ショーコ達と共に指令室にいたエルエルフは、突然介入してきた機動兵器に目を奪われた。
いや、エルエルフだけでは無い。そこに居た全ての人の目が、あの白い機動兵器に釘付けになっていた。
バッフェだけではなく、イデアールまで操縦席への一撃で落としていく。
圧倒的な力。ただこの一言に尽きた。特攻を仕掛け接近した機体は、光り輝く剣によって引き裂かれ次々にスクラップに変わっていく。
彼等は知らない。平行世界で50年以上になる戦乱の歴史の中で、最強と謳われたパイロットと、人の想いを力に変える愛機の力を。
敵からは白い悪魔と恐れられ、味方からは白き流星と称賛された最強の兵士。それがアムロ・レイという男だったのだ。
「見ろ!ドルシア軍が引いていくぞ!でも地球連邦軍ってなんだ?そんな組織聞いたことが無いんだが?」
「あら、貴方もですの?でもあれだけの機動兵器を開発してるんですもの。きっとドルシア軍の非道に憤った各国が同盟を結んだんじゃありませんの?」
生徒達の話を横で聞きながら、エルエルフはその可能性を否定した。
ワンオフ機として、あれだけの性能を持つ機動兵器を簡単に同盟に出せる筈が無い。やろうと思えばあのパイロット、艦隊を潰すことも出来た筈だ。そんな戦力は普通、秘匿して懐に仕舞って置く筈なのだ。それに奴等どこから現れた?あんな何もない空域を経由する意味が分からない。
暫く考え込んでいたら、白い機動兵器から通信が入った。
「聞こえるか。こちらロンド・ベルのアムロ・レイだ。武装解除に応えて頂き感謝する。そちらの代表者と話したい。代表者は何方か?」
「はい、新人ですが一応ここの教員をしてます、七海リオンと申します。貴方方はARUSの関係機関ですか?」
「いや、違う。その辺は後程話させていただくとして、こちらの母艦を一度そちらに寄港させたい。補給も受けられれば有り難いのだが。」
「分かりました。今後のことも含めて、お話したい事が有ります。此方は受け入れ可能です。でも、宇宙船ドックが酷い事になってるかも知れません。そちらの方で作業をお願いしても良いですか?」
「了解だ。そちらの機動兵器も手伝ってくれるんだろ?」
「え、ええ、まぁ。でも期待しないでくださいよ?パイロットは全員学生ですから。」
「学生?大人は居ないのか?あれだけの機動兵器を運用しているんだ。それとも、そちらは軍学校か何かか?」
「そういう訳では無いのですが。そちらも、後程説明させてください。」
「了解した。」
凛々しい男性からの通信が終わった。やれ声に色気が有るやら、優しさが滲み出てるやら周りの女共が騒いでいる中で、エルエルフだけは戦慄していた。
(あんなまともそうな男だが、なんの躊躇いもなく引き金を引いていた。しかも、背後の敵まで正確にコックピットを撃ち抜く技量、超一流の戦闘者だ。それでいて、奴からは狂気を感じなかった。一体どれだけの戦場を戦い抜いたのか。しかもあの機動兵器の性能、ヴァルヴレイヴどころの話では無い。これからどうなるんだ?いや、彼等の力を借りられれば!)
モジュール77周辺宙域 νガンダムコックピット
アムロ・レイ
さて、ブライト達に連絡するか。しかしいったいどう云う状況だ?俺達の1年戦争の時よりも酷い事に成っているのだろうか。
取り敢えずは、ここまでで分かっていることを報告するしかないか。
「ラー・カイラム聞こえるか?此方νガンダム、アムロ・レイだ。」
「此方ラー・カイラム。感度良好、νガンダムどうぞ。」
「あの建造物の入港許可が出た。建造物の名称は、モジュール77。どうやら、ハイスクールの生徒と教員だけで運用されているらしい。」
「何!?どう言う事だ。軍人は一人も居ないのか!?」
「どうやらそうらしい。取り敢えず、宇宙港が使用できるようだが、ガイドビーコンなんて無さそうだ。フルマニュアルで接舷する必要がある。MSを出して、牽引する必要があるかもしれん。対応の方はそちらで頼む。後、あちらの状況の詳細は、後程説明が有るそうだ。」
「了解だ。MS1小隊をそちらに先行させる。アムロは彼等を指揮してくれ。で、敵はやはりジオンか?」
「ブライト、心して聞いてくれ。ここは俺達が知っている地球圏じゃない。」
「どう云う事だ?」
「この世界では、宇宙世紀は使われておらず、真歴というそうだ。」
「は??」
「ついでに、地球連邦軍やジオン軍も存在していない。地球はまだ統一されておらず、国家がまだ存在しているようだ。」
「ほ、本当か!?」
「あぁ。一部国家の名前は違うが、ここは地球では有るようだ。大陸の位置など、俺の知っている知識と一致する。」
「つ、つまり・・・」
「ここはおそらく、パラレルワールドの地球みたいだ。信じたくは無いがな。」
「では、チェーミンとミライは・・・。」
「この地球には居ないだろうな。ここは俺達の知る地球じゃない。」
「・・・バカな、・・・・いや、そうか。そう考えなければ、この状況の説明が付かんか。」
「まぁ、戻れないと決まった訳じゃない。取り敢えずは、こちらに来てから考えよう。」
「やけに楽天的だなアムロ。」
「まぁ俺はあの時死んだと思っていたからな。生きているだけで儲けたような物だ。生きていれば何とかなるような気がする。」
「ニュータイプの勘か?」
「いや、ただの勘だ。」
「お前の勘は怖いくらい当たるからな。まぁ良い。こちらもそちらに合流する。」
「了解だ。」
楽天的か。何か縛られていたものから開放されたような感覚はある。これが何を意味するのか?この時の俺には分からなかった。
ラー・カイラム自習室
ハサウェイ・ノア
僕は一体どうしたんだ?確か銃殺された筈じゃ・・。それがなんでノーマルスーツを着込んで、連邦軍の戦艦に・・・。
「気が付いた?ハサウェイ。」
「チェ、チェーンさん?な、何故・・・?」
僕が殺してしまった女性。僕の罪。ここは地獄なのだろうか?
「落ち着いて、ハサウェイ。どういう訳かは分からないけど、私は生きているわ。」
「あれから何年経ったと思ってるんです?そんな事信じる訳ないでしょう??」
「え??何を言ってるのハサウェイ?そんなに時間は経ってないみたいだけど?ケーラも不思議がってたし、アストナージさんは軽くパニックに成ってたけど、皆あの時と然程時間は経ってないわ。」
「あの時?ケーラ?アストナージさん?」
「シャアのアクシズ落とし阻止作戦よ。私はどうなったかは知らなかったけど、阻止は出来たみたいよ?」
そこ!?と言う事は、ここは宇宙??ラー・カイラム??
「と、父さんは!?」
「落ち着いて、無事よ。話を聞いたところ、凄い無茶をしたそうだけど。」
「無茶??」
「えぇ。ラー・カイラムでアクシズを押し出したそうよ。ガンダムと一緒に。」
「えええええっ!?」
ど、どうなっているんだ?そんな事実は無かった筈だ。歴史が変わったのか?
でも僕は覚えている。人を殺すために引いた引き金の妙な軽さも、アイツと戦った記憶も、Ξガンダムを操る感覚も。あれは夢や幻なんかでは決して無かった。
「チェーンさん、手鏡有ります?」
「これで良い?」
チェーンさんから受け取った手鏡の中では、驚いた顔をしている13歳の僕がいた・・・。
父さんは!?父さんなら、あの時のことも覚えているかもしれない。Ξガンダムの事も。僕は手鏡を返して自習室から飛び出した。
ブリッジまでの距離がもどかしい。ブリッジに入ったと同時に、父を呼ぶ。
「父さん!!」
「ん?ハサウェイ、起きたのか。どうしたんだ慌てて。少しは無断乗艦を反省したか?」
「と、父さん?」
僕がジェガンで無断出撃したのも気付いて無いのか?そして、僕が多くの罪を重ねた事も・・・、マフティーとして命を賭けて戦った事も・・・?
「は、話が有るんだ。少し良いかな?」
真剣に話しかける。
「分かった。接舷までには戻る。副長頼めるか?」
「了解です。接舷後に戻られて大丈夫です。ゆっくり話し合ってください。」
「すまん、助かる。甘えさせてもらおう。ハサウェイ、俺の部屋に来なさい。そこで聞く。」
「ありがとう、父さん。」
父さんには全てを話そう。僕の今までの事。僕の戦いの事も。
マフティーの名を背負うと決めたあの日よりも重い覚悟を決め、父の背中を追いかけて歩いた。
ラー・カイラム 艦長室
ブライト・ノア
歴史が変わった?息子の話を聞いて、初めはなんの事か分からなかった。しかし、本来なら私はラー・カイラムでアクシズを押す事なく、ただアムロが起こす奇跡を眺めるだけで、アムロの命を犠牲に地球は救われる筈だったそうだ。
その後も私はロンド・ベルを指揮し、息子ハサウェイは地球連邦政府に反旗を翻し銃殺された・・・。
息子が嘘を言っているようには見えない。実際、連邦政府はそのような動きになる可能性は大きい。アデナウアー・パラヤ然り、軍の上層部然り。
やはり連邦政府と軍は腐って行く運命なのか。そしてその組織の中で、私は足掻き続けても結局は何も変わらなかった。
ニュータイプと呼ばれる人達と共に戦ってきたが、彼等を守ることも救うことも出来ず、歴史の波に呑まれていくというのか。私の息子さえも・・・。
「父さん、ここは僕達が居た地球じゃ無いんだろ?」
「何故わかる、ハサウェイ?」
「此の宙域には、あの世界ほど死んでいった人達の念が感じられない。アクシズを押すために焼かれて逝った人達の断末魔も、無念さも感じないんだ。ただ、虐殺する積りが、反対に殺されて理不尽に感じている甘ったれた怨念だけ。あの世界ほど切羽詰まった感じは無い。」
「お、お前もニュータイプなのか?そうか、確かお前が乗っていたガンダムも、サイコミュ搭載型だったな。母さんの血か・・・。」
「いや、僕はニュータイプじゃ無いよ。過去に囚われて、テロに走るしか無かった愚か者だ。ニュータイプだったら、もっと上手くやれた筈だ。」
「お前はニュータイプをヒーローか何かと勘違いしている。彼等は普通に人だよ。シャアなんかその典型だ。過去に囚われ、地球に隕石を落とそうとした。アムロとだって分かり合えた筈なんだがな。結局は反発しあってあんな事に・・・。ニュータイプと言えども、やはり我々と同じ人間なんだ。」
「そうかも知れない。僕も過去に囚われていたのかもね。今なら分かるような気がする。人間は突然そんなに進化する訳は無いってね。」
「そうだ。お前はきっと急ぎ過ぎたんだろうな。けど心ある人達はきっといる。連邦政府や軍がそう言う流れになるなら、連邦政府は求心力を失い、その内瓦解するのだろう。これはお前にとってやり直すチャンスになるかも知れない。」
「うん。僕もそう思うよ。」
「まぁ父さんは少し焦るべきだったのかも知れないが、年長者からのアドバイスだ。お前は焦らずに頑張れ。私達がこの世界に呼ばれた意味が必ず有る筈だ。」
息子は戦士として成長したのか・・・。悲しくもあるが、この世界に連れて来られた以上、戦う力は必要だ。何と戦うかは分からないが。
ラー・カイラムMSデッキ
アストナージ・メドッソ
流れ弾(ミサイル?)の爆発に巻き込まれて死んだと思ってたら、五体満足で生きていた。死んだはずのケーラも生き返ってるし、どうなってんだ??
暫くパニックになっていたが、生き残れたのならそれで良いかとも思ったら落ち着いた。今はただ、生きている事を喜ぼう。
「アストナージさ〜ん、MSデッキの奥にこんなコンテナ有りましたっけ〜?」
「なんだ?ちょっと見せてみろ。なんだこの重MSは?こんなの有ったか〜?何々?型式番号RX−105?ガンダムだと〜っ!!」
いったいどうなってるんだ?直ぐに艦長に知らせなくては。
アストナージはMSデッキの連絡用回線に急ぎ、ブライトを呼び出すことになる。
混迷を極めるこの情勢に、高過ぎる武力を持つ集団がどのような結果を産むのか?
その答えは、まだ誰も知らなかった。
ガンダム、それは人に哀しみと希望を見せるシステム。君は生き残ることが出来るか?
少しずつ進めていきたいと思います。