人柱達   作:小豆 涼

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ちょうギリギリ今日の分間に合った…!
明日はお休みするかもです…!

UAが八万を超え…お気に入りが1500件を超えました…!!
圧倒的感謝…!!!

これからも執筆頑張りますのでご愛読よろしくお願いします!



ワシが斬る以外で護れるもの。

鬼が、姿を見せた。

目で確認するまで、炭治郎も無一郎も反応できないほどの気配の惚け方。

しかし、それでも分かってからは早かった。

 

二人は直ぐに臨戦態勢を取る。

日輪刀を抜刀。

無一郎は首を切り落とそうと振り切った。

 

鬼の顔面を縦に斬りつけるが、首は落とせない。

炭治郎の技が当たり、禰豆子の蹴りを食らっても反撃してこない鬼に訝しむが、すかさず無一郎が首を落とす。

 

「時透君、油断しないで!」

 

炭治郎が叫ぶと、たちまち鬼は分裂する。

間髪入れずに無一郎が斬りこむと、扇のようなものを振りかざす鬼。

 

突風。

 

無一郎は壁を突き破り、遠くへ飛ばされる。

炭治郎は、禰豆子に間一髪のところで掴まれる。

 

「時透君!!」

 

「カカッ。楽しいのう。豆粒が遠くまでよく飛んだ、なあ積怒」

 

「何も楽しくはない。儂はただひたすら腹立たしい。可楽…お前と混ざっていたことも」

 

分裂した鬼の目には、上弦の肆。

積怒と呼ばれた鬼が一度錫杖で地面を叩くと、強力な電流がその場を駆け巡る。

 

意識が飛びそうな炭治郎。

そこへ、新たな影が飛び出してくる。

 

─嵐の呼吸 参ノ型 あおち風─

 

一撃のもとに、二体の首は落ちた。

 

「与一さん、油断しちゃだめだ!この鬼の弱点は首じゃない!」

 

「わざと斬らせてるってことかい…。厄介だねえ」

 

一瞬のうちに分裂した、翼のある鬼によって炭治郎は上空へと持ち上げられてしまう。

 

─嵐の呼吸 陸ノ型 晴嵐─

 

上空の鬼に向かって与一が繰り出した斬撃が、足を斬り落とした。

 

「おいおい、あんまおいたしちゃだめだぜ。うちの若手なんだ、返してもらうよ」

 

「人間風情が生意気な!」

 

「少年、合わせられるか?」

 

「はい!」

 

それからは早かった。

与一は的確に鬼の首を狙い、炭治郎はそれに合わせて手足をさらに斬って動きを封じる。

それでもあっという間に上弦の肆は再生。

急所がわからず手をこまねいていた。

 

「与一さん、四体同時に斬りましょう!俺が二体斬ります!」

 

「それじゃあ頼もうか。行くぞ」

 

─嵐の呼吸 漆ノ型 洗車雨─

 

─ヒノカミ神楽 日暈の龍 頭舞い─

 

狂いなく同時に首を落としたが、それでも消える気配はなかった。

その時炭治郎は、五体目のにおいを察知した。

 

「与一さん、五体目です!おそらく五体目がどこかにいます!」

 

「五体目か…少年!上だ!」

 

しかし遅かった。

気が付くと上で扇を振り切った鬼。

すかさず与一は炭治郎と禰豆子に覆いかぶさる。

 

「与一さん!」

 

「ぐぬぅ…!」

 

めきめきと嫌な音が響く。

意識を飛ばしてもおかしくないほどの重圧が、与一の背中にかかる。

悲痛な顔をする与一を見ることしかできない炭治郎。

扇の圧力から解放された与一は、炭治郎に声をかける。

 

「…無事か、少年」

 

「すみません俺たちの為に…!」

 

「どうってことはない。俺が四体を相手にするから、少年は五体目を探してくれ」

 

「いくら何でも四体を一人は無茶ですよ!」

 

「行け、少年。気配の隠し方が巧妙すぎて俺では早く見つけられない。この四体は絶対に通さない。ほら、急げ」

 

炭治郎は走り出した。

急げ。

与一がつぶれてしまう前に。

 

「禰豆子!与一さんを護ってくれ!」

 

「さて、両腕の感覚が怪しいが。やろうか」

 

四体から繰り出される猛攻。

扇による吹き飛ばしを警戒しながら、雷を潜り抜け、槍を躱す。

追い打ちは上空からの音波攻撃。

決して通すわけにはいかない。

禰豆子も応戦するが、それでも一体相手にするのがやっとのようだ。

少しずつ押され気味になり、ついに槍が与一のわき腹を切り裂く。

 

「力もないのに、立ち向かうなど…。哀しくなるな」

 

「男にはかっこつけなきゃならん時があるんだよ」

 

減らず口を叩く与一だが、正直いっぱいいっぱいだ。

それぞれの攻撃が強力すぎる。

禰豆子に負担をかけるわけにもいかず。

そんな中、四体それぞれを均等に相手にしなければ、炭治郎のもとに行かれてしまう。

 

死ぬかもしれない。

それでも、自分より若い人間が死ぬところなんて見たくなかった。

 

「それ、動きが遅くなってきたぞ!」

 

しまった。

そう思ったときには遅かった。

雷が足から身体に突き抜ける。

意識を持っていかれそうになるが、歯を食いしばり錫杖の鬼の首を落とす。

 

「少女、上を頼む!」

 

空を飛ぶ鬼に、禰豆子は飛びつく。

血気術で燃やすも、離れられない。

 

「カカッ!本当にしぶとい男じゃのう!」

 

扇による風圧を正面から受けるが、足がはち切れんばかりに踏みとどまる。

 

「んぐっ!」

 

前方に注意を引かれすぎて、後ろから迫る槍を見逃す。

背中を刺される。

そう思ったが、禰豆子が鬼の頭を蹴り飛ばす。

 

「こりゃあ頼もしいぜ」

 

正直刺されたと思ったが、自分は無事。

禰豆子のことを護らねばと思っていたが、あながち戦えるんだと安心した。

 

「…急げ、少年!」

 

山の中、足元。

野ねずみほどの大きさ。

ついに、五体目を見つける炭治郎。

 

「見つけたっ!」

 

炭治郎の日輪刀はまっすぐに首へ向かう。

切っ先が少し首に食い込む。

あと少しだ。

 

そう思ったとき。

 

「ギャアアアアアアア!」

 

突然、叫びだす鬼。

そして進むのをやめる日輪刀。

斬れない首。

そして真後ろに恐ろしい気配を感じる。

 

どんっ。

 

小太鼓の音が響く。

すると木のようなものがすさまじい速度で炭治郎に向けて生える。

その先端は龍の頭のようで、炭治郎は食われる寸前だった。

 

「禰豆子!」

 

間一髪。

禰豆子が炭治郎を抱える。

左足はなくなっている。

 

「少年!無事か!」

 

与一が追い付く。

 

「なんとか!でも禰豆子が!」

 

「少女の無事を確認してから加勢しろ!一旦こいつは引き受ける!」

 

引き受けるとは言ったものの。

この子供くらいの鬼…。

背筋が凍るほどの威圧感。

間違いなく四体より強い。

 

「不快、不愉快。極まれり。極悪人どもめが」

 

気が付くと五体目は厚い樹でおおわれている。

炭治郎が声を上げると、何か不満があるのかと威圧してくる。

 

「どうして…俺たちが悪人なんだ…」

 

「弱き者をいたぶるからよ」

 

小さな弱き者を斬ろうとしたから。

しかしこの鬼、食った人の数は百や二百は優に超えている。

そのことに激昂する炭治郎。

 

「少年、落ち着け。こいつらは俺達では理解できん。斬るのみだ」

 

「禰豆子は無事です。俺も加勢します。絶対斬りましょう、この悪鬼を」

 

構える二人。

何処からともなく現れる樹の頭。

そして繰り出される喜怒哀楽の攻撃。

どれをとっても攻撃が強化されている。

 

本体を隠していると思しき場所までたどり着くことも容易ではなかった。

 

「少年、龍の頭は五本だ!それ以上は出ない!」

 

「はい!伸びる範囲はおそらく66尺です!」

 

猛攻をよけながらなんとか攻略の糸口を探る二人。

禰豆子も応戦するが、やはり分が悪い。

そこで、炭治郎が音波攻撃を受けてしまい、地に落ちる。

 

「少女!少年を!」

 

すかさず禰豆子を炭治郎の元へやる。

恐らく鼓膜が破れている。

一度炭治郎の体制を立て直さなければ。

 

「少女!少年の調子が戻るまでなんとか持ちこたえろ!」

 

防戦一方になるこの状況。

さらに炭治郎がやられ、いままともに戦えるのは自分ひとり。

連戦に背中の軋みと体力は限界に近い。

 

そこで禰豆子と炭治郎が樹に絡めとられてしまった。

 

─嵐の呼吸 肆ノ型 積乱豪雨─

 

下段からの斬り上げに、高速の斬り下げ。

いつもは問題なく使える技も、少しづつ身体への負担になる。

何とか炭治郎たちを逃がすことに成功するが、扇の時の重圧に捕まる。

 

「くっそ…!」

 

とっさに右腕をかばうが、左肩の骨が折れる音がする。

威力が先ほどとは段違いだ。

 

「与一さん!」

 

炭治郎が戦闘に復帰。

ここで与一、賭けに出る。

 

「少年!本体だけを狙え!俺があの小僧を叩く!」

 

与一は飛び出した。

襲い来る術をよけ、時にはその身に受けて。

 

─血鬼術 無間業樹─

 

与一の視界は樹の龍で埋めつくされる。

この時、与一は命の限界に踏み入る。

元より、左肩から下は使えない。

限界まで突き詰めたその動きは、龍をかいくぐる。

左腕がいよいよ食われて無くなったとき、ついに上弦の肆の眼前に迫る。

 

「さすがに首切れば隙ができるだろ」

 

「捨て身か。だが弱い」

 

─嵐の呼吸 捌ノ型 浚いの風─

 

─狂圧鳴波─

 

口からでる超高圧の衝撃波。

それを紙一重で躱そうとするも、左肩から鎖骨ほどまで吹き飛ぶ。

だが、捌ノ型は首に届いた。

 

それと同時に、禰豆子の血鬼術が、本体の樹を焼いている。

与一と再生に割かれる時間で、炭治郎は殻を斬った。

 

中は空。

 

「貴様アアア!逃げるなアア!責任から逃げるなアア!」

 

炭治郎はにおいをたどり、本体を追いかけようとした。

しかし、行く手を龍に阻まれる。

 

まさか。

 

「与一さん!」

 

振り返ると、右腕と左足を失くして倒れ伏す与一の姿が。

今まさに、頭をつぶされようとしていた。

 

「禰豆子!誰でもいい!誰か、与一さんを…!」

 

助けてくれ。

 

「あなた大丈夫!?」

 

間一髪。

間に合ったのは、恋柱の甘露寺 蜜璃だった。

 

「…あれは本体じゃないです。今…炭治郎が、本体の首を…。恋…柱様はこいつを…」

 

「もうしゃべらないで!こいつを足止めすればいいのね!」

 

蜜璃は、与一を隅に座らせると、すぐに振り返る。

 

「絶対許さない。私の仲間をこんな風にして…!」

 

流石柱の一人。

あれほど二人がてこずっていた鬼も、たった一人で互角以上に戦う。

勝てる。

炭治郎は希望を抱く。

 

「炭治郎くん、行って!ここは私が何とかするから!」

 

走る。

急げ。

与一が、蜜璃が繋いでくれた。

己が、終わらせるのだ。

 

「貴様の首は、俺が必ず斬る!」

 

本体は気が付くと、はるか遠く。

そこで、善逸の言葉を思い出す。

 

筋肉の繊維一本一本、血管の一筋一筋まで力を巡らせ。

足だけに力を溜め、爆発させる。

 

行け、追い付く。

首を、斬る。

日輪刀は届く。

 

「貴様はアア!儂がアア!可哀想だとは思わんのかアアアア!」

 

巨大化する上弦の肆。

捕まれる炭治郎。

負けじと禰豆子が焼く。

全員が崖から落ちる。

 

「逃がさないぞ…。地獄の果てまで逃げても追いかけて…頚を…斬るからな…」

 

枝に引っかかった炭治郎は言った。

その怒気と表情に、さすがの上弦の肆もひるんだ。

しかし、その先に刀匠たちが見える。

目の前の鬼は人を食って、力を補給しようとしている。

 

追いかけなくては。

もう一度だ。

もう一度、今度こそ、あの首にまだ食い込んでいる日輪刀で、斬り落とさなくては。

 

刹那、風切り音。

 

目の前に、抜き身の刀が降ってきた。

 

「使え!炭治郎、それを使え!」

 

ボロボロになった無一郎が、炭治郎に鋼鐵塚の研いでいる日輪刀を投げたのだった。

 

どんっ。

 

一閃。

ついに、首を斬り落とした。

夜が、明ける。

 

禰豆子が向かってくる。

日の光で死んでしまうと言いたいが、声が出ない。

依然、禰豆子は指をさしている。

 

そちらへ目線を伸ばすと、首なしの鬼が人を襲おうとしている。

 

「しくじった!」

 

しかし、日の光が、禰豆子を焼く。

炭治郎がかばうが、禰豆子は炭治郎を放り投げる。

心臓だ。

心臓の中に、いる。

 

「命をもって、罪を償え!」

 

今度こそ、上弦の肆の首は斬れた。

だが、禰豆子は。

焼けてしまった。

 

護ると誓った妹。

判断できなかった。

自分には、決められなった。

人の命が危ういというときに、迷ってしまった。

 

参座の覚悟に、泥を塗ってしまった気がした。

でもそれでも…。

 

妹を護りたかった。

 

「竈門殿…!竈門殿!」

 

うずくまって泣いていると、刀鍛冶に声をかけられる。

言われるがまま、後ろを振り向くと、そこには禰豆子が立っていた。

 

「お、お、おはよう」

 

太陽の下を歩く、我が妹がいた。

炭治郎は、何かを言った。

何を言ったのかは覚えていない。

とにかく、禰豆子が生きているのがうれしくて。

抱擁して、妹の存在を確かめた。

 

「よかった…!よかったああ!禰豆子無事でよかったああ!」

 

「よかったねぇ」

 

刀鍛冶たちももらい泣きするが、そこで炭治郎は与一のことを思い出す。

 

「そうだ、与一さん!」

 

駆ける。

限界を迎えた身体に鞭うって、駆ける。

 

その視界に、死に体の与一が入る。

 

「与一さん!」

 

目は開いていなかった。

ゆっくりと口を開く。

 

「しょう…ねん…か」

 

見て分かった。

もう長くない。

 

「おに…は…?」

 

「倒しました!倒したんです!だからもう安心してください…!」

 

「そう…か。しょう…じょ…は?」

 

「禰豆子も無事です!みんな無事です!」

 

「ぜん…いつ…には。いわないで…くれ…な。あいつ…なくだろう…から」

 

死ぬ寸前も、誰かのことを思うのか。

優しい人だ。

炭治郎は、己の無力を呪った。

 

「ああ…しぬん…だな。おれは…。ふしぎと…こわくない…」

 

「すみません…俺が、弱かったから!俺の力が足りなかったから!」

 

「…やさ…しいな。しょうねん…。なにも…きにする…な」

 

かすかに、ほほ笑む。

開かないその目からは、大粒の涙が流れる。

もう命の灯は消えそうだ。

最期の力で、与一は言葉を紡ぐ。

 

「さび…と…そっちへ、いくよ…。おれも…だれかを…たすけれたよ…」

 

ついに、その息を引き取った。

炭治郎は涙を流しながら、与一の亡骸の上で意識を失った。

 

ぼろぼろの蜜璃も、目の前の鬼が崩れ落ちて一安心。

無一郎は見事上弦の伍を倒し、記憶を取り戻した。

数々の犠牲を出したこの戦いも、夜が明けてついに終わりを迎える。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「与一が…」

 

上弦二体の出現を、最小限の被害で退けたという知らせを受け、悲しみに暮れているのは、水柱の冨岡 義勇だった。

 

与一と義勇は同期。

最終選別で錆兎に命を救われた者同士だった。

同期がまた一人、死んだ。

あの日、錆兎が繋いだ命は、少しずつ失われていく。

哀しみが、その心を押しつぶそうとしている。

その日はなかなか寝付けなった。

 

それから少しして。

無一郎と蜜璃が意識を取り戻した頃。

 

「義勇か、久しいな。息災かの?」

 

「…お久しぶりです」

 

柱合会議の集合がかかり、義勇と任務地が近かった参座は、義勇の様子を見に来ていた。

 

「…顔見知りが死んだか?」

 

至って無表情な義勇なのだが、その哀しみが参座には目で見えるようだった。

 

「同期が、一人」

 

「そうか…。本当にこれは慣れたくないものだの」

 

世間話、という雰囲気にもならず。

二人は無言で柱合会議へ向かう。

 

その日の柱合会議では、産屋敷は姿を現さなかった。

病状が悪化し、人前に立てる状態ではないらしい。

 

それでも柱たちの総意は変わらず。

産屋敷あまねが代わりに取り仕切っても、意を唱える者はおらず。

 

そこで、痣の出現の話になる。

今回の戦いで、無一郎と蜜璃が痣を発現させた。

その条件を聞き出すと、無一郎が事細かに詳細を話す。

 

そして、痣が発言したものは例外なく二十五を待たずに死ぬという。

しかし、それでも柱たちは今更といった気概で。

たとえ死のうとも、無惨を打ち取る可能性が上がるのであれば構わないといったところだった。

行冥は、自分の年齢をかんがみて、自分が痣を発現したらどうなるのかとつぶやく。

 

「おそらく、行冥殿に至っては使ったら日をまたがずに死ぬであろうな」

 

参座は容赦なく口に出す。

 

「しかし、痣を抑えることもできるということ。よいか無一郎、甘露寺殿。少なくとも、この先は痣はだしてならぬ。禰豆子が太陽を克服しおったそうだからの、無惨がなにか動きを見せるであろうし、上弦も残すところ参と壱のみ。この二体はワシが斬る」

 

「んなこと言ったってよぉ参座さん、俺達は今更自分たちの命なんざ惜しくもねぇぜ」

 

「ワシは惜しい。わがままだとはわかっておるがの。きいてはくれぬか?」

 

そんな風に言われた柱は、その言葉にありがたさはあるがそれでも納得はできなかった。

 

「…あまね殿も退室されたので、俺はこれで失礼する」

 

そういってその場を後にしようとする義勇につっかかった実弥と小芭内だが、行冥に一括されて押し黙る。

 

「座れ…話を進める…。一つ提案がある…」

 

そうして、行冥からは柱稽古の提案が持ち出される。

それにえらく賛同したのは、ほかでもない炎柱の煉獄 杏寿郎だった。

 

「それは実に有意義だな!早速日程を調整しよう!」

 

便乗するように天元も声を出す。

 

「今の隊士は地味だからな。ここで派手に戦力を補強するのは名案だな」

 

そんなこんなで柱稽古、始動。

義勇は稽古などつけないと頑なに拒絶した。

 

解散する直前。

参座は無一郎に袖を掴まれた。

 

「…どうしたんだの?」

 

「…思い出したんだ。それで、カナエさんにもお礼を言いたくて」

 

少し頬を染めて、気恥ずかしそうに言う無一郎に、参座は本当にうれしくなった。

 

「そうか。それじゃ行こうかの」

 

参座は無一郎を肩車する。

無一郎は恥ずかしがって降りるというが、参座は降ろさなかった。

 

帰り道。

肩に乗った無一郎は、炭治郎が思い出すきっかけをくれて、上弦の伍と戦ってるときに、勇気を出してくれた小鉄の話をした。

うんうんと参座はにこやかにその話を聞く。

 

しばらく走ると、参座の家に着く。

日は傾いて、夜の警邏は他の隊士に任せて泊っていけという参座。

鬼の出現もぱたりと止まったので大丈夫だろうということで、文を出すと決める。

玄関前に立ち、懐かしい家を見て少し緊張する無一郎。

 

「おーいカナエ。帰ったぞー」

 

「はーいおかえりなさ…無一郎くん!久しぶりね~!元気だったかしら?」

 

「うん。カナエさんこそ、元気だった?」

 

にこやかに言う無一郎に、カナエは一瞬面食らった。

驚くほど表情豊かな無一郎。

ああ、その心に何かいいことがあったんだなと理解した。

 

「上弦の鬼を単身で倒した立派なおとこじゃ。今日は無一郎の為にうまいものを作ってくれぬかの」

 

「まあ!すごいわ無一郎くん!腕によりをかけて支度するわ!」

 

相変わらず、元気な人だ。

無一郎は嬉しさを隠せなかった。

この人たちに拾われて、本当に良かった。

心からそう思える。

 

家の中を歩き回って、懐かしい記憶に浸っていると、参座と木刀で打ち合った中庭が見える。

そこに立ちすくんでいると、参座が頭に手のひらを乗せてきた。

 

「ようがんばった。本当に、自慢の弟子だのうヌシは」

 

「…兄のようだと思ってたんだ。無意識のうちに。そのおかげで、本当の兄を思い出せたよ。本当に参座さんには感謝してもしきれないよ」

 

くしゃくしゃと撫でられる頭に心地よさを覚える。

そして参座の巻き割りを手伝っていると、カナエが夕餉を作り終えた。

 

「いただきます」

 

カナエが音頭を取って、三人で仲良く夕餉を食べた。

カナエの手料理は本当においしくて、自然と笑顔があふれる。

 

「お礼を言いたかったんだ。カナエさんにとってもお世話になったから…」

 

「全然いいのよ。こうしてまた三人仲良くご飯を食べるだけで私は嬉しいわ」

 

そんなこと言われるものだから、ついつい無一郎は視線を下に向けて赤面する。

それをみた二人は、顔を見合わせて笑う。

 

それから風呂に入って、布団に川の字で横になる。

 

「…僕には家族がいてね。思い出したんだ、全部」

 

ぽつぽつと家族の話を口にする無一郎。

楽しかったことも、苦しかったことも。

兄が、自分を守ってくれていたことも。

 

話し疲れて眠る無一郎をカナエに任せ、参座は警邏に出た。

 

「参座くんの教えた技が、この子を護ってくれてたのね」

 

カナエが眠った無一郎の頭を撫でると、笑顔になる。

願わくば。

 

こんな平和が、ずっと続きますように。

そう思うカナエであった。

 

 

 

 

 

 

 




誤字脱字報告本当に助かっております…!!
さらに感想もありがとうございます!

高評価もたくさんいただきまして、感謝の極みでございます…!

これからもどうぞよろしくお願いします!

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