告白に成功するまで卒業できません   作:嵯峨野広秋

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花に嵐

 これはデートだよな。

 そう思っていいだろう。

 

「当たり前じゃん」

 

 と、相談相手の美女木(びじょぎ)も同意してくれてるし。

 食堂。

 昼食の時間を利用して、おれはこいつに恋愛のアドバイスを求めていた。

 

「いろいろ聞きたいんだけど」

「おお。なんでもこいよ」たのもしいヤツ。食べてるのは大盛りのパスタ。

「デートで一番気をつけるのって、どこだ?」

 ノータイム。

 すらりと、こうこたえた。

 

「メシ」

 

 いく場所とか時間とかオシャレとか会話とか、ぜんぶひっくるめてそれか? と問いただすと

 

「メシだメシ」

 

 つよく断言する。

 そして、おれの知らない言葉がこいつの口から出てきた。

 

「ランチョン・テクニックっていうのがあってな――」

 

 いわく、食事で満足できれば、いっしょにいる相手にも満足した、と思い込みやすいことらしい。

 これを恋愛の技術として使う。

「それ……デートのタイミングが昼食とか夕食とかと合わないときはどうするんだ?」

「んー、まあ、それでも目的地には行くだろ? そのあとで、かるーくお茶のみませんか程度のトコでいい」ただし、と美女木は手を向ける。「うまいトコにかぎる。または店の雰囲気がいいとかでもいい。ようは、その空間で心が満たされることが必須なんよ」

 おれは目をつむって、所持金のことを考えていた。

 それを読み取ったのか、

 

「バカ、白川。そんなに高くなくて、いいものを出してくれる店はいっぱいあるんだぜ?」

 

 どこに行くか教えろよ、と、美女木はまるで自分が参加するかのように楽しそうだ。とてもいきいきしている。

 

「へー、けっこう遠いじゃん。でも映画だろ?」

「なんか……単館上映とかなんとか、いってたんだ」

 ふーん、と食事をつづける。

 どうやら映画の内容にはさほど興味がないようだ。

 たしかあのへんは……とか言って、つぶやいている。

 

「夜にまた、データ送ってやるよ。心配すんな。おれは自分の眼と口でたしかめていいと思ったモンしか、他人に紹介しねぇから」

 

 でも「遠い」って言ってなかったか?

 まったく……どれだけ行動範囲がひろいんだよ。たぶん、あのかわいいカノジョとあちこち行ってるんだろうな。

 おれたちはほぼ同時に食べ終わる。

 

「美女木。もう一つだけ……いいか?」

 

 迷ったが、おれは〈もうひとつの悩み〉も打ち明けることにした。

 

「仲直りのいい方法、知らないか?」

「仲直りぃ~?」

 フォークをメトロノームのようにふった。

「それはおれの専門外だぜ、白川よぉ。なぜって、まだハニーとは一度もケンカしたことないんだからな」

 うらやましいよ。

「相手は誰だ」

「その……ふつうの友だちだよ。男のクラスメイト」

 うそである。

 この程度だったら、バチはあたらないだろう。

 

「あやまれ」

 

 ペコリ、とにぎっているフォークの頭をさげた。

 

「それが一番いい。意地はってていいことなんか一つもないからな。野郎だったら『すまん』の一言で即解決よ」

 野郎じゃないんだけどな……。

 意識すればするほど、だ。

 今日もソアとは口をきいていない。

 そもそものきっかけは、あいつが勝手におれの〈カノジョ〉を演じたせいだと思うんだけど。

 いや、それをいいことにランちゃんへの告白に利用しようとしたのがダメだったか。

 家の中や家の近所ならともかく、高校の教室で

 

「コクちゃん」

 

 と呼びかけられるのは、小学生とか中学生のときまでふっと思い出して、そこから成長できてないようで、おれはあんまり好きじゃなかったけど……いざ、それがなくなってみると――

 

(さみしい、か?)

(べつに、さみしくはないだろ)

 

 自問自答。

 ただモンモンとする。

 こういうのを表す、恋愛の用語ってなんかなかったっけ。

 いつもやってたことを、何かの拍子にやめてみる。

 おれが、あのとき遠峰(とおみね)さんへの挨拶をやめたように。

 単純接触の原理?

 頭をあげたら、美女木はもう目の前にいなかった。おれが考え事をしているうちに、一人でさっさと食器を片づけにいってしまったみたいだ。

 もし遠峰さんも、すこしでもこんな気持ちになっていたのなら、申し訳ないとしか言いようがない。

 深森(ふかもり)さんの言うとおり、目先の計算だけでこんなことするのは「あほ」だ。

 結局、その日も仲直りはできなかった。

 

 ◆

 

 日曜日。最高の天気だ。

 なのにテンションがさがる。

 新品のスニーカーのくつひもが切れた。不良品だったのか? あまりこんなこと、ないんだけどな……。

 仕方がないので、あまりきれいじゃない、履きなれたほうで外出。

 久しぶりにバスに乗った。

 目的の映画館が、駅からは遠いところにあるからだ。

 バス停の前で、全員集合した。

 

「もうスイートピーが咲いてるんですね」

 

 近くの花壇を見ながら言うランちゃん。そのそばには姉のリンちゃんもいる。親子づれ……しかも子どものほうは幼児ぐらいに感じてしまう身長差。 

「これがそうなんだ」すっ、と抜け目なく彼女との距離をつめるおれ。「このピンクの花?」

「です~」と、返事したのは姉のほうだった。「こーいう小さくてかわいい花って、食べたくなりませんか~」

 なりませんね、という妹の冷静な敬語ツッコミ。こうして見ると、やはりランちゃんのほうが年上だとしか思えない。

 

「どうした、シラケン?」

 

 自然にふるまっていたが、やっぱり気づかれたか。

 

「いや……ちょっとな……」

「ソアちゃんだろ」

 

 するどい。

 

「そうだよ! 忘れてた! シラケン、ソアちゃんが電話くれって言ってたぞ」

 

 と言い、おれの背中をバンバンをたたく。

 ちょっと時間やるからさ、と自分は横溝(よこみぞ)姉妹のほうへ移動し、おしゃべりをはじめる。

 電話って――。

 あいつが?

 おかしいとは思ったんだよ。

 二言三言やりとりしてすぐに、それが黒磯のヤツのうそだってわかった。

 気を利かせてくれたんだな。

 助かったといえば助かった。

 気がかりなことがあるとデートに集中できないのも事実だからだ。

 男らしくいくか。

 

「すまん」

「え……?」

「おまえを利用とかっていうのはひどかったよ。そんなつもりはなかったんだ。その……おれも……けっこうテンパってるっていうか、あとがないっていうか……」

「なんの話?」

「とにかくソア。利用とかそんなんじゃなくて、おまえには手を貸してほしいんだ。幼なじみとして、この借りは将来、絶対に返すから」

「返すって」こほん、とスマホの向こうで咳ばらい。「いつよ?」

「まあ……十年以内には」

 ははっ、と明るい声がきこえた。

「かなわないなぁ、コクちゃんには」すん、と鼻をすすった音がしたが、たぶん泣いてるわけじゃないだろう。「すくなくとも、あと十年はいっしょってわけね」

「ああ」

「はいはい。じゃあ」

 電話を切りそうなところを、あわてて引きとめた。

「待てよソア。今日、ヒマだろ?」

「あらら」おれの頭の中のあいつが、ひたいをおさえた。「ご存じでしたか」

「今からでも、いっしょに映画を観ないか。文芸部のみんなもいる。来いよ」

「めんどくさ~」

 長いつきあいだからわかる。

 言葉とは裏腹に、わるい気はしていないようだ。

「駅から遠いじゃん。今日、家にパパがいないから、車で送ってももらえないし……」ばたんばたん、とうしろで物音がしている。ソアのやつ。さっそく着替えを取り出してるな?「タクシーっていうのは、なんか(えら)そうな感じがするし……バスは時間が読めないし……あっ!」

「どうした」

「自転車があったかも。それでいくよ」

「まあ、ムリな距離じゃないな。それでこい」

「了解了解」

「いそげよ」

「ふっふ~、ソアちゃんエンジンはねぇ、時速100は出るから」

 ぴっ、と向こうから電話を切った。

 話してる時間がおしい、という感じだったな。

 ともあれ、ソアもくることになった。

 それを黒磯に伝えたら、案の定、めっちゃよろこんだ。

 

「じゃ、合流するまで時間をつぶそうぜ」

 

 とりあえず目についたゲームセンターに入り、いろいろ遊んだり写真を撮ったりして、一時間ぐらいすごす。

 そして映画館に移動。

 そこでも、一時間ほど待った。

 

「もうはじまるぞ」

「先に入っててくれ。おれは、ここで待つよ」

 

 にっ、と満面の笑みの黒磯。

 

「それでこそシラケンだよ! そうそう、ここはやっぱり、ソアちゃんを待つよな!」

 

 うれしそうに言いやがって。

 おれも映画は観たいし、当然、ランちゃんのとなりに座りたい。

 でもしょうがない。

 あいつがここに来ることになった責任の一端はおれにあるんだから。おれが呼んだんだから。

 

 スマホに着信。知らない番号だ。

 

「――あ、浩君か?」

「はい」

 

 声ですぐに誰かわかった。ソアの父親だ。

「ちょっと……聞いてほしいことがあるんだ。今、話ができる状況かい?」

 体から血の気がひいた。

 ソアのお父さんは物静かな人で、もちろん冗談を言ったりするタイプではない。

 そんな人からの突然の電話。

 何か、あったにちがいない。

 どうか冷静にね、とおれに念を押す声も、かすかに息づかいが荒くて必死で我慢しているようだった。

 

「うちの娘が、交通事故で重体だ」

 

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