───カチャカチャカチャ
「…………」
「…………」
寒い、空気が冷えきっている。
ミカンは温かい鍋をつつきながらそう感じていた。
今の季節は冬。寒いのも空気が冷たいのもあたりまえなのだが、ミカンが言いたいのはそういうことではない。
───カチャカチャカチャ
「…………」
「…………」
ここ最近、家の中が気まずいのだ。食事のときに限らず、分かりやすく話し声が減っている。
理由は明らかだ。
「御馳走様」
「…………」
ミカンが兄と姉と慕う二人が珍しく喧嘩しているのだ。いや、もちろん喧嘩をしたことが無いわけではない。前にシイナがリカに朝食の声かけをしたときに、頬に真っ赤な紅葉をつけて戻ってきたことがあった。あの時はその後しばらく二人がギクシャクしていたのを覚えている。
しかし、それでもすぐに仲直りしていたのだ。
かれこれ一週間。ここまで拗れてるのはミカンが知る限り初めてだった。
「シイナ」
食器を片付け終わったシイナにリカが声を掛ける。それに対してシイナは何も言わず、右手の人差し指で上を示す。今日も二階で話し合うのだろう。
そのままシイナは二階へ行き、リカも食器を片付けた後で上がっていった。
「ねぇ、ミカン姉。お兄ちゃん達はなんでケンカしてるの?」
リンゴが不安そうにミカンに聞いてくる。リンゴの横にいるイツキは何も言わないが少し元気がなさそうだ。シラウメはシイナに構ってもらえないせいでブーたれてる。
「……兄貴達には兄貴達の悩みがいろいろあるんだよ」
ミカンとしても早く仲直りはしてほしいが、二人の喧嘩の理由が理由なだけに下手に間に入ることもできないでいる。
「はぁ」
宝くじで一億当たんねえかな……
非現実的だと分かってはいても、ミカンはそう思わずにはいられなかった。
制服姿で走りまわるJKリカ姉を見たいがために頑なに意思を曲げないゲーム実況、始まっているっ!!
はい。若い男女が二人っきりで部屋にいますが、見ての通り空気がピリピリしてます。下の子達がいたら泣いちゃいますねコレわ。
さてさて、いつもは仲の良い二人が何故にこのようなことになっているのかといいますと原因は金です。
カネですよ、money。
なんでや!今まで何とかなってたし、スシ君頑張ってバイトしとるやんけ!!という方のために説明しましょう。
まずはじめに現在の年齢の確認です。スシ君(15)、リカ姉(14)、ミカン(9)、イッキ&リンゴ(6)、ウメ(2)といった感じになっています。
お気づきでしょうか?そう!野山野家には来年、つまり数ヵ月後には小学校に入学するガキが二人もいるんですねぇ(ニチャ
現在でもそこまで余裕があるとは言えないのに、さらに出費が増えることは確定。これには流石にちょっと危機感をおぼえたスシ君。
来年にはスシ君も高校生に相当する年齢なので、新聞配達以外のバイトが解禁されます。そのため来年からはもっとバイトの数を増やす宣言をリカ姉にしたんですよ、そしたらね?
「来年は無理だけど、その次の年には中学も卒業だから。私もシイナみたいに頑張って働くわね」
「リカは高校に通うから俺みたいに働くのは無理だし、そもそもバイトなんてしなくていいから」
「私行かないわよ?」
「?」
「高校。そんな余裕もないし、あの子達には我慢させたくないから」
「いや、高校は卒業すべきだ。現代日本では最低でも高校くらいは出ておくほうが何かと便利だし、何なら大学にだって行くべきだろう」
「……」
「……」
みたいな話しになりまして、スシ君とリカ姉はどっちの意見も曲げることなく喧嘩に発展したという訳なんですね。
うーん、この年齢で金のことばっかり考えてるなんて世知辛いなぁ。
ちなみにリカ姉の親である
彼にとっての最低限とは義務教育(小中学校)の学費、贅沢をしなければ1ヶ月もつ程度の食費と電気・水道・ガス料金のことなんですね。
いやー、こんなんじゃ足りないっすね(真顔)
この程度の仕送りの中で、衣服とか勉強道具とか消耗品とかまで工面しなきゃいけないとかマ?
そりゃ学校行事なんてまともに参加できませんわ。
この仕送り金額で黒幕博士の非常識さが伺えますね。
これだから研究者は(呆れ)(クソデカため息)
こんなんで最低限の親としての扶養義務を果たした気になっているのでしょうかねー。
なんだこのオッサン!?(驚愕)
ついでに母親である野山野博士は血の繋がった娘であるリカ姉には愛情を注ぎます。たまに外食を一緒にしたり、洋服もプレゼントしてくれます。しかし、
……この世界の研究職にはロクなのがいないのか(呆れ)
そんなわけで、リカ姉が高校に通うためには学費も含めて自分達でどうにかするしかないというわけですね。
いやー、きついっすわ(真顔)
それでもスシ君はリカ姉に高校に行ってほしいようです。今時高校くらい出ておかないと将来の就職がきびしくなる……というのは建前で、実際はリカ姉にテレビでみるような普通の青春を謳歌してもらいたいのが本音。
そのためには自分がボロ雑巾になるまで働くことも厭わないくらいの覚悟の極りっぷりです。たまげたなぁ。
ちなみに私の主張は挨拶でも言っているようにスカートをヒラヒラさせながら走るJKリカ姉が見たいので何がなんでも進学させようとしています(早口)
そのうちラスボスとチームを組むんですから、癒しは多ければ多いほど良いのです……私の精神的に。
えっと、長々語りましたが要約すると金がねえ!ってことです。
はい、そんなわけで今から金策を始めます。とは言ってもスシ君の年齢でできることはそう多くありません。
ウメも大きくなったので、現在の新聞配達を朝だけでなく夕方も入れて、来年になったら昼間に別のバイトを入れまくる。
犯罪に手を染める以外なら条件的にはこれが一番簡単に稼げる方法になると思います。
でも正直コレじゃリカ姉の高校進学資金には物足りないんですよねぇ。
なので!別の方法を試したいと思います!この方法はいろいろと条件が揃わないと解放されないのですが、今のスシ君ならばいけるはずです。見てろよ見てろよ~。
それでは、イクゾー! デッデッデデデデ!(カーン)
「で、俺のところに相談しに来たわけか」
はーい、スシ君が会いに行った相手は現役大学生鰐島海人君でーす。
突然の呼び出しに、メンドクセーとか文句いいながらもちゃんと会いに来てくれるとかさてはお前ツンデレだな?
好感度確認、ヨシ!
これが確認できたらあとは頼み込むだけですね。このイベントやったことないのでちょっと緊張しますが、誠心誠意頼みましょう。
なーなーたのむよー。ね?お願いだよー、入れさせてくれよー。ちょっとだけ、先っちょだけでいいからさー(ネットリ)
「……まぁ、おまえにはいつかヤらせるつもりだったからな。多少準備不足な気はするが、早いにこしたことはネェか」
チョロいですねぇ!!
「明日ここに行け。あとはヤスさんにやってもらう」
そう言ってメモを渡すと海人君は帰ってしまいました。
うーん、海人君の方が画面映えするのですが……まぁ、ヤらせてくれるならオッサンでもかまへんかまへん。
ということで、次の日の待ち合わせまでスキップするぞ~。
『
警察内でのA.Tの呼称。三年程前から都内を中心に空中を飛行する人間の目撃情報が警察に寄せられるようになる。目撃例を調査していく中で判明した共通点は、飛行していた人間は十代前半の少年少女であることと特殊な靴を履いていたという二点。職員のなかにはただの靴一つで飛行が可能なのかという懐疑的な意見もあったが、警察内では「飛行靴」という名称が浸透していく。
時が経つにつれて警察には、飛行する人間による不法侵入や器物破損、傷害罪などの通報が寄せられるようになる。飛行靴を使用したと思われる犯罪については現在も増加傾向にあり、一早い対処が求められる。しかし飛行靴の速度・機動力に対応することができておらず、逮捕にはほとんど至っていないというのが警察の現状である。
「というわけでだ、シイナ。目には目を、歯には歯を、飛行靴には飛行靴を。言いたいことはわかるな?」
おかのした!まーね、マル風Gメンのない今の警察は無能だからしょうがないね。
新しいスシ君のバイト先として警察にご厄介になろうと思います(意味深)
ところでみなさんは目の前にいるこの人覚えてますか?
犯人はヤス……すいません言いたかっただけです!許してください何でもしますから()
気を取り直して。ダンヒルやドルガバのスーツ、ロングコートにハットを身につけたこの
海人君が室長になるまでは、彼がA.T関係の犯罪をとり仕切ってくれます。やりますねぇ!
「いい返事だ。お前の仕事は飛行靴が関わっていると思われる通報があったときに現場へ行き犯人を確保をすること。また、巡回中に現行犯を見つけた際にも同様だ」
ちなみにこの仕事、受けるには条件があります。それは海人くんからの一定以上の好感度と高い戦レベルです。
スシ君はどっちもあるので余裕ですね、はい。
こちら頑張れば頑張っただけ給料に色をつけてくれるみたいなんですよ~。余程困ってるんでしょうね。
勝ったなガハハ!
「ただいま」
「おかえり、兄貴……何かいいことあった?」
帰ってきたシイナを見てミカンはすぐにそう感じた。
「そう見えるか?」
「あぁ。最近はわかりやすくイライラしてたからな……今はいつも通りの兄貴だ」
ミカンがそう言うと、シイナはミカンと目線を合わせるように屈んだ。ミカンからみたシイナの顔は、どこか申し訳なさそうだった。
「迷惑をかけてごめんなミカン。もう大丈夫だから」
「もう……リカ姉と、仲直りするか?」
「あぁ」
「じゃー、許して…やる、よ」
「……ありがとう」
シイナは小さく笑ってミカンの頭を撫でる。家族のなかで一番大きくてあたたかい手。普段だったら子供扱いするなと、はね除けるであろうその手をミカンは黙って受け入れる。
金のことで二人が喧嘩しているのは分かっていた。しかし、自分はどうすることも出来ないほど子供だった。
二人が揉めているのを見て歯痒くて、申し訳なくて、不安で、悲しくて……弟妹達もいる手前、表には出さなかったが、内心はぐちゃぐちゃだった。
だから今こうやって、自分の信頼する兄貴分がいつも通りと言える雰囲気になって帰ってきてくれたことで、問題が解決したんだと悟った。
実際に目の前に金があるわけではない。
それでも『もう大丈夫だから』の一言を無条件に信じられる。頭を優しく撫でてくれる手が安心感を与えてくれる。
あぁ、本当に良かった。
ミカンは安堵からくる涙が止まるまで、しばらくの間その手を受け入れ続けた。
「というわけで新しい仕事が見つかった。必要に応じて呼び出されることになるから時間は不規則だが、金の心配はいらなくなりそうだ」
「ごめんね。あなたに頼ってばかりで……」
「お前たちが諦めたり我慢したりしなくて済むなら、俺はそれだけで満足だ。だからリカがそんな顔する必要はない、むしろ笑っていてくれ」
「ありがとう、シイナ……ところで、新しい仕事ってなに?」
「それは秘密だ」
「は?」
「「…………」」
このあと、またしばらく喧嘩した。
というか原作に大家をして家賃収入を得ていた描写があったような無かったような。まあ、この程度の改変は許してクレメンス。