悪夢と共に   作:あんノー

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第八話

「さぁ!御用だ御用だ大捕物だ!」

 

 

五体のポケモンを操りロケット団を蹂躙するその背中を見る。

 

これが四天王か……。

 

 

俺がその人と出会ったのは少し前の事、道を塞いでいるカビゴンを起こし捕まえようとした時だ。初対面は少しだらしない寝顔だった。

 

やたらと俺に絡んでくると少々……いや、だいぶめんどくさいと思い始めた頃。油断した俺はギャラドスに襲いかかられそうになった。

 

 

それを止めたのがその人の手持ちのブラッキーだった。自分のすぐ前でピタリと止まったギャラドスを見て俺は驚いた。ギャラドスにではなく、ブラッキーにだ。

 

彼女のブラッキーはギャラドスに対し、一切の抵抗を許さなかった。まるでギャラドスの時が止まったかのようにも見えた。俺はあの時の衝撃を未だに覚えている。

 

これまで戦った本気のジムリーダーとも違う、さらに上のポケモン。

 

このブラッキーに俺のポケモン達はどこまで戦えるのか、試してみたくなった。それは俺の相棒も同じだった。さっそくバトルを申し込んだ。

 

「やだ」

 

笑顔で断られた。戦うのはバッジを全て集めてからだと言われた。

 

そしてその人の正体を教えられる。カントー地方とは違う別地方の元四天王。

 

言われた時は素直に信じられなかった。ポケモンは凄かったが、この人からそんな強者の雰囲気は感じなかった。

 

 

 

別れてから情報を調べて驚愕した。現シンオウチャンピオンが挑戦するまでの四年間、不敗を誇ったあくタイプの四天王。シンオウの悪夢と呼ばれる凄腕のトレーナー、それが彼女の正体だった。

 

そして俺は納得した。なるほど……あの態度や雰囲気は、相手にすら見られてなかったのだと。ただ冒険している少年に会ったくらいの感覚だったのだろう。

 

納得と同時に、不思議と心が燃えた。四天王もチャンピオンも超えてやる、ポケモン達も同じ気持ちだった。

 

 

 

 

 

そして今日再び彼女と出会った。自分がロケット団の数に苦戦していたところで。そこで彼女のポケモン達を見ることができた。

 

前も見たブラッキー。彼女の前で他のポケモンや彼女自身に向けられる攻撃を、適宜防壁を張って防いでいた。

 

彼女が跨る白い体毛のポケモン。彼女に近づこうとしたポケモンを、乗っている彼女を気遣い、僅かな動作で落としていく。

 

三つ首のドラゴンポケモン。それぞれの口から炎や雷、息吹を吐きながらポケモンを戦闘不能にしていく。

 

鎧のような体を持つポケモン。襲いかかってくるポケモンの攻撃を気にも止めない。ただ前進し、殴り、踏みつけ、重厚なしっぽで払い除ける。

 

 

そして一際異様な彼女の上で浮かぶポケモン。黒い玉をばら撒き、当たったポケモンやロケット団員を次々と眠らせていく。

 

 

それらのポケモン達を従え、次々に指示を出す彼女。

 

 

 

それはまさに蹂躙劇だった。圧倒的というのは、この状況のことを言うのだろう。

 

 

 

口角が上がる。元四天王の実力は、自分が想像していたより遥かに上だった。

 

この人を超えたい。この人以上の奴らも超えたい。

 

今までのただ強くなるという漠然とした目標では無く、ハッキリとした目的ができた。

 

 

「少年!サカキは任せた!」

 

自分にロケット団のボスの所に行くように言ってきた。

 

ロケット団も数の力で彼女を此処に縫い付けてると言えば十分な成果だ。次々と応援が来るのも原因だが、それ以上に彼女が手加減しているのが大きい。

 

人命を無視していいなら、おそらくもう終わっているはずだ。

 

 

 

守られてばかりではいられない。自分のポケモンも短時間だが休憩が取れた。薬も使ってやれた。ここは彼女の独擅場ならば、自分はさらに上の社長室にいるサカキを倒す。それでこのテロは終わるはずだ。

 

エレベーターはもう此処にロケット団を送る為の装置と化している。行くなら階段からだが、そこにたどり着くにもまだ何人か邪魔が入る。

 

だが、これくらい簡単に突破しなければ。自分の目指す場所には届かない。

 

「行くぞ!ピカチュウ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この私が、このサカキがただの少年に負けるか……。それも一度ならず二度までも。ベストな手駒ではないとはいえ、少し甘く見すぎていたか。

 

シルフカンパニーの乗っ取り、ヤマブキシティの占領は失敗だ。警察の部隊による街の解放も各箇所で進んでいる。ここは撤退し、再起を図るしかない。

 

 

 

ひとまず動ける部下を集め、この場を切り抜けなければ。

 

階段を下り大会議室へ入った所で、目を見開いた。

 

そこにあったのは戦闘不能になったポケモンと、倒れた部下たちの山。寝ている者、傷つき呻き声を上げている者、気絶している者。

 

そしてその中央でこちらを見つめる女と、その手持ちだろう五体のポケモン。その女の顔、そのポケモンの姿見たことがある。

 

「なるほど……四天王が関わっていたとはな。シンオウの悪夢とはよく言ったものだ」

 

この状況はロケット団にとって悪夢だ。いや、夢だったらどれほど良かった事か。

 

「おや、私の事をご存知で?」

 

「あぁ、そのダークライも機会があれば狙っていた」

 

「残念でしたね。その機会は永遠に来ませんけど」

 

ダークライが私に手を向ける。何をされるかはわからないが、下手すると私もこの足元で眠る部下の仲間入りか。そして目覚めた時には独房の中。

 

 

だがな、若き四天王。お前は人の悪意を、欲の強さを知らない。それを束ね、形としたのがロケット団。

 

その程度で私は、我々は止まらないのだよ。

 

 

「舐めるなよ四天王!ロケット団は不滅だ。この世全てのポケモンはロケット団のために存在するのだ」

 

「元四天王ですよ。じゃあ、最後の言葉はそれで良いですか?」

 

「お前達命令だ。私の道を作れ」

 

 

 

ダークライの手から黒い何かが飛来する。

 

「うぐっ!うおおおおぉ!サカキ様ーーー!!」

 

今まで怪我を負い床で蹲っていた者が、その傷を構わず私の前に躍り出る。その者はその黒い玉に当たった後闇に包まれ、その後眠りについた。なるほどそのようにして眠らせるのだな。

 

最初の者に続くように今まで蹲っていた者が亡者の様に立ち上がる。ポケモンが残っている者はそれを繰り出し、近くに眠らされている者がいるなら、その者の残りの手持ちを使う。それすらない者はその身で四天王とそのポケモンに掴みかかっていく。

 

 

すまない、お前達。私はお前達の力を活かしきれなかった。

 

だがその献身により、ロケット団は続く。お前達のロケット団は永遠だ。

 

 

四天王が驚き、部下たちの対処に追われている。その横を堂々と歩いて進む。

 

「あの子供に伝えろ。今から一ヶ月後の夜。その時だけトキワジムを開けてやる。バッジが欲しければ来るがいい、とな。……もちろん邪魔が入らなければの話だが」

 

甘く見ていたとはいえ、ロケット団のボスとしての私はあの子供に敗北した。

 

次は、懐かしのジムリーダーとして、ポケモントレーナーサカキとしてケジメをつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は四天王を経験してから初めて、ポケモンでもなくトレーナーでもなく、人に恐怖した。

 

シルフカンパニーのロケット団の大概を片付け、少年が降りてくるのを待っていたのだが、現れたのはロケット団のボス、サカキだった。

 

サカキは私の事を、ダークライの事を知っていた。機会があれば狙っていたとも言っていた。私の相棒をあんな目で見られるのは非常に不快だった。

 

 

この先原作ではサカキはトキワジムに逃げる。そこでレッドと戦うのだが、私はこの男を逃がす気にはなれなかった。

 

部下ももう使えない。ポケモンもレッドに倒され戦闘不能。残ったのは彼の身一つ。

 

こちらは五匹とも動ける状態。逃げられるとは微塵にも思っていなかった。

 

 

「お前達命令だ。私の道を作れ」

 

その言葉はまるで魔術のようにも感じた。

 

その命令で今まで倒れていたロケット団員が次々と起き上がる。彼らはサカキの盾となり、私や私のポケモン達に襲いかかってきたのだ。

 

ポケモンを使うならまだわかる。だが、人の身で私のポケモンに張り付いてきたのだ。

 

「サカキ様を逃がせ!」

 

「サカキ様バンザーイ!!」

 

誰も彼もがサカキ様サカキ様と叫びながら、私たちに群がってくる。

 

トレーナーの私や比較的小柄なブラッキー、アブソル、ダークライに掴みかかるのはまだわかる。だが、バンギラスやサザンドラに臆せず飛びかかる人間がいるとは思いもしなかったのだ。

 

命を投げ出すような行為。それをサカキの為と躊躇いもなく行う。

 

サカキの持つカリスマ。それはまるで呪いだった。

 

 

 

私もポケモン達も驚きでその対処に手こずる。その隙にサカキは私の近くを堂々と歩いて下の階に進んでいく。私にレッドへの伝言を残す余裕まで見せて。

 

 

 

 

 

「すみません。逃がしてしまいました」

 

私はシルフカンパニーでの戦いをハンサムさんに報告した。ボスを逃がすという大失態をしてしまい、本当に申し訳ない。

 

サカキの事はレッドや次の主人公に任せろっていう運命なのかね。

 

「気にするな。元よりサカキを追うのは我々の仕事。今日君が戦ってくれた事で、ヤマブキシティは解放された。警察の代表として感謝する。しかしサカキという男……それほどのカリスマなのか」

 

「アレはもうカリスマというレベルでは無い気がします」

 

「君には伝えておく……人々の気持ちを考え公表はしないが、今回の作戦で我々が下手を打った点がある」

 

「なんですか?」

 

「ロケット団員は大勢逮捕できた。奴らの勢力を大幅に削ぐことが出来たと考えている。だが……主犯格を捕まえる事が出来なかった」

 

「……すみません」

 

追い討ちされて私のメンタルはボロボロ。大失態したから仕方ないけど。

 

「すまない。君を責めてる訳では無い。主犯格はサカキだけじゃないんだ。

 

ヤマブキシティの主要施設を抑えていた、ロケット団の幹部四名だ。この内アテナ、ランスの二名を捕らえることには成功していたのだが……警察の姿に変装したラムダと呼ばれる男に逃がされてしまった」

 

「復活の芽が残ってしまってますね」

 

「そうだ。我々は今後もサカキと幹部の動向を追う。君も何かわかったら連絡をくれると嬉しい」

 

「あー……ならサカキの残した伝言がありますよ」

 

「なに?!どんな内容だ」

 

 

私はレッドに残された言葉をハンサムさんに伝える。一ヶ月後の夜。ジムリーダーとして戦うと言った内容だ。

 

「自分を負かした少年との再戦か。それにしても奴がジムリーダーだったとは……ちなみにその少年は?」

 

「伝言伝えた後、事後処理私に押し付けてどっか行っちゃいました」

 

「そうか……出来れば彼にも礼を言いたかったのだが」

 

 

 

「で、一ヶ月後どうするんです?」

 

「もちろんチャンスは逃さない。だが、今まで我々に尻尾を掴ませなかったサカキが本当に来るのかという疑問もある。奴ほど警戒心の高い者はそういない」

 

「じゃあ、とりあえず一ヶ月後にトキワシティで」

 

「君も来てくれるのかね?」

 

「ここまで来たら最後までやりますよ」




評価お気に入り感想ありがとうございます!
あったけぇ……赤いバーあったけぇよぉ……


ムゲンダイナ厳選してると文章入力進むね。いやー毎日投稿出来て良かった良かった……いい加減出ろや。チャンピオンなれんやんけ


Q、主人公のメンバー
A、ブラッキー、アブソル……愛枠。ブラッキーは言わずもがな、アブソルは初めて見た時、スイクンとかそこら辺の伝説に違いないと思っていた。
バンギラス、サザンドラ……この二匹入れない理由は無い。

Q、ヘルガーとドンカラスとミカルゲ……どこ行った?
A、君のような勘のいい読者は嫌いだよ
ヘルガー……考えてない
ドンカラス……シンオウ地方で、それこそヤミカラス達のドンでもやってるんじゃないかな
ミカルゲ……シロナのミカルゲとイチャイチャ
なお今のところ全部ただの妄想。

Q、警察無能か?
A、有能だったらあんなに犯罪組織跋扈してないと思う

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