遂にやってきたオーディション当日。
陽菜と2人で事務所から電車を乗り継いで、会場の都内にあるビルに向かう。
一応、主人公の西沢彩歌役以外も受けれるようだったが、陽菜自身が辞退した。
その子に集中してあげたいから、らしい。
電車の中で、揺られながら音楽を聴いてリラックスするようにしている。
手は自分のを包み込むように握ったままだ。
何故だかは知らないが、本番前に自分の手を握っていると緊張が解れるらしい。
駅に降り立ち、程近いビルの前まで歩く。
「それじゃ、午前中のオーディションが終わったらここと同じ場所で待ってるからね」
「はい、精一杯頑張ります!」
「肩の力は抜いてね」
そう言葉を交わして陽菜を送り出す。
普段だったら中までついていくのだが、今回は声優1人で来てほしいという要望があったため、多少不安になりながらも送り出した。
大丈夫、きっと陽菜なら勝ち取れる。
そうな風に考えつつ、向かいにあるカフェに入店する。
すると、自分と似たような格好をした人たちが何人も席に座ってソワソワとビルを眺めている。
……そうか、自分だけじゃないんだな。
ここにいる多くのマネージャーたちと共に、彼女が笑顔で帰ってくるのを待った。
口に運んだコーヒーは、とびきり苦いブラックだった。
数時間後、陽菜はビルから覚束ない足取りで出てきた。
こちらを見つけると、健気に笑顔を浮かべようとしているのだが、上手くいかずに泣き顔になってしまう。
「何があったの?」
事情を聞くべく、陽菜に優しく問いかける。
「マネージャーさん……最後の最後で、台詞を噛んで……ううっ」
台詞を噛んだらしく、ものすごく落ち込んでいる陽菜に午後からのレッスンをさせるのは酷だろう。
社長に一報を入れ、お休みにする。
後でとやかく言われるかも知らないが、今は陽菜の方が優先だ。
「ねえ、陽菜。今からすき焼き食べに行こうか」
「どうして、ですか?いつも食べる時は、オーディションに受かった時だけじゃないですか」
また泣きそうになる陽菜に、無理やり言い聞かせる。
「大丈夫だから、きっと受かるよ」
「……ありがとう、ございます」
陽菜の肩を抱き寄せながら車に入れる。
しばらく無言で移動していたが、少しずつ陽菜が話し始めた。
「実は、最後の最後以外はうまく行ってたんです……それでも、噛んだところがずっと気になってて」
慰めるように声をかける。
「終わったことだから……って切り替えるわけにもいかないしね」
さらに続ける。
陽菜が辛い思いをしているなら、励まさないと。
「でも、その失敗も経験になるよ、これまでだって陽菜はいろんな道を乗り越えてきたじゃない」
「そう、ですね……わたし、少し落ち込みすぎてたみたいです」
よし、いくらか元気になったみたいだな。
まだ油断はできないけど、悲しい顔のまま食事なんてしたくないから。
「そろそろ着くよ。沢山食べさせてあげるからね」
どうか、受かっていますように。
その願いは届くか否かは、陽菜の結果次第だ。
オーディションで失敗してしまった陽菜ちゃん。
さてさて、受かることは出来るのでしょうか?
また明日更新しますのでお楽しみ!!