夕焼け道を君と歩いて   作:赤瀬紅夜

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『一章』陽菜とマネージャー
【クロスロード・サインポスト】


本作品は、CUE!の話から数年後のお話です。

六石 陽菜の担当マネージャーになってから成長していく陽菜と共に歩き、少しだけ大人になった二人の物語。

 

 

【クロスロード・サインポスト】六石陽菜

 

という、CUE内のストーリーを読むとより一層楽しめます。

 

※読まなくても内容的には関わりません。

 

表紙イラストを、アニ見さんに描いていただきました……大人っぽい陽菜ちゃんが美しい!

 

 AiRBLUE事務所にて、陽菜はマネージャーと対面していた。

話している場所は、最初にAiRBLUEに関わる時に通されたあの場所だ。

陽菜の前には少し甘めのコーヒーを、そしてこちらにはブラックコーヒーを用意しておいた。

 

「それで、今から話すことだけど…」

 

 普段からは事務所であまり2人きりになるのは避けていたが、今回はかなり重要な話だった為、こうして話し合いの場を設けることになった。

 

「はい…」

 

いつになく真剣な面持ちで、陽菜は訊ねる。

 

「あるアニメの主役が陽菜になるかも知れないって話、実現が近そうって言うのを話しておこうと思って」

 

……そう、今日は陽菜に白羽の矢が立った、ある小説のアニメ化の話を持ってきていた。

 

 

「………という訳で、もしかしたら陽菜に声優が決まるかもしれないんだ」

 

 終始頷き、更には考え込む様に聴いていた陽菜だったが、話が終わって見てみると、すんなりと受け入れている様だった。

 

「わかりました、今は可能性の話ですけど、わたしはわたしで今出来る事をやろうと思います」

 

しっかりとこちらの目を見つめて、練習に励もうと決めた様だった。

 

 

「……はるな?あ、はるなだ」

 

 少し甘めの声が聞こえ、そちらに視線を向けると、高校生くらいだろうか、少し背が低めだが、陽菜に駆け寄る1人の少女の姿があった。

 

 その少女は、頭に全体的に黒色で赤いリボンが結ばれている車掌の帽子のようなものを被り、服はひらひらした薄手のものを羽織っている。

 

陽菜に駆け寄ると、すぐさま背中に隠れてしまう。

 

ええと、この子は確か……。

 

「ええっと、Springの若葉 日向わかば ひな………だっけ?」

 

 AiRBLUE事務所に所属し、陽菜達のFlower、Bird、Wind、 Moonのいわゆる「花鳥風月組」の後輩にあたるのだろう。

 

 「春夏秋冬組」……その中でも春…つまりはSpringに属する、声優のタマゴだった。

 

 恥ずかしがり屋な性格なのか、陽菜の影に隠れる様にして佇む日向に、思わず苦笑いする。

 

「その、今は陽菜と大事な話をしてるから、後でお願い出来ないかな?」

 

 今は陽菜の後輩と遊んでいる時間ではなく、陽菜の今後の話の最中だ。

 

普段なら別に気にしないが、今日はこの話をする為に色々準備もしたのだ。

 

 こちらの事を察したのか、陽菜からすぐさま離れ、帽子を目深に被って去っていく。

 

 

……しかし、こちらの席を通過する際に膝を思いっきり蹴られる。

 

「……っ!」

 

 加減を知らないのか、めちゃくちゃ膝に響いた。

日向の方を向くと、膨れっ面になりながら口を開いた。

 

「ひな達のマネージャーよりも先輩で、はるなの専属マネージャーだからって……カレシ面するなっ!」

 

それだけ言うと、小さい影は少し急ぎ足で遠ざかっていった。

 

 

「くぅ………なんなんだよあの子。膝結構痛いんだけどな」

 

蹴られた膝をさすりながら、陽菜の方に向き直る。

 

「ふふっ…、マネージャーさん、可笑しいですね」

 

すると、陽菜まで笑っていた。

 

なんだよもう、さっきの日向といい、陽菜といい、珍しく真面目な話をしていたのに。

 

「そんなに笑わないでよ、陽菜っていつの間にあんなにべったりな後輩が出来たの?」

 

いまだ笑いを口元に残しつつ、陽菜は言う。

 

「つい数ヶ月前ですよ。日向ちゃんって、わたしとマネージャーさんが付き合っていることに不満みたいで」

 

不満……か。

 

陽菜と付き合ってから、既に一年ほど経過していた。

 

 この事務所において、恋愛についてはなにもお咎めが無かったものの、陽菜のファンの事を考えると世間に公表はされていない。

 

 一応、事務所内にも広がらない様にしていたはずなんだけど……暗黙の了解の様に、殆どの人が知っているらしい。

 

何とか誤魔化そうと、話題を変える事にする。

 

「陽菜もすっかり成長したしね、もう声優のタマゴじゃない訳だし」

 

 そう、陽菜は出会ってからのここ数年で成長していた。

 

 麻色の髪を少し伸ばし、それでもあのリボンは着けたままで。

 

身長も少しだけ伸びていたりする。

 

 もちろん、声優としても仕事をこなし、声を当てるだけじゃなくナレーションの仕事などもしていた。

 

「それで……一応あちらの方には話を通すけど」

 

はい、よろしくお願いします、と返され、つい窓の外を眺める。

 

 そこには、真っ赤な夕日が映し出されていた。

 

オフィス街から眺めるその景色は、これからの陽菜の道を照らしてくれそうな気がする。

 

「陽菜……話すことも終わったし、帰ろうか?」

 

 陽菜の飲み終わったコーヒーのカップとこちらのカップを手に取り、席を立つ。

 

今日の陽菜のレッスンはもうない訳だし、暗くなる前に送って行こう。

 

 2人で玄関先に向かうと、数人の人たちが温かい目で見てくる。

 

……本当に、ここの情報管理はどうなっているんだろうか。

 

まあ、早いところ陽菜を家に送り届けよう。

 

 外に出ると、街が赤く染まりきっていた。

陽菜もどことなく赤くて、最初の頃に一緒に帰ることになった時のことを思い出す。

 

あの時、陽菜はパンダの話だったり、幼なじみの……確か、ふたばちゃんの話をしてくれた。

 

 しばらく歩いているうちは、お互いに無言のままだったが、事務所を離れていくうちに少しずつ距離を詰める。

 

その距離は、他人から、マネージャーと声優、そうして恋人へという間隔に昇華する。

 

手が触れ合いそうな距離になったところで、陽菜の手をそっと握る。

 

 少しだけこちらよりも高い体温、そして柔らかな感触が左手から伝わってくる。

 

なんだよ、手を繋ぐなんて何回もしてきたのに、まだ恥ずかしさが何処かにあるらしい。

 

「マネージャーさん、ちょっと大胆ですね」

 

そんな風に、夕陽に当てられた顔で言ってくる。

 

 陽菜の薄化粧の顔が綻ぶのが見て取れる。

 

控え目な力で握りかえされるのを、つい嬉しく思ってしまう。

 

「このまま陽菜の家まで送るけど、どこか寄り道していく?」

 

 歩いている歩道のすぐ近くを通り抜ける車を横目で見ながらそう言う。

 

陽菜はその言葉に首を横に振って答えた。

 

「マネージャーさんとこうして……手を繋いで帰ってるだけで十分です」

 

十分……か。

 

「分かった、家まで送るよ」

 

そう、陽菜は今、AiRBLUEの寮には住んでいない。

 

 別に、Flowerのメンバーと仲が悪くなったとか、追い出された、とかいうことではなく。

 

単純にそれぞれがそれぞれに、少しづつ自立……というか独り立ちする様になった。

 

Flowerでいうと、

 

 陽菜は一軒家をローンで購入していて、

 

 舞花は実家に帰って弟達の世話を焼きつつ親孝行をしてて、

 

 志穂は事務所近くのアパートで気ままな一人暮らしをしてて、

 

 ほのかは運動好きな子たちとシェアハウスに住んでて、

 

四人で話し合って、それぞれ少し距離的には離れた。

 

 

チームとしての絆は消えてなんかいないし、仲だって良い。

 

それでも、やっぱり仕事とかでも会えない分、どこか疎遠になっているところもあるのかもしれない。

 

これを成長と取るのか、又は大人になってしまったと言うのか、どちらかはわからない。

 

 

……少し余談を言うと、マネージャーとしてではなく、個人として、陽菜の家の実質的な契約者だったりする。

 

陽菜は契約しようとした時に、あまり継続的な収入は入らないと判断された為、こちらが手を回した、と言うわけだった。

 

 会話を挟みながらも歩くと、楽しい時の流れは速いというか、すぐそこに陽菜の家が見えてきた。

 

二人を包んでいた夕日も、閑静な住宅街の隙間にその身を隠そうとしていた。

 

家の前に着くと、陽菜は手を離して家の前でくるりと回る。その行動は、良いことがあった時にはしゃぐ子供みたいに見えた。

 

陽菜は、夕陽を浴びながら微笑んで言葉を紡ぐ。

 

「マネージャーさん、最後に結構前に訊いたことをもう一度訊いても良いですか?」

 

 胸の前で手を組んで、少し不安げな表情を浮かべ始める。

 

結構前の事……?

何のことかわからなかったが、頷く。

 

 

「わたしって、可愛いですか……?」

 

 

その言葉に、結構前の時がいつの時だったかすぐさま思い出す。

 

あれは確か、大きなライブ前の時に、あまりの不安に亀井さんを連れ出して外に出ていた陽菜に声をかけた時だった。

 

まさにあの時、陽菜にかけた言葉はひどいものだったと、今なら思える。

 

だから、あの時にはっきり答えれなかった想いを載せて答える。

 

 

「可愛いよ……ちゃんと言えなかったあの時よりも、今の陽菜を愛してる」

 

 

言葉一つ一つが陽菜に伝わる様に、真剣に言った。

 

その言葉を聞き入れてか、陽菜は再び微笑みを浮かべて夕陽に輝きながら言った。

 

 

「その言葉が聴けて……幸せです」

 

 

 そう言った陽菜の姿は、時間帯と相まって本当に可愛くて、美しかった。

 

数歩の距離を一気に詰めて、陽菜を抱きしめる。

 

一番最初に抱きしめた時よりも、陽菜の身長は少しだけ伸びていて右肩に顎を載せてれるくらいになっているのがわかる。

 

「……わたし、最初の頃よりもマネージャーさんが近くて好きです」

 

 それは担当マネージャーになったからだろうか、それとも、恋人という関係からだろうか。

 

何故か尋ねると、抱きしめている腕に少し力を入れながら、陽菜は答えた。

 

「身長が少しだけ伸びて、わたしの目線がマネージャーさんとより近くなったから……」

 

陽菜の長い麻色の髪を優しくそれでいて宥める様に撫でる。

 

辺りは夕焼けの赤色から、日が落ちてほの暗い黒色へと変化てしいた。

 

 陽菜を抱きしめるのをやめ、家に帰らせる。

 

このままでも良かったのかも知れないが、これで風邪を引かれたら困る。

 

「……頑張らないとな」

 

そう、陽菜の家の前で呟き、住んでいるアパートに帰るために踵を返す。

 

自室に帰ると、携帯を取り出してとある会社……まぁ、有り体に言ってしまえば、陽菜の主役が決まるかもしれない制作会社に電話を掛ける。

 

「すいません、陽菜の担当マネージャーの者でして……はい、以前お話し頂いた件ですが……」

 

陽菜の……いや、大事な彼女の為にも頑張ろう。

 

 陽菜に見せたい景色を見せる為に。

 




ここからは少しだけ余談。
#CUEandF,#CUEandFuturesの企画とは別に、この話の続き(ここからめちゃくちゃ話が多くなる予定)を収録したものを、コミケにて販売する予定です。

発売は早くても再来年辺りになってしまうかもですし、未だ書ききっていない状況ですが、読みたい、購入したい、など意見が有ればコメントやメッセージにてお待ちしています。

コミケのお話は、色んな人の後押しもあって実現に出来るだけ近づけようと頑張っている次第です。
まだまだ未熟者ですが、僕の物語が皆さんの心に響くものになればと思います。

それでは。

追伸: #CUEandF,#CUEandFuturesの方もよろです!
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