こんなにヒリヒリする時間はかつて無かったかもしれない。
四天王ヒナノとのバトルは数的にいえば私の優勢で進んでいた。相手が残り一匹で、私は残り三匹。その中の二匹が万全の状態で、私のエースポケモンであるガブリアスも控えている。
でも相手の自信のある表情は崩れなかった。それはつまり彼女の最後の一匹。エースポケモンのダークライに絶対の信頼があるという事。
そして現にそれは正しかった。
彼女が何を言うまでもなくワザを繰り出してくる。彼女の指示と同タイミングでワザが既に発動している。このダークライというポケモンは彼女の意思をわかっているのだ。
彼女とダークライの信頼関係は凄いものだ。素直に敬意を持てるほどの強い絆。
だが、私たちも絆でも勝負でも負ける気は無い。
ロズレイドの決死の抵抗で毒は打ち込めた。これで相手から余裕は奪えたはず。
ガブリアスはカゴのみをまだ消費してない為、あのダークホールと呼ばれるワザも一回なら対処出来る。あのれいとうビームさえ、躱せれば私たちの勝ちだ。
そしてこの硬直状態に至る。この睨み合いを続ければ、私たちはどんどん有利になる。
そして、四天王ヒナノの様子を伺う。何かを企むような小さな笑みを見て、私は身の毛がよだった。直感的に指示を出していた。そのタイミングは彼女と同時。
「ダークライ!」「ガブリアス!」
「仕掛けて!」 「構えて!」
何故有利な筈の自分が防御に回っているのか。咄嗟に出た指示に自分でも疑問に思いながら動き始めた勝負に集中する。
ダークライが瞬時にガブリアスに肉薄する。まさかガブリアスと殴り合いの距離で戦うつもりなのか。ダークライというポケモンは見た目からして、肉弾戦に向いているとは思えない。
「きりさくで迎え撃って!」
「どろぼう!」
ヒナノの指示を耳にして、彼女の狙いに気付いた。ヒナノとダークライは隠し球がある訳でも、れいとうビームを当てるのでもない。無理にでも眠らせて勝つつもりなのだと。
その時には既に二匹の行動は結果が出ていた。
ダークライにはきりさくによって入った傷が、そしてその手にはガブリアスに持たせていたカゴのみが握られていた。眠らされては後がない。今ここで決着をつける。
「ダークホール!」「ドラゴンダイブ!」
ダークライが引き撃ちの体勢でダークホールをガブリアスに向ける。その時すでにガブリアスはダークライの目の前まで飛びかかっていた。
ダークホールがドラゴンダイブ中のガブリアスを包み込み、ガブリアスは眠りに落ちながらもダークライに突っ込んだ。
ガブリアスは寝てしまった。ダークライは一度ガブリアスに巻き込まれながら倒れたものの、すぐに元通り宙に浮かぶ。
あとはあくむで私の負け……そう思った瞬間、ダークライもフラフラと地面に倒れた。毒が最後の体力を奪ったのだろう。戦闘不能だ。対してガブリアスは少しうなされているとはいえ、ただ眠っているだけ。
「ダークライ戦闘不能!勝者、挑戦者シロナ!」
そのジャッジの言葉を聞いた時、私は地面にへなへなと座り込んだ。現実を受け入れるのにも少し時間がかかった。
「か……った……?」
実感が無い。私があの無敗の四天王に勝利した。
二方向から拍手の音が聞こえる。一つはジャッジの人。もう一人は自分に近づいてくる四天王ヒナノだった。
「ん〜負けた負けた。さすがとしか言いようがないね」
ダークライをモンスターボールに戻した彼女は、座り込んだ私に手を伸ばす。
「最高に楽しいバトルだったよ……ん?どうしたの?」
「いや……本当に勝ったんだと思って……」
「初戦でこの反応って大丈夫かい?この後まだ四回もあるよ」
まだ初戦……この相手より格上のトレーナーの戦いがまだあるのだ。だが、心の内にあったのは絶望でも不安でも無く、新たに芽生えた自信だった。
「……そうね」
ヒナノの手を借りて立ち上がる。そのまま手を繋がれて、彼女が入ってきた通路の方に案内される。
「いやーこの先に人を通すのなんか初めてだからね。新鮮な気持ちだよ。さて、この奥が第二四天王のフィールド。行く前にポケモン回復させてからいってね。
頑張んなよ。未来のチャンピオン」
私はシロナとの戦いの後、ポケモンたちを回復に預け、師匠の控え室にやって来ていた。全力出したから今凄い眠いけど、報告はしないとね。
「師匠……負けてしまいました」
控え室で椅子に座りお茶を飲んでいた師匠に結果を報告する。
「あら……ふふふ、良かったじゃないの。顔を見たらわかるわよ。良い負け方をしたわね……楽しかったでしょう?」
「はい」
「今まであなたはダークライと一緒にいるために、半ば義務感でバトルしてるようなふしがあったからね……で、何がしたいの?」
「……よく分かりますね」
「これでも師匠だからねぇ。それに面倒くさがりのあなたが律儀に報告に来るなんて、何か心境の変化があったんでしょう?」
「しばらく旅に出ようと思います。四天王の座も返上するつもりです」
「あらあら、せっかく推薦してあげたのに」
「それについては本当に申し訳なく思っています」
「ほほほ、冗談よ冗談。……でも、欠員が出たらまた誰か探さないとねぇ」
「あー……それは大丈夫だと思いますよ」
「今挑戦中の子かい?」
「はい」
「あなたはともかく、あたしも含めて三人の四天王が納得するレベルなの?」
「納得どころか、下手したら皆さん揃って引きずり落とされるかもしれませんよ」
その瞬間、師匠の顔つきが変わる。普段の優しい笑みから、一瞬だけ獲物を狙うような獰猛さを感じた。
「そこまでの子かい……これはあたしの出番が楽しみになってくるわねぇ。それにしてもあたしより先に引退するなんて。あたしもそろそろ引退しようかと思ってた頃なのに」
「師匠はまだ十年程行けますよ」
「そろそろ老いぼれの仲間入りなのに無茶させるわね、この子は」
実際に今から十年近く、師匠は四天王であり続けるんですけどね。
「なるべく早く戻って来てちょうだいよ。その時はあなたに席を譲って、今度こそ引退させてもらいますからね」
シロナはその後も勝ち進んだ。第二第三四天王は余裕を持っての快勝。私の試合の最初の時とは違い、自信に溢れている。それは彼女のポケモンたちも同様。どうやら私との試合が起爆剤となってしまったようだ。
そして迎える第四四天王、キクノ師匠とは私の試合と同じような激戦だった。
「おやおやかわいらしい、それでいて頼もしいトレーナーだね。あたしはキクノ。特に大事にしているのはじめんタイプのポケモンね。
あたしの弟子が世話になったね。感謝してるよ……あの子には楽しいバトルというのをあまり教えてられなかったからね」
師匠の言う通りダークライといる為にひたすら強くなる事を意識していた。四天王になるまでは楽しんでる余裕なんて無く、四天王になってからは楽しめる程の相手が来なかった。キクノ師匠や他の四天王の方とバトルしても、緊張感や胸を借りてる意識の方が強かった。
「でもそれとこれとは話が別。ヒナノの仇、取らせてもらいますからね」
その後、妙にハッスルしたキクノ師匠の怒涛のじしん、じわれ攻撃により、ポケモンリーグがヤバい。
その後チャンピオンとも壮絶な試合を行い、勝利したシロナは遂にシンオウの新チャンピオンとなる。殿堂入りしたトレーナーとして永遠にポケモンリーグの記録に残るようになった。
ちなみにチャンピオンとしての座も受け入れた為、上から押し出されるように、私の四天王という地位は消滅した。
でもって今は、新チャンピオン就任の簡単なお祝いをシンオウリーグ内で行っている最中だ。その式典の中で同年代同性という事で自然と会話の流れになる。
シロナの冒険の話を聞いたり、私の身の上話を言ったり。そしてチャンピオンとなったシロナと一般トレーナーとなった私のこれからについて。
「え、旅に出るの?」
「うん。四天王っていう縛り無くなったし、ようやく自由の身だからね。色々回ってみるつもりだよ」
「てっきり、チャレンジャーとしてリベンジに来ると思ってたわ」
「んーしばらくはいいかなぁ。あんなバトルを繰り返してたら身が持たないよ。楽しかったは楽しかったけど、あんなのはたまにやるくらいが丁度いい」
あれが日常になったら体はついていかないだろうし、楽しくもなくなってくるだろう。私はそこまでバトルジャンキーでは無い。
「シロナはどうするの?」
「私はポケモンの神話について調べる学者になるわ」
やはりゲーム通り、シロナはこれから先考古学者としても有名になっていくのだろう。
「へー良いじゃん。チャンピオンの地位は多分相当役に立つよ」
チャンピオンというだけで人との繋がりは勝手に出来る。四天王でも広がったコネクション、チャンピオンならばその比ではないだろう。
そして何よりも……金だ。
「ちなみに私は年俸でピーーーー円。さらに試合毎にファイトマネーもあるよ」
「嘘?!そんなに?」
「考えてもみなよ。こんな建物作るような組織だよ。その組織のトレーナーのトップなんだから。
チャンピオンは試合が少ない分、年俸はさらにいくんじゃないかな。四天王を突破できる挑戦者がいなかったらほとんど不労所得だよ。もちろん挑戦を受け付ける以外にも仕事はあるけど、忙しいって程じゃないしね……さぁ想像してみて」
そう言って耳元で囁くように、ゆっくりと言葉を並べていく。
「今まで欲しかった物を沢山買ったり、それこそ別荘とか購入してみたり……めんどくさくて汚くなった部屋の片付けをプロに任せることも可能だよ」
最後の誘惑だけ肩がビクッとなり、異常に反応が良かった。やはり実生活の方は残念な美人になるのだろう。
「おやおやおや〜、最後だけ反応が違うな〜?もしかして……図星だったかな〜?」
「なっなっなんのことかしらっ?!」
「大丈夫……そういう所が好きって人、大勢いると思う」
「勝手に決めつけないで!」
「あらあら、仲がいいわねぇ」
遠くで私達のことを見ていたキクノ師匠が近づいてきた。この時はすぐ後にあんな爆弾を投下されるとは思いもしなかった。
「どう見たらそう見えるんですか……」
「ごめんなさいねシロナさん。この子ったら初めてのお友達が嬉しいのよ。照れ隠しってやつね」
「……ボッチ?」
「グハッ?!」
だって仕方ないじゃないか!幼い頃の人間関係白紙になったし!キクノ師匠についてポケモンリーグに来たけど、ここ大人しかいないし!同年代の人なんて来ないし!
やめろ!そんな哀れな目で私を見るんじゃない!
「良かったらこれからもこの子と仲良くして頂戴ね」
「私がお友達第一号ね。よろしくヒナノ」
今さっきとは一転して、ニヤニヤしながらそう言う新チャンピオン。くそぉ、師匠の裏切りさえなければ……。
「家凸してやる……そして全世界にチャンピオンのズボラさを公開するんだ」
「不法侵入よ!」
「友達の免罪符は既に手に入れた!」
「オホホ、この子たちが作るシンオウリーグ、楽しみになってきたわね」
そんなこんなで一般トレーナーになった私ですが、旅を始めて六年くらい経ちました。現在22歳です。タバコとお酒にはまりました。胸は諦めました。
色んな地方に行って自由気ままに過ごしてます。
そして今はというと、桟橋を塞いでいる爆睡中の野生のカビゴンにもたれかかってお昼寝中です。やっぱクッションと本物は違うね。
シンオウ編終了。サクサク行きますよ〜
あくタイプ統一パ、今からサイトウちゃんが怖い。
Q、バトル描写……
A、主人公以外カット
Q、タバコお酒
A、自分が作るオリキャラの女の子は大抵吸うし飲む。頭の中で勝手にそうなってる。