第6話 新生ジオール、武装化への道
ドルシア軍を退けた新生ジオールは、無事月面にモジュール77を着陸させることに成功した。これで一先ずは安泰だろう。しかし、狂犬のような国であるドルシアの事だ。何らかの理由を付けてコチラに攻撃して来る可能性は有る。
ブライトは、警戒を緩めることは無かった。
月に到着して次の日、ジオール元首相、指南リュージ氏から会談を申し込まれた。ブライトとしてもこのモジュールの異常さについて聞きたいことは山程有ったため、その申し出を受ける事になる。会談は次の日の午前中になった。彼は直ぐに長年の戦友を艦長室に呼び出した。
「アムロ、呼び出してすまんな。明日元ジオール首相のサシナミリョージ氏と会談することになった。その会談の場にお前も参加してくれないか?」
「何故だブライト?一パイロットの俺に、元とは言え政治家の相手が務まるとは思わないんだが?」
訝しむアムロに対し、ブライトは怪訝な視線を向ける。コイツは何時もそうだ。いい歳してるにも関わらず、面倒な事からは基本逃げ倒す。アデナウアー・パラヤの相手然り、上級将校の相手然りである。自分がロンド・ベルに派遣されるまでは、それなりにやっていたクセ、自分がロンド・ベルに来てからはもう、全て丸投げである。
嘆息しながらブライトはアムロに説く。
「お前は基本、人に理解されようとは思っていない。理解してもらう事を何処か諦めている。それよりも、自分が最大のパフォーマンスを発揮する事に集中する、言わばアスリート気質な所が有る。
戦場ではそれでいいかも知れない。しかし、それではいかんのだアムロ。大人ってのは、面と向かって話し合い、ゆっくりと相互理解していくもんだ。今からでも部隊の長として、上の者や関係者との付き合いや、腹の探り合いを覚えていけ。」
痛い所を付かれたとアムロは思った。事実、ブライトが来る前は、雑多なことに時間を取られ、自分のパフォーマンスを発揮出来ていなかった覚えがある。
「それに聞きたいことが有るんじゃないのか?ヴァルヴレイヴのパイロットの事然り。あの機体は謎が多すぎる。動力源を含めてな。」
「確かに、サシナミ氏には聞きたい事が山程ある。分かった、今回はブライトに付き合うさ。」
「あぁ、助かる。」
こうしてロンド・ベル側からはブライトとアムロの2名が、明日の会談に臨む事になる。
翌日、ラー・カイラムの会議室で指南リョージとの会談が行われた。
「今回は此方の要請に応じて頂き、ありがとうございます。また、我が国の子供達を救って頂き、真にありがとうございました。
改めて、自己紹介を。私は元ジオール首相指南リョージと申します。西洋風に言えば、リョージ・サシナミですね。リョージがファーストネームでサシナミがファミリーネームです。」
「こちらこそ態々お越し頂き、ありがとうございます。私は本艦の艦長で地球連邦軍独立新興部隊ロンド・ベル艦隊の司令を務めていますブライト・ノアです。階級は大佐を拝命しております。」
「同じく、ロンド・ベルでモビルスーツ隊の隊長を務めていますアムロ・レイです。階級は大尉を拝命してます。」
「では此方も改めて。高校教師兼元VVV計画の一員でも有った、タクミ・キブカワだ。まぁ、俺が知っている情報は粗方貴方達に開示した積もりだ。」
「ええ、大凡は把握しました。しかし分からないことが多すぎます。あの兵器は一体何なのですか?動力らしい動力も有りません。一体何を動力源にしているのかさっぱりです。そして、子供達から聞きましたが、人間をやめるとは、どういう事なのですか?この学園は適合者を集めた施設でもあると聞いています。まさか、非人道的な兵器では無いでしょうね??」
アムロは、全てを知る立場にあったであろう指南リョージに、直接疑問を投げかけた。あれだけの高火力を持つ優秀な兵器では有るのだが、アムロはパイロットの子供達に不安のような物を感じてもいた。
「すいませんが、私も詳しいことは分かっていないのです。ドルシアに対抗出来る兵器の開発であるとしか。しかし、私のパスコードを使えば、機密とされていた資料も閲覧できます。今からでも研究施設の端末に行きましょう。貴生川君、案内出来るかね?」
「ええ、勿論です。では早速移動しますか。」
「此方は構いません。アムロ、一応アストナージを呼んでくれ。」
「分かった。それと念の為チェーンも呼ぼう。彼女も優秀な技術者だ。では、左舷側の機材搬入口で落ち合おう。それでいいですか、サシナミさん。」
「ええ。結構です。」
「では、艦の左舷側出口までは私がご案内します。」
「よろしくお願いします。」
指南リョージは、思ったよりも簡単に情報の開示に応じた。人の良さそうな男だが、一国の首相にまで上り詰めた男だ。一体何を考えて居るのか。ブライトには、彼の行動に裏があるのでは無いかと感じていた。
しかし、アムロは彼に対し、何ら警戒していない。少なくとも悪意を向けている訳では無いのだろうと察する。
10分後、アストナージとチェーンを伴い、アムロが合流した。チェーンは、今回が初めてのヴァルヴレイヴ関係施設だ。興味深々の体でアムロについて来る。
研究所中央の情報端末で、ロックの掛かったファイルを早速解除する。
そして其処には、驚くべき情報が記録されていた。
先ずヴァルヴレイヴのパイロットは、彼等だけでは無かった。
彼等がヴァルヴレイヴに乗る前に、実験として一人の少女がヴァルヴレイヴを操縦している。彼女の名前は野火マリエ。現在、咲森学園の2年生だ。
彼女は、ヴァルヴレイヴⅠのパイロットをしていたが、徐々に記憶を無くしこれ以上は危険だと判断され、ヴァルヴレイヴに乗るこから解放されていた。現在は、ヴァルヴレイヴの事について、覚えてもいないと言う。
何故記憶が消去されたのか。それは、生体エネルギーであるルーンを消失したからである。ルーンの消失により、魂を形作る記憶も消失する事になり、最後には死に至る可能性も出てきたのだ。
では何故ルーンが消費されたのか。
それがヴァルヴレイヴのエネルギー源であったからである。
他にも判明した事は有った。人間をやめるとは、そのままの意味で、パイロットになれば本当に人間では無くなるのだ。マギウスと言う、人とは違う不死の生命体に成るのだ。
これを見たアムロは怒気を孕ませ呟く。
「悪魔め。人の命を何だと思っているんだ。」
そして、リョージに問いかける。
「サシナミさん、本当に分かってなかったのか?このような訳の分からないエネルギー源を使うという事を。そして、その末に過去を無くした少女を作ってしまった事に。」
「済まないが、本当に知らなかったのだ。逐一開発状況は入ってきていたが、正直国政に手一杯でね。勿論マリエ君が起動実験の副作用で記憶障害になっていた事は把握していた。しかし、私は彼女にこれ以上の実験参加を止めさせ、普通の生活が出来るよう厳命しただけで、このような事に成っていたとは知らなかったのだよ。」
アムロは指南の言葉に嘘は感じなかった。つまり、上層部にわざと一部の情報を開示せず、隠していた者が居るはずだ。その時、キブカワがボソリと呟く。
「時縞博士か。」
「トキシマ?」
アムロは聞いた事がある名前に、反応する。
「ええ。VVV計画の最高責任者と同時に、ヴァルヴレイヴの開発者です。奇遇ですが、時縞ハルト君の父親でも有ります。」
「つまり彼は、父親の開発した物で、人間をやめさせられたのか。なんとも因果な。」
「いいえ、彼なら喜んで居るでしょうね。自分の開発した物の有用性を、息子が示したのですから。彼はそんな人物です。」
「マッドサイエンティストか。そんな人が人の親になるとは。だがこれで分かったな。ブライト、ヴァルヴレイヴの使用は凍結しよう。この兵器は使うべきじゃない。ここの施設を利用して、モビルスーツを増産しよう。ここまで来れば致し方ない。学生にも戦って貰う。」
「待てアムロ。何と戦うのだ?彼等は非戦闘区域の月に辿り着いたのだ。無理に戦う必要など無いと思うのだが?」
「甘いなブライト。ドルシアと言う国は今も虎視眈々と此方の事を、いや、恐らくはヴァルヴレイヴを狙っている。奴等にこの兵器を奪われたら、それこそ人間は家畜にされてしまいかねない。この地上から、あの国を消滅させる。そして、ジオールによる地球圏統一国家を樹立させよう。」
「ARUSでは駄目なのか?」
「ああ。あの国も信用出来ない。他国だからと、ドルシアの横暴を看過していたような国だ。利益が無ければ戦争しないと、言っているようなものだ。人類の害悪と認識してもいない。あの政府は、ほとんど俺達の世界の地球連邦政府と同じような物だ。」
「それで、ジオールいや、新生ジオールか?あの若者達の命を無駄に死なせる事にも成りかねないんだぞ!?アムロ、少し頭を冷やせ。」
「どの道、此処はドルシアに攻め込まれるんだぞ?否が応でもあの子達は戦わなければ生き残れない!奴等が世間体を気にするとでも思うのか!」
「そ、それは・・・。」
「ブライト、俺も好き好んであの子達に銃を取らせる積もりはない。しかし戦う術を覚えなければ、彼等は確実に死ぬぞ?もう彼等は引き返せないんだ、平和な生活に。あの時の俺達と同じなんだよ。ならば、勝ち取るしかないじゃないか。此処にはモビルスーツさえ建造出来る施設もある。なぁブライト、彼等を助けるには、もうこれしか道がない。力を貸してくれないか?」
ブライトはしばらく瞑目して苦悩する。自分の何処か楽観視した希望的予測が、未来のハサウェイを戦いに駆り出し、その未来を潰してしまった。決断するのは今なのか。若い命を幾つも散らす事になったグリプス戦役を思い出し、更に苦悩する。
彼等は人類の未来を信じ、自ら銃を取った。しかし彼等は・・・。いや、彼等の志は連邦政府に否定された。そして、アムロの命懸けの行動さえも、彼等は無視し、自らの私腹を肥やす行動を辞めなかったのだ。その結果がハサウェイの反乱。エゥーゴでは、連邦政府を変える事は出来なかった。ならば、自らの手で世界を変える必要がある。シャアに期待した時期も有るが、彼は連邦政府に絶望し過激に走ってしまった。
他力本願では駄目なのだ。ブライトは決断する。
「俺達は地獄に落ちるかも知らん。だが、あの子達を無駄に死なせる訳にもいかん。分かった。しかし、ジオールを奪還した後は、元正規の軍人を中心に配属させる。それと、奪還したジオールの国民が戦争を望まなければ、戦争はしない。それでいいか?」
「あぁ。民衆の反対を押し切ってまで戦争を継続する気は無い。ドルシアが攻撃してこない限りはな。」
アムロの一言に少し安堵したブライトであったが、その反面あの国がそう簡単に矛を納める気は無いともどこかで感じていた。
アムロにあっては、ザビ家よりも悍ましい何かが蠢いている感覚があり、ジオールを解放しても戦争が続くと確信していた。