告白に成功するまで卒業できません   作:嵯峨野広秋

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大は小を兼ねる

 デカすぎるだろ、というのが第一印象だった。

 学校のなかで一番はじめに目にふれる場所――それが校門だ。その幅が広い。30メートルぐらいある。入ってすぐ、左右に桜の並木があって、正面奥に校舎があるという配置。

 門というか、フェンスみたいなものはない。何年も前に廃止されたそうだ。

 門の柱だけがある。

 その柱から、突然、深森(ふかもり)さんがあらわれた。

 

「どうして知ってたのか、教えてくれる?」

 

 おまえには教える義務があるぞ、と言わんばかりの迫力。

 下校どきで、あたりには生徒がけっこう多い。動線をさけてすみっこには寄っているが、ちらっちらっ、と見られているのを感じる。深森さんがつけている黒メガネのせいだろう。目立つからな。

 

「あー……」

「はやく」

 

 ずい、と彼女が一歩近づいた。

 とぼけてもしょうがないか。

 おれは、今おれがおかれている状況を説明した。

 

「ちょっと待って」

 

 眉間に、細い人差し指をあてている。

 

「えーと、じゃあ……あなたの一つ前の〈高校三年生〉のときに、私がカミナリや犬が苦手っていう弱みを見せたっていうのね?」

「そうだよ」

「で、そこで告白に失敗して、また〈高校三年生〉をやりなおすことになった――こういう認識で合ってる?」

「合ってる。それで、今が四回目なんだ。告白がうまくいかないと、ずっとこんな感じで高校生活がループするんだよ」

「あ。はーい、わかりました~」す、す、と彼女の立ち位置がはなれてゆく。「ソレハ、タイヘンデスネ~」おれには、こんなふうにカタカナで聞こえたぞ。おい。完全にヤバいヤツを前にしたような対応じゃないか。

「深森さん!」

 誤解だ。

 おれは彼女の背中に呼びかける。

 立ち止まった。

 肩ごしにこっちをふりかえると、

 

 ……かわいそうに

 

 唇が、そう動いた。

 バキーン、と心が折れた気がした。

 なにくそ。折れれば折れるほど、強くなることだってあるんだ。

 走った。

 走って、追いついた。

「ちょっ、はなしてよ」

 手首をつかんだ。

 我ながら、強引なことをする。

「深森さん。わかってくれ。おれは、うそは言ってない」

「は? さっきの話のこと?」

「そうだ。あれは全部事実なんだ」

「妄想でしょ?」おれにつかまれていないほうの手で、メガネのずれを直す。「妄想をリアルだと思ってる……こんなこと言いたくないけど、かなり重症だよ?」

「でも、深森さんが言ったことじゃないか。『カミナリと犬が苦手なことを知ってるのは学校にいない』って。本当に妄想だったら、そこを説明できないはずだ」

「学校にはいないけど、ゼロってわけじゃないから」

 くっ。

 そう言われると、言い返せない。

 おれは、彼女から手をはなした。

 にらまれてる。レンズにさえぎられてて見えないけど、確実に。

 終わったな。

 かなり嫌われてるよ。

 美女木(びじょぎ)のアドバイスにあった。恋愛は最初の印象が大事だって。たしか初頭(しょとう)効果とかいってたっけ。はは……いい記憶力だぜ、自分。

 おれがふれていた手首のあたりをさすりながら、

 

「――しなかったの?」

 

 ぼそっと口にする深森さん。

 しなかった? 何を?

「え?」とおれは聞き返した。

 

「一つ前のとき、どうして私に告白しなかったの?」

 

 どことなく、さみしそうに言う。おれの願望でそう聞こえているだけかもしれない。

 立ち去る彼女。

 頭のうしろでゆれる二本の〈おさげ〉が、一瞬、フッと消えてショートの髪型になった。

 

 ◆

 

「めずらしいなー、シラケン」

 

 さわやかな笑顔でむかえてくれた。

 

「入って……大丈夫か?」

 

 ここは文芸部の部室。長机を〈コ〉の字に組んだ小会議室だ。

 いーよいーよ、と手招き。急に押しかけたのに迷惑そうな顔一つしない、ほんとに黒磯(くろいそ)はいいやつだ。

 始業式の日から三日たった日の放課後。

 おれは美女木に会いにいったが、つかまらなかった。

 で、行くアテを失って、なんとなくここに足が向いた。

 べつに、

 

「ソアに会いに来たんじゃないんだけどな」

 

 と、おれは念を押す。あいつも文芸部員で、将棋部とかけもちしている。

「わかってるよ」と黒磯。「残念だけど、ソアちゃんは今日は休みさ」

「わかってないじゃないか」

 はは、と白い歯を見せて笑う。とりあえず、こいつの隣のパイプ椅子に座った。

 ノートパソコンのキーボードをうちながら、

 

「リンちゃん。更新できてる?」

 

 と唐突に言った。

 

「あう~まだです~ぶちょお~」

 

 入り口の近くに座る女子の声。小柄で小動物っぽい感じの子だ。おそらく下級生だな。一年はまだ入学式をやったばかりだろうから、二年生か。

 

「最低三日に一度は一話更新。これ、文芸部の鉄則だよ」

「あう~筆がおそくて~」遅いのは筆だけじゃなさそうだな、と、彼女のロングトーンの声をぼんやりと聞いた。「なんとか今日中には~」

 会話が区切られたところで、おれは質問した。

「文芸部って、このほかにはソアだけか?」

「ああ」

「すくなくないか? 存続できるのか?」

 そこだよ、と言って黒磯はENTERキーをターン! と押した。

「はっきり言ってむずかしい。でも、一人だけ入るアテがある」

「へえ」

「それよりシラケン、なんか小説のアイデアはないか?」

 うってつけのがあるよ、とおれはストーリー仕立てで今のおれ自身の境遇を語った。

 ふうん、と黒磯はあまり興味を示さない。しかも

 

「カンタンそうだけどな」

 

 とか言いやがる。

 どういうことだよ! って、つい声が大きくなってしまった。

「たしかにおまえぐらいイケメンだったら、楽勝かもしれないけど」

「や。そうじゃねーよ」たとえばさ、と後輩女子のほうに体を向ける。「リンちゃんみたいな子にありのまんまを説明してさ、つき合わなくていいからオッケーだけしてくれ、って口裏を合わせるだろ。そのうえで『おれとつき合ってくれ』」

 ぼふん、と女子の顔からケムリがあがった……ように見えた。

 それほど、あっというまに顔が真っ()っかになった。

 あーそういうわけか。この子は、黒磯のことが気になってるんだな。

「って言ってオッケーをもらう。これでクリアじゃん。卒業できるだろ?」

「そんなにうまくいくかよ」

 現実問題、妄想癖アリアリのヤバ()あつかいされたしな。

 待てよ……

 

「おれと、つき合ってください」

 

 リンちゃんと呼ばれる子に近寄って、おれは手をさしだした。

 え? こんなあっさりなことでいいのか?

 もし彼女が「うん」と一言、この場かぎりの冗談でもそう言ってくれたら……

 

「あう~……い、いやですぅ~」

 

 ことわるのかよ!

 ははは、と遠慮もなく大笑いしている親友。

 くそ――だが、すこしヒントが見えた気がしたぞ。

 

 下級生

 

 美女木も「最上級生の立場をいかして、下の子を狙うのもおすすめだ。あこがれみたいな感情があるからな。実際、男が年上で女が年下っていう組み合わせは圧倒的に多いんだぞ」そう言っていた。

 その路線を狙ってみるのもいい。

 ともかく、

 

「丁重にノーを申し上げます~」

 

 このリンちゃんだけは、絶対に無理みたいだけどな……。

 

 こんこん、とノックされた。

 

「あっ、きっと妹です~。一年に、わたしの妹が入ったんですよ~。それで文芸部にも入るって約束をしたので~」

 さっき言ってた新入部員のアテってやつか。

 妹だって?

 ということは、彼女と同じように小柄で小動物っぽくて、しゃべりかたもおっとりしてて、おとなしい雰囲気の子なんだろうな。

 なかなか入ってこない。

 ()けてやるか。

 ちょうど近くにいたおれが、引き戸をひいて迎え入れる。

 

「はじめまして」

 

 よくとおる、ハキハキとした発声。

 

「一年の横溝(よこみぞ)です。入部しにきました」

「あ、そう……」

「あなたが部長ですか」

「いや、おれはちがう。あそこにいる、あいつ」と、黒磯を指さす。黒磯も、さすがに度肝を抜かれているようだ。キーボードを打つ手がぴたっと止まっている。

「どうも」

 おれと目を合わせて微笑を浮かべた彼女の()が、おれの目の()を横切った。

「えっと……新入部員かな? キミ、けっこう背が高いね」と文芸部の部長が言う。

「はい。179センチです」

 うそだ。

 おれにはすぐわかった。

 それ、きっと169センチのヤツが170ってサバを読むのと同じヤツだ。その逆バージョンだ。

 たぶん180以上。

 デカすぎるだろ、というのが第一印象だった。

 

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