四天王に弟子入りするという、普通のポケモントレーナーなら泣いて喜びそうな出来事が起きて、私の生活は変化した。
親元を離れキクノ師匠について行くことになったのだ。
キクノ師匠に弟子入りしたというのもあるが、ダークライを持つ私の監督役として目に届く範囲にいる必要がある。四天王としてポケモンリーグに勤める必要がある為、私もついて行かなければならない。
そして私の精神衛生上、無理して家族で暮らすより、一回距離を置いた方が良いのではないかという話になった。両親も渋々ながら最後には納得してくれた。
娘に攻撃されたというのは結構堪えたのかもしれない。それでも心配してくれながら、送り出してくれた。
師匠の元でポケモントレーナーとして育てられた。そんなにスパルタという訳でもなく、長年積み重ねられた確かな経験から的確な指導をうける。
この世界が別世界のゲームの世界であると知って、その知識は役に立っている。ポケモンの名前やタイプ、特性、ポケモンの種類による得意不得意。他には大まかな地理ぐらいか。
正直言ってそれくらいの情報は師匠の元で学べる。師匠すら知らない幻のポケモンや、伝説のポケモンくらいなら私の方が多くの事を知っているだろうが、そんな知識などそうそう使うものでは無い。
ポケモンバトルもゲームのようなターン制でもなければ、数値の勝負でもない。ワザの効果も使用方法も、トレーナーの指示次第。同じポケモンでもトレーナーが違えば、まるで別の個体のように変化する。
まぁ、ゲームの中の記憶が使えないという訳では無いのかもしれない。この世界が本当にゲーム通りの時間の進み方をするならばの話だ。
現在シンオウ四天王でゲームの中で見た事があるのはキクノ師匠だけだ。それも第四番目、チャレンジャーにとっての最後の四天王となる。シンオウ四天王は戦う順番が決まっており、それが四天王としての格付けでもある。
つまりは、まだリョウもオーバもゴヨウも四天王に就いていないのだ。チャンピオンも当然シロナでは無い。私が今いる時間軸はゲーム、ダイアモンドパールよりも前の世界だ。
四天王だけじゃなく、ジムリーダーも全員違う。ギンガ団という組織もまだ現れてはいない。
そんな世界で私は十歳でジムバッジを一年かけて集め、十二歳で四天王についた。格付けとしては一番下。チャレンジャーにとって最初の四天王になる。
四天王の一人がもうかなりのご高齢で引退という事で、キクノ師匠の弟子として白羽の矢が立った。
四名の四天王全員と戦い、何とか席を戴けた形だ。引退される方には何とか勝利する事が出来たが、他の三名には敗北した。特にキクノ師匠は私の欠点や癖を知り尽くしているため惨敗という形になった。
私が使うポケモンはあくタイプ。ダークライと一緒にいるからなのか、妙にあくタイプのポケモンと親和性が高い。あくタイプのポケモンに好かれ、感情を理解する事が出来る。
これはキクノ師匠曰く変な能力とかでは無く、良くあることらしい。特定タイプのエキスパートが、四天王やチャンピオンに多くいるのもその為だ。
私が下手に様々なタイプのポケモンを育て扱うと、そのポケモンの力を上手く引き出せない。それくらいなら弱点を対策した上で、ポケモンの全力を出せる方が強い構成なのだとか。
この世界でバランスの良いパーティーを満遍なく育て戦えるのは、それこそ才能や生半可じゃない努力の成果なのだという。
未来にやってくるかもしれないシロナや、各世代の主人公は化け物揃いなのだと、四天王になった今でこそ思う。
まぁこうして名実ともに四天王になり、ダークライのトレーナーとして格を得た。
ただ、第一四天王ってしんどい。毎日という訳では無いが、挑戦者は次々にやってくる為、まとまった休みが取れない。
向かってくるトレーナーも八つのバッジを手に入れている為、最低限の実力は持っているわけである。一戦一戦がそれなりにハードだ。体力の無い私には辛い。
かと言って手を抜いて万が一挑戦者を通しでもすれば、後ろに控える方々、特に師匠から怒られる。そんな背後からのプレッシャーでこの酷い眠気と戦っている。
生活が変わり、それに伴い私にも変化がある。ダークライと一緒になってから、よく眠る様になった。これまでの寝不足を取り戻す様に。今ではダークライの見せる悪夢は私たちにとって、一種のコミュニケーションになっている。
だが、成長期のストレス過多、慢性的な寝不足は体の成長に確かに現れており、同年代の子供と比べても小柄な事が目下解決したい悩みである。寝る子は育つはまだ間に合うのだろうか。
体の変化でいえば、目の周りの隈が薄くなってきたことだろうか。さて……
「今日こそは勝たせてもらうぞ!」
「ふぁああ……ようこそポケモンリーグへ。ってもういいですよね」
四年もここにいたら、何度も挑戦してくる人もいる。この人は三度目だったかなぁ。口上とか説明とか全カットで行こう。
「三度目の正直だ!行け!ムクホーク!」
「二度あることは三度あるってね……ブラッキー」
空高く舞い上がるムクホーク。それは急降下で仕掛けるっていうわかりやすい合図。ブラッキーもそれを理解して、ボールから出てすぐに警戒態勢を取る。
「ゴッドバード!!」
「落ち着いてみきってからあくび」
ブラッキーが紙一重で躱しつつ、すれ違いざまに眠気を誘う。
ただなぁ……私に挑戦する人必ずと言っていいほど、ねむり対策してくるのよねー。大抵がカゴのみ持たせてる。この人に至っては私ともう二回戦っているし、ムクホークもすぐに持ち物のカゴのみで眠気を吹き飛ばした。
まぁ寝ないなら寝ないで別の手を使うまで。ムクホークは攻撃する為に必ずと言っていい程接近してくる。その際に仕込めるものは仕込んどかないと。はぁ……長くなりそうだね。気張りますかぁ。
「クロバット戦闘不能!勝者、四天王ヒナノ!」
ジャッジの声でバトルが終了する。チャレンジャーが膝から崩れ落ち、悔しさを滲み出している。
今回は四匹使わされた。ブラッキー、ドンカラス、ヘルガー、ミカルゲの四匹だ。前に戦った時は、三匹で済んだのに。こういうの見ると四天王としての役割なんだかんだ果たしてるなーと実感する。
シンオウ地方のトレーナー達の壁となる事。それが四天王としての最大の役割。……まぁ何人か心を折った人もいるかもしれないが、実力の世界なんで責めないで欲しい。
「ヒナノ様、新たなチャレンジャーがいるのですがお通ししましょうか?」
ポケモンリーグの関係者が私に尋ねてくる。私よりもだいぶ歳上だけど、四天王という立場上敬語で話してくる。最初は戸惑いもしたが、長年ここを拠点にしているとその対応も慣れてくる。
「んー……いいですよ。うちの子たちがある程度回復したら通してください」
少し眠いけど来てくれたんなら挑戦を受けようか。明日まで待たせるのも悪いしね。
「私の知ってる人ですかね?」
「いえ、今回が初チャレンジですね。貴方様と同じくらいの少女です」
その言葉を聞き、私は固まった。私と近い歳の少女で、ここまで辿り着ける人物などそうそういない。ついにあのキャラが来たのかもしれない。
「ヒナノ様?」
「チャレンジャーの名前はわかりますか?」
「シロナと登録されています」
いつか来るかもとここで待っていた。まだいない四天王やチャンピオンがやってくるかもと。まさかシロナからやってくるとは思わなかったけど。
原作ではキクノ師匠のさらに上、チャンピオンとして十年近くその座を維持し続けるシンオウ最高のトレーナー。
「……三時間待ってもらってください。完全に回復させてから挑戦を受け付けます。私も一眠りしてきます」
「かしこまりました」
下手したら私の四天王生活最後のポケモンバトルになるかもしれない。そう思うと自分もポケモン達も今の全力を出し切れる状態にしなければ。
四天王としての広い控え室に戻り、人をダメにするカビゴンクッションに背中から倒れ体重を預ける。腰に残された最後のモンスターボールを軽く宙に放り投げると、その中から私のエースポケモンであるダークライが現れる。ちなみに先のバトルで使用した四体は係の人に預けて回復中だ。
「次のバトルは久々に出番が来るかもしれないよ」
ダークライは現在一年近く公式戦で使用していない。エースポケモンだし幻のポケモンだし、出番は一番最後にしている。ただ、次のバトルは絶対にダークライの力が必要だ。
「じゃあちょっと集中するから、よろしくね」
ダークライの頷きを確認した後、私は目を閉じダークライのダークホールに包まれる。
いつも悪夢でコミュニケーションをとっていたが、今回は無し。ただの暗闇の中で、一人心を落ち着かせる。悪夢を使った強制瞑想と言ったところか。
二時間と少しが経ち、ダークライが私を揺さぶり起こしてくれる。悪夢式瞑想から起き上がり、余計な眠気を吹き飛ばす為控え室の冷蔵庫を開ける。そして一本の液体の入った小さいビンを右手に取る。
ラベルには『カゴのみとげんきのかけら配合!倒れても働けます!』と書かれている。いわゆるエナジードリンクと言うやつだ。フタを開け、空いた左手を腰に添える。そして背を反らしながら一気に飲み干す。
目がシャキ!となり、ここまでが私が全力を出す時のルーティンだ。
シャワーで汗を流し、黒ズボンに白シャツというシンプルな服装で身だしなみを整える。準備が整った後に関係者より預けていた四匹が渡される。
「挑戦者は既にお待ちです。では、ご武運を」
バトルフィールドに繋がる廊下の途中で、ボールの中のポケモン達の表情を見る。皆いつもよりやる気があるように見える。……私が久しぶりにちゃんとしたからかな。
相手は未来のチャンピオン。その為か私がチャレンジャーのような気持ちになっている。今の時点では分からないが、ゲームの通りならキクノ師匠よりも強いトレーナー。あの人以上の実力者なんて初めて見る。現チャンピオン?会ったことない。チャンピオン特有の放浪癖があるらしい。
フィールドに出るとそこには長い金髪の少女がいた。ゲームでのシロナのクールビューティの感じはまだ無く、幼さの方が感じられる。胸はこの段階で成長の兆しを見せているのか。……この格差はせち辛いね。
では気分を切り替えて、
「やぁ、遂にここまで来たね。ポケモンリーグへようこそ。私はあくタイプ使いのヒナノ。四天王の一人として歓迎するよ。ぜひ良い悪夢を見ていってね」