何でも願いが叶う聖杯。
不治の病の幼馴染みを救うため魔術師の俺は…聖杯戦争というものに参加しようと思う。
七騎の英霊と七人のマスターが殺しあう聖杯戦争。
最後の一組が願いを叶えられるという。
詠唱しつつ思いを馳せる。触媒は魔術師相手に商売しているという女性から買った黒い布だ。
さあ…召喚の時だ。
「抑止の輪よりきたれ! 天秤の守り手よ!」
膨大な魔力を感じる。これが英霊か…
一人の男が立っている。男は言った。
「おめえさんが俺のマスターか?」
「ああ。そうだ」
男を見ると刀を持ちクラスはセイバーらしい。
最優の英霊クラス。やったぞ! この戦争は俺の勝利だ!
「そうか。じゃあおめえさんの願いはなんだ?」
「たいした願いじゃない」
そう世界平和とか世界滅亡とかそんなたいした願いじゃない。たった一人の女の子を救いたいだけだ。
「そうか…」
俺の手首から先が落ちる。
「えっ…」
斬れた手首の断面から血が垂れる。
意識できたのはそこまでだった。
「たいした願いも持たずに殺しあいに参加するんじゃねえよガキが。まあ俺も現世でまた人を斬りたいってだけなんだがな。ヒヒ」
「さあて魂食い魂食い。人を斬って命まで食えるってか。聖杯戦争は最高だな。じゃあな。マスターだった奴。おめえさんの願いがもしも俺の願いと一致してたら一緒に戦争できたのになあ?」
こうして一人の青年の聖杯戦争は終わった。まだ戦争は始まってすらいないが。
「ああ。負けちまったか」
誠を背にした剣士が言う。
「そうね。楽しめたわ」
そっけなく私は言うけれど死闘だった。私はとても満たされた。この男に感謝しなければいけない。
「べっぴんさんのマスターに召喚されてこりゃ当たりだなって思ったがいきなり立ち会いを所望されて負けるなんざあ…土方さんに怒られるだろうな。沖田の奴には笑われるか」
「でも手加減された気がするわ。宝具ってやつを使ってないでしょ? 貴方」
「いや。誠の旗を使うとサシの勝負じゃなくなるからな。てかマスターに何で使ってんの? って呼んだ他の新撰組の奴等が困惑するわ」
「ああ。集団戦法に優れていたものね。他の英霊を擬似的に呼ぶ宝具だったの……残念だわ。貴方以外とも斬りあいたかったのに…」
「はは。こええ女だ。天下の新撰組に向かってよお。で、どうすんだあんた?」
「聖杯に興味はないわ。私は英霊と斬りあいたいだけ。貴方以外に六人召喚されるんでしょ? 全員斬るわ」
「はは。なんとも…やべえ女に召喚されたもんだ」
「貴方、名前は?」
「そういや名乗ってなかったな。大石だ」
「憶えておくわ大石。貴方ほどの剣士とは現代でまだ立ち会っていなかったから。私はまた一つ強くなれた気がする」
「おう。頑張れよマスター! あっそういえばマスターのなま…」
大石と名乗った男は消えた。存外爽やかな男だったわね。
聖杯戦争。面白いわ。こんな強敵と斬り会えるチャンスが何度も手に入るなんて…
英霊を生身で斬るバトルジャンキーの女。彼女はこの戦争で何を思うのか。
「いやああああああ!」
「はっはっは! どうしたマスター」
「いや何で服脱ぐのよあんた!」
前略。死んだお父さんお母さん。私のサーヴァントは露出狂です。
「すまんすまん! 脱ぎたくなってしまった! いやあアストルフォあたりはまたかい? って軽く流すか爆笑するんだがレディには刺激が強すぎたか」
そう言って鎧を身に纏うセイバー。セイバーって最優のサーヴァントじゃないの…?
「アストルフォってあんたの友達?」
「俺を正気に戻してくれるナイスガイだ!」
「へえ。カッコいい良い人なんだね」
「理性が蒸発しててマスターより可愛いナイスガイだ!」
「はあ!? 男に負けてんの!? 私の可愛さ!? 後、理性が蒸発してるって何!?」
「はっはっは! まあ任せろ! このローランに不可能はない! 定期的に鼻から正気を注入してくれ! マスター!」
「あんた本当はクラスバーサーカーでしょ!?」
「そういえばマスター名前は?」
「ここで聞く? 山田ブラックカイザーよ」
「えっ? 正気かマスター?」
「うるさい! 私はこの名前を改名するために聖杯に願うのよ!」
「はっはっは! 聖杯の知識で役所に行けと思うが言わないでおくぞ!」
不滅の男と山田ブラックカイザー。彼と彼女の行く末はまだ分からない。
ゲームブックをしてたら男が召喚された。うん。自分でも何を言っているか分からない。
「問おう。貴方が俺のマスターか?」
「ええと。はい。そうです白石智和って言います」
「そうか。俺の事は勇者と呼んでくれ」
「あっはい」
「では戦争を始めるか」
「えっ戦争って?」
「巻き込まれ枠というやつか。やれやれ…」
ゲームをしてただけなのに戦争に巻き込まれたワロタというスレをこれからの話を聞いてたてようとしている白石とそれを生暖かく見守る勇者。彼等の明日はどっちだ。
「いやあ。まずいまずい! これはまずいですよ!」
「どうしたマスター?」
今生のマスターは焦っていた。
「いやあ。幼馴染みを助けるなんて漫画やアニメの主人公じゃなければ死ぬような奴に物騒な触媒を売り付けたのはよかったんですがね! 他のマスターの動きが読めません!」
「ほう」
「この町に暗殺者や使い魔を複数潜ませてるんですがね! なんか生身で英霊斬る女やらが参加してますし! 全裸の英霊とそのマスター! 調べたらマスターの名前が生粋の日本人なのにブラックカイザーですよ!」
「ほう」
「ああ…他の三人のマスターとサーヴァントの情報も分かりませんし…聖杯を握っているとはいえ…予期せぬ出来事です…」
「ほう」
「まあ…一番予期せぬ出来事なのはセイバークラスしか召喚されてない事なんですけどね…どういう事なんでしょうか…他の情報が掴めないサーヴァントもきっとセイバークラスでしょうし」
「ほう」
「ああ! 戦争が本格的に始める前に参加者全員の情報を掴んで各個暗殺していくという私の計画が!」
「案ずるな」
「はい?」
「今生の主君の敵はこの刀にて斬り伏せさせていただく」
「……頼りにしてますよ。最強の剣豪塚原卜伝」
腹黒サングラス男と塚原卜伝の聖杯戦争ここに開幕。
「はあ…サングラスをかけたジョニーという男に監督役を頼まれた教会の神父こと私ですが」
「はい」
「セイバー君。このセイバーというクラスしか召喚されない異端の聖杯戦争についてどう思います?」
「不可思議だと思いますね」
「違う! 違う! 違う! 異端だということは罪! 罪には罰を与えなくては! 罪ありき! 裁かなくては!」
「そうですね。私も本来ならライダーのクラスで召喚される者ですし」
「では。同じ聖職者として罰しましょう。異端全てを」
「巻き込まれただけの人物もいるのでは?」
「そうですねえ。降参するならそういう輩には記憶を失くすだけで充分でしょう。我らが偉大なる主は寛大ですから」
「マスターが分別をわきまえた方で何よりです」
「令呪を持って命ず。ゲオルギウスさん。貴方にとって他のマスターとサーヴァントは背徳の竜達です。殺しなさい」
「ぐっ!? マスター!?」
「重ねて令呪を持って命ず。狂いなさい。ゲオルギウス。他のマスターとサーヴァントは竜。罪ありきです」
狂信者と狂信者にされた冤罪竜裁判のセイバー。全てに汝は竜罪ありきの烙印を押せるのか。神のみぞしる。