告白に成功するまで卒業できません   作:嵯峨野広秋

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下手の考え休むに似たり

 どういうことだよ。

 おれが女子といっしょにいるところを邪魔したのは、深森(ふかもり)さんの指示ではなくソアの判断だったというのか?

 あいつ……。

 まあでも、ありそうな話か。

 昔から、思いつきでおれにイタズラしたりビックリさせたりっていうのはあったからな。

 あまり深く考える必要はないだろう。

 

「なあ……白川……」

 

 それより今のコレ。こっちのほうが重要。

 卒業するためにいろいろ助けてくれてる美女木(びじょぎ)が困惑している。

 おれもだ。

 

「気にしないで。話をつづけて」

――「つづけられるかよ」

 

 息ぴったり。

 おれと美女木の声がきれいにそろった。

 レジが一階にあって、地下にイートイン席があるタイプのファーストフード店。赤色が店のメインカラーで、椅子もソファも赤い。

 

()けたのか?」 

「だから何」

 この世に尾行を取り締まる法律なんかないじゃない、ぐらいの強い言い方。

 おれは、それ以上もう何も言えなくなった。

 ほんの数秒前、横からスッと彼女があらわれて、おれたちが座っているところに相席したんだ。

「おいしい」

 ハンバーガーをガブリといく深森さん。見た目に似合わず、豪快な食べっぷりだ。

「白川……どうするよ?」ポテトをつまむ美女木。「てか、おれはこの子と初対面なんだぜ? かるーく、ご紹介ねがえるか?」

 (かど)の席。四人がけ。おれは壁際にいて美女木はその対面。

 深森さんは、おれのとなりに座った。

 テーブルのサイズ上しょうがないのか、ちょっと距離が近い。

「えっと、彼女はおれのクラスメイトで」

「待って」おい。食べ物を口にふくんだまま発音するなよ。

 とりあえず待ってみたものの、ずっと無言。

 かすかな咀嚼音だけが聞こえてくる。

 冗談だろ……待って、って、私が食べ終わるまで待って、って意味かよ。

 

「私が誰かとかどうでもいいの」

 

 ナプキンで口をふいたあと、唐突に深森さんは言う。

 

「白川君の身に起こっている奇妙な現象をなんとかする。それがすべて」と、きめポーズのようにメガネの横のところを敬礼みたいな手でさわる。「で、あなたたちはここで何をしてるわけ?」

「恋愛がうまくいくように、相談してるんだよ。アドバイスをもらってる」

 おれは説明した。

 しかし美女木は空気を読まず、

 

「まさかグラ子さんとお近づきになれるとはな~」

 

 彼女の顔をまじまじと見ながらうれしそうにしゃべってるけど、その〈グラ子〉ってなんだよ。

 

「つくづくセンスを感じないあだ名ね」

「あ。ほかのクラスのヤツにそう呼ばれてるの、知ってた?」

「ええ」

 

 ちゅー、と何かの飲み物をすする深森さん。色からすると、コーラかコーヒー。

 会話が途切れたかと思うと、やぶからぼうに美女木が言った。

 

「白川。ミッションコンプリートだ!」

 

 おれは「え!」という顔で彼女は「は?」という顔。

 なにを言い出すんだ、いきなり。

「いるじゃん。告白OKの相手が。いま狙ってるのは一年のランちゃんだろーけど、おまえの最終目標はカノジョをつくること――」だろ? と片方の眉をあげる。

「いるって……どこにだよ?」

 びっ、と指さした先には、

 

「……」

 

 予想どおり、深森さんがいた。

 ぱっと見でサングラスだと誤解されてしまう、医療目的の黒レンズのメガネは不動。

 

「私、あなたみたいなタイプ苦手」容赦ない物言い。「笑わそうとしたサービスだとしても……」

「わかるんだよ、おれ」美女木が、両手を頭のうしろにもっていく。「誰が誰を好きか、ってのが一瞬でわかる。そういう才能があるのさ」

 おいおい。

 それって――深森さんがおれを好きってことか?

 

「百万賭けてもいいぜ」

「そう……長い分割払いになりそうね」

 

 ばっちばちじゃねーか!

 そうじゃない。おれは、こんなことのために放課後に美女木をさそったんじゃないんだよ。

「ま、まあまあ」と二人をなだめる。「美女木。彼女も味方なんだよ」

「あん?」

「おれがランちゃんにアプローチする手助けをしてくれる。つまり、そういうことだ」

 だろ?

 深森さんは、おれのループする高校生活を終わらせたい。その思いはおれも同じ。

 だったら着地点は必然的にそうなる。

 

「手助けか……まあ、そうかも。とにかく、白川君の告白が成功すれば、それでいいの」

「だからー。キミが白川の告白を受けてオッケーすりゃオールオッケーでしょ、って」

「ナシ」

 うっ。

 どんどん心のキズが大きくなってる気が……。

 美女木、もうその話題を彼女にふるのはやめてくれ。

 となりの〈グラ子さん〉を無視して、おれは伝える。ここ何日かの、ランちゃんとの進展具合を。

 もちろん今日の出来事も。

 

「ほう」

 

 と、あごをさする。

 そして、

 

「なかなか面白い展開になったじゃん」

 

 そんなことを言う美女木。

 

「てか、なにげにリア充か~、白川~」

「え?」

「かわいい幼なじみちゃんがいて、おまけにこんなかわいいサポーターまでいて、さ」

 やりやがる。

 さらっと「かわいい」って深森さんをほめやがった。

 さすが恋愛のベテランだ。

「どうすればいい?」

「一択!」とあいつは人差し指を立てた。「自己開示の返報性だよ」

 ああ、こいつがくれた恋愛メモのどこかに、そんなの書いてあったな。

 自己開示――っていうとむずかしい感じがするが、ようは弱みを見せろってことだ。

 弱点をぶっちゃける。

 たとえば、何かに失敗したエピソードを話すと、相手も同じようなことをお返しに教えたくなる。

 この場合は、

 

「わるいが、幼なじみちゃんに悪者をやってもらうか」

 

 束縛がキツいとか、独占欲が強いとか、そんな理由でカノジョに弱ってるって打ち明けてみろ、と美女木。

 

「か~ならず、うまくいく」

 

 機嫌がよくなったからか、指をパチーンと一発鳴らした。

 びくっと肩が動いた深森さん。

 そのまま席を立つ。

 

「不快。はっきり言って、あなたたちみたいな人、大嫌い」

「わかってる」

 おれが見上げる視線と、彼女が見下げる視線が、合った。

「計算や打算と、女心をもてあそぶのは、まったくべつの次元の話――だろ?」

「それ……何回か前の〈私〉が言ったのね?」

 ループうんぬんを知らない美女木だけが蚊帳の外。

 こいつら何言ってんだ、の表情。

 

「考えとくから」

 

 そう言い残し、すみやかに退場してしまった。とはいえ、ちゃんと自分のぶんのトレーは片づけて店を出ていったけど。

 考えとくって何をよ、と美女木がつぶやいた。

 おれも、それを知りたいよ。

 

 ◆

 

 翌日。学校がない休みの日。

 ごろごろしていたところに、メッセージが届く。

 あ……見おぼえがあるぞ。この、カノジョとピースしてる自撮りの画像。

 みじかい文章。

 

 オシャレして外へ出よ

 

 美女木だ。

 外見をみがけ、ってことでこんな……

 

(待てよ)

 

 思い出した。

 ソアだ。

 たしか、もうすぐあいつがこの部屋に来る。

 そうか。今日だったっけ。高校時代唯一〈女子とお出かけ〉した(だい)イベントの日は……。

 急いで部屋着から外出用に着替える。

 

(ちょっとビックリさせてやるのもアリだな)

 

 ドアの近くに移動して、息をひそめる。

 ドアをあけたところを、

 

「じゃあ行くか」

 

 とか言って、おどろかせよう。ふっ。おどろくだろうな。「なんでなんで?」ってあたふたするあいつの姿が目に浮かぶよ。

 昨日、ランちゃんとの貴重な時間を妨害したお返しだ。

 しかし、

 

(来ない)

 

 時計の針の音だけが静かな部屋にひびいている。

 前回は、とっくにこの部屋にあいつがいたのに。

 

 おめかししたソアが、

 

「ヒマならつきあってよ」

 

 って、やってきたのは間違いなく今日だ。

 で、二人でデパートに出かけて、そうだよ……そこで遠峰(とおみね)さんにフられたんだよな……。

 いい思い出のない休日だ。

 十二時。外の天気は晴れ。

 一時間も待ったが、状況は変わらない。

 

(なんでだ?)

 

 結局、その日おれがソアの姿を見ることはなかった。

 おいおい。何を残念がってるんだよ、おれ。

 きっと……一人か、誰か女の友だちと行くことにしたんだよ。

 深い意味はないさ。

 一回目も二回目も三回目も同じだったソアの行動が変化したのは、ただの偶然――だよな?

 

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