『ボーダーライフ』~ボーダー隊員なりきりシミュレーションゲーム~ 作:Amisuru
「この3バカトリオめ」
「「「うっ……」」」
今日も今日とて餅が美味い。作戦室に常備してある俺専用餅セットの中から、今日はずんだ餅をチョイスした。本当はきな粉餅も置きたいんだが、粉をこぼしまくるからとかいう理由で俺はボーダー施設内における粉の扱いを禁止されている。なんかクスリで取り締まられたやつみたいだな。実際餅には中毒性があるからあながち間違いでもない。ていうか和菓子屋寄ったときに買っときゃ良かったな。帰り道で食っちまえば怒られなかったのに。つっても、土産も買わずに自分の餅だけ買ったらそれこそ蓮に白い目で見られたかもな。でもほら、よく言うだろ。ケンカする子はおやつ抜きですからねって。何を言いたいかっつうと、今のこいつらに俺がくれてやる土産なんてものはねえって話だ。
「国近。何だっけほら、昔ビートたけしが作ったっていうクソゲーに出てくる名言」
「……こんなゲームにマジになっちゃってどうするの」
「ホントそれな」
「うぅ……」
「そ、そうは言いますがね太刀川さん? こんなゲームの一言で片付けるには、ボクたちにとってあまりにも身近な題材であった故の悲劇といいますかその」
「おまえ誰だっけ」
「はァ!?」
「いや待て。流石に顔見て思い出した。そうそう、唯我だろ唯我。唯我成幸」
「太刀川さんは勉強ができなァい!!」
「ちょっと見ない間に言うようになったなおまえ?」
「…………」
マジかよ。出水が反応しねえ。暴言もいいとこのツッコミ食らった俺ですらも唯我のくせにキレキレじゃねえかって思ったのに。国近は国近でゲームで負けたときみたいなツラしてるしってそれ俺が首絞められる流れじゃねえの? そりゃねえだろ、負けたのおまえじゃなくて非現実の太刀川さんの方じゃん。むしろ太刀川さんの方が画面の中から這い出てきておまえの首絞めに来るかもしんねえぞ。貞子みたいな感じで。あいつも呪怨のやつと戦ったり始球式やったりですっかり芸人のイメージ付いちまったな。カヤコ? にヒット打たれて死んでたしよ。そして一塁へ全力疾走する代走のトシオくん。ああいう全力でバカやってるノリは嫌いじゃない。男子たるものかくあるべしってやつだ。
「つまりな。せっかくトリモン引いたんだから俺が消し炭にされようがどうなろうが『あはははは太刀川さんよわーい』みたいなノリでげらげら笑っときゃよかったんだよ。それをおまえら、葬式みてえな空気醸し出しやがって。千の風になりたい気分だぞこっちは。
「……いるもん」
「トトロの話するときのメイちゃんみたいな駄々捏ねようがいねえもんはいねえ」
「ゲームの中に太刀川さんはいないのかもしれないけど、トリオン
「……あー、そこに繋がるんだっけか」
なんともはや、っていうのかね。こういうの。あまりにもタイムリーな話題っつーか、蓮から話聞いてなかったらいきなり何言ってんだこいつってなってたところだ。いやまあ、それにしたって意識し過ぎじゃねえのって気はしないでもないが――こりゃアレだな、まだ俺に話してないことがなんかあるだろ。この空気と関係ないようで実は絡んでる的ななんか。そこら辺も突っついておきたいところだが、今の国近を迂闊に刺激したらそれこそ逆切れ首絞め待ったなしって感じだしな。とりあえず、いま分かってることだけを纏めると、だ。
国近たちが遊んでたのは、寺島さんを中心とした
が、C級相手に無双して余裕のB級昇格を決めたあたりから雲行きが怪しくなってくる。ってのも、国近の娘はまさかのトリオン
――で終わってりゃ良かったんだが、ここで話がゲームから
とりあえず思ったのが、出水ってそこまで玉狛贔屓だったっけか。唯我はまあ分からんでもない。Round4で三雲が真っ先に死んだときもあちゃーってな感じでデコ抑えてたしなこいつ。でも出水はそんなでもないだろ。キレる相手が普段から柚宇さん柚宇さん言ってわいわいやってる国近なら尚更不自然だ。ここら辺も俺が聞いてないなんかと関係ありそうだな。ま、今は置いとく。
それよりも、だ。
「なんつーか――アレだよ」
今回の件で俺が一番文句言いたいやつは誰かっつったら、そりゃもう
「『
「えっ……」
「違うのか? そこの太刀川さんが仮想・雨取にボッコボコにされたもんだから、俺と雨取がやり合っても同じことが起こるって思ったんだろ。だから玉狛はA級に上がってほしくないなんて言い出して、出水と揉める羽目になったわけだ。おまえが」
「ちっ――ちがうちがう! 太刀川さんは悪くない、ヘンな空気にしちゃったのはわたし!」
「いーや、太刀川さんが悪い。
「……!?」
「太刀川さんと柚宇先輩の間でアンジャッシュ的な行き違いが起こっているような気がする……」
「ちょっと待て唯我。いつから国近のこと下の名前で呼ぶようになったおまえ」
「あ、そこ聞いちゃいます? いやぁ何しろボクたち娘が出来るような関係になったもので――」
「タケルくん。わたしたちもう終わりにしよう」
「柚宇先輩!?」
「離婚早えなおい。ガキの面倒はどっちが見るんだよ」
「知らない。正隊員で16歳なら一人暮らしでもなんとかなるでしょ。わたしもそうだったし」
――ははあ。
なんか
「まあアレだ。国近と唯我が別れるのは別にいいとして」
「いっ……イヤだ! ボクは決して届に判を押さないぞ!!」
「いいとして。ガキの方まで放り出すのはちょっと待ってやれよ。なんつったかえーと、たち――たちみず?」
「……
「ああ、
「……そりゃあんまりでしょ太刀川さん」
「おまえがいつまでもだんまりしてっからイジられる羽目になるんだよ。眠いのか? 出水」
「そうやって人食ったようなことばっか言ってるから三輪みたいなやつから嫌われるんすよ」
「え、やっぱ俺あいつに嫌われてんの。マジかよ太刀川さん大ショックだわ」
「……唯宇ちゃんのデータでゲームを続けろってこと? 太刀川さんにも勝っちゃったんだから、もうランク戦でやること残ってないよ。本気でイコさんの彼女でも目指せばいいの?」
「
ていうか生駒の彼女ってどういうことだおい。その話すげえ気になるんだが、突っついたらまた脱線しそうなんでじっと我慢の俺だった。このフレーズ聞くとボンカレー食いたくなるんだよな。ブラックジャックもこう言ってる、ボンカレーはどう作ってもうまいのだ。
「あれは自分じゃないって言ったり今度は自分だって言ったり……」
「そうじゃない。さっきボコボコにされた太刀川さんは確かに俺じゃなかった。
「そうだけど――え、なに、太刀川さん?」
「ちょっと待ってろ」
残ってたずんだ餅を平らげてソファから立ち上がる。向かいに座ってる3バカどもが、揃いも揃っていぶかしげ? なツラで俺を見上げている。しかしまあ、三人も座ってるもんだから随分と狭そうだなそっちは。
さて、こういうのはことわざでなんて言うんだったか。思い立ったがなんとやら。なんかめでたい単語だったのはわかる。き――きつ……キツツキ? 絶対に違うな。でもまあ、やること自体はキツツキとそう大差ねえだろ。
というわけで、思い立ったがキツツキだ。
「
貞子vsカヤコにもこんな台詞があっただろ。
「たのも――――――――!!」
「!?」
『うおおおおお!?』
バァ――ン!! と扉をぶち破ってお邪魔したのは、開発室の一角にある寺島さんの個室だ。わざわざ専用部屋を構えてるあたりが流石のチーフエンジニア様。関係ねえけど、ちょっと前にも似たようなことやったよな。Round2の東さん解説生音声が欲しくて武富の部屋に凸ったやつ。あれやらかして以来、俺は武富の実況で解説に呼ばれなくなってしまった。Round3の実況が三上だったのもこれのせいだ。試合の前に三上からガチ説教食らったもんな。『二十歳にもなって夜な夜な女子中学生の部屋に押しかけて迫るなんて何考えてるんですか? 通報されたいんですか?』みたいな感じで。思えばあいつは解説のときにもやたら俺への当たりがキツかった。ちょっと予想外して笑ってたくらいで『もうちょっとマジメに』つって釘刺されたしよ。俺なんかまだマシな方だぞ、いつだったか解説生駒水上の実況小佐野とかいう地獄みてえな組み合わせあっただろ。生駒たちは試合そっちのけで最近食ったカレーの話とか始めるし、小佐野は『全然知ら~ん』っつって会話にならねえし、誰だあの三人を呼んだのは。加古の失敗炒飯じゃねえんだからイロモノとイロモノを混ぜ合わせて新しい何かを生み出そうとすんのはやめろ。ランク戦は遊びじゃねえんだぞ。
「俺何しにここに来たんだっけか」
「こっちが聞きたいよそれは!!」
『……おい雷蔵。なんだこのヒゲ』
「バカだよ」
『んなの一目見りゃわかんだよ』
「お? なんか生意気なラッドがいるな。敗北者みてえな声しやがって」
『取り消せよ今の言葉ァ!!』
すげえ。ガチでめっちゃ似てる。もうどう聞いても
声ネタはこれくらいにするとして、こいつが噂のアレか。大規模侵攻で忍田さんとやり合ったっていう
『ぐわあああああああ!!』
「太刀川が英語喋ってるとこ初めて見た気がするなあ」
『おまっ、角に力入れんのはガチでヤバッ――あああああ抜ける!! オレの二本しか生えてねえ貴重な角が抜ける!!』
「冗談キツいな寺島さん。俺が英語喋れるわけないだろ」
「自信満々に言うことじゃないよねそれ……あ、テレビの方かさっきの」
なるほど。二人仲良く映画見てたのか。しかもたまたま
「なあ寺島さん。俺どうやったら真冬先生と結婚できると思う?」
「本気でそれが用事なら今すぐ帰ってほしいんだけど」
「いやすまん。頭に浮かんだことをついついそのまま口にしちまう年頃なんだよ」
「人の部屋に突然押しかけてきて漫画のヒロインと結婚する方法を考え始める思考回路ってどうなってるの……」
「ショート寸前なんだよ。ごめんな素直じゃなくて」
「本当に寸前かなあ……もう手遅れなんじゃないかな……」
「セーラームーンで思い出したんだが、
「太刀川。人と会話する努力をしよう」
『……
「おまえサル馬鹿にすんなよ。台と棒使って上から吊るされたバナナ取れるんだぞ」
「よく見ておきなエネドラ。これが本物だよ」
『本当にこいつを猿扱いしてもいいのか? 猿に失礼じゃねえか?』
「随分な口の聞き方じゃないか元Mr.
『あぁ? 殺すぞ糞ヒゲ。シノダサンてアレだろ、デカい口叩いといてオレに伝達系ぶち抜かれたボス猿の名前だろーが。雑魚トリガーの猿にしちゃあそこそこやる方だったが、所詮オレの
「ま、
『……戦闘に関しちゃちったあ頭が回るみたいじゃねーか、ええ? 随分とシノダサンのことを持ち上げてやがるがよ、てめーはあいつの一体何なんだよ』
「一番弟子」
『ええ……』
「なんでそんな残念そうな声出したおまえ?」
『なんであの堅物臭え野郎の弟子がこれなんだよ……』
「ちなみにこう見えてウチの隊員で一番強い人だよ」
『ウソだろ』
「俺もたまにそう思いたくなる時があるよ」
「何なら寺島さんが直接蹴落としに来てくれてもいいんだぞ。久々にあんたの弧月を味わいたい」
「俺はもう現役引退したの。見てわかるだろ? この体型で
そう言って腹の肉をぷにりと摘まむ元ボーダー屈指の弧月使い。時の流れってやつは残酷だな。でもほら、こういう昔はぶいぶい言わせてたけど今は全然みたいな雰囲気出してる人ほど漫画だと強キャラになる法則みたいなのあるじゃん。実際こっそりゲームん中に隠しキャラで寺島雷蔵(痩)とか混ぜてても不思議じゃ――あ、そうだ。ゲームの話をしに来たんだった。
「寺島さん。
「弧月のアドバイスでも聞きに来たの? 生憎だけど、俺が太刀川に教えられることなんてもう何もないよ」
「そうじゃない。
「なんか太刀川が売人をシメに来たヤの付く人みたいなこと言ってる……」
「ま、似たようなもんだな。クスリじゃないがちょいと良くないハマり方をしたもんで困ってる。あんたにしか治せない」
「ああ、
「いやその逆。クソゲー過ぎたせいで絶賛炎上中」
「はあ!?」
「――ってのは冗談だが、半端にリアルだったのが良くない。初日で
「え、もう太刀川倒したの? すごいな国近さん、開発チームでも普通にやったら10本やって3引くくらいがやっとの強さで調整したのに」
「指示出したのは国近だけど、実際にプレイしたのは唯我らしいぞ。10本勝負で9-1」
「……ホントに? 話盛ってない? 国近さんや出水ならともかく、唯我くんて別にそこまでゲーム上手くなかったと思うんだけどなあ……それで9-1ってのは流石に……」
「ちなみにプレイヤーのトリオンは推定で34だそうだ」
「トリモンじゃん!!」
「てことで寺島さん。
「ええ……強くてニューゲームやっといて無双はしたくないってそれただのワガママじゃんか……大人しく新しいキャラ作りなよ……」
「ま、常識的に考えたらそうなるんだろうが――こっちも色々と訳ありでな、
「何それ、リアルの事情が関わってるの? だったらそれこそそっちで何とかしてよ、玉狛行って雨取さんに個人戦申し込むとかさ」
「雨取が受けると思うか?」
「……あー、確かに今のは俺が無茶言ったね」
「ついでに言うと、再犯は流石に反省の色が見えないってことで今度こそ三上に通報される」
「何やらかしたの太刀川」
「大したことじゃない。ちょっと夜な夜な女子中学生の部屋に押し入って声を聞かせてくれって迫っただけだ」
「いいかいエネドラ。この画面の1を2回、それから0を1回押すんだ」
『
危ない危ない。ラッドが映画に夢中なおかげで助かっ――あああオーダー66が……貴重な青色おっぱいが……ぐう聖プロクーンが……ちびっ子ジェダイたちが……。
ダメだ。ここはヤバい。迂闊に長居したら絶対このまま画面に張り付いてオーウェンおじさん達としんみり夕日を眺める羽目になる。よくあるだろ、ほんの1シーンだけ読み返すつもりで開いた漫画を気付いたら最終巻まで読み耽ってましたとかそういうの。スラムダンクとか何回それで俺の時間を奪っていったか分からん。三井復帰あたりから飛ばすとこねえのが悪いんだあの漫画はよ。一回俺もスラムダンク読んだ勢いで『バスケがしたいです……』的な心理状態に陥って柿崎たちのバスケに混ぜてもらったことがあるが、結果は桜木よろしく速攻で5ファウルやらかしての退場に終わった。『どーも手が出てしまう……反射神経が良すぎるのかな……』ってな具合だった。
「悪い寺島さん。ちょっと場所変えよう」
「え、なに。口封じ?」
「一回俺が
「ああ、だから月見さんと仲良いんだ」
「は? 蓮? あいつ俺より年下だぞ。見た目はともかく」
「電話かける相手を月見さんに変えようか太刀川」
「勘弁してくれ。俺も一応織田信長よりは長生きしたいと思ってるんだ」
「太刀川が偉人の名前を口にするのってなんかすごい違和感あるなあ……いくら信長とはいえ」
「馬鹿にするなよ、こう見えても元日本史選択だ。知ってるか寺島さん? 屏風から出てきた虎を弁慶がたたっ斬ったのに惚れて、義経は弁慶を家来にしたんだよ」
「太刀川。もう一度日本史勉強し直そう」
「間違ってたか? 今の俺達にも割とぴったりな逸話だと思ってたんだが。なあ一休さん」
「そうだよ。一休と話混ざってるんだよ。弁慶は屏風の虎を斬ったことなんか一度もないの」
「それでも俺は、
「……うん?」
何言ってんだこいつ、って目をしながら首を傾げる寺島さん。おいおい、頼むぞ一休さん。ちょっと一回頭を叩いてみてくれよ、ポク……ポク……ポク……ちーん! ってな感じで。だけど今の寺島さんにそのポーズ取らせると『ここおかしいんじゃねえか?』とか言われそうで怖えな。なんで俺一休さんにそんなイメージ持ってるんだろう。あいつそんな畜生キャラだったっけか。
まあいいや。そろそろ俺がここに来た真の目的ってやつを明らかにしたいと思う。と言っても、別に大した話じゃない。何となく察しが付いてた奴も多いんじゃないか? そう、俺が寺島さんに求める太刀川慶
「頼むよ
――いやまあ、元々そうなんだけどな?
「……ちなみに一休と屏風のとんちだけど、あれも一休は虎を出してくれって頼んだ方だからね」
「マジか。俺一休って一種の魔術師みたいなもんだと思ってたわ。『この橋渡るべからず』つって橋の真ん中以外を歩くと死ぬ魔法とか唱えたりしたんだろ?」
「太刀川の脳内にある日本って随分と愉快なことになってるなあ……」
などと話しながら俺達が歩いているのは、開発室の更に奥にある
「――で、寺島さん。場所を変えるって自分で言っといてアレだが、なんだってこんなところまで俺を連れてきたんだ?」
「虎を屏風から出したいんでしょ。確認しておくけど、訓練室で国近さんのトリオンを調節して34相当にするとか、そういう方法じゃ駄目なんだよね」
「ま、それであいつが満足に動けるっていうんならそれでもいいんだが――那須じゃあるまいし、生身でまともに動けないやつがいきなりトリガー握っても結果はお察しってなもんだ」
我がボーダーの誇る
「出水や唯我くんを代わりにするのも駄目?」
「駄目だな。雨取本人と
「一応三雲くんと200戦やって150勝できるくらいの実力はあるって聞いてるんだけど……」
「それなんだけどな、あの風間さんの動きを24戦で掴んだっていうやつが唯我と200戦やってもパターン掴めないってどういうことだって話聞くたび疑問に思うんだよな。寺島さんどう思うよ?」
「そんなこと俺に聞かれてもなあ……唯我くんも唯我くんで三雲くんの動きに対応したんじゃないの? 戦いってそういうものでしょ」
「あいつにそんな器用さがあるなら俺達ももうちょい楽できるんだけどな」
「……今更だけど、よく唯我くん入れたまま1位をキープ出来てるよね……A級上位じゃ相手の点にしかならないだろうに……」
「ま、あれはあれで最低限の囮くらいにはなるからな。レーダー上でわざと浮かせて意識を割かせたところに俺がバッグワームで奇襲仕掛けるとか、出水が派手に暴れてる陰からちまちま撃って点獲ったことなんかも――いやそれはねえな、菊地原に全部防がれてたわ」
「よりにもよって菊地原に不意打ち仕掛けちゃうかー」
「そうは言っても、かくれんぼに命かけてる冬島さんと当真の二人はそもそも唯我に見つかることすらないからな。となるとあいつが的に出来るのは自然と風間さん達に限られる訳だが、風間さんも歌川も普段から隙のない構えしてるのに比べて、菊地原は一見無防備に見えなくもない雰囲気醸し出してるから釣られたんだろ。迅然り影浦然り、回避に有効なサイドエフェクト持ってる奴らってのは
「……俺から振っといてなんだけど、また話が脇に逸れてきてるような気がする」
「まっすぐ歩いて帰りなさいって先生に言われてもコンビニ寄ったり公園で遊んだりしないと気が済まないのが子供だ。気にするなよ」
「俺太刀川より年上なんだけど」
「今日さ、俺は自立した大人の男だって言ったら蓮に病院行けって言われたんだよ」
「やっぱり仲良いんじゃん……ていうか何、ここ来る前に月見さんとも会ってたわけ? 二人で何してたの」
「レポート手伝ってもらった」
「どの口で自立してるって言った太刀川? ――あ、ここだここ」
そう言って寺島さんが立ち止まったのは、『2月19日(水)回収・人型トリオン兵』と書かれた鉄の扉の前だった。よく見るとこうも書いてある。『管理担当者・寺島』。2月19日っていうと、例の遠征艇襲撃があった日だな。俺は地下で蟹のおじさんと遊んでたもんだからお目に掛かれなかったんだが、なんでも敵さんがまた新型を導入してきたそうじゃないか。おじさん達の連れてた
「こういうのも寺島さんの管轄なんだな。ただのレイガスト中毒お兄さんだとばっかり思ってた」
「誰がそんなイメージ付けたの……いやまあ、レイガストにはそりゃ愛着あるけどね。俺の怨念が籠もってるから」
「でもさ、弾丸トリガーに恨み持ってるって話の割にはメテオラ作ったのも寺島さんなんだろ? なんか矛盾してないか?」
「あー……メテオラはなんていうか、作りたくて作ったわけじゃないっていうか、研究の副産物みたいなもんでさ。俺が普段
「それ俺が聞いて理解出来る分野の話か?」
「……まあとにかく、俺の中でメテオラっていうのはアステロイドとはバイパーとはまた別の存在なわけ。
「レイガストとメテオラ、両方の開発者をして
「……ホントにね。あんなトリオン量の持ち主が存在するなんて、雨取さんが現れるまでは想像もしていなかったよ。
そうやって溜息を吐く寺島さん。だがまあ、どうしてこうなったって話をあんたがするのなら、巻き込まれた身のこっちにも当然言い分があるわけで。
「――そもそも寺島さん、あんたはどうしてあんなゲームを作ったんだ? 趣味や道楽で作ったにしちゃ、いくらなんでもあれの出来は凝り過ぎてる。
「……へえ。太刀川でもそういうゲームの裏事情とか気にするんだ?」
「ま、流石に題材が題材だからな。むしろ問い詰めてるのが俺なだけまだ助かってると思うぞ、なんでもゲームの中の綾辻に自分の胸のカップ数まで言わせたらしいじゃないか? それこそ俺よりも先に通報されても文句は言えない案件だ」
「いや、あれは綾辻さん本人のアドリブ」
「マジか」
「どうも広報の仕事で鍛えられたプロ根性が暴走したらしくってね……」
「それ本当にプロ根性か? 芸人魂の間違いじゃないか?」
「本人が嬉々として『監督! 今のネタどうでしたか? お茶の間のおじさま方に大ウケ間違いなしだと思いませんか!?』みたいな勢いでがんがん来るのにNG突きつけるだけの度胸は俺にはなかったよ……」
「寺島さんは寺島さんでなに監督とか呼ばせてんだあんた」
「本当は超監督って呼ばせたかったんだけど流石に我慢したんだよ」
「違う、そうじゃない」
この人も眠そうな顔してしれっとボケかましてくるから油断ならねえなおい。
寺島さんが懐からトリガーを取り出して、扉の横にある認証パネルへと翳す。この辺りの仕組みは直通通路と同じなんだな。鍵になったり武器になったりトリガーってのは随分と便利なもんだ。これで買い物とかも出来るようになればいよいよsuicaのお友達だな。
「――開発部が
「ほう?」
「本当はね、
扉が開くと、中からドライアイス的な冷気がぶわっと吹き出……すこともなく、普通に中の様子が露わになった。つまらん。
部屋の中央に、
「
「……マジか」
ボーダー隊員には朝の挨拶よりも馴染み深いそのフレーズを寺島さんが口にすると、当然の如くトリガーが反応して、戦闘体へと換装される――
で、変身を終えたトリオン兵の姿を見てこれまたビックリだ。いやまあ、寺島さんのトリガーを使って換装したんだから予想出来て然るべきだったのかもしれんが、それでもやっぱり実際に目にしてみると衝撃が違う。
「……本当に隠しキャラがいるとは思わなかったな」
「言い得て妙だね。こいつは確かに、ボーダーの中でも一部の人間にしか存在を知られていない。ボーダーの現体制を揺るがしかねない爆弾だからね。と言っても、実用化はまだ大分先の話――」
「いや、そうじゃなくてさ」
――やっぱり、
二人の寺島さん。生身がどうとかトリオン体がどうとかっていう以前の話で、その違いはもう、悲しくなるほど一目瞭然だった。
「――R1を押しながらで
「はあー……よく出来てんなこれ」
またまた場所を移動して、やって来たのは開発室備え付けの
で。実際に自分の手で寺島さん(痩)を動かしてみた感想なんだが、これがもうただ歩かせるだけで面白い。本格的な操縦をするにあたってVRゴーグルを付けた俺の視界は完全に寺島さん(痩)とシンクロしていて、何なら自分が初めてトリオン体になって動き回ったときと同じレベルの感動がある。『こいつ……動くぞ……!』みたいな気分だ。そしてR1+〇ボタンで弧月を振る。1回で袈裟斬り、2回で横薙ぎ、3回で下から斬り上げて、4回で唐竹割り。フィニッシュ。流石にモーションはある程度固定されているとはいえ、スティックと組み合わせるとより多彩な技を繰り出せたりして、ハマる。これはハマる。更にR1と△を同時押しすると画面の右下に表示されているトリガーセットの『旋空』が光り、光っている間に〇ボタンも押せば当然――
「出たァ――――!! これだよこれ! 必殺寺島旋空! あああ懐かしい……今は亡き3年前の輝きが蘇るぜ……」
「生駒じゃあるまいし、現役時代に俺の旋空そんな呼び方された覚えないんだけど……ていうか、今は亡きって言った?」
「で? サブにはレイガストとスラスターが入ってんのか。村上とほぼ一緒の構成だな。OK、俺が幻の寺島雷蔵レイガストスタイルって奴を見せてやる」
「聞いてないし……」
見せてやる、っていうかむしろ俺が見たい。そんなわけで地味に暑苦しかったゴーグルを外して足元に置く。あっという間に三人称視点へと早変わりだ。はい左スティックを手前に倒してー、よーしいいぞこっち来いこっち。んでもって今度はL1+〇をポチっとな。
おお……やべえ、俺の目の前で痩せた寺島さんがレイガスト構えてるよ……これもう夢だろ……言うなれば死の灰を浴びなかったトキ……不良にならなかった三井寿……フェンスに衝突しなかった高橋由伸……そう、それはロマンだ。誰もが求めながらもとうとう叶うことのなかった奇跡だ。それが今この瞬間、現実のものになっている。そして弧月で旋空を試したのなら、当然レイガストでも試すべきだ。L1と〇を同時に長押しすると
発進。
寺島雷蔵、翔ぶ。シールドの四隅から景気良くトリオンジェットをぶち撒けて、寺島さんが無人の荒野(暗喩。たぶん)を進む。進む。突き進――ん? ところでこれどうやったら止まるんだ?
わからん。仕方ない。止まるまでそのままでいてもらおう。
「いやーアツいなこれ。年甲斐もなく夢中になっちまった」
「ねえ太刀川? さっきから俺が何度も何度も壁に激突しては方向転換してスラスターで縦横無尽に駆け回ってるんだけど? 放っておいたらそのうちこっち来るよこれ」
「電池が切れるのを待ってくれ」
「仮想戦闘モードだからトリオン切れないんだよ……もう一度L1と△押して。そうしたら止まる」
「あ、なるほど」
ぷしゅん……とトリオンの噴出が途切れて、スラスターの助力を失った寺島さんがずざざーっと地面に足を擦らせて停止する。さっきまで元気良くあっちこっちを飛び回っていたくせに、命令を失った途端ぴくりともしなくなるその様はまさしく、電池切れで動かなくなったロボットそのものだった。寺島雷蔵という夢、夢の終わり。シャボン玉のように華麗ではかなき男よ……。
「しかし凄いな。仮想戦闘モードにも対応してるとか、少なくとも動かしてる間に関しては人間とそう大差ないじゃないか」
「逆だよ、逆。仮想戦闘っていうか、
「えっ、そうなの?」
「小南さんの物真似かな」
「いくら寺島さんだろうと俺の二刀流を小南のパクリ呼ばわりするのは許さんぞ」
「誰も戦闘スタイルの話はしてないんだけど……」
そう、断じて違う。俺が小南をパクったんじゃない。小南が俺をパクったんだ。なのにあの小娘ときたらどうだ、ちょっと俺よりボーダー暦が長えからって先輩ヅラしやがって。なんでおまえ俺のことだけ呼び捨てなんだよ年上に敬意を払え敬意を。それにほんの少し人がランク戦から離れてた隙を突いて1位を掠め取っただけの癖して、ランク戦辞めた今でも『ていうか実質1位だから!』みたいなこと言ってるのも気に食わん。そういうのを勝ち逃げっていうんだ勝ち逃げって。3年もランク戦から離れてたのに復帰して俺の1位を奪おうとしてる迅の爪の垢を煎じて飲め。どうでもいいけど爪垢飲むって汚えよな。この話少し前にもやったっけか。忘れた。なんか他にも忘れてるような気がするがまあいいや。そのうち思い出すだろ多分。
「だがまあ、合点がいったよ。要するにゆくゆくは、
「まあ、この調子だと実現する日が来るかどうかは怪しいとこだけどね……少なくとも今は、A級1位部隊のオペレーターを降りてまで動かすだけの価値はこいつにはない」
「そんな日が来られても困るんだがな。あいつのオペレーティングに慣れた身としては、今更他のやつに替えられても満足出来る気がしない」
「月見さんでも駄目?」
「あいつ指揮と戦術はずば抜けてるけど肝心のオペは何とも言えない感じなんだよな」
「今度こそ電話かけようか太刀川」
「これに関しちゃもう本人に言ってる」
「うわあ……月見さんにそんなこと言って許されるのって太刀川だけだよね……」
「俺ももうレポート手伝ってあげないって言われたから許されてないぞ」
「死刑宣告じゃん」
「ホントそれな」
「そこで同意されても反応に困るんだけど……」
「まあとにかく、こんなポンコツロボにウチの国近はやれんぞ。交渉決裂だな寺島さん」
「さっきはあんなノリノリで操作してたくせに……ていうか逆でしょ、太刀川の方からこいつを借りに来たんじゃん」
「あ、そうだった」
そういやもう結構長いこと国近たちを放っといたままだが、俺が割って入る直前まで確かケンカしてたんだよなあいつら。少しは空気解してから出て行ったつもりだったが、出水のやつなんかは割と最後の方までむすっとしたまんまだった気もするし、今更ながら不安になってきたぞ。唯我がピエロになってくれてることを祈るしかねえなこりゃ。まさかあいつのお笑い属性を当てにする日が来るとは思わなかった。
「それでえーと? 国近が持ってた方のコントローラーにも背面にトリガーが刺さってて、その中に例の、タチズミ? だっけか。そいつのデータが保存されてるんだよな、メモリーカードみたいな感じで」
「そう。そのトリガーで起動すれば、今みたいにこいつの姿がプレイヤーの戦闘体に換装される。勿論トリガーセットと、
「やっぱり
「出せてないよ。ゲームの中も訓練室も、俺にとっては屏風とおんなじだ。本当の意味で屏風の外に出たって言えるのは、こいつが現実の三門を守るために
言いながら電池の切れたもう一人の自分へと歩み寄り、そいつの頭をぽんぽんと叩く寺島さん(太)。いや、この表記は流石に酷えな。寺島さんは寺島さん、それでいいじゃないか。せっかく真面目な話が出来そうな空気になっているんだ、この機に乗じて気になること全部聞いちまおう。
「なあ寺島さん。
「一応はね。正式な
「つっても、確かトリオン兵は防衛任務で使うにはコストやら見た目やらの都合が悪いからってんで却下食らってたんじゃなかったか? 前に寺島さんがそれでぼやいてただろ、俺はトリオン兵の開発にも興味あるんだけど上があんまり乗り気じゃないんだよねーとかなんとか」
「よく覚えてたねそんな話」
「ところが寺島さんは、ゆくゆくはこいつを実戦投入したいと考えてるって言うじゃないか。いつ旗色が変わったんだ? それこそ、この新型が鍵になったのか?」
「太刀川、旗色が変わるなんて表現知ってるんだね」
「バトル用語だからな」
「ああ、そういう……」
「で、どうなんだその辺」
そういやまだコントローラーを握ったままだった。作戦室に戻れば国近の持ってた方使えっからこっち俺が持ってても仕方ないよな。そう思って手振りで合図してから寺島さんに投げて渡すと、「もう少し丁寧に扱ってよ……」とまた嘆かれてしまった。もうしわけない。
「こいつの鹵獲で流れが変わったっていうのは正解。ただし――そもそものきっかけはやっぱり、大規模侵攻での一件だろうね」
「というと?」
「
「まあ、結果的に取り返せたとはいえ、諏訪さんが
「すっかり成人隊員の間でその呼び方定着したよね」
「広めたのは俺じゃなくて風間さんだぞ」
「あいつもあれで結構お茶目なとこあるよね……とにかくその通りで、
言いながら寺島さんがコントローラーからトリガーを引っこ抜くと、隣で沈黙していた寺島さん(痩)の化けの皮が剥がれ――って言い方はおかしいか。でも換装解いたときの戦闘体の剥がれ方ってなんつーか脱皮感あるよな。とにかくそんな感じで、無機質なトリオン兵の姿に戻った
「扉の日付を見たときに気付いたと思うけど、こいつは遠征艇を狙ってきた連中が地上で使ってた新型――解析の結果判明した機体名は『アイドラ』。こいつの特徴は、今までのトリオン兵とは異なり
「なんか
「そうだね。とはいえ1体1体の強さはそこまでじゃなくて、天羽の見立てでもモールモッド以下――いいとこB級下位くらいの強さってとこらしい。その分使われてるトリオンの量も控えめで、まあ典型的な数並べて勝負の量産型タイプって感じだったんだ。
「エース機ってやつか?」
「今日はやけに頭が冴えてるね太刀川」
「量産型がいるなら当然シャア専用もいるんじゃないかと思ってな」
「そういう発想かあ……」
ってのは冗談で、大規模侵攻でやり合った
「まあとにかく、雑魚同然だと思ってたアイドラの中に数機だけ、目を見張るような動きのやつが混じってたんだ。一度に二体しか現れないっていう変な縛りがあったみたいだけど、その二体だけに一度こっちの陣形を崩されて、黒江なんか危うく
「へえ、黒江がね。
「その韋駄天に対応されたんだよ。途中で軌道を変えられないのがバレたみたいで、置きブレードに突っ込んで左半身がバッサリ」
「マジか。トリオン兵にしちゃえらく賢――いや、そっか」
なるほど。なんとなく話が見えてきたような気がするぞ。
「
「その痩せいる?」
「俺だって付けたくて付けたわけじゃない」
「こっちも太りたくて太ったわけじゃないんだよなあ……別に気にしてないからいいんだけどさ。――そう、操縦だ。解析の結果アイドラには、外部からの
「そりゃ美味しいな。歩が一瞬にして飛車へと成り代わるようなもんだ」
「太刀川って将棋とかするの? 見た目だけなら似合いそうだけど」
「蓮からは『攻める姿は藤井猛、守る姿は田中寅彦』って呼ばれてる」
「どっちも終盤弱いじゃん……」
「でも『終盤のファンタジスタ』って響きは結構好きだぞ俺。フリーキック上手そうで」
「正解じゃない」
「何の話だったっけか」
「……このアイドラの登場っていうのは、俺達
「単に操作の上手い奴が二人いたってだけじゃないのか?」
「室長もその可能性を挙げてたけど、天羽が否定的らしいんだよね。二体とも同じ
「単純に向こうのエースとやらが同時に二体動かせるバケモンだったかのどっちか、だな」
「現状、その可能性が一番高いっていうのが笑えないところなんだよね……これがアイドラだからまだ何とかなったけど、仮にこのエースが
「それこそアムロにガンダム、いやマジンガーZってところだな」
「何その組み合わせ」
「なんか知らんが最近のスパロボでそういうのあるらしいぞ。国近と出水が動画見て爆笑してた」
どうせならブレストファイヤーとか叫んでほしかった、とか言って二人で盛り上がってたな。あんだけ仲良かったやつらがちょっと目を離した隙に冷戦状態になってるんだから世の中ってやつはさっぱりわからん。それこそあしゅら男爵が右と左で殴り合ってるような異常事態って感じだ。
「まあ、大体分かった。要するにこいつは、トリオン兵の燃費の悪さをある程度マシにして、それでいて
「またネタが古いなあ……雨ね、雨。とにかくそういう訳で、使い捨てっていうトリオン兵の性質自体はそのままでも、その対費用効果の高さから、開発室でもアイドラっていうのは無視出来ない存在になったんだ。しかしここで、三門市でトリオン兵を扱うにあたってのもう一つの問題が待ったを掛けてくる。何だったっけ、太刀川?」
「見た目の問題って奴だろ。まあ、
「それがね、警戒区域の外から望遠カメラ使って戦闘撮ってるやつとか市民の中にはいるんだよ。たまに戦闘映像とかネットに上がってたりするし、加えてウチは例の会見で一部のマスコミからも反感買ってるからね。そういう連中に余計な餌を与えたくないっていうのも、ボーダーがトリオン兵の採用に足踏みしてた理由の一つだった。で、ここに
「ふむ」
「
「コロンビアの卵ってやつだな」
「その五文字聞くと例のポーズしか浮かばないのってミーム汚染ってやつなのかな……さて、トリオン兵の体っていうのは、言うまでもなくトリオンで構成されている。つまり
「そのあたりの細かい理屈は聞いてもよく分からんな」
「そんな太刀川のためにこうして出来上がったものを用意したわけだよ」
「寺島3分クッキングってやつだな」
「……まあ3分とは言わずとも、例の遠征艇襲撃からまだ2週間しか経ってないのにこんなの作ったもんだからそりゃもう
「いま
「普通の職場だったら逆にやつれたり倒れたりしてるんだと思えばむしろ
そう言って乾いた笑いを浮かべる寺島さんの目に光はなかった。ボーダーの闇は深い。
ところで今、俺は困っている。さくっと聞くこと聞いてちゃっちゃと国近たちのところに帰るつもりだったっていうのに、寺島さんの解説を聞いたらかえって疑問が増えちまったからだ。こういうのなんて言うんだったか、後ろ指を指されるだか俺の後ろに立つなだかなんだか……さっきから俺思い出せもしねえ言い回しに拘り過ぎてんな。もっとシンプルに行こう。アレだ、蓮から借りた小説のヒロインがよく言ってるやつ。
「わたし、気になります」
「気が変になったの間違いじゃなくて?」
「俺さ、あの小説のキャラとか雰囲気は割と好きなんだけど肝心の推理はさっぱりなんだよな」
「そもそも太刀川が古典部シリーズ読んだことあるっていう事実に俺は驚いてるよ」
「諏訪さんがあのナリで推理小説好きなんだから俺が読んでたっていいじゃないか」
「あのナリっていうけど、むしろ諏訪は割と形から入ってるタイプじゃないかな……あいつの咥え煙草って絶対、ハードボイルド探偵とかホームズのパイプみたいなイメージでやってると思うんだよね」
「どうせやるなら帽子被って隊服もトレンチコートにすりゃいいのにな」
「そこまでキメちゃうと逆にコスプレ感が強くならない?」
「二宮みたいなつまらないことを言うなよ寺島さん」
「コスプレっぽくなるのが嫌だからスーツにしたっていうけどあいつの隊服も結構大概だよね」
「で、そろそろ俺の中に住んでる大天使チタンダエルに代わっても構わないか?」
「太刀川はどちらかというと寝起きの折木奉太郎って感じかな……もちろん髪型だけね。で、何」
「いやな、そこの
ぎくり。
そんなオノマトペが浮かんで見えるレベルの露骨さで、それまでテンポ良く俺との漫才に付き合ってくれていた寺島さんの動きが唐突に止まった。いや本当に、腰でもいわせたんじゃないかと思うくらいにピクリとも動かなくなってしまった。ちなみに全然関係のない話なんだが、ドイツ語ではぎっくり腰のことを『
「……いや本当に、どうしてこうなったんだろうね?」
ものっそい半端なところですがここまでです。
この脱線しまくる掛け合いのスタイルに作者が疲れてしまったというのも打ち切り理由の一つだったりして。次こそもうちょっとマジメにやります。多分。