エア・ギア【RTA風】   作:八知代

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 イベ終わったらとりあえず投稿。

 設定ガバガバだから、作者がスシ君を把握するためにこの話を書いたといっても過言じゃない(意訳:キャラぶれぶれだけど許してクレメンス)


2話 風になった日

 

 あの一瞬、私は確かに風になった。

 

 

 

 

 学校が終わり、急いで帰路につく。

 ミカンはもう帰っただろうか?隣の家のお爺さんとお婆さんに預けているイッキとリンゴとウメは迷惑をかけていないだろうか?

 

 そんなことばかり考えていたからか……右側から猛スピードで迫ってくるトラックに気付くのが遅れてしまった。

 

 避けなければと頭ではわかっていても足が動かない。

 あっ、死ぬんだ……そう思ったとき、私は黒い風にさわられて、私自身が風になったように錯覚した。

 

 

 黒い風の正体は私と同い年くらいの少年だった。私を抱えていた少年は、歩道の片隅に私を座らせると一瞬で姿を消した。

 何が何だかわからないうちにパンッ!パンッ!と大きな衝撃と音が私を襲う。

 

 音のした方を見ると、さっきのトラックが止まっているのが見えた。

 

 何かにぶつかって止まった?まさか人!?

 

 そう思うといてもたってもいられず、立ち上がってトラックの正面に回り込む。

 

 目に入ったのは前方部分が大破したトラック、歩道の奥の方に横たわっている運転手らしき人、そのトラックの正面に何事も無いように立つさっきの少年。

 

 え、まさか止めた?……いやいや、まさかね。

 

 あぁでも、とりあえずお礼言わなきゃ。

 

 

「あの、さっきは助けていただいてありがとうございました!」

 

 

 走り寄って頭を下げる。視線を下げたときに、彼の手から血が出ていることに気が付いた。

 

 

「手、怪我してます!もしかしてトラックのガラスで切ったのかも……救急車を!」

 

「怪我?……あぁ、さっき迷子の猫を捕まえたときに引っ掻かれたやつか。こんなのかすり傷だから気にしなくて良い……まあ、あっちの人のために救急車は呼ぶけど」

 

 

 ……トラックは避けられても猫の爪は避けられないのか。

 

 どこかちぐはぐした彼は、近くにいた野次馬の1人に声をかけて救急車を呼ぶよう頼んでいた。

 

 最後に運転手が息をしていることを確認するとその場を離れようとして……。

 

 

「ちょっ、ちょっと待ってください!怪我してるんですからあなたも病院にいってくださいよ!」

 

 

 逃がすまいと彼の肩を掴む。

 

 

「だから大した怪我じゃないからほっとけば治るよ」

 

「猫が病気持ってたらどうするんですか!……とにかく病院へ行きましょう。それとも行きたくない理由でもあるんですか?」

 

「ある」

 

「例えば?」

 

「………………戸籍がない。金もない」

 

「……」

 

 

 思ったよりも重たい事情があった。それでも命の恩人をこのまま帰すわけにはいかない。

 

 

「だったら……せめて家で消毒を。命を助けて貰ったんですからそれくらいさせてください」

 

「……わかった」

 

 

 彼はしぶしぶといった感じに頷く。やった。彼の気が変わらないうちに行かないと。

 彼の手……は怪我しているから二の腕辺りを掴んで歩き出す。

 

 無言で歩いて、家に着いたのはそれから5分後くらい。

 

 

「ただいまー。さあ、あなたも入って」

 

 

 彼を家に招き入れる……ずっと気になっていたのだが、彼が履いているのはインラインスケートだろうか?お金が無いと言った割には上等そうなものを持っている。

 

 

「リカ姉お帰りー。イッキとリンゴは上で遊んで……そいつ誰?」

 

 

 居間ではミカンがウメをあやしながらテレビを見ていた。

 

 

「さっき危ないところを助けてくれた人よ。手を怪我していたから少し手当てをしようと思って連れてきたの」

 

「ふーん……で、結局どこの誰なのさ?」

 

「……」

 

 

 困った。ミカンの問いに私は何も答えられない。彼を見ると、彼はミカンとウメを見つめながら何か考え込んでいるようだった。

 

 とりあえず、話は手当てをしながらにしよう。彼に声をかけて座ってもらう。私も救急箱を持って彼の前に腰をおろした。手を動かしながら話しかける。

 

 

「ごめんなさい、ちょっと沁みるかも」

 

「問題ない」

 

「なら良かった……えっと、改めてさっきはありがとうございました。私、野山野梨花。あなたの名前を聞いても?」

 

「……シイナ。栖原椎名」

 

「シイナね。歳は?私は12歳だけど、あなたもそう変わらないように見えるわ」

 

「たぶん13歳……だった気がする」

 

「たぶんってなんだよ。お前、自分の歳も分かんないとか変なやつだな」

 

「ちょっとミカン!」

 

 

 ミカンの失礼な言い方に注意する。あの子の発言に怒っただろうか?と思い彼の顔色を伺うも、彼は相変わらず無表情……いや、よく見ると少し笑ってる?

 

 

「少しばかり特殊な環境で育ってね。あまりそういうことが重要視されなかったんだ。許してほしい」

 

「いや……別に許すとか許さないとかそんなんじゃねーだろ、ばっかじゃねーの……」

 

「……」

 

 

 ばつの悪そうなミカンの言葉を最後に会話が途切れ、テレビの音だけが響く。

 作業だけに集中すればあっという間に手当ては終わった。

 

 

「上手なものだな」

 

「下の子がやんちゃでよく怪我をするんです。それで自然と」

 

「そうか……とりあえず、俺はもう行くよ。これ、ありがとう」

 

 

 彼は包帯を巻いた左手を軽く上げたあと、立ち上がる……残念だけど彼を引き留める理由は……ない。

 

 ……ん?残念?何で?

 

 ふと沸き上がってきた感情が理解できないでいると、階段の方からドタドタと騒がしい音がした。彼が居間を出ようとするのと同時に───。

 

 

「リカ姉!腹へったぶへっ!」

 

 

 我が家の小さな嵐が、彼に体当たりしていた。後ろから走ってきたリンゴが追いつく。

 

 

「イッキ!大丈夫?」

 

「心配すんなリンゴ、俺様は無敵だからな……てか、あんた誰?」

 

「お客さん?」

 

 

 イッキとリンゴの襲来に彼の動きが止まる。代わりに私が間に入る。

 

 

「彼はシイナ、私の命の恩人よ。シイナ、よかったら晩御飯食べていかない?」

 

「えっ、いや、でも手間が「一人増える程度大した手間じゃないわ」……だが、邪魔だろう?」

 

 

 申し訳なさそうな彼の様子に思わず苦笑してしまう。

 

 

「馬鹿ですねぇ。邪魔だと思うなら最初から誘わないですよ。あなたは私を助けてくれたヒーローなんですから、これくらいのお礼はさせてください」

 

「……えっと、じゃあ……いただき、ます?」

 

「ぷっ、何で疑問形なんですか」

 

 

 あぁ、今日はうんと腕によりをかけて作らなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 拍子抜けするほどシイナは家に馴染んでいた。

 

 

「うっひょー!みろよリンゴ、俺飛んでるぜ」

 

「いいなイッキ!次私も!」

 

 

 両腕を伸ばしてその上にイッキがうつ伏せに乗っている。あのポーズからして、イッキはウルトラマンを真似ているとわかる。

 要望通りリンゴにもしてあげるあたり、彼にとってさほど疲れることでも無いようだ。

 

 

「そうそうそこにうつ伏せに寝て、腕はここな……よし、やるぞー。スリー、ツー、ワン!キャメルクラッチ!」

 

「うっ……」

 

 

 ミカンのプロレス技に付き合ったり。いや、流石にやめさせたけど。

 

 

「子供の面倒をみるの案外上手なんですね」

 

「いや、そうでもないだろう」

 

「ウメをあやすのも上手じゃないですか。経験あるんですか?」

 

 

 はしゃぐイッキ達から離れるように、ぐずるウメを抱えて台所の方に来たシイナ。ウメはすでに気持ち良さそうに彼の腕の中で寝ている。

 

 

「赤ん坊をあやす経験か?ないない。抱き抱えたのだって初めてだ」

 

「それにしては様になってますよ」

 

「……まあ、街中を観察してれば親子連れくらい見る機会はあるからな」

 

 

 それはつまり見て覚えたということだろうか。まあ、出来なくはない……か?

 

 

 

 

 

「うおー!ハンバーグだハンバーグ!」

 

「美味しそう!」

 

「ハンバーグだなんてリカ姉、えらく奮発したじゃん」

 

「まっ、まあ、命の恩人へのお礼ですから……お礼にしては少し物足りないでしょうが……」

 

 

 なにせ家は貧乏だ。親からお金は貰ってはいるものの、5人も子供がいればすぐにカツカツになる。食費、水道光熱費、生活必需品、私やミカンの学費や文房具、ウメのオムツ……数え出したらキリがない。イッキとリンゴには欲しい玩具も買ってあげられない、我慢を強いている状況。

 

 何だか急に恥ずかしくなってきた。お礼とか言っておきながら出てきたのが粗末なハンバーグで落胆させてないだろうか?

 あぁ、こんなことなら無理をしてでも出前を取るべきだったのかもしれない。

 

 

「なーリカ姉、もう食べてもいいか?」

 

「え?あ、そうね。じゃあ皆手を合わせて、いただきます」

 

「「「いただきまーす!」」」

 

「……いただきます」

 

 

 イッキ達が美味い美味いとご飯をかきこむ中、私はシイナの食べる様子を観察していた。

 

 黙々と食べている。美味しい、のだろうか?食べる手は止まっていないが……いや、美味しくないからこそさっさと食べ終えてしまおうということかもしれない。

 

 

「……そんなに凝視するほど俺は可笑しなことをしているか?」

 

「ご、ごめんなさい。その……お口に合いましたか?」

 

 

 ……見ていたことを指摘されて焦ったあげくに何の捻りもなく感想を求めてしまった。馬鹿じゃないの?と内心頭を抱える。

 

 

「あぁ、なるほど。振る舞われたものには感想を言うのが礼儀なのか」

 

 

 いや、別にそうじゃないけど。そんなことを私が言う前に、彼はハンバーグを見ながら口を開いた。

 

 

「俺が今まで食べてきたのなんて最低限必要な栄養素を含んだ食べ物とか、廃棄された弁当とか……よくて半額弁当だけど」

 

 

 シイナはそこで言葉を切ると、顔を上げて私を見た。

 

 

「こんな温かいご飯は初めてだ。これは美味しいってはっきりと言える……ありがとう、野山野梨花」

 

 

 胸が熱くなったのは純粋に料理を誉めてもらえたからか、感謝の言葉を聞いたからか、初めて名前を呼んでもらえたからか。

 それとも……その時の微笑みが思いのほか綺麗だったからか。

 

 

「野山野梨花?」

 

「うぇっ!?あっ、その!お口に合ったなら良かったです!あと長いからリカで結構です!」

 

「そうか」

 

「見たか?あのリカ姉がたじたじだぜ」

 

「リカ姉かわいいね~」

 

「どぅぇきてる~」

 

「そこ!聞こえてますよ!」

 

 

 好き勝手言う弟妹達を黙らせる。

 

 何事も無かったかのようにご飯を食べ進めるシイナを見て、無性に悔しくなった。

 

 そちらがそのような態度をとるなら私だって気にしませんとも。

 

 ようやく自分の目の前にあるハンバーグに箸をつけ、口に運ぶ。

 

 あー美味しい!

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、雨降ってきた」

 

 

 切っ掛けは食後のイッキの言葉。

 

 

「結構酷いな……アンタ傘なんて持ってないだろ?今出ていったらずぶ濡れになるぜ」

 

「お兄ちゃん、帰るって言ってたけどここから遠いの?ちゃんと帰れる?」

 

 

 ミカンとリンゴの言葉。問題はこれに対するシイナの返答。

 

 

「傘はないが問題ない。近場で雨風凌げる場所を探すだけだからな」

 

「ん?いやいや、傘くらい貸すのでちゃんと家に帰ってくださいよ」

 

「ない」

 

「え?」

 

「帰る家などない」

 

「……宿は?」

 

「金がない」

 

 

 本当に何でもないように答える彼。自分のことなのに何でそんなにも無関心なのか……少しムカッとする。

 

 怒りとか心配とか呆れとかお節介とか、いろいろぐちゃぐちゃした感情を引っくるめて。

 

 

「泊まっていきなさい」

 

 

 出てきた言葉はこれだった。

 

 

 思った通り「でも、だって、しかし」とグダグダ言ってきたが、全部叩き伏せてやった。少しスッキリしたのは内緒。

 

 

 




 幕間のくせに長くなったから分割させちゃった阿呆がいるらしいですよ。

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