悪夢と共に   作:あんノー

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第十八話

山頂が見えるギリギリでのアクア団との攻防。それは次第に私の優勢となった。目に見えて勢いが衰えたのだ。

 

……戦力が底を尽きたのか?

 

 

そんな淡い期待を思い浮かべると、ゲンジさんからの通信が入る。

 

『三人共、現状を教えてくれ』

 

『コチラ西側ネジキ。広く散発的に戦闘を行っていまーす。完全にボクをここに縫い付けるつもりですね』

 

『東リラ。戦況変わらず』

 

「北側ヒナノ。こっちはアクア団の勢いが弱まりました」

 

 

『やはり……ヒナノ君、その場所をポケモン達に任せて、二匹程連れて南に応援を頼めるか?』

 

「そちらに戦力を絞って来ましたか……」

 

『あぁ……そしてボスのお出ましだ。まさか正面から堂々とやってくるとはな』

 

アクア団リーダーのアオギリは送り火山の整備された山道、南側から登ってきた。ボスがいるということは本隊なのだろう。私たちが疲弊してから本腰を入れて盗りに来たか。

 

それも第一陣からずっと戦い続けたゲンジさんに狙いを定めたか。本来ならホウエン最強の四天王に狙いを定めるとは愚策でしかないが、この中で一番疲労を溜めているのはゲンジさんとそのポケモン達だ。

 

「わかりました。ネジキ君、リラちゃん北の方も少し気にかけてくれると嬉しい。私はブラッキー、アブソル、バンギラスにここを任せる」

 

 

『りょうかーい!』

 

『はい!』

 

 

「サザンドラ!ダークライ!ゲンジさんに助太刀しに行くよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サザンドラに跨り、低空飛行で山を縦断する。ゲンジさんが見えた時、その奥には私が戦っていた比じゃない数のアクア団が視界に入った。この圧倒的な数的不利をゲンジさんが従える強靭なドラゴンポケモンが迎え撃っている。

 

 

 

「何故だ!どうしてお前のような男がこの様な真似をする!それほどにポケモンを愛しておきながら!」

 

私が駆け付けた時、ゲンジさんは青いバンダナを頭に巻いた黒いシャツ、黒いズボンの男に吠えていた。ゲンジさんが吠えている相手、私は会うのは初めてだが知っている。一度通信機越しに会話もした、アクア団のリーダー、アオギリだ。

 

 

ゲンジさんの近くに降り立ち、アオギリと彼が引き連れるアクア団を警戒をする。アオギリは私に一度視線を寄越したが、すぐにゲンジさんに意識を戻した。

 

「何故……か?決まっている。その愛するポケモンの為だ」

 

アオギリの傍に寄り添うポケモン達、グラエナからは彼に対する信頼や忠誠心を感じる。クロバットは悪タイプでは無い為、その心の内を完璧に理解することが出来ないが、そもそも完全に懐かなければ進化しないポケモン。相当の愛情を注いでいるのだろう。

 

アオギリが本当にポケモンを愛しているのは確かな様だ。

 

「カイオーガを復活させれば全ては滅びる!それがわからぬ訳ではあるまい!」

 

「カイオーガは制御する。その為の宝玉だ。さぁ、道を開けてもらおうか四天王共」

 

「ポケモン達を殺すつもりか?」

 

「既に殺されている……この人間に汚された世界にな」

 

アオギリは光の消えた瞳で私達に殺気を向けた。それに合わせて彼のグラエナとクロバットも私達への敵意を強くする。

 

以前カイナシティの海の博物館で捕らえた、鼠となるアクア団員との会話を思い出した。アクア団のリーダー、アオギリには世界を壊してでも世界を変える理由があると。

 

 

「私は……俺達はアイツが生きられる世界を取り戻す! 人間によって汚された自然を始まりに戻すのだ!」

 

 

深い愛が一転して、狂気じみた使命感に変わってしまっている。

 

 

 

「他の方法があるはずだ!カイオーガに頼らずとも!」

 

「他の方法だと?……そう言って今まで何を行ってきた?!どんな施策も活動も、根底にあるのは人間の生活だ!我々人間は、自らを削ってまで真に自然の為に何かを為す事が出来ない!

 

だからこそ人間では無くポケモンに……カイオーガに自然を戻させるのだ!

 

その為ならば私はなんだってやる。行けサメハダー!ロケットずつき!」

 

アオギリの手から放たれたボールからサメハダーが発射される。その狙いはゲンジさんだ。砲弾の様な突進がゲンジさんのポケモン達の横をすり抜ける。

 

ゲンジさんは歳を感じさせない動きでサメハダーの攻撃を回避しようとした。だが、流石にポケモンのスピードには付いていけず、左腕がサメハダーの体側面に生えたヒレに当たってしまう。

 

「ゲンジさん!」

 

サメハダーはその名の通り、表面の鮫肌でポケモンにすら傷をつける。それを生身の人間が受ければそれだけで大怪我だ。現にゲンジさんは左の上腕を右手で押さえる。それでは抑えきれない量の血が流れていた。

 

「ワシに構うなッ!!こんなものはただのかすり傷だ!」

 

私が近づく為に駆け出そうとすると、彼の叫びで足を止められた。かすり傷と言っても、あの感じだと肉まで切り裂かれている。下手すれば骨も。

 

「ワシに気を遣う余裕があるのなら、その全てを防衛に回せ!あの男はワシが相手をする」

 

 

 

 

 

 

 

ダークライとサザンドラと共にアオギリ率いるアクア団本隊を迎え撃つ。

 

二匹とも既に疲労困憊。ワザの出や動きのキレが鈍くなってきている。それを補いカバーしなければならない私も、緊張状態が長く続いた事で集中力が途切れてきた。

 

 

だからだろうか、視界の端から飛んできた攻撃に直前まで気が付かない。普段ならするはずのない致命的なミス。意識の外の流れ弾を私の脳は処理しきれなかった。

 

 

眼前に見えるハイドロポンプがスローモーションで見える。山肌を登る様な水流は確実に私の体を捉えるコースだ。

 

 

 

あっ……私死んだかも。

 

 

私の貧弱で軽い体は、下から突き上げる水流で宙を舞う。ドンッという衝撃が私の体を駆け抜け、足が地面から離れた。派手に打ち上げられ、このまま地面に落下したら無事じゃ済まない。

 

 

ダークライが暴走する様に声を上げ、周囲の敵を蹴散らし、私の元へ駆けつけようとする。いつも冷静なダークライなのだが、目を見開き私の落下地点へでんこうせっかを繰り出す。しかし間に合う訳が無い。私はそのまま頭を打つように落下……しなかった。

 

 

「ふいー……間一髪」

 

 

私の体は空中で誰かの腕に抱き留められた。落下の際に閉じていた目を開ける。

 

 

 

「四天王フヨウ、参上!」

 

 

 

溢れんばかりの笑顔を輝かせる褐色肌の少女が、フライゴンの背中に跨り私を受け止めていた。そのままゆっくりと地面に着陸した。ダークライが近づいてくる。どうやら相当心配させたようだ。

 

 

それにしてもどうして……?到着までは三十分近くあったのに。

 

 

私の言葉にしなかった戸惑いに、フヨウちゃんは答えてくれる。乗ってきたフライゴンの頭を優しく撫でながら。

 

「ゲンジさんが一匹だけ、移動速度に特化したフライゴンを預けていてくれたの。この子には相当頑張ってもらったけど、おかげでアタシ間に合ったよ!」

 

そのフライゴンは私達を降ろした途端に全身から力が抜けていった。疲労と言うよりも衰弱と言った方が正しいレベルでぐったりしている。フヨウちゃんはポケギアの受話口をフライゴンの頭部に持っていく。

 

 

『無理をさせたな……。よくぞ……よくぞ送り届けてくれた』

 

 

ポケギアから聞こえる主の声に、今にも瀕死になりそうなフライゴンは誇らしげに小さく鳴いた。そのまま地面に倒れ込み、フヨウちゃんの持つボールへ帰っていく。サイユウシティからここまで休み無しの全力飛行。それだけでも強靭なポケモンでないとできない芸当だ。

 

 

ハイドロポンプを喰らった箇所が痛み、彼女の肩を借りて何とか立つことが出来る状態。しばらく戦線離脱かな。左腕上がらないし……骨折れてるかなーコレ。水タイプの攻撃だったのはまだ救いかね。

 

 

フヨウちゃんはヨノワール、ジュペッタ、ヤミラミといったゴーストポケモン達を繰り出しつつ、送り火山にいるメンバーに通話を繋げる。

 

「この場にいる皆!通話の音声を最大にして!」

 

フヨウちゃんは大きく息を吸い込み、ポケギアのマイク部分に向けて語りかけた。

 

 

「みんなーーー!!アタシだよーーー!!この人たちに協力してーーー!!」

 

 

するとどうだろうか。彼女の呼びかけに応えて、今まで戦闘の影響で隠れていたカゲボウズやヨマワル達、送り火山に生息するゴーストポケモン達が次々と姿を見せ始めた。

 

おそらくゲンジさん、リラちゃん、ネジキ君の所でも彼女の呼びかけは通話によって届き、隠れていたゴーストポケモン達が現れているに違いない。

 

 

一匹一匹の力は弱くても、驚かせたりあやしいひかりでアクア団を翻弄していく。

 

この送り火山は、四天王フヨウにとって真のホームグラウンドなのだ。ここでは野生のポケモン達が彼女の味方をする。ゴーストポケモンと心を通わせた彼女がいるからこそ追加された大きな援軍だ。

 

ゲンジさんの最速のフライゴンをチャンピオンのダイゴさんではなく、四天王のフヨウちゃんが使用したのはこの状況を見越してかもしれない。

 

『東リラ、アクア団の隊列が乱れていきます!優勢です!』

 

『西側ネジキ!カゲボウズ達が隠れて登っているアクア団を発見してます。索敵が随分楽になりましたよー』

 

『よし!ダイゴ君達ももうすぐだ。皆もポケモン達も踏ん張ってくれ』

 

「ヒナノ!私が代わるよ。少し休んでて」

 

「助かったよーフヨウちゃん。イテテテ……」

 

 

 

 

フヨウちゃんが来てから状況は一転した。全ての戦場でアクア団を押し返し始めたのだ。コレなら大丈夫だ。後はダイゴさんとプリムさん、カゲツが来てこの防衛戦は終了。

 

 

私のポケギアに着信が入る。もしかしたらダイゴさん達が予定より早く来たのかと画面を見てみると、相手はハルカちゃんだった。疲労からトーンの下がった声を再び通常に戻して出る事にした。

 

ちょっと遠くの方でドッカンバッタンしてるけど……戦闘音入るかな。

 

「やぁーハルカちゃん。どうしたのー?」

 

『ヒナノさん!またマグマ団です!しかも凄い数』

 

マグマ団、その名称を聞いた瞬間、最悪の展開を予想してしまった。ハルカちゃん相手なのに、テンションを隠し切れずに恐る恐る尋ねる。

 

「……それって……何処?」

 

『今121番道路の上空ですれ違ったマグマ団達を追いかけてます!えっと……視界の奥に送り火山が見えてきました!』

 

血の気が引いた。到着予定まで後少しなのに……。

 

『……ヒナノさん?』

 

自分が嫌いになりそう。私の頭はハルカちゃんが加わればどれくらい持つか、計算を始めている。こんなドロドロの争いなんかに巻き込みたくなかったのに!

 

「わかった……私今送り火山にいるからさ、ちょーっと手伝って貰っても良い?」

 

『わかりました!』

 

 

 

何とか声音を繕い、通話を終える。そのポケギアを握りしめた。

 

「クソッタレ……」

 

ハハッ……何だこれカッコ悪。結局ハルカちゃんに助けを求めてしまった。私もダイゴさんのこと言えなかったね。打算で子供使っちゃったよ。

 

 

 

もうプライドもクソも捨てたんだ。やる事やらないと。

 

「皆さん……マグマ団が来ます」

 

全員が言葉を失った。少人数で巨大組織と立ち向かい限界なのだ。

 

『時間、方角はわかるか?』

 

「西側、ネジキ君の方角。上空から接近中のようです……すぐにでも来ます」

 

『わーお……ボクのところですか』

 

「私もそちらに向かいます。三人はそのままアクア団を押し返してください」

 

『ヒナノ怪我してるんでしょ?』

 

「怪我疲労で休憩って状況じゃなくなっちゃってね。マグマ団と一緒に助っ人も来るから。……まぁ、何とかしてみるよ」

 

ボロボロの体をダークライに抱えられて、私は再び戦場を移動した。




お待たせしました。ちょっとリアルが忙しくて間あきますが、許してください。

私はこのゴタゴタを纏めきれるのか、そもそも書く時間が取れるのか。

誤字報告、感想、評価ありがとうございます。


Q、もうアクア団、マグマ団の本拠地直接狙っちゃえば
A、ゲームだとあんなにわかりやすくぽっかりしてるけど、現実だとバレないんじゃないかな。あとアジトも複数ありそう。

Q、 あなをほるで山頂まで……
A、流石に準備してないと無理では。それにサカキ様が一度使ってるので……

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