ここはシンオウ地方ポケモンリーグ。
シンオウ地方のポケモントレーナーが目指すべき頂き。四天王と呼ばれる凄腕のトレーナーを下し、その先にいるシンオウ地方最強のトレーナーに挑む場。
八つのジムバッジを手に入れた強者達が訪れる筈の場所。しかし、その門を潜る者はここ近年少なくなっていた。
理由としてはシンオウリーグの洗礼と呼ばれる、トラウマを植え付けられたトレーナーの大量発生である。
八つのジムバッジを集め終わり、強者としての自信を手に入れた者が、一転全ての自信を失う。
何度も挑戦を繰り返した者でさえ、越えられない壁の前に遂に心が折れる。
その噂を聞き、自分を信じきれなくなりチャレンジを躊躇う者。
それがシンオウリーグの洗礼。
具体的な内容で言えば、約四年もの間、四天王の最初の一人を突破出来たトレーナーがいないという実績だった。
それだけならば、さすが四天王、格が違う。となるのかもしれない。
しかし、それを為したのは、年若く小柄な少女である。
十歳で冒険に出られるこの世界では、幼き頃から才覚を表す者も当然いる。彼/彼女らは元気良く、若いパワーで、大人やベテランを追い抜いていくのだ。
ところがシンオウ四天王の一人目、銀髪で黒目がちの少女はまるで違った。
何度もあくびを吐き、うとうとしている。今すぐこの子にげんきのかけらが必要なんじゃないか、そう思うような気だるげな声で挑戦者に立ち塞がる。
そしてバトルの指示は的確に、まるで作業の様に挑戦者をポケモンリーグから叩き出すのである。
「ふぁああ……また違うなぁ……」
来る挑戦者に開幕でそう告げ、何度も何度も、一切の慈悲も容赦も無く戦闘不能にしていく。
その姿にいい年をした大人が絶望し、泣き崩れ、あるいは新たな扉を開きポケモンリーグから去っていく。そんな彼/彼女らを寝ぼけた目で見送るのが、
シンオウ四天王の一人、あくタイプのエキスパート。ヒナノと呼ばれる少女だった。
私はヒナノ。シンオウ地方の港町に生まれた子供。
私には別世界の他人の人生の記憶がある。クソッタレな記憶だ。……その人物の結末が首吊り自殺だと言ったら、どんな記憶かくらいは想像出来るんじゃないだろうか。
他人の記憶があると言っても、生まれた時からあったわけじゃない。最初っから全部あれば、いくらか楽だったんだろうけどね。
私が他者の記憶に侵食されだしたのは六歳の頃。夢の中で少しずつ別の人の人生を歩み始めたのだ。その夢は鮮明だった。まるでどっちが現実でどっちが夢なのか区別が付かなくなるほどに。
そうなると何が起きるか、自分の親が他人に思えてきたり、自分に無いはずの癖がいつの間にかついていたり。つまるところ……自分自身が曖昧になってきたのだ。
今は夢なのか現実なのか。今の私はちゃんと私だろうか。
六歳の幼い自我は、記憶の侵食に耐えれなかった。
まず夜に眠れなくなった。寝たら自分ではなくなっていく気がしたから。
そして引きこもりになった。親や周りの人を、他人のように感じてしまう自分が嫌になったから。
そんな生活に転機が訪れる。寝れなくなると言っても、体はいつか限界を迎えて寝る。そして、他人の人生を歩まされる。また他人の記憶に自我が侵食される……かと思いきや、その夢が黒く塗りつぶされるようになった。
黒一色の真っ暗闇の夢。その中で誰かの揺れる瞳だけがこちらを覗いている。
悪夢と言えば悪夢なのだろうが、強制的に他人の人生を歩まされる事に比べればだいぶマシだった。うなされはしてるらしいけど、心の安寧は保たれた。
その悪夢も慣れてしまえばうなされるようなことも無く、寝るのに恐怖していた頃から比べれば、だいぶ健全な生活を送れるようになった。
しかしそんな生活も、少し時が経ちまた変化が起こった。
両親が私の症状を調べ、私の他人の夢や悪夢の原因はとあるポケモンだとたどり着いたのだ。
そしてその対処法を行った。渡されたのはとあるポケモンの羽根だった。
みかづきのはねと呼ばれる、月の輝きのような綺麗な羽根。
私はこれでもう悪夢も、他人の人生にも悩まされない。数年の寝不足から解放されると歓喜した。
黒で塗りたくった悪夢は消え去った。だが、他人の人生はどっと流れ込んできた。あまりの情報量に脳がパンクしつつ、そうなって初めて理解する。
これがゲーム、ポケットモンスターの世界であり、悪夢を見せていたポケモンはダークライと呼ばれる事。
そして別世界の他人の記憶を、意図的か偶然かは定かでは無いが、悪夢で押しとどめてくれていたのだろうという事。
だが、みかづきのはねの効力により、その悪夢の堰は取り払われた。
他者の記憶が全て流れこんできて、私は恐らく変わってしまったのだろう。
周りから見たら驚きどころか不気味に思えるんじゃないだろうか。
たった一夜でこれまで年相応の知識と口調だった少女が、大人の知識と、諦めにも似た落ち着きをまとっていたのだから。
その夜を超えた後の自分にとって、両親を素直に生みの親として見られなくなった。今までパパママと呼んでいたのが、今では父さん母さんと言うのでさえ自分の中で違和感を感じる。
他人の生まれてから自殺するまでの嫌な記憶は一通り見たのだが、それで終わりではなかった。何度寝ても、何度その人生を追体験し終えてもリピートされる。
これがお前の本当の人生だと言わんばかりに。
寝てるのに、頭の中で嫌な人生を送る生活が続く中、再び黒一色の悪夢がそれを包み隠した。……前に貰ったみかづきのはねはもう捨てていたからかもしれない。
「ねぇ……ダークライ。ここにいるの?」
ある日の夜、寝る前に自分の部屋に視線を感じ、ポツリと呟いてみる。
相手は幻のポケモンだ。いるわけが無い。感じた視線も、ただの勘違いだろう……そう思っていると、私の影が揺らめいた。
それはそのままダークライの形をした影になり、遂には影の中から出てきた。
「貴方は私を守っていてくれたの?」
私は悪夢について尋ねた。あれは気まぐれなのか、それとも本当に私の為にわざわざ起こしてくれていたのか。
ダークライは私の頭を撫でながら、申し訳なさそうな目を私に向けた。哀れみの目と言ってもいいかもしれない。
その様子で私は久々に少しだけ笑みを浮かべた。こんな私がまさか幻のポケモンに気にかけてもらえているとは思ってもみなかった。
ガチャ
私は迂闊だった。幻のポケモンを前に興奮していたのかもしれない。
私が寝て暫くすると、父親が寝ている様子を見に来る事を失念していたのだ。
「ダークライっ!?」
驚きと怒気を含んだ叫びだった。それもそうだろう。父親はダークライについて調べがついていて、私の生活を壊したのはこのポケモンだと思っているのだから。
父親には知りようもないだろう。ダークライが悪夢で私の自我崩壊を守ってくれていたなんて事は。
そこからは早かった。元ポケモントレーナーであった父親は相棒のフローゼルをボールから出す。
「アクアジェット!」
フローゼルの突撃を受け止めるダークライ。だが苦しそうな表情をしている。幻のポケモンとはいえ、元々受けに回るような防御の高いポケモンでは無い筈だ。
その後も反撃もせずに一方的に攻撃を受けるダークライ。その目は目の前のフローゼルや父親でもなく、私に向けられていた。まるで私の言葉を待っている様だった。
私の恩人とも言えるポケモンが、父親らしき人物のポケモンに攻撃されている。
私の人間関係はここに破綻した。今まで血の繋がっていた親と辛うじて認識していた心は、遂にその男に敵意を向けた。
そしてその敵意の向け方を、私は他人の記憶で手に入れてしまっている。
「ダークライ……あくのはどう」
組み付いていたフローゼルを、ダークライは体からほとばしる力で吹き飛ばす。もう部屋はボロボロだが、私は気にもとめてない。
「ヒナノっ?!」
「その人ごと眠らせて……ダークホール」
ダークライの手から2つの黒い玉が発射され、それが男とフローゼルにぶつかり包み込むように広がる。その黒い玉が消えた後そこには苦悶の表情を浮かべながら眠るポケモンと男が残される。
衝動的にとはいえやってしまった。わずかな時間のドタバタとはいえ、下の階の母親には気が付かれただろう。来るとまた一悶着ありそうだ。
「うん……逃げよっか」
短絡的に逃避を決めた。ダークライもそれに従ってくれた。
ダークライによるお姫様抱っこからの、窓から宙へ脱出である。
最後に母親に見られた為、誘拐みたいに見られているかもしれない。
人目に付きにくいように、屋根より少し高い所を抱えられながら街中を翔る。初めて飛ぶ空を楽しむ余裕は無かった。
とりあえず街から離れよう。
ミオシティだから逃げる方向は海か218番道路。道路周りの森しか無いけど。海か森で言ったらやっぱり森かな。きのみとかあるかもしれないし。
森の木々を避けて飛びながら、方角的にはコトブキシティの方へ逃げる。
これからどうするとか全く考えてないけど、今人生で一番心がスッキリしている。元の自我とは変わったかもしれないけれど、いろいろと吹っ切れたっぽい。
うん……生まれ変わったと思って好きに自由に生きよう。他者の記憶に振り回されてるのも面倒だ。私が今までに築いてきた人間関係ももう自分の中では白紙に戻った。
「ずっと一緒にいてくれる?」
私を抱えるダークライに確認をとる。軽く頷くだけだったが、凄く嬉しくなった。
街から結構離れた。人生で家から一番遠くまで出たのではないだろうか。
「少し休憩しようか?」
森の少し開けた所にたどり着く。徐々に高度を落とし、優しく自分を着地させてくれる。
ダークライがまだ余裕か、余裕でないかは今の自分ではわからない。ただワザを受けたのは確かであり、その確認もまだしていない。もしかしたら相当無理しているのではないか。
「体は大丈夫?」
ダークライはまた小さく頷くだけ。その後すぐ周囲に視線を向けた。
その様子に疑問を持つと、森の暗闇の中から多くの目がこちらを覗いている。森のポケモンたちのナワバリにでも入ってしまったのかもしれない。
「ダークライいける?」
尋ねるとダークライは両手を天に向ける。両の掌の間に、父親とそのパートナーを眠らせたのと同じ黒い玉が現れる。前と違うのはその大きさ。一回り以上に大きいように見える。
周囲のポケモン達がそれぞれ飛びかかってくる。警戒していたポケモンが敵対行動を取り出したので当然だろう。
ダークライが掲げる黒い玉が一瞬小さくなった。それが弾けるように全方位に飛び散る。それぞれがポケモンにぶつかり、後は前と同じだ。深い闇が包み込み、飛びかかったポケモン、飛んでいたポケモンはボトボトと地面に。他のポケモンもそれぞれ崩れ落ちた。
森は一瞬で静かになった。私はあまりの光景に開いた口が塞がらなかった。その後興奮した言葉が口から溢れた。
「すごい!すごい!」
ダークライに抱きつきながら子供のようにその言葉を繰り返した。その後ふと冷静になり、少し恥ずかしくなった。他人の人生が入って来て、中途半端に精神が成熟してしまった影響かもしれない。
そして私も一連の流れで疲れたのか地面に座り、木に背中を預け眠りについた。
また、別人の記憶を辿り始める。だが、今回は何の不安も嫌悪感も無かった。夢の中の自分、その足元の影が真っ黒になり広がる。ゆらゆらと揺れる影が夢の世界を塗り潰してくれる。
ダークライの悪夢が始まった……と思いきや、急に覚醒へと導かれた。
目を覚ますとダークライが私の肩を揺さぶり起こそうとしている。しかしその目は私では無くダークライの後ろを警戒しているように感じた。
「誰か来るの?」
ダークライは私に背を向け、その視界の先に意識を注いでいる様に見える。ダークライが警戒している。森のヌシのようなポケモンでも来てしまったのだろうか。
聞こえてきたのは小さい足音。それに付随する重く響く足音。
現れたのは女性とそのパートナーらしきドサイドン。
ドサイドンにも驚くのだが、それよりも驚いたのがそれを率いる人物だった。他人の記憶の、ゲームとしてのポケモンに出てくる人物。いくらか若い様にも見えるが間違いない。
「こんばんは、小さなお嬢さん。助けに来ましたよ」
穏やかな声で言葉を発する人物はシンオウポケモンリーグ四天王の一人。じめんタイプ使いのキクノだった。
自分が前書き長いの苦手なのでほとんど後書きになるかと思われます。約束はしません。
ここまで読んでくださりありがとうございます。こんな駄文で良ければこれからもお付き合い頂ければ幸いです。
後書きではこの作品の設定とかについて、適当に自問自答しようかと思います。感想等でここわからん的なものあったら後書きに追加するかも。
Q、作者のポケモン歴、やりこみ等
A、一番はエメラルド。プラチナ、ソウルシルバーやって撤退。最近BWとかORASとかusumやってた。全てエンジョイ勢。タイプ縛りだけして後は飽きるまで。対戦等は身近でしかしてない。なんちゃって神風論理で大抵爆死してる。
投稿日にようやくswitchが届いた。勝ったな、ガラル行ってくる。
Q、世界観
A、メインはゲーム原作。そこにアニメやら映画やらの要素突っ込んでいく予定。ちなみにアニメも映画もあんまり見てない。
Q、どうしてダークライ?伝説厨?
A、私が好きなポケモン映画はディアルガvsパルキアvsダークライだったから。オラシオンって良いよね。グレッグルのどくづきは世界を救う。
Q、主人公って転生?
A、なんか素直に転生させたくなかった。ダークライとの接点もできたしこれでええか(鼻ほじ)
Q、初っ端なんでキクノおばあちゃん?
A、原作より時間が早いかつ、他の四天王とかジムリーダーの中では一番作者的に使いやすそうな人だったから。
Q、投稿頻度は?
A、ソード楽しいぃぃぃぃ!
Q、次回も見なあかん?
A、待ってる