異世界をヴァーディクトウォーに巻き込まないでください(懇願) 作:COTOKITI JP
取引するメリットも大して無いだろうし、
ここがどこだかなんて分からない。
いや、正確に言えば地形までは分かるがここがこの星に於いて一体どの位置にあるのかが分からないということだ。
揺れる車内で、彼は空を見上げる。
嘗て自分が住んでいた場所よりもずっと綺麗だ。
草木は生い茂り、キレイな水の川が流れ、太陽と思しき恒星が空から大地を照らしている。
ここは正にEGFだけじゃない、あの世界に住まう全員が思い描いていた理想の世界だった。
「おい、ユーリ! 見ろよ、鳥が飛んでるぜ!ちゃんと足が二本あるぞ!」
ユーリ達AC部隊のACを運んでいる大型トレーラーの荷台の上ではしゃぐ男を見、そのまま積まれているACに目を移す。
ユーリのタンク型AC、トータスは健在。
それと一緒に先程の男、
そのACの脚部は四脚。
武装は右腕にスナイパーキャノン、左腕にはオートキャノンを装備している。
肩部にも何か搭載しているが、コンテナのようなものに覆われていて何かは分からない。
しかしかなり大きい武装であるということは分かる。
四脚の方をじっくり眺めていると横から声が掛かった。
「何や、ウチの機体に興味あるんか」
横から話しかけてきた彼女はこのAC、『バードストライカー』のパイロット、レイカ・ホワイトローズだった。
彼女は独立傭兵であり、ヴァーディクトウォー開戦以前から活動していた為戦闘経験は豊富らしい。
ホワイトローズという苗字に良く似合う白髪を肩まで伸ばしており、顔の方も傭兵ではあまり見ない美形だ。
流石に年齢までは知らないが、身長や体重は恐らくこの偵察隊の中で最低だろう。
ユーリの視点で言えば、彼女はれっきとした先輩であり、敬うべきエースパイロットだった。
「えぇと、あー、ホワイトローズ……さん?」
「さんは要らんよ。 それと苗字で呼ぶのもウチがむず痒いからやめて欲しいわ」
「分かったよ……レイカ」
名前で呼ぶと彼女は満足したのか笑顔でユーリから自分のACに視線を移した。
「ところで、なんでウチの機体見てたん?」
レイカの問いにユーリもバードストライカーに視線を移しながら答える。
「いや、エースパイロットの機体と言うだけあってかなり使い込まれているな、と」
「ハハハ!これでも四姉妹の中じゃ一番弱い方やで!」
ころころと笑うレイカ。
それを見て少々鼓動が早まったユーリだったが、四姉妹という言葉が引っかかった。
「四姉妹?」
「そうや、当時はウチは四姉妹の中で末っ子やったんやけど姉ちゃん三人とも強過ぎて模擬戦で勝てた試し無いわ」
「そんなに強かったのか……」
「ま、三人とも既に死んどるけどな」
「……え?」
あまりにもあっさりと答えてしまったレイカにユーリは素っ頓狂な声を上げた。
「……死んだって、戦死したってことか?」
ユーリが問い掛けると、レイカはユーリと目を合わせ、一呼吸置くと口を開いた。
「……
「ッ!!」
その単語を聞いた瞬間、ユーリの体が硬直した。
黒い鳥、その言葉の意味する事は誰しもが知っていた。
「姉ちゃん三人は黒い鳥と戦って死んだ。 殆ど一方的な戦いやった」
バードストライカーの装甲に手を触れながら、レイカは続ける。
「四人で攻撃を仕掛けた筈やのに、気が付いたら三人ともACと一緒に吹き飛んどったわ。 ウチは運が良かった。 大破してただけで中は無事やったからな」
その話を聞いて、ユーリは黒い鳥の恐ろしさを改めて認識した。
黒い鳥の活躍はヴァーディクトウォー開戦前から聞いていた。
数多くのネームドパイロットを倒し、UNACの大群すら撃滅してみせたという。
こんな話をレイカにさせてしまったと、ユーリは罪悪感に満たされた。
「何か……すまんな」
「別にええよ、そりゃあ昔はウチも仇を討とうとか考えとったけど、あの黒い鳥はもうとっくに空どころかあの世に飛び立ってしもうたからなぁ」
「……」
そう、黒い鳥は既にKIA扱いになっている。
誰が殺したのか、どうやって死んだのかは未だに分からない。
ただ彼が死んだという事実だけが残っている。
黒い鳥の死は世界中に驚きを与え、信じなかった者もいた。
この話はもうよそうと別の話題に切り替えようとした時だった。
偵察隊を、一瞬だが何か大きな影が覆った。
日光を遮る何かに、ユーリとレイカも思わず上を見上げる。
「あ、あれは……!?」
空を切り裂くように飛び、そのコウモリのような翼を羽ばたかせ、偵察隊を通り過ぎて行く。
巨大な竜だった。
赤色の鱗は日に照らされて輝き、左目が偵察隊を一瞥した。
通り過ぎるだけでも凄まじい風が吹き荒れ、アレクセイは砂埃をモロに食らった。
「うぇっ!口に入った!!ペッ!ペッ!」
砂を味わっているアレクセイをよそに、二人が理由の後ろ姿を見ていると、トレーラーが突然停止しヴェニデの量産型AC部隊が出撃準備をし始めた。
急な展開に、ユーリはACに乗り込もうとしていた偵察隊の隊長に状況を説明してもらう。
「何があったんだ?」
「ここから40キロメートル離れた地点に大規模な車列を無人機が捉えた。 先程の竜の進行方向上にある為車列の救援に向かう。 お前達も出撃するんだ」
「何や、ここでの初戦闘は蜥蜴退治かいな」
「とにかく早く機体に乗るぞ。 出遅れる訳にはいかん」
ユーリもトータスのコックピットに乗り込み、起動させる。
バードストライカーとレッキングボールも動き出したのを確認し、量産型AC部隊の後に着いていく。
トータスはタンク型の為、ブースター使用時でもあまり速度が出ず、他のACの背中が遠ざかっていってしまっているが、置いてかれる訳にはいかない。
ブースター出力を上げながらレイカ達に随伴する。
「しっかし、あの蜥蜴野郎やたら速度は早いな……。 追い付けそうにねえぞ」
「航空機並の速度だ」
ACのハイブーストで漸く追い付けるか、というぐらいの猛スピードで竜は飛んでいる。
まるで最初から車列が狙いかのように。
「これじゃ、レッキングボールの出番は無しやね」
「そんなぁ……」
アレクセイの駆る中量二脚、レッキングボールはその名に相応しく近接武器のみで統一したACだ。
良く言えば浪漫のあるクールな機体。
悪く言えば火力が物を言うこの戦場に於いてあまりにも無謀な組み合わせ。
右腕には実体刃ブレードの『MURAKUMO mdl.1』。
左腕にはHEATパイルの『Au-R-F11』を装備している。
アレクセイ本人から聞いた話では、射撃兵装の扱いがあまりにも下手過ぎたので次第に使わなくなり、結果的に近接オンリーに落ち着いたらしい。
確かにあんなデカブツが相手とはいえ接近戦に持ち込めればアレクセイでもやりようはあるだろうが、相手は空を飛ぶのだ。
結局ここで遠距離武器が必要となる。
だからアレクセイの出番は無いだろうと思われていた。
「ん? ちょい、蜥蜴の動きが変わったで」
ただ飛んでいただけの竜が、今度は何かを見つけたかのような素振りを見せた。
マップには護衛対象である車列が表示されている。
竜は既に、その真上まで来ていた。
「いかん!」
そう言った時には時すでに遅し。
直上から竜は急降下し、爆炎を撒き散らしながら車列に突っ込んでいく。
車列に加わっていた何台もの馬車が中にいる人ごと焼かれ、吹き飛ばされた。
まず一撃目で人を良い感じに焼いた後に反転してそれを喰らう。
子供が蟻を潰すようにどんどん人が死んでいく。
AC部隊はとりあえず最優先である車列の救援という任務に従い、今も尚車列を荒らしている竜の元へと全速力で向かう。
激しく揺れる車内。
床に直接置かれたせいで頭を打ち付けてしまったらしい。
意識が段々と戻って来る。
しかし視界は依然として靄がかかり、ここが何処なのか分からなかった。
レニックは左右を見渡すと、自分のすぐ隣にいた誰かの腕を反射的に掴んだ。
「……!!」
耳までおかしくなってしまったのか、何を言っているのか分からない。
ただ一つ分かるのは先程の腕は女性の物であることぐらい。
意識が更にハッキリしてくると、視界も徐々に良くなってきた。
視界が明瞭になると、目の前には黒髪の女性の顔があった。
「え……あ……」
「大丈夫ですか!?しっかりして下さい!」
目を覚ましたレニックに、女性は大きな声で呼び掛ける。
目を開いて改めて周囲を見渡し、起き上がろうとすると、乗っていた車両が激しく揺れ、その衝撃でまた倒れた。
やはりあの時の負傷はまだ完全には癒えていないようだ。
車内からは女性以外の男達の声が聞こえる。
格好からして全員が兵士に違いない。
助手席と銃座席から半身を出し、何かに向けて発砲している。
「何だ……」
再度起き上がろうとした時、外から鳴き声が聞こえて来た。
聞き覚えのある鳴き声だった。
嘗て自分の居場所を奪ったあの竜。
そうと知ればレニックはいても立ってもいられなくなり、飛び上がるように立ち上がると、窓の外を見た。
不運にも、レニックの予想は当たってしまった。
そこには、数量の車両に囲まれ銃弾を浴びせられている赤い竜がいた。
しかし小銃や重機関銃程度の銃弾ではあの竜の鱗は貫けない。
戦車砲かミサイル、もしくは対戦車ロケット弾が必要だ。
起き上がり、窓の外を見ていたレニックに助手席から発砲していた男、伊丹が気付いた。
「目を覚ましたのか!?」
驚いている伊丹にレニックは大声で伝える。
「アイツには銃弾は効かねえ!戦車砲か対戦車ロケット弾でも無いと無理だ!」
「確かに対戦車ロケット弾ならあるけど現在進行形で大暴れ中のアレに当てられる訳無いだろ! てかあんた日本語喋れるのかよ!」
どうしようか唸っていると、竜が口の中に炎を充填し始めた。
炎を吐く合図だ。
「ブレス来るぞっ!!」
伊丹がそう言うと車両は急旋回し、炎を回避する。
竜はこちらを標的に定めたようで、更に炎を吐こうとする。
今度は直撃コースだ、躱すことは難しい。
炎の充填を終えようとした時、気が付くとレニックの隣にいつの間にか一人の少女がいた。
それも全裸の。
長い金髪を揺らしながら、助手席の男に話し掛けるその耳長の少女の事を彼が忘れている筈は無かった。
「テュカ!?」
伊丹とは話が通じなかったのか、今度はレニックの方を向き、通訳を求めた。
「レニック!この人に目を狙えって伝えて!!」
「あ、あぁ!おい、竜の目を狙え!そこなら鱗に阻まれる事もあるまい!」
「分かった!!」
そう言って伊丹は全車両にその命令を伝え、彼らの射線が竜の目に集中する。
既に左目を潰されていた竜はこれは堪らんと動きを止める。
今が反撃のチャンスだ。
静止状態ならば命中させられる。
「勝本!パンツァーファウスト!!」
「了解!」
銃座席にいた勝本と呼ばれた男が大きな歩兵携帯式対戦車ロケット弾を取り出し、竜に向けて構える。
そのまま撃つのかと思えば、唐突に後ろを見る。
「後方の安全確認!」
「何をしている!早く撃て!」
悠長な事をしている勝本にレニックは怒鳴りつけ、漸く発射された。
放たれた一発の弾頭は火を吹きながら真っ直ぐ進んでいく。
しかし、揺れる車内で発射した為弾道が大きく逸れた。
「クソっ!外れか!」
そのまま弾頭が明後日の方向へと飛び去ろうとした時、不意に竜が横に倒れ始めた。
何事かと思えば、よく見ると竜の足が何かによって撃ち抜かれている。
鱗が砕けている所から見て戦車砲クラスの砲弾が叩き込まれたようだ。
大きくバランスを崩した竜は自ら弾頭の方へと飛び込んでいく。
そして鳴り響く爆発音。
こちらから見れば弾頭は間違いなく竜の胸に命中した。
流石に竜と言えど急所を撃ち抜かれれば致命傷だろう。
煙が立ち込める中、竜が動く様子は無い。
ただそこに立っているだけで死んでるのか生きてるのかも分からない。
煙が晴れてきた時、彼らは目を疑った。
竜は全くの無傷なのである。
700mm以上の装甲を貫くパンツァーファウストを受けても尚、竜の胸には傷一つ無かった。
それだけなら彼らはすぐに第二の攻撃に移ろうとしただろう。
しかし、それ以上に彼らを驚かせる光景がそこにはあった。
「な、何なんだよあれ……!?」
「う、嘘でしょ……」
竜の周りに迸る稲妻。
緑色の何かが竜の周囲を漂い、それはまるで竜を守るかのように球状に還流している。
それが何かは伊丹達には分からなかった。
ただ一人、レニックを除いて。
「馬鹿な……何故……」
レニックは瞠目し、稲妻を纏う竜を凝視する。
彼はあの正体を知っていた。
嘗て世界を破滅に導いた力の一つ、それは………………
「プ、
最近の竜はプライマルアーマーぐらい使えなきゃね。