イワン・アレンスキー大佐は、その日黄色い猿共の弾圧を如何に効果的に行うか頭を悩ませていた。特に旧日本地区の猿共は、顔は笑っていても内心何を考えて居るのか解らなかった。
エコノミックアニマルと揶揄されるほど勤勉で、一見従順に従って居るように見えるが、彼等の動きは確実に怪しかった。元ジオール軍の将校が数名行方不明になっており、後に解ることだが実際に軍備を揃えていた。
彼等が蜂起したところで、被害は少なかっただろう。機動兵器を持たず、白兵戦力を揃えるので精一杯であったのだ。時間はかかるが、虱潰しに叩いていけば彼等は殲滅出来る筈であった。
しかし、アレンスキー大佐は読み違えてしまった。月に新しい勢力が出来ており、ドルシア軍の戦艦や機動兵器、資源衛生からの物資を材料に、新戦力を整えていたと言うことを。
新暦72年1月3日、午前3時3分。年末年始に浮かれる占領地の住民を警戒し、そろそろ疲れが出てきた所で悪夢は始まった。
先ず初めに気付いたのは通信員だった。各地に配備されている航空基地が次々に沈黙、定時連絡が途絶えたのだ。そして、無線通信が尽く使用不能となり、有線通信のみが可能であった。
此処にきてこの通信員は直ぐ様上官に報告。何者かによる電波障害の可能性を示唆した。
しかし、この時その上官はその上申を保留してしまう。全通信員に有線で各地に分散配備された基地との連絡を優先させたのだ。各地の陸上戦力部隊、海軍港とは連絡が取れたが、空軍基地との連絡は途絶。この時に成って初めてこの上官は占領地司令部に報告した。
この時既に、各航空基地は破壊されており、新生ジオールの脅威はなおも進行中であった。第一次地球降下作戦のモビルスーツ隊隊長は、ケーラ・スゥ中尉が指揮を取っていたが、新米のパイロット達の士気の高さに驚かされた。
それもそうだろう。平和に暮らしていた所をドルシア軍に突然襲撃され、友人を何人も殺されたのだ。武器を持つ軍人であれば兎も角、非武装の高校生がである。
彼らの怒りはその後も燻り続けており、ロンド・ベルが兵員の募集をしたと同時に、予定していた定員をオーバーするほどであったのだ。
その後の訓練も、勤勉なジオール人らしく真剣に取り組み、予想よりも早く実戦投入レベルまで成長したのだ。
若者特有の義憤やら使命感も有ったのだろうが、元々温厚な彼等を此処まで追い詰めたのは、ドルシアで有った。だからこれは正に自業自得なのであろう。降伏をする間も与えず、彼等は無慈悲にその引き金を引いた。
宣戦布告をする事も無く、攻め入って来たのだ。自らが同じ事をされても文句は言えない。突然の事に、なす術もなくビームに焼かれて消えていくパイロット達。彼等は先ず宿舎を攻撃し、基地施設を破壊していった。
宇宙世紀のこの時代で主力となったジェガンには、生半可な攻撃は通用しない。直進弾と化したミサイルに当たる生徒は居らず、無傷のまま各方面の制圧は進んでいった。
そして、この攻撃に逸速く反応したのはドルシア軍ではなく、地下に潜り込んだ元ジオール軍のレジスタンスだった。彼等はドルシア軍の基地から、使用可能な機動兵器や戦闘機を簒奪。基地施設も一部復旧させ、新生ジオール軍に合流。ミノフスキー粒子散布範囲外に出ないよう、各指揮官に注意され作戦に参加。彼等は勇猛果敢に陸と空を暴れまわる事になった。
ドルシア軍は、極東の島国で100年も戦い続けてきた戦闘民族(ウォーモンガー)を叩き起こしてしまったのだ。
彼等(ウォーモンガー)は怒っていた。理由にも成らない理由で一方的に殴られ続けた事に。太平の世であってもその腕を磨き続けた彼等は同じ性能の兵器であれば、一般のドルシア軍で有れば難なく撃墜していった。それは陸でも空でも同様であった。実戦経験豊富なドルシア軍と互角以上に戦えたのだ。
それは地上進攻軍に正式に編入された、ミノフスキークラフト搭載機であるΞガンダムを駆るハサウェイにとっても、想像以上のものであった。加速度的に増えていく兵力。首都東京に近付く頃には凄まじい数の兵力が集まっていた。
事此処に至ってもまだ、イワン・アレンスキー駐留軍大佐は挽回不可能な状況に陥ったと気付く事は無かった。
音もなく忍び寄るゲリラ戦部隊が地上の各施設を占拠し、ミノフスキー粒子のせいで、レーダーも通信も儘ならない状況が続き、気付いたら東京地区に築かれた占領地司令部は陸上部隊に包囲されていた。
新暦72年1月3日午前7時15分、占領地司令イワン・アレンスキー大佐は極東の占領地からの撤退を決定。東京湾に停泊している数少ない艦隊と共に、旧日本領からの撤退を宣言した。
後に言う暁の蜂起である。この戦いで、新生ジオールは、旧日本地区の奪還に成功。その兵力を一気に倍増することに成功する。
これに驚いたのはドルシア軍事盟約連邦と裏で繋がっていたARUS大統領である。旧ジオールが突然進攻されたにも関わらず、援軍の一つも寄越さず見殺しにしたのだ。軍事同盟の名の元、ジオールに駐留するARUS軍の軍費を負担させていたにも関わらずだ。
確かに抑止力には成ったであろうが、それが張り子の虎であることが判明することにもなった。ここで何を考えたのか、ARUS大統領は新生ジオールに対し批難を声明。理由は宣戦布告無しの軍事進攻であった。
敵国である筈のドルシア軍事盟約連邦に対してだけではなく、元は同盟国であったジオールに対しての批難声明に、ジオール国民はARUSに対して落胆し、新生ジオール政府は軍事同盟の破棄を決断。新生ジオールは、独自にモビルスーツの増産を開始。新生ジオール軍は、地上と月面の両方で次々にモビルスーツを生産し、一月後には、陸海空宇宙の新生ジオール軍は、武装を完全にモビルスーツへと転換することに成功。4月には、全旧ジオール領土の奪還に成功する。
そしてこの年の6月、ドルシア軍事盟約連邦首都サンクトペテルブルクに衝撃が走った。新生ジオールがドルシア軍事盟約連邦に対して、本格的に進攻を始めたのである。