夕焼け道を君と歩いて   作:赤瀬紅夜

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『二章』動き出す物語
お弁当で胃袋を


合格から数日後。

 

 陽菜はオーディションを見事に潜り抜けたが、役によってはまだオーディションをしているらしく、声優同士の顔合わせはしばらく先なのだそうだ。

主人公役を勝ち取った陽菜はというと……今日も今日とてレッスンに打ち込んでいた。

 

今日は基本的な運動に役作り……最初の頃よりも練習の量も質も格段に上がっていた。
陽菜の演じるキャラクター……西沢彩歌はモノローグが多いという役回りである以上、台詞の流暢さや長文を読めるだけの技術が要求される。

 

更に、冷静で観察眼が高いという性格でもある故、陽菜が演じたこともないキャラクターだ。

 

……だからこそ、彼女なりに苦戦している様だった。

 

 

レッスンを終えた陽菜に、スポーツドリンクを手渡す。

 

「ありがとうございます、マネージャーさん」

 

そう言って喉を潤していく陽菜。
レッスン着で汗を拭い、美味しそうにドリンクを飲む姿は努力をしてきた証とも言えた。

 

腕時計を見ると、短針が12を指している。

 

「お疲れ様、それにそろそろお昼だけど……またどこかに食べにいく?」

 

そう尋ねると、陽菜は静かに首を振った。

 

「いえ、お弁当を作ってきたので……その、一緒に食べませんか?」

 

お弁当……しかも陽菜の手作りか。

是非とも食べたいというか、お金を払ってでも体験したい。

 

「いいの?」

 

恐る恐る陽菜に尋ねると。彼女は大きく頷いた。

 

「もちろんです。マネージャーさんのために作ってきたん出すから」

 

その言葉が嬉しかった……何というか、愛されている様に感じて。

 

「分かった……それじゃあオフィスで待ってるから」

 

はい、着替えてきますね……そう言い残して陽菜は更衣室に向かって行った。

 

陽菜の手料理は幾度となく食べたことはあるが。お弁当は初めてだ。

 

 

 

数分後、陽菜がオフィスにやってきた。

 

「マネージャーさん、せっかくなので屋上で食べませんか?」

 

その提案に乗って屋上で食べることにした。

 

天気も晴れているし、ちょうど良いだろう。

まだ少し肌寒いけど春もすぐそこまできている。

 

「そう言えばどうして屋上で食べるの?」 

 

そう軽く尋ねると、陽菜は嬉しそうに言った。

 

「高校にも屋上はあったんですけど立ち入り禁止だったので、それを思い出して誘っちゃいました」

 

「そんなことがあったんだね……」

 

陽菜の高校か……何度かいく機会はあったけれど、あまり深いところまでは知らなかったからな。

 

「到着です!」

 

そう言って勢いよく扉を開く陽菜。

眩しい光と共に……屋上の景色が広がる。

 

青空に映える家庭菜園の数々……と言っても植木鉢程度なんだれど。

 

適当な場所に腰をかけてお弁当を広げる。

自分はお茶を自販機で買っておいたのを置いておく。

 

「これです、マネージャーさんどうぞ」

 

そう言って渡されたやや小ぶりな弁当箱を開けてみると……そこには美味しそうな光景が広がっていた。

 

黄色い卵焼きにタコさんウインナー、小さなハンバーグに唐揚げ……夢の様な弁当にテンションが上がる。

 

「すごい……これ凄いよ陽菜!」

 

白米の部分には澱粉と海苔、そしてふりかけでハートは描かれていた。

なかなかに芸が細かい。

 

「ふふっ、喜んでくれた様で何よりです」

 

そう言って微笑む陽菜に、どこか母性を感じる。

 

そうか……自分たちに子供が生まれたら、こうしてお弁当を用意してそれを食べてってできるんだな。

 

陽菜の独占場でもあるキッチンで自分も手伝ってあげたいとは考えているけれど。

 

「食べようか……こんなに美味しそうなお弁当初めてだよ」

 

二人で手を合わせていただきます、という。

何だか気恥ずかしいがこうでもしないと失礼な気がした。

 

卵焼きを一口食べてみる……すると、口の中にほのかな甘みと卵焼きの美味しさが広がる。

 

「美味しい……」

 

噛み締める様にして言うと、それをニコニコと陽菜は見つめていた。

 

ハンバーグに手をつけてみると、箸で割るだけで肉汁が溢れる。

上にちょこんと乗ったデミグラスソースが可愛らしげだ。

 

それを食べて、咀嚼していくたびに陽菜の愛情を感じる。

そのまま美味しい、美味しいと言い続けて弁当を空にするまで食べ続けた。

 

「そう言えば、これって冷凍食品も入ってないっぽいのに陽菜は全部手づくりしたの?」

 

そう尋ねると、陽菜は笑顔で答えた。

 

「はいっ、マネージャーさんに喜んでもらおうと思って早起きしちゃいました」

 

なるほど……そこまでして作ってくれた弁当を、すぐさま平らげてしまったのは何だか申し訳ない気持ちになるな。

 

「本当においしかったよ。ありがとう」

 

精一杯のお礼を言う。

 

陽菜は暖かな日差しの中で、優しく微笑みながらこう言った。

 

「お粗末様でした……また、一緒に食べましょうね」

 

その約束は数日後に果たすことになった。

今度は自分が弁当を作ったのだが……それを散々ダメ出しされたけど、完食してくれたのはまた別のお話。

 

~~~~~~~~~~~~~

 

 

一人の小柄な少女と、スーツを着た男性がとある事務所で向かい合って話している。

 

「ディレクターさん、本当にわたしが通過したんですか?」

 

「うん、あーでも今はディレクターじゃなくてマネージャー、ね」

 

「そうでした」

 

小柄な少女の名前は(さくら) 美聡(みさと)

リレープロダクションという事務所に所属する、声優のうちの一人だ。

彼女はバトンを繋いでここまで……アニメの登場人物に抜擢されるにまでなっていた。

 

彼女の正面にいる元ディレクターである彼の手には、次の仕事であるアニメの資料が握られていた。

そのアニメの名前は『おんハピ♪』……今度陽菜が主役の声を当てる物だ。

 

こうして物語は動き出す。

始まった物語はバトンを繋ぎ、未来へと進んでいく……。

 

coming soon.




こんばんは、レッド!です。

という訳で……今日から毎日連載、再開です!
とは言っても体調やら勉強やらでお休みする日があるかも知れませんので、その辺はご了承下さい!

さてさて、ここからだんだんと物語は動き出します。
陽菜達を待ち構える試練の数々!是非ともご期待ください!

もちろん、マネージャーともイチャイチャさせます。
ではでは!
あと書きはこの辺で、感想待ってますね!
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