告白に成功するまで卒業できません   作:嵯峨野広秋

28 / 41
嵐の前の静けさ

 スマホの画面が割れた。キズがつかないよう、けっこう大事に使ってたのに。

 親友の黒磯(くろいそ)が笑いながら駆け寄ってくる。

 

「あーあ、やっちゃったなぁシラケン。派手な音がしたから何かと思ったら……スマホ、壊れてないか?」

「いや」

「え?」

「ソアが事故った、って」

 

 おいおい、と顔つきが変わる。

 異変を察してか、ランちゃんたちも近づいてきた。

 

「どうかしたんですか?」

 

 二人のうちのどっちかが、心配そうにたずねた。

 

「えっと……」と、おれが説明しようとすると、

 

「いけっ!」

 

 黒磯のするどい声。

 

「病院は聞いたんだろ? じゃあ、はやくいけ!」

「黒磯……」

「彼女たちにはおれから伝えとく。さあ!」

 

 背中をぐっと押された。

 体が前に出て、そのいきおいのまま車道まで走る。

 タクシーで病院へ。

 待合室に、ソアのお父さんがいた。

 

「ふだん自転車なんかに乗らない子なんだが、今日にかぎって……。それに、ずいぶん急いでいたみたいで、赤信号に変わろうとしているのを無理して渡ったらしいんだ。それが」

 

 いけなかったんだ、と肩を落とした。

「あの……」

 言い出しにくいが、言わないわけにはいかない。

 これは、おれのせいだ。

 おれが、あいつを映画館に呼び出したから――

 

「浩君」

 

 すっと椅子から立ち上がった。

 この人になぐられるかもしれない、そう思った。

 

「娘を遊びに誘ってくれて、ありがとう」

 

 ありがとう?

 お父さんは、小さく頭をさげた。

 

「よっぽどうれしかったんだろうな。それがよくわかるんだ。だからお礼を言いたい。まちがえてもソアの事故は、浩君のせいじゃないからな」

 

 気をつかわれてしまった。

 おれがここにいても、負担をかけてしまうだけかもしれない。

 じつは、会話はできるレベル――腕や足をちょっと負傷しただけ――じゃないか、という淡い期待もしたが面会は謝絶。

 くわしい容態はわからないし、しつこく質問するわけにもいかない。

 帰ったほうがよさそうだ。

 スマホから音が出てくるのがこわいから、その日は黒磯にも連絡しなかった。

 この状況で、もしソアの父親から電話がかかってきたら、その意味は……。

 寝れない。

 そのうちに、朝になった。

 月曜の学校。

 いつもの時間のいつもの電車に乗る。

 窓の外も、いつもどおりだ。

 

 もう告白どころじゃないぞ……。

 告白どころじゃ……

 

「あーなーたはぁ……告白に成功するまで卒業できませーん!!」

 

 頭に大声がひびく。どんな顔だったかも忘れた、コンビニで遭遇したなぞの女の人の声だ。

 うるさい、わかってるよ。

 そのせいでおれは……おれは……ん? 待てよ。

 逆に、このルールを利用しよう。

 あいつが事故にあった〈高校三年生(いま)〉をなかったことに。

 

(……)

 

 一瞬、まぼろしかもしれないが、病室で苦しむソアの姿が見えた。

 時間の猶予はない。そのやりかたに賭けるしかない。

 問題は、

 

(これまでにランちゃんにやってきたことが、うまくいっていた可能性だ)

 

――「おはようございます」

――「お昼、いっしょに食べませんか?」

――「魅力的だと思います」

 

 大丈夫だとは思うが、万が一にも、今回だけは成功しちゃいけない。

 わかりました、なんて言われたら終わりだ。

 本来、大成功なのに。

 ……大ばかだな、おれは。

 

「ばかか」

 

 と、美女木(びじょぎ)もおどろいている。

 昼休み、廊下を歩いていたあいつに話しかけた。

 

「告白が失敗する方法を教えてくれ!」

「あん?」

 

 そのあとのセリフがそれ。

 美女木は、あからさまに失望したような目をおれに向けた。

 

「白川よぉ……もしかして、ずっとからかってたんじゃないだろうな?」

「いや、その」

「ヤメだヤメ! もうおまえとのつき合いもこれまで。絶交だよ。ったく……時間と手間をかけさせやがって……」

 舌打ちを残して、あいつは行ってしまった。

 そして放課後。

 

「白川君……いったいどういうことか、説明して」

深森(ふかもり)さん」

「いいから、まず手をはなして」

 

 すぐに教室を出て行った彼女を追いかけて、正面玄関のあたりでつかまえた。

 強引に〈手で〉つかまえた。

 どうしても話がしたかったからだ。

 

「ソアが交通事故にあった。重体だ」

 

 え、と細い声。

 担任は事情を知っているはずだが、そのことをみんなには伝えなかった。忘れていたとは思えない。とりあえず今日のところは伝えないことにしたんだろう。

 テレビのニュースでもやらなかった。

 あんなに大きな……おれにとっては、大きな交通事故なのに。 

 だから、クラスでそのことを知ってるのはおれと黒磯だけ。

 

「心配ね」

 

 深森さんは、頭の回転がはやすぎる。 

 

「私に告白するのね?」

 

 おれが何を望んでいるか、すっかり見えているみたいだ。

 

「どうぞ。告白してよ」

 

 まわりを歩く生徒は多い。下校どきだから当たり前だ。

 かまわない。

 かまっている余裕は、ないんだ。

 

「好きだ。深森さん。おれと、つき合ってくれ」

 

 おれの考えが正しければ、たぶん、うまくいかない。

 それは告白が失敗するって意味じゃなくて。

 確認する必要がある。

 そのための告白だ。

 

「――深森さん?」

 

「あ、ああ。ごめん。ちょっと考え事してた」

 

 ささっ、と黒いメガネの横の部分をさわる。なんだか、あわてているようだ。

 ?

 しっかりしてくれよ。

 

「おれと、つき合ってくれ!」

「いやです。お、おことわりします」

 

 緊張しているのか、彼女の声はすこしふるえていた。

 でもこれでOK。

 条件はすべてととのった――が、

 

(ダメか)

 

 遠峰(とおみね)さんのときのようにならない。

 高三の卒業式の日まで飛ばない。

 やはりな……あのときも何も起きなかったから。

 

――「おれと、つき合ってください」

――「あう~……い、いやですぅ~」

 

 とっさの冗談だったとはいえ、あれも立派な告白だった。

 文芸部の部室でやった、二年のリンちゃんへの告白。

 思い返してヒヤリとしたんだ。また最初からやりなおしになったかも、だからな。

 

「白川君?」

「大丈夫」

 

 じゃない。

 おれの手のひらは汗でびっしょり。

 考えられる理由は二つ。

 一つは、告白が真剣じゃなかったから。おれの気持ちが入ってないから、ノーカウントだったというものだ。どうやって〈気持ち〉なんかを確かめてるのかっていう、疑問は残るけどな……。

 もう一つは――

 

「よくわからないけど、私は邪魔ね。あとは、うまくやりなさい」

 そう言って、深森さんがはなれてゆく。

 突然まわりが静かになった。音がなくなった。

 うつむいていたおれの視界が、うす暗くなる。

 体の大きな誰かが、正面に立ったようだ。

 顔をあげる。そこには、

「白川さん……」

 ランちゃんがいた。

 

 ――ループする高校生活が、今回のこれで最後だということ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。