎から貰ったのを最後に止まっている。紫に未来行きの許可をもらったら、そちらへ赴く旨を伝えようと思っていたのだ。

 今でこそ、その道は断たれた。けど全てを捨てきることなんて、まだ出来ない。魔理沙は自分に言い聞かせるようにそう思い筆を走らせる。手元が狂って何度か書き直すはめになったが、なんとか見せられる文章を書き上げる。

 

 ガラス瓶に詰めた手紙は、いつも通りリボンで結ぶ。それと一緒に紅白の懐紙に包まれた漢方薬を、今ある分だけ入れておく。用法用量を書いた紙を添えるのも忘れない。未来へ持っていくために永琳から買った薬だ。持参することは無理となってしまったが、こうして手紙と共に送れば彼に飲んでもらうことは出来る。

 

 魔理沙は出来上がったそれを早速無縁塚へ届けに行かんと外へ出た。昨日の弾幕ごっこのせいで房が不揃いになってしまった箒での飛行は危なっかしいが、それを無視するように魔理沙は飛んだ。彼女が小脇に抱える瓶が濡れたように光っていた。

 

 

 

 

 

 

拝啓

八柳誠四郎様

 

 返事が遅くなってすみません。

 先日、腕の立つ薬師に薬を処方してもらいました。きっと貴方の役に立つことと思います。用法などを別の紙に書いておきましたので、その通りに服用なさってください。どうかあなたの体が良くなりますよう。

 何か変化があれば教えてくださいね。いえ、特に変化が無かったらまた違うお薬を処方してもらう必要があるので、どちらにせよ結果を知らせて欲しいです。飲まなかったら駄目ですよ。

 

 それでは吉報をお待ちしています。

 

 

 

 

 

 

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