過去作のことは忘れてください、よっぽどのことが無いと続かないかも
例の如くこれも不定期
ー今でも忘れることはないー
俺が貴女に会ったときの事を、薄汚れた地獄から救い出してくれた、貴女に全てを捧げても良いと思ったあのときのことを。
あなたの命令に従う、戌になろうと、そう侮蔑されようが、俺は全く気にならない。なぜならそれは、俺があなたの側にいるという証明だからだ。
そう、たとえ、国が運営している高校で、あなたと離れ離れになろうとも。俺はあなたに満足してもらえる存在でありたい。
そして、それが自分の周りを取り巻く環境で、それを裏切ることになろうとも、俺はー貴女に満足してもらえれば、それで良い。
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公道を走っている一台の黒いリムジン、車内では一組の男女の会合がなされていた。
「前もって言っておきます。有平、貴方の配属はDクラスになりました」
「はい、お嬢」
「ごめんなさい、お父様に便宜を図ってもらおうと思ったのですが、お父様は貴方を快く思っていらっしゃらないから……」
「構いません、寧ろ学園に入れていただいただけでもありがたいです。お嬢とお父上には感謝してもしきれません。俺を地獄から救ってくれたことだけでもありがたかったのですよ」
女性の名前は坂柳有栖、男性の名は坂柳有平。同じ名字だが男女の見た目には似ている箇所はありはしない。
有栖は銀色の髪に小柄な体躯、手には杖をもっているのに対し、有平の方は男子高校生にしては大きな体躯、筋骨隆々で髪の色は黒だ。
「それでお嬢、俺はこの学園で何を成せば良いのでしょうか?」
「そうね……先ずはBクラスを目指しなさい。貴方には簡単すぎるかもしれないけれど」
「それは俺『個人』としてでしょうか、それとも『クラス単位』でしょうか?」
有平はややにやけながら、有栖を試すかのような物言いをする。
「個人で、と言ったら貴方は実現してくれるのかしら?この学校の仕組み、わかっていないとは言わせませんよ?」
「えぇ、少々調子に乗りました。しかしお嬢、俺は表立って動けません。それがお嬢のお父上との約束なのですから」
「分かっていますよ。ですから手段はあなたに一任します。私を楽しませてご覧なさいな」
「了解しました、それが貴女の望みなら、俺はそれを叶えてみせましょう」
有平は右手を胸に置き、有栖に頭を下げる。
「そろそろ学園に到着しますね、そうしたら私と貴方は敵どうし。遠慮はいらないから、私を食うつもりで掛かってきなさいな」
「それがあなたの望みとあれば」
「それと、もう一つの要件もお願いね?『彼』のこと、頼みましたよ」
「お任せください」
丁度良く、リムジンは学園に到着した。
有平は先に車を降り、有栖が車から降りる手助けをする。有栖は先天性疾患を患っており自由に歩く事がままならないのだ。
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ここは国が運営する高度育成高等学校 。
校内で有栖と別れ自分の配属されたクラスへと向かう。
自分の席に着席し、鞄から本を取り出し読む振りをしながら周りの観察を行う。
一喜一憂しながら、新しい学園生活に希望を懐き、談笑をするもの。席につき読書を嗜むもの。机に突っ伏して惰眠を貪るもの。そして教室後方に設置された監視カメラ。
有平は周りを見回しながら品定めを行う。これからアリスに課せられたBクラスへと上がるための隠れ蓑、駒、そしてこのクラスのリーダーたる人物の品定めだ。
そうしているうちに教室の扉が開き、黒いスーツを身に纏い、髪をポニーテールに括った女性が資料などを手に持ち教壇に立った。
学生たちは各自自分の席に着席する。
「先ずは入学おめでとう、と言っておこう。私は茶柱佐枝。このクラスの担任だ。この学校にはクラス替えは存在しない、従って三年間私がお前たちの担任となる。無駄話も何だ、今からこの学園について少し説明をしよう」
資料を一番前の学生に配布し、一枚取って後ろに回す。全員に行き渡ったことを確認し、説明を始めた。
主な内容は学内での暴力、虐めの禁止。三年間は学園の外と一切連絡が取れない、等入学前に説明を受けていた事の再確認だった。
「次に学生証の配布だ。これを紛失すると大変な事になるから気をつけろ」
学生証と言う名の携帯端末が配られていく。五十音順で呼ばれていき、有平は綾小路清隆という少年の名が呼ばれた際、ほんの一瞬目つきが鋭くなった。まるで彼を観察しているかのように。
「今おまえたちに配布したものが学生証だ。この学校ではその学生証を使用して買い物をしてもらう。学生証には現在10万ポイントが入っており、1ポイント1円の価値がある。驚いたか?それは今現在の学校側からの君たちの評価であり、入学祝いだと思ってくれればいいさ。毎月1日にポイントは振り込まれるからな」
学生たちが茶柱先生の話を聞いてどよめき立つ。10万円という大金を突然持たされたのだ。当然だろう。
「ポイントについての説明は以上だ。入学式までは各自自由に過ごしてくれ」
そう言い残し、彼女は教室を後にした。
彼女が教室をあとにすると同時に、一人の男子生徒が教壇に立った。
「皆聞いてほしいことがあるんだ。僕たちは皆今日が初対面だ。親睦を深める意味でも、入学式まで自己紹介をしないかい?」
面立の整った男性生徒が教室にいた学生たちに聞いている。主に女子生徒から賛成の声が上がった。
「ありがとう。僕は平田洋介、気軽に洋介って呼んでほしい。中学ではサッカーをやっていて、この学校でもサッカー部に入るつもり。宜しくね」
彼を筆頭に、窓際の前列から自己紹介がされていく。これ幸いと、有平は観察を再開した。
(分かっていたことだが、やはり不良品の集まりだ。駒として使えるのは先程出ていった須藤健、軽井沢恵、従わせることができれば高円寺六助だが、従わせる労力が掛かり過ぎる。平田洋介は精神面が惰弱、櫛田桔梗は二面性が厄介過ぎるな)
「次は君なんだけど、良いかな?」
物思いに耽っていると、どうやら順番が回ってきたようで、有平は席を立ち自己紹介を始めた。
「坂柳有平、趣味は星を見ること、嫌いな事は調和の乱れ」
それだけを言って席につく。傍から見たら完全に失敗で、周りの学生も困惑している様子だ。
平田だけは拍手をしているが、有平はそれを気に留めることなく我感せずだ。
その後綾小路の自己紹介だが、これもまた失敗し、軽く落胆しているように見えた。
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入学式は恙無く終わった。強いて言えば、理事長が有平の事を恨めしげに見ていたことがやや鬱陶しいかった程度だが、彼はこのことを特に気にしていなかった。
有栖に仕えている以上、彼女の父親と顔を合わせる機会は何度かあったが、その度に同じ視線を向けられていたし、彼女の父親である御方に恨めしげな視線など向けられるはずも無い。
それに有平は彼のことを恨めしく思ってなどいないし、恩義すら感じているのだ。
まあそのことは置いておいて、入学式が終わり解散となり、彼が向かった先は日用品を揃えるためのコンビニ、スーパーだった。
そこには無料品が置かれており、彼の狙いはまさにそれだった。入学前から有栖から情報を聞いております、ポイントが無くとも最低限の生活が送れることは知っていたのだ。
寮の自室に荷物をおいて、すぐさま彼は寮をあとにする。次は監視カメラの位置確認、各クラスの間取りなど、彼がしなければなければならない事は多種に渡る。
これは有栖に命令されているわけではないが、彼がまず、Bクラスに上がるための最低限の行動と言えよう。全ては有栖を満足させ、彼の目的を完遂させるための必要なことである。
「そこの新入生、一体そこで何をしている?」
特別棟を散策していると、彼に声をかけてくる人物がいた。黒髪に眼鏡をかけている、この学園の生徒会長である。
「堀北学……堀北鈴音の兄であるアンタが、俺になんのようだ?」
有平の言葉遣いは決して褒められたものではないが、学の方は気にしていないようだった。
「お前は新入生だろう。皆はこの学校の施設を満喫、或いは日用品の買い出しに出ているようだが、お前はここで何をしている?」
「答える義理はない。それとも、これは命令か?確かにここに監視カメラは設置されていない、アンタの力ならば俺を屈服させられるかもしれないぞ?それとも、誰かが監視しているかもしれないと警戒しているのか?」
有平は挑発するような物言いで学に言い放っている。しかし彼は眉一つ、表情を動かすことはない。
「そこの角を曲がったところに一人、女生徒がいるようだが、アンタのお仲間だろ?ならばアンタが不祥事を起こしたとして、学校側に報告することはないだろう?」
「ほう……たしかに俺の後ろには仲間が控えている。何故分かった?」
「人は気配を完全には断てない、ここみたいな平和な世界で生きてきたわけじゃないんでね、それくらい出来なくては、身ぐるみ剥がれて今頃あの世だろうさ」
「……坂柳有平、首席である坂柳有栖の側仕え、血縁はないが、戸籍上義理の弟となっている、入学試験の結果は坂柳有栖に次ぐ次席。にも関わらずお前の配属はDクラス、疑問を感じるが今は置いておこう。入学早々、監視カメラの位置を確認している生徒は、お前くらいだ。」
「何だ、知ってるんじゃないか。ここの会長は学生のパーソナルデータまで知っているとは、コレは聞いていなかったな」
「目的はなんだ?」
「目先の目的はBクラス、最終的な目的は話せないな。お前の目的は何だ、堀北学」
「気になる行動を取っている学生に対して事情聴取、といえば満足か?」
「まあ、別にどうでもいい。お前が俺の目的を阻むなら、引き潰すだけだ」
そう言って、有平は特別棟を後にする。次の目的は各教室、出来れば各クラスのトップを探れれば望ましいが、まだ入学初日だ。学生が教室に残っていることは無いだろう。
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案の定、Cクラスには学生が残っていなかった。基本的に他クラスの学生が他クラスの教室に入ることは出来ないわけではない。
しかし彼は監視カメラの位置、間取りさえ分かれば十分だったため、ざっと見回しCクラスを去り、隣のBクラスの教室に向かった。
Bクラスは教室のドアが空いており、まだ多くの学生が残っております、何やら話し合っていた。
有平のことに気がついた教団に立っているピンク色の髪をした女学生が、一旦話を切り有平に向かって歩んできた。
「君他クラスの子?私達のクラスに何か用事?」
「…………」
「えっと……そんなにじっと見つめられると困るんだけど」
「ちょっと、あんた一体何なの?用がないならーー」
「Bクラスのトップは、お前のようだな」
「確かに私が委員長を務めさせてもらってるけど。私は一之瀬帆波、あなたの名前ーー」
「……お前がトップなら、Bクラスはそう遠くなさそうだ。あいつがトップだったら、まだ手強かったかも知れないが、些事だな。おいお前、名前は?」
一之瀬を完全に無視し、とある男子生徒のもとに向かっていく。
「……一之瀬の質問にまだ答えていないだろう、話はそれからだ」
僅かに怒気を滲ませ、表情はあまり変わらないが軽く有平を睨みつけ、有平は嘆息し仕方無しに一之瀬のもとへと向かう。
「坂柳有平……宜しくな、『軽犯罪者』」
最後の一言は彼女の耳元に顔を寄せて、周りの学生に聞こえないようにそっと耳打ちする。一之瀬は有平の言葉を聞くと同時、放心状態になってその場に座り込んでしまった。男子生徒のもとに再び戻ってくる。
「それで、お前の名前は?」
男子生徒は有平の胸ぐらを掴み、完全に切れていた。
「一之瀬に、何を言った……?」
「名前は?と言っている?」
殺気を放ち再び問いかける。目の前の男子生徒は胸ぐらから手を離し、席に座り込んでしまった。
「……神崎、隆、二……」
「神崎隆二、下に付くべき人間を見誤るなよ。それと、咄嗟の行動は謹んだほうが自らの利益、強いてはクラスの利益になる。教室後方に監視カメラ、ここの学校の学生は常に監視されている、そのことを自覚し、行動をすることだな」
乱れた制服を正し、教室のそこかしこで、彼のさっきに震えているBクラスの学生たちに言い放つ。
「安心しろ、たとえ学校側が神崎隆二が俺の胸ぐらを掴んだことを問題にしようとも、俺自身は何もなかったと言っておいてやる。この一件は問題にはして置かないでおく。簡単に潰れてくれるなよ、神崎隆二、一之瀬帆波」
多大な、自分が所属しているクラスにも告げていないことをライバルであり、標的であるBクラスに告げて彼は去っていった。
彼らは彼のことを、まるで嵐のようだったと言っており、Bクラスから最大警戒人物として認識された。
坂柳有平
学力…A
知性…B+
判断力…B+
身体能力…A+
協調性…D