坂柳の戌は、何を見るか?   作:クッペ

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8話

僕を襲ってくる奴らで、一番厄介だったのは技を使ってくるやつだ。

あそこには格闘家を目指してドロップアウトしてきた連中もいた。そういった奴らは素人相手に本気で技を使ってきて抵抗できなかった。

やがて技に慣れてきたところで、次に厄介なのは単純に力が強い野生で、本能で戦っているタイプの人種だ。

小手先の技を極めようと、圧倒的な力の前では無力だった。

だから僕は相手の動きを見て、観た。細かい仕草から相手の動きを先読みし、相手の攻撃を躱し、急所を狙っていた。

そうでもしなければ、あの地獄のような世界では、生きていけなかったのだ。

 

# # # # # # # # # #

 

有平は寮を出て辺りを散策していた。すると寮付近の、監視カメラの置いてない自販機の近くで、一組に男女が言い合いになっていた。

男子の方は生徒会長の堀北学、女子の方はクラスメイトで堀北学の妹の堀北鈴音だった。

物陰に隠れ、経過を観察しようとしたが、学が鈴音の腕を取り、コンクリートの地面に投げつけ用としたのを見て、流石に看過できず物陰を飛び出し、学の腕を掴み動作を中断させた。

 

「流石にそれはいただけないぞ、堀北学」

 

「お前、坂柳有平か。部外者が何のようだ?」

 

「夜のこの時間の調和を乱したのはお前たちだろ。だったら原因を排除するまでだ」

 

「離せ、二度目はないぞ」

 

「この場を去れ、忠告はした」

 

学は鈴音を開放し、有平に向かって手を伸ばす。

有平はその腕を横から弾き、学の懐へと潜り込む。

学はバックステップをして距離を取ろうとするが、有平は追随している。

重心を落として回し蹴り、それを腕で受け止め回し蹴

り。有平のそれは学の側頭部を捉えたが、学も蹴られた方向へ自ら飛び衝撃を逃がす。

地面を転がり受け身を取り、真っ直ぐ距離を詰めてくる。有平も学との距離を詰める。

ブレイクダンスのような動きで学は有平の足を払う。咄嗟にバク転で距離を取り姿勢を低くしたまま特攻。

 

「もう辞めて、兄さん!」

 

鈴音が叫ぶが二人は止まらない。二人が互いにハイキックを決めようとしたところで、

 

「もうそのへんでいいだろ。何があったか知らないが、これ以上は問題になるんじゃないか?」

 

綾小路が間に入って二人の蹴りを受け止める。

二人は互いに距離を取り、息を吐いた。

 

「お前、何のつもりだ?」

 

「何って……二人がただならぬ雰囲気で喧嘩をしていたから仲裁を」

 

「よく俺たちの間に入ってこられたな。何かやっていたのか?」

 

「小学校の頃、ピアノと茶道なら」

 

「そういうことにしておいてやろう」

 

そう言って、学は口の端についた血を拭き取る。

 

「坂柳有平、生徒会に入る気はないか?」

 

「俺はお嬢以外の下で動くつもりは無い。お嬢の命令とあれば、話は別だが」

 

「まあいい、今はまだな。鈴音」

 

学に声をかけられ、地面に座り込んでいた鈴音はビクッとなる。

 

「お前がこの学校でどう過ごそうがどうだっていい。俺に迷惑をかけなければな」

 

「それが家族に対しての台詞なのか?随分と歪んでいるんだな」

 

「部外者が口を出すな。孤高と孤独を履き違えるな、鈴音」

 

そう言ってその場を去っていく学。有平もそれに倣って寮に戻ろうとするが、

 

「待って、坂柳くん」

 

後ろから鈴音に声をかけられる。無視しても良かったが、なんとなく振り返った。

 

「何だ?」

 

「えっと……兄さんと互角……いいえ、それ以上の実力なんて、貴方一体何者なの?」

 

「それを言うなら、その俺の攻撃を受け止めた綾小路清隆は一体何なんだろうな?」

 

「俺の詮索はするな」

 

「ハイハイ、どうせ詮索なんかしなくても、もう知ってる事だからな。なあ?作られた天才?」

 

「…………」

 

「それで俺が一体何者かって?俺は有栖お嬢の戌だ」

 

「違うわ、私が聞きたいのはそういうことじゃない。どうやったら、兄さんと互角以上に渡り合えるの?」

 

「それが、お前の劣等感の正体だな?堀北学に劣った自分。それを認めたくないけど、心の何処かではそんなこととっくに分かっていて、だから一人で何でもできてしまう堀北学の真似をしているのがお前だ、堀北鈴音」

 

「勝手な事を言わないでくれる?私はーー」

 

「お前の行動は孤高ではない、ただの孤独だ。それではいずれ限界が来る」

 

「…………」

 

「他人に協力を求めることは弱さではない。自分が劣っているならば、弱いと思っているならば、まずは自分の弱さを受け入れる所からだな」

 

有平はその場をあとにしようと思ったが、既の所で振り返った。

 

「明日も勉強会は図書館でやるんだろう?俺と須藤健も、そこに合流させてもらう。それと綾小路清隆」

 

「何だ?」

 

「確実に入手しておけ、さもなくば、Dクラスの赤点回避は殆ど不可能になる」

 

それだけ言って本当に寮に帰っていく。寮に戻ったのはいいが、いい時間になってしまっていたため、有平は星を眺めることなく布団に入った。

 

# # # # # # # # # #

 

次の日の放課後、有平は須藤を連れて図書館へと向かっていた。

彼らが向かった先は堀北たちが既に座っている場所だった。

 

「おい坂柳!お前こいつがいるなんて言ってなかっただろ!」

 

「そうだな、確かにここに堀北鈴音達がいることはお前には告げていない」

 

「場所を変えるぞ!こんなやつと一緒に勉強したって、捗りやしねえよ」

 

席についていた櫛田が須藤を落ち着かせようと席を立った。しかし有平は彼女の動きを手で制し席につかせる。

 

「そうやって堀北鈴音から逃げ続けるのか?お前の夢への想いは、か弱い女子高生に馬鹿にされた程度で冷めるようなものではないだろう」

 

「ちょっと、誰がか弱いって?」

 

「んな訳ねえだろ!ちょっと待ってろ」

 

有平を睨みつける堀北だが、有平はその視線を無視し、須藤が間に立って堀北を見下ろした。

 

「俺はお前が嫌いだ。俺の夢を馬鹿にする権利はお前にはない。だが、お前の言うことも、全部が間違ってる訳じゃないってことは頭の悪い俺でも分かる……悪かったよ昨日は」

 

その場にいた綾小路、池、櫛田、堀北、山内が須藤を見上げ呆然としている。

須藤と有平は彼らの視線を意に介さず、同じ机に座って参考書を広げ勉強を始めた。

 

「なあ、これって今回のテスト範囲なのか?」

 

「いいや、そう言うわけではない」

 

「じゃあなんでこんな英単語の書き取りなんてやってんだよ!?しかも中学校レベルの」

 

有平と須藤が行っていることは漢字、英単語、数学の公式の活用など、今回のテスト範囲ではない所を中心にやっていた。

 

「こんなことやってて、本当に赤点を回避できるのかよ?」

 

「出来るさ。少なくとも回避する確率は、お前がそれ等を覚えれば覚えるほど上がっていく」

 

彼らがそんなやり取りをしていると、堀北たちと話していた二人の男子生徒達が近付いてきた。

 

「ハッ!お前等今更中学校レベルの単語やってんのか!ハハハ!これじゃあお前等、テストの後はこの学校にいねえな!」

 

「んだとゴラ!」

 

「落ち着け須藤健」

 

「だけど坂柳……」

 

「落ち着けと言っている」

 

そう言って立ち上がり須藤を睨みつける有平。殺気を放ちながら睨みつけたため、須藤はヘナヘナと席に座った。

 

「マジかよ!須藤が睨まれただけで座らされるなんてな!お前も丸くなっちまったな!」

 

「お前たち、Cクラスの学生だな。俺たちに何のようだ?」

 

「いやなに、クズ共を見て少しでも悦に浸ろうってな」

 

「それはお前らの意思ではないだろ。そんな幼稚な事をするなんて、お前たちのトップもたかが知れているな」

 

「龍園さんを馬鹿にするな!」

 

そう言って有平に向けて拳が伸びてきた。有平は口に笑みを浮かべその拳を顔面に受け、吹き飛ばされる。

 

「坂柳!てめえ……!」

 

復活した須藤が、有平を殴り飛ばしたは学生を睨みつけ、首元へと手を伸ばした。

 

「ハイストップ!これ以上やると、君たちDクラスも問題があるけど、良いのかな?」

 

「一之瀬……違う、俺は、あいつが勝手に」

 

殴った学生は顔を青ざめ、冷や汗をダラダラと流していた。周りに大勢の人がいる前で暴力行為を働いてしまったからか、もしくはこの後の制裁を恐れてなのか、目の焦点が定まっておらず、その場に座り込んでしまった。

 

「ここは図書館だよ?利用するなら静かにね」

 

「余計な口を挟むな、一之瀬帆波」

 

有平は起き上がり、口の端についた血を制服の袖で拭い取る。

吹き飛ばされた瞬間、有平は自ら後ろへと飛び、過剰な威力であると周りに思わせた。

その際口の端を噛み切って血を出すことでそれを過剰に演出させようという目論見だった訳だが、仲裁が入ったことでその効果は減少してしまった。

 

「これで、お前たちのボス猿の目論見は潰えた。いいや、見方を変えれば目的は達成されたと言えるかもしれんな。どうせ、停学もしくは退学者が出たクラスのポイントの差し引きが知りたいんだろうが、残念ながら俺たちは現在クラスポイントは0だ」

 

「違う!俺は寸止めするつもりで……」

 

「それがどうした?現に俺は流血沙汰の怪我を負ってる。そしてここは図書館だ。先程一之瀬帆波が言ったとおりだ。静かに使用しなくてはならない場所で、周りには多くの学生がいる。今の俺達の行動を録画しているやつだっているだろうよ」

 

殴りかかってきた学生に、有平は歩み寄っていく。下から見上げるように挑発をしていた。

 

「おめでとう一年Cクラス、俺が学校側に訴えたら、いいや、訴えなくてもお前は停学、もしくは退学だ。大量のクラスポイントが引かれることは覚悟しとくことだな」

 

男子学生たちの冷や汗は止まらない。やがて彼等は騒ぎを聞き駆けつけた司書たちに連れて行かれた。

 

「先程も言ったが、余計な口を挟むな一之瀬帆波」

 

「そう言うわけには行かないよ、皆が迷惑していたことは事実だし。あのままじゃ、須藤くんだって参加してもっと大騒ぎになっていただろうし」

 

「お前が口を挟まなければ、更に追い打ちをかけることだって出来た。そうすればお前たちBクラスにだって利益のあることだろう」

 

「そんなことで開いたポイント差なんて嬉しくないよ。皆で協力してそれで勝つことにーー」

 

「甘いな。やはりお前はトップの器では無い」

 

話は終わりだというふうに、有平は席に付き勉強を再開させる。一之瀬はそんな有平を軽く睨み、櫛田と少し話をして図書館を後にした。

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