時縞ハルトは、アムロと名乗った人物を信じるべきか疑うべきか迷っていた。
先日もARUSの軍隊と議員がやって来て、自分達から武器、ヴァルヴレイヴを取り上げ、皆を見捨てようとされたのだ。
しかし先程の戦いでは、彼は自ら武器を持ち、自分達をドルシアの手から守ってくれた。あれだけ高性能な兵器を手足のように扱っているのだ。今更ヴァルヴレイヴに興味を持つとは思えない。
しかも、どうやら彼等はこの世界の人達では無いようだ。それが何を意味するのか分からない。侵略するつもりなのか、庇護を得たいだけなのか。
もし庇護を受けたいのであれば、ARUSやドルシア軍に付くのか?間違いなく言えることは、彼等を手に入れた勢力は、一気にその勢力を拡大するだろう。
社会に詳しくない自分でも分かる。全世界を巻き込んだ戦争が起こるだろうし、僕達は生き残ることが出来るのか?
「確か、時縞君と言ったね。そんなに警戒しないで良い、俺達は君達を悪いようにはしないよ。」
「そ、そんな。警戒なんて・・・。」
「ハハハ、隠さなくても良いさ。何度も言うが、警戒しなくても良い。取り敢えず此方は現在の状況が分かっていない。君が知る限りで良いから教えてくれないか?」
「は、はあ。分かりました。先ずは・・・。」
そこからハルトは語り出した。この構造物が、元々ダイソンスフィアと言う巨大なスペースコロニーのような物の一部であった事。
そのスペースコロニーは、ダイソンスフィアと呼ばれ、各国が作ったモジュールに人々が住んでおり、人口の約7割はダイソンスフィアに住んでいた事。
彼等はジオールと言う国が作った77番目のモジュールに有る学園の生徒であったが、突然ドルシア軍がジオールに侵攻。その時に逃げている最中、偶々ヴァルヴレイヴを見つけ乗り込んだ事。
モジュール77以外のジオール領地は既にドルシア軍に無条件降伏をしている事。
先日、二大国家の一つ、ARUSが軍と議員を派遣して彼等を護ると言ってきたが、その実は彼等の兵器、ヴァルヴレイヴを入手する事が目的であり、彼等を護るつもりは無く、見捨てられ、ヴァルヴレイヴさえも奪われそうになった事。
幾度かのドルシア軍の襲撃で友人を殺されながらも、学園は独立を宣言し中立地帯である月を目指している事。
「なるほど、大変だったね。所でドルシア軍は、何を理由にジオールに侵攻したんだい?」
「ええっと、中立国であるにも拘らず、秘密裏に強力な兵器を開発していたとかなんとか言ってましたね。それが何か?」
「そんな事で軍事侵攻を??聞いたところ、ドルシアは侵略国家だろう?独立国が身を守る為に軍備を備えるのは当然じゃないか。それを理由に侵攻するのはナンセンスだ。各国はドルシアに対して何もしないのか?」
「ARUSが非難声明を出しただけで、ドルシアに対して軍事行動は行われて無い筈です。」
「馬鹿な。明日は我が身だと思わないのか?そんな危険思想の国家があれば、同盟を組んで対処して然るべきだ。放って置けば大変な事になるぞ。」
「自分に火の粉が降りかからなければ、皆そんなものじゃないですかね?」
「それは政治家の存在する意味がない。どこの世界も同じか・・・。そして、本来は戦わなくても良い子供達が戦場でそのツケを払わされることになる。」
アムロのその言葉に、ハルトはもしかしたらと思った。近くに同年代で一流の戦闘員、エルエルフが居たのも彼の考えを肯定していた。
「アムロさん、もしかしてアナタも?」
「あぁ、初めて戦ったのは15の時だ。それが今ではMS部隊の隊長さ。君がどんな覚悟でその兵器に乗り込んだのかは聞かせて貰った。だが無茶はするな。死に急いでは駄目だ。石に齧り付いても生き残れ。そうじゃなきゃ誰も守れない。」
「ハイ!」
「これからどうなるかは分からないが、おそらくブライト、あぁ、今から来る艦の艦長だが、彼の事だ。君達を見捨てるような真似はしない筈だ。訓練位は付き合うことに成るかもな。」
「随分信頼されてるんですね。」
「あぁ、初めて戦争に参加した頃からの付き合いだ。大丈夫、信用出来る人物だよ。」
「ハイ、その時は宜しくお願いします。」
「了解した。ま、全てはこれからの話し合いからだな。」
ハルトはこの時やっと、アムロから悪意が無い事に気付いた。やっとまともな大人と会えた喜びに歓喜していたのだった。
ラー・カイラムMSデッキ
ハサウェイ・ノア
ここに何故これが・・・。父に連れられMSドックに来てみれば、奥の方にある筈のないMSが有った。
「RX-105って書いてますけど、こんなの受け取った記憶も無いんですよ。一緒にマニュアルは有るんですけど、どうやらサイコミュを載せてるみたいですが、いったい何なんですかね、これ。」
僕の表情を見て何か気付いたのだろう。父が僕に問いかけた。
「ハサウェイ、これが何か分かるのか?」
父さんに耳打ちする。
「RX-105、Ξガンダム。大気圏内でもマッハ2で飛行できる、空中戦が可能な最強のMSだよ。」
「こんなのが飛行できるのか??」
「MS搭載レベルに落とされたミノフスキーエンジンのおかげで、ミノフスキークラフトが可能なんです。」
僕達を怪訝な表情で見ていたアストナージさんが、父さんに話しかけた。
「どうしたんですかブライト艦長?コソコソ話しなんかして。もしかして、ハサウェイ君に心当たりでも?」
「いや、空を飛べそうな機体だなとな。素人の感想だ。」
「いい線行ってますよ。カタログスペック上は正に空を飛べます。少し信じられませんがね。」
「そうか。アストナージが中心となって、この機体を調べてみてくれ。いつ使うことになるか分からんからな。戦力は多いほど良い。」
「了解です。」
父さんが眉間のシワを揉んでいる。本当に困った時にする癖だ。困っている所悪いが、僕は何故かこの機体は僕が使わなければならないと感じた。
おそらく僕達を此処に連れてきた存在はそれを望んでいる。そして、それは悪い事ばかりではない。そう感じたんだ。
父さん、悪いけどその時が来たら僕はΞに乗るよ。少年の体に戻ったけど、僕の手は僕の意思で血に汚れる事を選択したんだ。Ξガンダムを見上げ、そう思った。
咲森学園 首相官邸(校長室)
ブライト・ノア
あれから数時間後、私は咲森学園と呼ばれるハイスクールに来ていた。どうやらこのモジュールという構造物には学生しかおらず、大人は教員2名。しかも内1名は教育実習生。私からしてみれば、彼女も子供だ。
極めつけは彼女達は新生ジオールを名乗り、総理大臣まで決めているらしい。それが目の前の彼女、指南ショーコ嬢だ。隣に座っているアムロは絶句しているのか言葉も発せないようだ。
「で、現在に至る訳です。」
「なるほど。で、現在の戦力はヴァルヴレイヴと呼ばれる機動兵器が5機にパイロットが4人。これだけの戦力で月を目指していると。無謀を通り越して呆れるな。」
「で、でも、元ドルシア軍のエースのエルエルフ君も協力してくれてます。」
「話にならない。彼の事はドルシア軍でも把握してるだろう。今に対策を取られて、手玉に取られるのがオチだ。」
「では、私達はどうすれば!このまま大人しくドルシア軍に投降しろと?」
その時今まで沈黙していたアムロが口を開いた。
「ブライトの言っていることは、何もそう言うことを言ってるんじゃあ無いんだ。この口喧しいおじさんは、君達を心配しているんだ。君達はハイスクールの生徒なんだろう?その内の4人は既にパイロットとして人を殺している。戦争なんだから仕方ないのかもしれないが、それはとても危険なことなんだ。おそらく彼らは、そう簡単に日常には戻れないだろう。その上で聞こう。やはり君等は最後まで月を目指すのか?どんな犠牲を払おうとも。」
「犠牲?」
「そうだ。戦う以上は敵に敗れて死ぬことは当たり前のことだ。幾ら高性能な兵器でもな。彼らパイロットを犠牲にしてでも自由を求めるのか?その辺りを真剣に考えたのかな君達は?」
アムロの問いに、少女は直ぐに答える。
「私は、私達は、それでも月に行きたい!皆一緒に力を合わせればきっと!」
アムロめ!俺をおじさん呼ばわりして!しかし俺が言いたいことはそういう事だ。少女の返答を聞き、ただ子供だなと思った。頑張れば何でも出来ると思っている。危うい。危ういんだが、彼等だけでは無理なんだがな。どうしたものか。
「そこでお願いです。あなた方の力を貸してください!このモジュールにある施設を自由に使ってもらっても構いませんので。」
「・・・・。」
いったいこのモジュールにどれ程の施設があるのか。
「軍人さん達に、一回見てもらった方が早いよ。」
撚れた白衣を着ただらしなさげな男性が話しかけてきた。
「あなたは?」
「ここの物理教師をしてます、貴生川タクミと申します。御二方をヴァルヴレイヴの専用ドックにご案内しますよ。色々と設備も揃ってますし、修理や補給も可能だと思います。」
「そうですか。では確認させて頂きます。一人同行者を付けても宜しいでしょうか?」
「ええ、もちろん。」
「ありがとうございます。艦のメカニック主任を同行させます。アムロ、アストナージを呼び出してくれ。」
「了解した。取り敢えず、あなた方が戦い抜くつもりである事は分かりました。こちらの返答は、その施設を見てから考えさせてもらいます。」
自身を現実主義者と疑わないブライトは、冷静に判断して今から向かう施設に対して、そこまでの期待はしていなかった。
それよりも、この貴生川と名乗った男に、違和感を覚えていた。
それはアムロも同様であり、アムロに至っては、彼が何か隠していると直感で感じた。そしてそれは正しかったと直ぐに判明することになる。
モジュール77地下施設入口
アムロ・レイ
「アストナージ、呼び出してすまないな。ちょっと見てもらいたいものが有るんだ。」
「はじめまして、貴生川タクミと言います。この学校の物理教師です。」
「あぁ、わざわざどうも。アストナージ・メドッソです。あの艦のMS、まぁ、機動兵器ですね。それの整備主任です。」
「では参りましょう。こちらです。」
貴生川に先導され、モジュールの地下施設へと向かう。そこは、とても民間施設の地下とは思えなかった。
外縁部には自衛の為の機銃座、そして、ヴァルヴレイヴと呼ばれる機動兵器の格納施設。そこには修理や、組み立て、製造に至るまでの必要な設備が揃っていた。
「ここは、立派なMS、いや、機動兵器の製造工場ですよ。民間施設の地下になぜこんな物が!」
アナハイムで働いていた事も有るアストナージが驚いている。
「貴生川さん。学園の方では、この施設の存在を把握して居たのですか?」
「えぇ。把握していましたよ。と、言うよりも、あの学園はヴァルヴレイヴのパイロットとしての適応者を集めた施設だったのです。」
「適応者?ハルト君は自分の事を、普通の高校生だったと言ってましたが?」
「でしょうね。ここに居た大人以外、ここの本当の存在意義を知らない筈です。」
「では、七海先生も?」
「いや、彼女は教育実習生です。仮にも普通の高等学校のフリをしているのですから、教育実習生の受け入れをせざるを得なかったのでしょう。私はここに来て直ぐに、上司と揉めましてね。適応者の監視目的で地上の学園に配属されたと言うことです。」
それじゃあの子達は、大人の企みのせいで巻き込まれたというのか?いや、もしや!
「あぁ、何か勘違いしてるかも知れませんが、ここで人体実験はしてない筈ですよ。私は殆ど此処には来てませんけど、学園から生徒が居なくなった事も有りませんしね。授業をサボって逃げた生徒以外はですけど。」
なるほど。つまりあの学園の生徒は国から集められた生徒だと言うことか。強化人間等の非人道的な実験は行われていなさそうであることには、一応安堵する。
「しかし、何を基準に適応者を選んでるんだ?」
「それは、私も知らされて居ません。ここの職員は、最初のドルシア軍の攻撃で、みんな死にましたから。私は運が良かっただけですよ。」
戦力を把握するために最後にアストナージに聞いてみた。
「どうだ、アストナージ。ここの施設はどれだけ使えそうだ?」
「詳しく調べてみなければ分かりませんけど、うちのMS隊の整備は簡単にできますよ。新しくMSを製造することもね。」
「つまり、ここの施設の事は、ドルシアにバレていたという事か。」
「大体のことは把握しました。では学園に戻りましょう。」
ブライトも、ようやく覚悟を決めたな。そうだな。子供達が無駄に殺されるのを見たくは無い。
厳しい戦いに成るだろうが、やり遂げる価値はある。
この日、新生ジオールと、ラー・カイラムは軍事同盟を結ぶ事に成った。
モジュール77と月面の距離は徐々に縮まっており、事ここに至り、ドルシア軍は最後の戦いを始めようとしていた。
次回まで派手な戦いは無い予定です。