人柱達   作:小豆 涼

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今回はオリキャラが登場です。

ではお楽しみください。


ワシが斬るのは未来を繋ぐためでの。

上弦の陸を倒して、少し。

あの後すぐに失血で昏倒した炭治郎を隠が急いで蝶屋敷に運んだ。

炭治郎はやはり胸の傷が深く、一か月程度眠ったままだった。

 

今回、上弦の陸を参座が早急に倒したこともあり、吉原の住人を除けば重傷者は炭治郎一人だった。

 

そして、伊之助は宇随嫁を救うために尽力。

だが、善逸に関してはすぐに堕姫に捕まってしまうという失態から、自責の念に駆られていた。

 

目が覚めない炭治郎を見て、自分がもっと強ければと。

しかし、自分にはそんな力がない。

どんなに努力してもだれも助けることなんかできない。

そう思うと、毎日心がすりつぶれそうになる。

 

「少年、悩んでいるのかい?」

 

その日、蝶屋敷には一人の隊士が通院していた。

年齢は自分より五つか六つ上といったところ。

身体つきはがっちりしていて、飄々とした雰囲気を纏っていた。

そしてこの男からは哀しいような、暖かいような。

そんな音がする。

 

「…あなたは?」

 

「俺は与一ってんだ。どうした、そんな今にも死にそうな顔をして」

 

与一と名乗った男は、善逸に話を聞いてくる。

 

「俺、友達が命張って戦ってるときに、何もできないんだ。だから鍛錬しようと思っても、こんな俺が強くなれるわけないから…どうしたらいいのかなって」

 

ふむっと与一は考える素振りをして、口を開く。

 

「わからん!」

 

「いやいやいやいや!ここは的確なアドバイスをくれるところなんじゃないの!?」

 

わっはっはっと豪快に笑う与一は、善逸の頭に手をポンと置く。

 

「少年、もうわかってんだろ?言い訳しているだけなんだろう?なぁに心配いらんよ、君は強くなる。誰かの為に痛められる強い心を持ってるんだ。俺が少しの間、面倒を見てやろう」

 

「でも痛いのは嫌だし、つらいとすぐ逃げ出したくなるんだ…」

 

「少年、本当の痛みを、知っているか?」

 

与一が飄々とした雰囲気から一転、真顔になる。

 

「本当の痛みってのは、死ねないってことなんだ。来る日も来る日も、後悔に身を苛まれてそれでも尚、自分は生き恥をさらして歩き続ける。そしてその痛みを和らげてくれるのは、生きている人間なんだ。だから俺たちは誰かの為に戦うし、仲間の為に危険を顧みない。少年、君はどうだ?死なれたら生きていけないほど大切な仲間がいないか?」

 

善逸は炭治郎と伊之助、それから禰豆子のことを思い浮かべる。

彼らが死んで、そして自分が生き残って。

 

一体自分に何が残るだろうか。

炭治郎はきっと、自分が生きていてよかったと言ってくれるだろう。

それでも、そんな世界は認めたくなかった。

 

「どうやら腹は決まったみたいだな。さ、そうと決まれば鍛錬だ!」

 

「で、でも与一さんは任務とかどうするんですか?」

 

「なに、俺の任務についてくればいい!俺は少年より階級が上だから、大変な任務も多いが、歯ぁ食いしばってついて来いよ!」

 

こうして、少しの間善逸は与一と行動を共にすることとなった。

 

 

 

ーーー

 

 

善逸が与一について行ってからの二週間。

その間、カナヲは毎日炭治郎の見舞いをして、身体を拭いてあげた。

 

天元に投げられたときに、受け止めてくれた炭治郎の顔を思い出すたびに、少し体温が上がるので、何かの病気かとしのぶに尋ねると、何も異常はないといわれた。

 

それを面白がったのがカナエと参座。

やれ、恋の病だとかなんだとか。

いつもと同じように、炭治郎は怪我をして帰ってくることを覚悟していたカナヲだったが、さすがに肩から腰までバッサリと斬られてぐったりしている炭治郎を見てカナヲは意識が飛びそうだった。

 

「ねぇ…そろそろ…声を聞かせて?…炭治郎」

 

椅子に座って、炭治郎に声をかけるカナヲ。

返事はない。

昨日も、その前も、運ばれた日からずっと。

 

頭には、満面の笑みで自分のことを呼んでくれる炭治郎の姿がいつもあるのに、目の前の本物は何も言ってくれない。

心をうつろにしたまま、カナヲは花瓶の水を替えに病室を後にしようとしたとき。

 

「…カナ…ヲ…?」

 

炭治郎の目が覚めた。

そのことに驚いたカナヲは、持っていた花瓶を落とし、炭治郎に駆け寄る。

 

「炭…治郎?」

 

「心配…かけてごめんよ。ほかのみんなは…無事…っ!」

 

言いかけたところで、炭治郎の身体に重みがかかる。

 

「目を覚まさなかったらどうしようって…怖くて…!本当によかった…」

 

「…ごめんね、カナヲ。それと、ありがとう」

 

カナヲは、炭治郎の胸でしんしんと静かに涙を流した。

 

「あらあら、炭治郎くん目が覚めたのね~!よかったわねカナヲ」

 

「カナエ姉さん」

 

たまたまカナエが病室に顔を出した。

カナヲを病室に残し、自分はしのぶに炭治郎の目が覚めたことを伝えに言った。

 

「しのぶ~。炭治郎くんの目が覚めたわ~」

 

「本当!?…よかった。ここ最近のカナヲったら、見ていられないくらい痛々しかったもの、本当に良かった。まったく、カナエ姉さんに似たのかしら」

 

「しのぶったら!私は別にそこまでへこんだりなんか!」

 

「参座さんの遠距離任務の時に死にそうな顔してた人が何言ってるのかしら」

 

「もう!しのぶ!!」

 

こうして、蝶屋敷はいつもの平穏を取り戻すのだった。

炭治郎の目覚めはカナエを経由して参座の耳に入った。

 

一つ、気がかりなことが参座にはあった。

そして数日後。

参座は炭治郎の元を訪れた。

 

「参座さん!来てくれたんですね!危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました!」

 

「なに、気にすることではなかろうて。して、炭治郎よ。ヌシ、命の限界に足を踏み入れたな?」

 

命の限界と聞いて、心当たりがあった。

堕姫との戦い。

恐らくはあの時だろう。

 

「はい…。上弦の攻撃がゆっくりに見えて…勝てるって思ったんですけど、ダメでした」

 

「よいか、あのような無茶は二度とするな。あれはいわば寿命の前借だの。もし戦いを生き延びたとて、あれを連発しておったら三十を迎える前に寿命で死ぬ。それか、戦いのさなかに突然心臓がとまるでの」

 

「寿命の…前借」

 

「そうだ。ちゃんと自分のできる範囲で動かねば、かえって危険になるというものよ。一人なればよいが、仲間がいたときに死んでみろ。すべてが奪われる」

 

「…肝に銘じておきます」

 

そこで、参座の真面目な雰囲気は離散した。

からっとした顔でにっこり笑う参座を見て、一体どうしたのだろうと炭治郎は面食らう。

 

「なに、よく生きて帰った。妹も守った。ようやった、ヌシは全力で頑張っておるでの」

 

くしゃくしゃと頭を撫でられた。

吉原で犠牲者を出してしまったが、これであの街はこれ以上鬼の被害にあわずに済む。

ほんの少しだけ、誇らしかった。

 

「で、炭治郎。ヌシ、カナヲとはどうなんだの?」

 

「ど、どうって?」

 

「なに、心配するでない。漢と漢の秘密じゃ。カナヲに抱き着いて眠っとったこともあるらしいではないか。胡蝶家は炭治郎のような子であればいつでも婿入りを許すぞ」

 

急に素っ頓狂な話をしだす参座に、炭治郎は驚いた。

 

「むっ!婿っ!そ、そんな俺は…!」

 

「なんじゃ嫁に入れたいか?意外と男だのう炭治郎」

 

「違っ!参座さん!!俺はまだそーゆーことには!」

 

「まだということはいつかカナヲを娶るということかの」

 

顔を真っ赤にした炭治郎は、あたふたするが参座は面白がってまくしたてる。

結局この話は、顔を真っ赤にしたカナヲが参座のみぞおちに拳を入れて終わった。

 

 

 

ーーー

 

 

「ひいいいいいいい!」

 

「少年!逃げてばかりでは攻撃は当たらんぞ~」

 

炭治郎が目を覚ましてからも、善逸は与一と共にいた。

任務をこなし、時間が空いては与一と撃ち合っていた。

場所は藤の紋の屋敷。

与一は家を持たず、放浪しながら鬼を狩っているらしかった。

庭を借りての稽古はそれなりの迫力があり、屋敷の住人も感嘆の息を漏らす。

 

「んなこと言ったってこれ当たったら死ぬでしょ!絶対死ぬ!木刀からすごい音してるもん!」

 

「そりゃあ木刀だし本気で振ってるからなぁ」

 

腐っても格上の隊士。

善逸ではよけるのが精いっぱいの攻撃を繰り出してくる。

 

「全く、雷の呼吸なだけあって足腰はいいんだけどなあ。度胸が足りんぞ度胸が~」

 

そしてついに与一の木刀が善逸の顔面にヒットする。

 

「ぎゃああああ死んだあああああ!」

 

「死んだら死んだとか言わないだろう。面白いな少年。さあ休憩にするか」

 

そういって与一と善逸は縁側に腰掛ける。

与一はよく休憩をする。

それは善逸の為であった。

 

善逸に足りない物。

それは自信だ。

だから与一は善逸に無理をさせない。

折って、直して、折って強くする。

ぶちのめした後、必ず与一は善逸をほめた。

直すところより、いいところを多く指摘した。

 

そうすると、少しずつ善逸も心を開き、今では師弟というより仲のいい兄弟といったように見えた。

 

「やっぱり筋がいいぞ少年。足腰については俺が太鼓判を押してやろう。本当に、いい育手に恵まれたな」

 

「じいちゃんは元鳴柱だったんだ。俺なんかが門下生で、じいちゃんがっかりしてるだろうな…まだ何も手柄を立ててないし…」

 

「元というと桑島殿かあ。道理でいい隊士なわけだ。いいか少年、手柄なんてものは、クソだ。馬にでも食わせておけ。そんなもんはお前が生きてきた道にあとから転がってるもんだ。とにかく生きて、生かすことを考えろ」

 

「生きて、生かす…」

 

「そうだ。俺は生かされたんだ。ある男に」

 

「…その人は、どんな人なの?」

 

「ん~。お前が俺から一本取れたら教えてやろう」

 

「いやムリでしょ」

 

軽快に笑う与一に、善逸は落胆した。

そもそも息一つ切らせていないこの男から一本取ることなんて、考えられなかった。

 

「俺みたいな、壱ノ型しか使えない出来損ないが、アンタから一本取れるわけがないだろ…」

 

「少年、君の尊敬する桑島殿はそれに関して何か言わなかったか?」

 

一つしかできないのならば、一つを極めればいい。

そう、言われたときの顔と声が、今でも鮮明に思い出せる。

それほど心に刺さった言葉だった。

 

「極めればいいって…」

 

「そうだな。さて、俺から一本取る気はないか?」

 

「…どういう意味?」

 

与一はすっと立ち上がり向こうへ歩きながら善逸に言葉を投げかける。

 

「お前の全力と、俺の全力。一瞬にすべてかけてみないか?」

 

「だから勝てないって言ってんでしょーが」

 

「居合の真剣勝負だ。これに勝てないと、お前の大切な人が死ぬ」

 

急に真剣な表情になった与一を見て、善逸は唾を呑む。

 

「ま、木刀だがな。構えろ、少年」

 

仕方なしに、善逸も木刀を構えた。

壱ノ型の構えを取る。

 

「おい、少年。俺をなめているのか?」

 

「えっ」

 

この時、初めて善逸は叱られたような気分になった。

 

「俺は真剣勝負だといった。そんな生半可な気持ちで俺と戦うのか?」

 

「…わかった」

 

善逸も覚悟を決めた。

大怪我をするかもしれない。

しかし、漢の真剣勝負だ。

あとのことはどうでもいい。

 

それに、きっと期待されている。

そんな気がする。

 

今まで、与一には世話になった。

死ぬほど木刀で打たれて、たくさん褒められて、驚くほど笑いかけてくれた。

兄がいたら、こんな感じだと思った。

 

「…もし一本取ったら、さっきの話ともう一ついい?」

 

「いいぞ、言ってみろ」

 

「…名前で呼んでくれ」

 

認めてほしかった。

桑島以外で、初めて自分のことをちゃんと見てくれた。

投げ出さず、真摯に向き合ってくれた。

 

だから、答えたかった。

 

「いいだろう、少年。かかってこい」

 

時間は止まる。

この世界には二人しかいない。

音が変わる。

与一の優しい音が、恐ろしい嵐のような音になる。

 

何処からともなく、木の葉が舞う。

これが落ちたら、動く。

長い時間、そうしていたのかもしれない。

瞬きにも満たない時間だったかもしれない。

 

木の葉が、地に着く。

善逸の木刀はその軌道を与一の顎までまっすぐに伸ばした。

全力の振り。

 

対する与一は、首をめがけて神速の斬り上げ。

両者肉薄。

その一瞬は、ゆっくりと動いた。

 

先に届いたのは。

善逸の刃だった。

 

音を置き去りにして、与一の脳は揺れた。

そして、倒れた。

 

「…うそ。勝っちゃった…」

 

完全に伸びていた与一を屋敷の住人と布団へと運ぶ。

まさか自分が勝つなんて、思ってもいなかった。

きっと自分が意識をうしなって、目が覚めたらまたほめてもらえるんだと思っていた。

しかし、善逸の刃は与一を超えた。

 

十分ほどして、与一は目が覚めた。

 

「…やっぱ負けたか」

 

「お、俺…!」

 

「やるじゃねえか、善逸。お前は立派だ」

 

「うっ…うわあああああああん!かっちゃったああああああ!」

 

嬉しさからか、善逸は大号泣。

鼻水もまき散らして泣いていた。

 

「確かに、正面切っての速度勝負なら善逸に分があると思ってたが、まさか失神させられるなんてなあ」

 

「ぐええええええええ!やったああああああああああ」

 

「俺の予想をはるかに超えてたな。いやあ感心感心」

 

「わあああああああああ!やったあああああああああああ」

 

「ふんっ」

 

「ぐえっ」

 

ずっと叫んでいた善逸の腹を与一が殴ると、静かになった。

 

「しかし、大したもんだ。俺はこう見えても、甲の隊士なんだが…。一撃食らうことは頭にあったが失神までは想定してなかった。完敗だ」

 

善逸の成長速度は与一としても、目を見張るものがあった。

特に居合。

初撃の速さが凄まじかった。

だからこそのこの勝負。

全力で挑んで勝ち目のないこの一撃で、善逸に自信を持たせたかった。

 

「胸を張れ、善逸。お前の刀は大切な人を守るだけの力がある。俺とお前は対等だ。階級に違いはあれど、俺はお前を認める」

 

「…与一が居てくれたから、俺はここまでできたんだ。俺はずっと泣き虫で、弱虫で、ヘタレだった。みんなが命をかけて戦えるのが、おかしいと思ってたし、ずるいと思ってた。俺にもそんな力があったらってずっと思ってたんだ」

 

「…そうだな。死ぬかもしれないとわかってても、恐ろしいものに立ち向かうなんて、普通の人間にはできない事だ。お前は何も間違っちゃいない」

 

「やめようって言っても、炭治郎も伊之助も聞かないんだ。今までは止めようとする事しかできなかったけど、これからは隣でアイツらを守ることができるかなぁ」

 

「心配すんな!やるんだよ、善逸。生きて、生かすんだ。お前ならできる」

 

涙と鼻水で顔面をくしゃくしゃにした善逸が、与一に笑いかける。

与一も笑顔で返すと、その手を頭において、わしゃわしゃと撫でた。

 

「ずっと思ってたんだけど、兄貴みたいだ。兄弟がいたことないから分からないけど」

 

「兄貴って呼んでもいいんだぜ?」

 

「やなこった!…それで、聞かせてよ。与一を救って、俺に出会わせてくれた人の話」

 

「そうだな、あれは…」

 

約束の通り、与一は善逸に過去の話をした。

こうして、2人は絆を深める。

本当の兄弟のように笑い合い、お互いを高めあった。

 

善逸は、獪岳に貶された事や、桑島の期待に応えられなかったこと、炭治郎の助けになれなかった事などを、今この瞬間から少しづつ乗り越えて行こうと心に決めた。

出来ないんじゃない、やらなかったんだ。

そう、与一が教えてくれた。

もっともっと強くなって、色んな人を助けたい。

そんな決意が、芽生えた。

 

その翌日の朝。

与一の元に、鴉から司令が届く。

ここから少し南西に鬼が出たとの事。

 

「善逸、お前に教えることはもう無い。自分に自信を持って生きろ。お前は立派だ」

 

「…与一?」

 

「今日この時を持って、お前を一人前と見なし、俺は師を辞める。お前は一度蝶屋敷に戻り、炭治郎くんに元気な顔を見せてやれ、きっと心配してる」

 

与一は善逸と別れることを決意した。

もう教えることは無いし、一人でも立派にやれると確認できたからだ。

 

「…分かった。絶対また生きて会おうな。絶対だからな」

 

「当たり前だ。じゃあ達者でな、善逸」

 

ぽろぽろと、善逸の瞳からは涙が零れる。

 

「ありがとう…本当にありがとう。俺の事、ちゃんと見ててくれて、ありがとう!」

 

「ったく。最後まで手のかかる弟だぜ」

 

そう言って、また頭を撫でられる。

もしかしたら、もう会えないかもしれない。

明日は我が身。

この任務だって、もしかしたら恐ろしい鬼がいるかもしれない。

それでも、涙を呑んで見送る。

与一の姿が、見えなくなる頃。

善逸は小さく呟いた。

 

「またな、兄貴」

 

 

 

ーーー

 

 

 

鬼殺隊の魂ともいえる日輪刀を育て、鍛える。

炭切り三年というように、来る日も来る日も木炭を均等な大きさに切り、刀匠に許しを経ていよいよ刀を打つ。

気が遠くなるほどに鋼と向き合い、師の技を目に焼き付け、槌で叩く鋼の火花を見分け、音を聞き分けられれば鋼の声が聞こえるという。

 

悪鬼滅殺。

その想いを一身に鋼に込めてできたのが、鬼殺隊に関わるものたちの魂である日輪刀である。

 

そしてここは、隊士たちが命を預ける日輪刀を打つ、誇り高き刀匠たちが住まう里。

ここには温泉があり、刀匠に挨拶がてら身体を癒しに来る隊士もいる。

その、刀鍛冶の里にて。

 

「あれ、恋柱様じゃないですか」

 

温泉から上がったであろう蜜璃とすれ違う隊士。

 

「こんにちは!あなたは?」

 

「あ、失礼申し遅れました。俺は階級 甲、三國 与一と申します。恋柱様はご休暇で?」

 

「私は日輪刀を研いでもらっているの!私の日輪刀って特殊だから鉄珍様しか手入れできなくって。あなたは?」

 

「ああ、恋柱様の日輪刀ってぐにゃぐにゃ曲がりますもんね。俺は前の任務で日輪刀が刃こぼれしちまったんです」

 

「あら、そうだったの。でも怪我がなくてよかったわ!それじゃあ私は晩御飯にいくわね!またね~」

 

ぶんぶんと手を振って歩き出す蜜璃。

その時、胸がぐわんぐわんと揺れて、目のやりどころに困る与一だった。

 

「とんでもねぇ破壊力だったぜ」

 

柱に失礼は出来ないと直ぐに目線を逸らしたものの、やはり気になってしまうのが男の性。

 

「善逸が見たら卒倒しそうだったな」

 

1週間ほど前に別れた元弟子の事を思い出す。

立派にやっているだろうか。

死ぬとか無理とか駄々は捏ねているだろうが、やる時はやる男だ、心配要らないと己に言い聞かせる。

 

そして、本当に必要なのは自分の心配なのだと、この時の与一はまだ気がついていなかった。

 

恐ろしい鬼の影は、すぐそこまで来ていたのだった。

 

 




善逸は強い。
本当は強いんだ。

俺は知ってる。

そんな回でした。

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