悪夢と共に   作:あんノー

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第十九話

「うわ〜……ははっ。壮観だねぇ」

 

視界にはっきりと見えてきたのは、そらをとぶポケモンとそれに捕まる赤装束の群れ。それらが一直線にこちらに迫ってくる。

 

「わーぉ……スキャン結果出ました。マグマ団、その数約五十。その内三人のポケモンが結構なレベルですねー」

 

ネジキ君が手に持つ調査・分析マシーンで得られた情報を伝えてくれる。

 

彼の機械には多くのポケモンのデータが入っている。同じ種類のポケモンでも差はあるが何十何百と記録してあるそうだ。個体毎に大きさや内包エネルギーなど事細かく情報として残し、それらと参照してレベルという形で表しているらしい。

 

バトルの際はそこから相手の得意とするワザや急所などを導き出し利用しているそうだ。彼が作ったこの機械があるからこそ、相対的に見て同じ実力でのレンタルポケモンを使用した特殊勝負、バトルファクトリーが運営出来るというのだから、その功績の程が伺えるだろう。

 

「その三人がおそらくリーダーと幹部だね」

 

「そうですねー……ヒナノさん、左腕大丈夫ですか?」

 

「大丈夫じゃないよ……袖の下ちょっと青紫色だからさ。すぐにでも手当てして欲しい」

 

まぁそんな状況じゃないからどうしようもないけど。

 

「さて、私もそうだけどダークライ、サザンドラは連戦でほぼ満身創痍。敵は見ての通りあの数。こちらの勝利条件はあと少しの時間を稼ぐ事……どうするよ、天才君なら?」

 

「ボクのポケモン達が一番体力残ってますからねー、ボクらがメインでやらせてもらいますよー。具体的には――――――――」

 

 

ネジキ君の語った作戦は、確かに私達二人で確実に大勢を足止め出来る。もちろん敵の数が数なので短時間ではあるが、それでも人っ子一人通さない。たとえ相手が空を飛んでいるとしてもだ。

 

「それ……本気?」

 

私にはそう言うしか無かった。理想的な足止めではあるが、現実的な問題が付随してくる。

 

この作戦、引き際を間違えたならば、ネジキ君のポケモンが死ぬ。バトルで戦闘不能になり、元気を失った状態である瀕死ではない生命としての終わり。

 

しかし、引いてはマグマ団に突破されてしまい、宝玉が取られてしまう。

 

 

「でも、これしか無くないですか?」

 

「自分のポケモンに死ねと言ってるに近いよ」

 

「このマシーンはポケモンの体力を数値化してくれます。引き際は間違えません。僕と僕のポケモン達だからこそできる事です。ドータクン、ポリゴンZ、ダイノーズは準備。予測では今から二十秒後に接敵」

 

 

ドータクン達がネジキ君の前に横一列に列を成す。それから少ししてマグマ団の部隊が私たちの頭上を通り抜けようとするが、眼下の私たちには目もくれない。山頂へ一直線だ。

 

「分析どーり!ジャストタイミング!

 

ポリゴンZ!ドータクン!じゅうりょく!」

 

 

ドータクンとポリゴンZが、その場に通常よりも高い重力を発生させる。マグマ団を乗せたり、掴んで空を飛んでいるポケモン達は、いつもと違う環境に耐えられず、次々と高度を落とした。

 

「目と目が合ったらポケモンしょーぶ!」

 

強制的にマグマ団を地に落とし、目を合わせた未来のファクトリーヘッド。彼はそのまま次の指示を出す。

 

「ダイノーズ! ドータクン! とおせんぼう!」

 

 

地に足をつけたマグマ団達に対して、ダイノーズとドータクンのワザが発動する。

 

ドータクンとポリゴンZ、その二体が作りだした高重力空間では、ポケモンや人間は飛ぶ事はおろか、ジャンプするのにも一苦労。

 

マグマ団達を誰一人として取り逃さず、その重力圏に収め、その空間にいるマグマ団全てにダイノーズとドータクンがとおせんぼうを発動。これによって彼らは、この二体を倒さねばこれより先には進めない。足止めの布陣が完成した。

 

 

「フン……文字通り足止めという訳か」

 

赤髪のオールバックの男、マツブサが私達を見てつまらなさそうにそう呟く。そして少し口角を上げた。

 

「それにしてもアクア団も良い仕事をしてくれたものだ。足止めするのが二人、加えて片方はボロボロときた……流石に今度は邪魔できまい。なぁ、四天王?」

 

えんとつ山の火口で、隕石の力を利用して火山活動を活発にしようしたマグマ団の野望をハルカちゃんと挫いた。あの時に幹部の一人でも捕らえられていたなら、今頃違った状況だったかもしれない。今となっては全部後の祭りだ。

 

「前は貴様とあの子供にやられたが、それはもういい。宝玉さえ手に入ればグラードンを目覚めさせられる」

 

「行かせるとでも?」

 

「その姿でよく吠える……カガリ、私とお前で元四天王を。ホムラ、お前は部下を率いて、とおせんぼうをかけたダイノーズとドータクンを始末しろ」

 

「ウヒョヒョ、りょーかい。行きなマグカルゴ」

 

「えんとつ山ではしてやられたからね。存分にやり返させてもらうよ!バクーダ!」

 

 

いつもだったらそんなに苦労する相手ではないが、これまでの連戦で正直手に余る……でもやるしかない。

 

「ごめんダークライ、サザンドラ。だいぶ無茶させるよ!あくのはどう!」

 

「敵性ポケモン分析中……完了。これより防衛戦を開始しまーす。ドータクンとダイノーズはてっぺき。ポリゴンZ、はかいこうせん!」

 

私達は再び戦いに身を投じた。

 

 

 

 

 

私は人生で一番時が経つのが遅く感じた。現実ではカップラーメンが出来たくらいだろうか。数分間とはいえ、マグマ団を一人も通さずここに足止めできている。

 

しかし、こちらも致命的な被害を受けた。私の場合サザンドラがマツブサ、カガリの猛攻により、遂に体力の限界を迎えてしまった。それでもそれぞれの手持ちを一匹ずつ戦闘不能にした。

 

 

そして……マツブサとカガリは勝ち誇った顔を。私は驚愕を表情に出した。なぜならそのタイミングで敵対している二人が歩みを始め、前進してきたからだ。

 

 

つまりダイノーズとドータクンのどちらか、はたまた両方が落とされたという事。

 

二体はひたすら大勢のポケモンの攻撃を耐えていた。てっぺき、まもる、みがわり、ねむる。さらにポケモンの体力を数値化できるからこそ、ダイノーズは適宜いたみわけを行い、通常ポケモンとは思えない耐久を発揮していた。ドータクンは危険な攻撃をかげぶんしんで回避し、この二体による布陣を崩さない様に尽力していた。

 

 

しかし、ほとんどサンドバッグ状態では耐えきれなかった。

 

 

足止めの要であるダイノーズもドータクンも倒れ、とおせんぼうの効果を失ってしまった。攻撃しながらもずっとじゅうりょくをかけ続けたポリゴンZも疲労困憊に。徐々に高重力空間を維持出来なってきた。

 

「しぶとかったが……これで盗りに行ける。カガリ!ここはお前に任せる。ホムラ!付いてこい」

 

「ダークライ!止めて!ダークホール!」

 

「させないよ!グラエナちょうはつ!オオスバメちょうおんぱ!」

 

ダークライが山頂に向けて進み始めたマグマ団に狙いを定める。しかし、その射線にカガリのポケモンが割って入り、ダークライに妨害を仕掛けてきた。

 

「このっ!邪魔しないで!」

 

「お断りだね!さぁまだまだ続けるよ四天王!バクーダ!やきつくす!」

 

私に向けて笑みを向けるカガリを睨む。その際に、視界の先に赤い姿が見えた。

 

凄い速さで飛んでくる紅白のポケモン。このタイミングで、送り火山の西側からここに飛んでくるのは、味方だと一人しかいない。急いでポケギアを取り出し、通話が繋がった瞬間にその名を叫んだ。

 

「ハルカちゃん!山頂へ!マグマ団を止めて!」

 

『はい!』

 

次の瞬間、山肌を滑るように飛んで行く、赤いポケモンとそれに跨る赤いトレーナーが見えた。その赤いポケモンに私は驚きを隠せなかった。

 

「ラティアス?!」

 

ポケモンや人の気配を感じると、光を屈折させ姿を消す伝説のポケモン。その能力と警戒心の高さから滅多に人の目に触れる事は無いはずだが……流石は主人公という事なのだろうか。

 

「チッ!あの子供もいたのか……リーダー!ホムラ!そっちにあの子供が行ったよ!」

 

私は祈る様に山頂へ向けて翔けるむげんポケモンを見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ダークライもういい。戻って」

 

大きな火傷を負い、瀕死となってしまったダークライを、強制的にモンスターボールに戻す。どんなに攻撃を受けても、フラフラになりながらでも、戦おうとしてくれたダークライ。私はこれ以上、相棒の痛々しい姿を見ていられなかった。

 

こうして私はトレーナーとなってから、ポケモンリーグ以外では初めて戦えるポケモンがいなくなってしまった。他の場所ではまだブラッキーやアブソル、バンギラスが戦っているのかもしれないが、今の手元には誰もいない。

 

「全く……ボロボロかと思えば、随分と元気があったじゃないか。あの状態から私のポケモンを残り一匹だけにするなんてね」

 

そうカガリの手持ちも残り一匹だけだったのだ。ダークライは三匹相手に大奮闘した。ちょうはつでお得意の眠らせる技を封じられ、ちょうおんぱで混乱状態になりながら、半ば暴走状態でグラエナとバクーダを倒した。

 

だけど最後の一匹を前に限界が来てしまった。それでも戦おうとするダークライを、私は無理矢理ボールに戻したのだ。私はダークライを失いたくはなかった。

 

 

屈辱だ……屈辱だよ。こんな形とはいえ、ダークライがポケモンリーグ以外で倒されるなんて。

 

 

「四天王も手持ちがいないんじゃあ、力の無いただの女……さて、私もリーダーの方に行くか」

 

地面にへたりこんだ私の前で、そらをとぶを使用するカガリ。私はそれを目でしか追うことのできない。もう終わったと、焦りも自分に対する怒りも消え去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲンジさんより預かっていたチルタリスからその場所に降りる。送り火山、そこは本来、静かに魂の安らぎを願う霊園だった筈だ。しかし、今はもう見る影もない。

 

焼け焦げている地面や、原形も分からないほど崩された墓石。散らばるマグマ団とアクア団の下っ端に、傷を負った仲間。そして……空っぽの二つの台座。

 

 

歯を噛み締め、拳をこれでもかと握りしめる。

 

 

「間に合わなかったか……」

 

崩れた墓石に背中を預けるゲンジさんと、宝玉を守護する老夫婦は意識を失い、フヨウ君が介抱している。

 

腕を抑え、苦悶の表情を浮かべるヒナノ君。そんな彼女を支え、涙を流しながら謝っているハルカ君。

 

通常のバトルでは、まずありえない程の大怪我を負ったポケモン達の応急手当てを行うリラ君とネジキ君。ライコウはその体毛が泥にまみれ、立派だったであろう象徴たる牙が折れた状態で、主である彼女に寄りかかる。

 

ネジキ君のダイノーズ、ドータクンは全身に罅が走り、動かす事さえままならない状態。どれほどの攻撃を受け続けたらああなってしまうのか、チャンピオンである自分でも見当がつかなかった。

 

 

彼らは僕から見ても、いや……誰から見ても凄腕のトレーナー達だ。力が足りなかったのでは無い。彼らに指示を出した僕の認識不足が招いた結果だ。マグマ団とアクア団、その総力を見誤った。

 

誰が彼らを非難できるだろうか。一人に対して小隊レベルの人数とポケモンを相手にしていたのだ。戦争でなら英雄と呼ばれるに違いない。

 

ゲンジさんのチルタリスが落ち込むような仕草をしたが、このポケモンが悪いわけでも無い。サイユウシティから海を横断する長距離飛行。しかもこの短時間で我々を送り込めたのは、このチルタリスの尽力故だ。

 

 

悪いのは自分だ。チャンピオンはその全責任をとる必要がある。

 

 

「おいダイゴ。どーすんだよ?早く追った方が良いんじゃないか?」

 

カゲツに言われて思考を戻す。今は反省すべき時ではない。これからの動きで先を変える事が出来るはずだ。

 

カゲツの言う通りに二つの組織を追いかける手もある。彼らはほとんど戦力を使い果たした筈だ。この山に置いていかれた下っ端の数がそれを物語っている。

 

しかし、えんとつ山のマグマ団。ミナモシティ近海のアクア団。その両方ともアジトが判明していない。していたのならとっくの昔に乗り込んでいる。

 

それに追いかけるにしても僕らを乗せて飛べるポケモンが疲労困憊だ。ここで戦い疲れたポケモンや、僕らをここまで必死に運んでくれたポケモン達では、追いつくのは難しい。

 

「現実的ではないな……」

 

「なら……このまま手をこまねいているままですか? 二体の復活は止められないと?」

 

第三四天王プリムさんが僕に質問を通して促してくる。チャンピオンとしての責務を果たせと。我々には迷う暇さえ無いのだと。

 

 

「でも二体が復活したらもう止められないって!」

 

そう、フヨウ君の言う通り。超古代ポケモンの力の前には、僕らのポケモンであっても意味をなさない。それほど生物としての格が違うポケモンなのだ。

 

「かくなる上は……」

 

 

 

 

「ダイゴさん……ちょっといいかい?」

 

「おい姐さん!」

 

「ヒナノ?!無理しちゃダメだって!」

 

彼女は体を思う二人を首を振って制する。そして僕の目を見てハッキリとその名を口にした。

 

「レックウザを目覚めさせる」

 

 

 

驚きで目を見開いた。

 

 

 

何故その名を君が知っているのか。そのポケモンの存在を知るのはチャンピオンとホウエンの二つの民だけ。グラードンとカイオーガとは違い、徹底的に情報が閉ざされているのがレックウザだ。

 

「空の柱はどこ?」

 

彼女の言う場所。これも、先程挙げられた限られた者しか知らないはずの、ホウエン地方の聖地であり禁足地。ただレックウザを知っているだけでなく、そこまで認識しているとは。

 

彼女はシンオウの生まれのはず。伝承を伝える民と繋がりがあったのか。いや、彼等からは彼女について何も聞いていない。ならば……その情報をどこから?

 

 

「……レックウザ?カゲツ知ってる?アタシ聞いた事が無いんだけど」

 

「いいや、俺も知らねぇな」

 

「私も存じ上げないですね。ポケモンの名前の様ですけど」

 

「おいダイゴ、なんなんだ?そのレックウザってよ」

 

 

この通り四天王ですら伝えられていない。そして彼らはその名を知ってしまった。……この状況下で伝えない訳にもいかないか。

 

「……レックウザ。それはホウエンに眠る第三の超古代ポケモンの名だよ」

 

「なっ?!グラードンとカイオーガだけじゃねぇってのか?」

 

「伝承では、はるか昔に二匹の戦いを鎮めたポケモンとされている。その為、古代人はレックウザを龍神と崇め、ホウエンの守り神として後世に伝えた」

 

「おばあちゃん達から色々聞いてるアタシでも知らなかった……でもそんな存在がいるのなら頼ったらいいじゃん」

 

 

「……レックウザは確かに復活した二体を止めてくれるかもしれない。だがそれはレックウザの都合でだろう。伝承では守り神とされたが、実際にはどうか分からない。下手すれば三つ巴の戦いになり、被害がさらに広がるかもしれない」

 

「でもレックウザ以外に二匹を止められる存在はこの地方にはいない」

 

ヒナノ君の言う通り。我々では太刀打ち出来ない存在に対して、ホウエン地方として出せる最後の手段。だからこそ正当な民以外では、歴代のチャンピオンのみがその存在を継承する。

 

 

 

 

 

 

僕の代でその手段を使う事になるとは……。

 

 

 

 

 

「ホウエン地方全域にチャンピオンの名で緊急事態を宣言する。住民の避難を各町の代表とジムリーダーへ指示」

 

「チャンピオン、我々は?」

 

「怪我人もいるし、この両団員達を放置する訳にもいかない。ひとまず最寄りのミナモシティへ。そこにレックウザについて知る者達を呼び出す」




忘れたころに帰ってくる。そんな投稿スタイルになっちまった……。


待ってるコメントあったかいナリィ~。



では!またシャボンディ諸島で!!!
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