坂柳の戌は、何を見るか?   作:クッペ

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6話

貴女に出会えた事で、俺の世界には色が付きました。

それまで色褪せていた世界が、こんなにも綺麗に見えたのは、貴女に出会えたからです。

貴女に拾われてから受けた訓練や勉学でさえも、辛いと思ったことは一度もありません。

全ては貴女の隣に立つのに、少しでもふさわしい自分であるためです。

だって貴女は、鮮やかに咲いた、どんな花よりも美しく。あなたとの思い出は、鮮やかに咲いた、どんな花よりも愛おしいものなのですから。

 

# # # # # # # # # #

 

給湯室へと連れて行かれた有平と綾小路。茶柱は給湯室で、二人に待機命令を出していた。

茶柱はそのまま併設されている生徒指導室へと入っていき、部屋には有平と綾小路の二人が取り残さてた。

 

「コーヒーでも飲むか、綾小路清隆?」

 

「良いのか?物音立てたら退学って脅されているし、そもそも学校側のものだろ?」

 

「これくらいなら問題ない。御父上……理事長だって学園長だってこの程度の些事、問題にはしないさ」

 

「御父上……?」

 

マグカップを2つ用意し、インスタントコーヒーの粉末を備付けられている紙コップに入れる。

沸騰したお湯を注ぎ、有平はポケットから先程購入した粉末を両方のコップへと入れ回し溶かす。

 

「出来たぞ」

 

「ありがとう、今入れたのは?」

 

「一般的な砂糖よりも身体に良い砂糖のようなものだ。甘さは控えめだが、太りづらい」

 

「そんなものがあるのか」

 

有平は綾小路が口をつけるよりも先にコーヒーを飲む。つられて綾小路もコーヒーを口に含んだ。

 

『失礼します、茶柱先生、私に用があるとのことですが?』

 

「堀北……?」

 

茶柱に対する訪問者は同じクラスの堀北鈴音であった。綾小路は疑問に思っているようだが、有平からすれば、何も不思議はない。

彼女の性格を理解していれば、今日の説明に納得がいっていないのは明白だった。

 

『何故……Dクラス……ですか……』

 

『これが……優秀で……』

 

所々会話が扉越しに聞こえてくるが、正確には聞き取れない。

有平と綾小路は残ったコーヒーを飲み干した。綾小路からコップを受け取り、二人分の紙コップを備え付けのシンクで念入りに洗ってゴミ箱へと放り捨てる。

 

『話になりません、これで失礼します』

 

『まあ待て、そう早まるものでもない。お前たち出て来い出て来なければ、退学にするぞ』

 

そんな脅しが聞こえてくると、綾小路は渋々、有平は気怠そうに生徒指導室へと入っていった。

 

「貴方達、まさか今の話聞いて……!」

 

「その話は後にしろ。堀北、Aクラスへと上がりたいんだろ?こいつらを上手く使えば、上手いこと上がれるかもしれんぞ?」

 

「そんな確証が何処にーー」

 

堀北が言い終わる直前、茶柱は一枚のプリントを机の上に放った。

 

「綾小路、お前のこの点数は一体何なんだ?入学試験の全教科50点、更にはこの間の小テストも50点だ」

 

「いやぁ、偶然って怖いですね?」

 

「序盤の簡単な問題を間違えて、終盤の難関問題を正解しているのは?」

 

「偶然ですよ偶然。そんな点数操作した所で俺に一体何の得が……」

 

そこで綾小路が立ちくらみを起こしたかのように蹈鞴を踏んだ。

有平は思わず口角が上がってしまったが、綾小路の様子と有平の異変に触れないまま、話は進んでいく。

 

「あくまで白を切るか、では坂柳次はお前だ」

 

「分かっている、だがその前に」

 

有平は掌を広げ横向きにし、綾小路の視界を遮るうように、綾小路の目を覆った。

悪意も敵意も無い有平の行動に、綾小路は何も出来なかった。

 

「少し、眠っててくれ」

 

その言葉を皮切りに、綾小路は有平の方へと倒れ込んで来た。

そんな綾小路を受け止め、綾小路を床へと寝かしつけ口元に手を持っていき呼吸を確認する。

 

「規則正しい腹式呼吸……ホワイトルームと言えど、薬や毒の耐性を付けてはいなかったようだな……」

 

「お前、綾小路に何をした?」

 

「さあな?だが、これからの話、こいつに聞かれると厄介だ」

 

「ふん、まあいい。どうせ証拠など出てこない。綿密に証拠足りうるものを消したのだろう?」

 

「どうだか……」

 

「それで、試験の結果だが、入試は満点で同率一位、にも関わらずこの間の小テスト、お前の点数は平均ギリギリだ」

 

「満点……」

 

堀北は驚きのあまり目を見開き、次いで睨みつけてくる。自分より学力が優秀なものが、自分のクラスにいる事が信じられない、そして許せないのだろう。

 

「なぜお前は本気を出さない?」

 

「一つ確認だが、この学校の理事長は、生徒一人一人の動きを把握しているのか?」

 

「いいや、理事長先生は多忙だからな。一部目に付いた学生以外、監視はしていない筈だ」

 

「俺がその一部に入っているとしたら?」

 

「何?一体何を根拠に」

 

「もしかして、この学校の教員たちは、俺のことを知らされていないのか?だとしたら、先程の星之宮知恵のことも納得は行く」

 

「あなた何を言っているの?自惚れも大概にーー」

 

「堀北鈴音、茶柱佐枝、お前たちは何故Aクラスに上がりたい?Aクラスに上がって、その後はどうする?まさか、Aクラスに上がった瞬間はい終わり、なんてことは無いだろう?」

 

堀北の激昂を遮って二人に問う。理由は大方分かっているが、本人の口から聞くことが重要なのだ。

 

「当然じゃない!私は、自分が不当な評価を受けていることに納得が行かないわ。なんとしてもAクラスに上がってーー」

 

「堀北学に認めて貰う、か?」

 

「……!」

 

「茶柱佐枝、お前はどうなんだ?なぜお前は、学生なんかよりもAクラスへと執着する?」

 

「なんのことか分からんな?何を根拠にそこまで言い切れる?」

 

「綾小路清隆、櫛田桔梗、高円寺六助、平田洋介、堀北鈴音、あんたがDクラスで高く買ってる学生たちで彼等のポテンシャルがあれば下剋上だって可能、そう思っているんだろう。が、甘い。彼らではお嬢には敵わないな」

 

「…………」

 

「対抗できるとすれば、綾小路清隆だけだろう。高円寺六助にも可能性はあるが、如何せんやる気を引き出せない。他のメンバーは論外だ。そしてあんたは、俺に期待してるようだが、それは諦めた方がいい。何故なら、俺は理事長から、表立ったクラスへの貢献を禁じられれいるからだ」

 

「……なぜ理事長先生は、そこまでお前を警戒する?」

 

「俺がお嬢の、Aクラスの坂柳有栖がAクラスである為の邪魔になるから。だが、その理事長の方針にお嬢が納得していないのも事実だ」

 

「坂柳有栖というと、理事長先生の娘か……その方針に納得行っていない理由は?」

 

「お嬢は平穏を嫌い、過激な変化を好む、と言えば分かるか?ただ用意された道を歩くことを良しとしないそんなお方だ。だが、先程も言ったがそれではお嬢は楽しめない。そこでだ、茶柱佐枝、堀北鈴音。お前たちがAクラスに行きたいなら、手を貸してやることも吝かではない」

 

「どういう風の吹き回し?あなたの話を鵜呑みにしたとして、それだと貴方は動けないじゃない」

 

「そうだ、その通りだ堀北鈴音。俺は元々直近でBクラスになることを命じられていた。だが俺は表立って動けない。そこで、堀北鈴音。お前を上へと這い上がらせてやる。その変わり、お前が俺の隠れ蓑となれ」

 

「貴方がDクラスを裏切らない保証がどこにもないじゃない。それに、私は誰からの手も借りるつもりは無い」

 

そんな堀北の所信を鼻で笑う。茶柱も表情には出さないが、若干の呆れを感じているようだ。

 

「何がおかしいの?」

 

「お前は何故自分がDクラスに配属されているか、まるで理解できていない。それが分からない限り、Cクラスにすら、お前は勝てない。それに、俺とそこで寝てる男の考えた策は、全てお前がやったことにしてもらわなければならない」

 

「綾小路君が?あなた何を知ってーー」

 

「話の続きはまた今度だ。そろそろ、目が覚める」

 

綾小路がピクリと体を動かし、欠伸を噛み締めながら起き上がる。寝ぼけ眼をこすり辺りを見回している。

 

「俺は一体……」

 

「目が覚めたか、綾小路清隆」

 

「坂柳……お前、俺に何か盛っただろ」

 

感情のこもってない声で、視線は若干の怒りを滲ませて綾小路は有平を睨んでいる。

 

「少しばかり聞かれたくない話と、確認したいことがあってな」

 

言いながら、有平は綾小路と距離を詰め、正面に立って顔を耳元に近づけた。

 

「ホワイトルームも完璧では無いな」

 

綾小路にだけ聞こえる声で、そう呟く。

綾小路は有平と距離を取り、脇腹目掛けて回し蹴りを放つ。

足を上げ、脛で綾小路の蹴りを受け止めた。互いに身体の軸は全くブレていない。

一瞬の攻防、堀北と茶柱は二人の動きを目で終えていなかった。分かったのは、綾小路が有平に攻撃を仕掛けたことだけだ。

 

「綾小路、貴様停学になりたいか?教師のいる前でいい度胸だな」

 

「茶柱佐枝、こんなものただの戯れだ。暴力でも虐めでも何でもない。お互いに足を滑らせただけだ。なぁ、綾小路清隆?」

 

「…………」

 

有平のフォローと言えないフォローに、綾小路は反応を示さず、ただ有平を睨みつけているだけだ。

 

「お前は何故そこまで暴力沙汰を表に出さない。入学式初日だって、お前がBクラスの神崎に胸ぐらを掴まれたことは、こちらも把握しているぞ」

 

「同じクラスで潰し合っても特がない、それにそんなつまらないことでBクラスに上がってもお嬢は納得しないだろうし、何より俺自身が面白くないからな」

 

話は終わりだと言わんばかりに、生徒指導室を後にしようと、出口へと歩みを進めていきながら、ドアノブに手を掛けたところで後ろを振り返った。

 

「Bクラスは現在Dクラスの上位互換だ。いずれ、同盟なり協力することもあるだろうよ。最終的には、反抗する気すら起こらないほど、ボロボロにしてからDクラスに落ちてもらうが。お前もそのほうが面白いだろ?茶柱佐枝」

 

今度こそ後ろを振り返らず、部屋をあとにした。

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