魔法少女マギカ☆クロス   作:ろっひー

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歴代最弱の魔法少女
第六話「上手くいっているはずなのに」


「……う、うぅん……」

 

様々な感情が巡り巡る最中、しばしの沈黙の時間を突き破ったのはまどかの吐息であった。自身の腕を枕にしてあげていたマミがまどかが目を開けた事に最初に気づく。

 

「……鹿目さん。大丈夫?」

 

「……マミさん? 私……一体どうして……ヒッ!」

 

朦朧とする意識を回復させたのは、お菓子の魔女の惨劇を目の当たりにし、また自分に掛かった血を拭い取った瞬間の光景であった。彼女の頭の中でその光景が再現され悪寒が走った瞬間、まどかはマミの腕枕から勢いよく離れその場に座り込んでしまう。

 

「ま、まどか!」

 

「ほ、ほむらちゃん……わ、私……あの時……」

 

「落ち着いて鹿目さん! もう……大丈夫だから」

 

マミがまどかの背中に手をやり、彼女を宥める。ほむらも彼女の引きつった表情から思わず彼女に近づく。

 

「ごめんなさい、私のせいだわ。貴方をこんな怖い目にあわせてしまうなんて……それに、鳴海くんも……」

 

「そ、そうだ! 速人くんはどうしたんですか!?」

 

「大丈夫だよまどか。ほら、ここに……」

 

そう言って、さやかも自分が抱えている速人を差し出すかのように、まどかに彼の姿を露わにさせる。彼の姿を見た瞬間、まどかの中に流れる大量の安堵の感情が正しく彼女の目から流れる大量の涙の結晶と化しながら、彼の元へ走り出す。

 

「ま、まど……」

 

「待って。暁美さん……ここは、少し様子を見ましょう」

 

「巴……マミ」

 

彼の中に魔女が入っていると認識している二人の魔法少女は、彼に近づくのは危険と、判断してしまっている。特に、ほむらに関してはその判断は行動として、顕著に出てしまった。その最中、まどかを止めようとしたほむらの行動を、腕で通行止めにしたマミの冷静さが、ほむらの行為を逆に静止させた。ほむらも、まだどうしていいのか分からない以上、マミと犬猿の仲ではあるものの今回は助かったような気がする。

 

二人がまどかと速人の動向を監視する最中、まどかはさやかの腕に抱かれている速人に大粒の涙を流しながら、飛び込む。

彼女の音泣きが聞こえたかと思うと、さやかもそれを落ち着かせるかのように、二人をその場に座らせようと包み込んだ腕を枕にさせ、自身共々その身体を地面に沈み込ませる。

 

「よ、良かったぁ……速人くん……本当に……死ななくて良かったぁ……」

 

「馬鹿。それはアンタも同じだよ、まどか。でも……本当に良かった……」

 

「……まどか……さん……さやかさん……」

 

さやかの腕枕で速人の耳に聞こえる二人の嗚咽に近いような泣き声。二人の心配の声に速人の心打たれ、流石に涙を隠しきれないでいる。さやかが自分を抱きかかえてくれて助かった。女の子の前で泣き出す男の顔は……あまり見られたくなかった。マミもほむらも、三人に一応怪我なくこの場を迎えられた事には安堵感を隠せない。

……だが、問題はここからだ。速人の身体に魔女が入ってしまっている事実はここにいる全員がそれを認識してしまっている。今は、自我を保っていられるが何時までもここにいては、もしかしたら誰かを殺してしまうのではないかという最悪の事態が速人の頭に過る。とは言え、自ら命を絶つような勇気も……彼にはない。

ある程度の妥協点を決めた速人は静かに目に溜め込んだ涙を服で拭い取り、さやかの腕枕から静かに離れる。

 

「速人?」

 

「速人くん……?」

 

「……巴先輩」

 

立ち上がった彼は、その場から少し距離を置いて傍観しているマミを見つめる。そのどこか全部を諦めたような視線……マミはこれから恐らく決意する彼のその言葉を若干想定しつつも、それを聞くのが少し怖かった。

 

「……何?」

 

「すみません。覚悟決めました……俺、今日をもって魔女退治から降ります」

 

「……分かったわ。私もそのつもりだったし。美樹さん、鹿目さん……貴方達もこれからの魔女退治には参加させないわ。二人もそれでいいかしら?」

 

「「……分かりました」」

 

「先輩。ありがとうございます」

 

深々と頭を下げる速人。マミもやっぱり……と言わんばかりに、二人に了承を取りつつも有無を言わさないその毅然とした彼女・彼の姿勢に、さやかもまどかも何処かで決めていた覚悟であった。元々の目的が二人を魔法少女にしないこと……そのために、魔女退治に付き合わせない事を第一の小目的としていたほむらにとっては、嬉しいことではあった……しかし、それがこんな状態で叶ってしまうとは……ほむらも予想だにしていなかったため、マミに確認を取るしかなかった。

 

「巴マミ……いいの?」

 

「えぇ。元々貴方の目的は二人を危険な事に巻き込みたくないんでしょ? 私も今日で痛感したわ。だから……これで良いのよ。キュゥべえには悪いけどもね」

 

「……まぁ、仕方ないね」

 

マミのその忖度ない返答に、淡々と二人を魔法少女にすることが難しくなったキュゥべえには痛手ではあるが、ここで何か突っ込もうとすると余計に火の車になるだけだろう。そう判断したキュゥべえも傍観者気取って何も言えなくなっていた。

 

「暁美さん……私からもちょっといい?」

 

「……何?」

 

「……今まで、色々とごめんなさい。最初から貴方の言う通りにしておけば良かったわ……だから……ごめんなさい」

 

「巴……マミ……」

 

まさかのマミからの深々とした謝罪……ほむらも思わずたじろぐ。次の言葉が上手く見つからない。だけど、自分も高圧的な態度を取っていたという自責の念が少しあった彼女も、マミと仲直りということでもないが、謝罪するしかなかった。

 

「……良いのよ。私も……威圧的な事ばかり言っていたのが元凶なんだから……だから……ごめんなさい」

 

「ほむらちゃん……」

 

「転校生……」

 

二人の合間に流れる沈黙の時間……その狭間にいるさやかもまどかも、ほむらに対して謝るしかなかった。

 

「ほむらちゃん、ごめんね。私達、危険な事しているって自覚もなかった……」

 

「私もそうだよ。だから、ごめん……」

 

「……二人とも」

 

「……」

 

女性陣の中で修復されつつある関係をただただ見つめていた速人は、今後は恐らくマミとほむらが協力しあって、魔女退治を行うだろうという予測を立てつつ、その事を確認できただけでも良かった。これで、さやかもまどかも危険な目にあわなくて済む……その安心感と自分が危険な媒体である事を改めて認識し彼は踵を返し、そこから逃げ出すように家路についていった。

 

四人が彼の姿がその場から消えてしまった事に気づいた時には……日は既に沈んでしまっていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……)

 

ほむらが自分のマンションの家路に着いたのはそれからしばらくしてからであった。あの後、姿が見えなくなった速人を皆が心配しつつも、マミの「今日はもうお開きにしましょう」という提案から各自、家路についた。ほむらもようやく一人きりになることができ、改めて今日のことを振り返る時間を作れるようになった。自分が立てた当初の計画からは大幅に変更が加えられたが、元々の『ワルプルギスの夜を倒す』ことと、『まどかを魔法少女にしない』ことの内、まどかが魔法少女になる可能性は少しでも低くなった。だから、本当は今の時は喜ばしい事のはずである……なのに……

 

(上手くいっている……上手くいっているはずなのに……)

 

ほむらの心のなかで、やるせなさにも似た不快感が襲う。どうしてだろう。何故、素直に今の状況を喜べないのであろうか。自分が望んだ結果になりつつあるのに何処かで、こんなの求めていたことじゃないという感情が襲う。そんな邪念を振り払うかのようにほむらは、首を大げさに横に振る。

 

(何考えているの私……事実、結果は上手くいっているじゃない。これで、まどかが魔法少女になる可能性が完全になくなった訳じゃないけど、低くなったんだから……)

 

自分に言い聞かせるが、そんな彼女を襲うのはどうにもしっくりこないでいる今の状況と、もう一つの感情……

 

(……あれ?)

 

その信じたくもない感情に思わず額に手をやってしまう。

 

(……そう言えば私なんで、まどかを魔法少女にしたくないんだっけ……?)

 

良く思い出せない。直近まで時間遡行を繰り返していたはずなのに……そこで、自分が知っている魔法少女の惨劇が目に焼き付いているはずなのに……良く思い出せない。何故……? 記憶喪失の速人に毒されてしまったのだろうか。まるで風邪のウイルスが拡散したかのように。

 

(……何を馬鹿な。私の目的は……ワルプルギスの夜を倒すことと、まどかを魔法少女にしないこと……ただ、それだけよ)

 

不安定な自分の記憶を安定させるために、心のなかで宣言することは当初の目的を固定させること。そうだ。まどかを魔法少女にしないだけで終わりじゃない。一ヶ月後にくる歴代最強最悪の魔女……『ワルプルギスの夜』を倒すこともその目的に含まれている。それには、戦力の強化がどうしても必要になってくる。

 

そして、その彼女の戦力候補として挙がったのは……これまでの魔女をその圧倒的な力で粉砕してきたあのローブを着た誰か……その正体が今回の一件で鳴海速人ではないことは確信した。だが、彼の言動から察するに全く無関係という訳でもないのであろう。

 

(……やっぱりもう一度、彼に接触するしかないようね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー速人……お前に分かるか? 私が最も愛した女が……????であったこと。そして、????の最後を看取るのが…… ????などというふざけたシステムによって、調停されてしまうことを……私が、一番愛した女を誰にも奪う権利など、ないんだよーー

 

「……んっ」

 

朝露の一滴が垂れ落ちると同時に、速人も眠りから目を覚ます。重苦しい身体を起こし、その感覚を安定させる。重苦しいのは彼の身体に魔女が入っている事を認識しただけじゃない。実は、お菓子の魔女の一戦から三日も経過している。自分の身体に入っている魔女は今は酷く安定しており、自分を蝕むようなことはしていない。初日は、睡眠に落ちるのでさえ怖かった。自分の身体を操作することも叶わない夢の狭間にいる状態で、魔女が待ってたと言わんばかりに自分を操ろうとするんじゃないかと思った程だ。そのため、しばらくは寝床についても眠らないようにしていたつもりだったが、それでも身体の疲れが彼を襲う。

 

一夜明けた時は、本当に安心できた。陽の光をもう一度浴びることが出来た時は思わず、恐怖から解放されたような気分であった。しかしだからと言って、このまま普段の学生生活を送れるとは到底思えなかった。そんな彼は、今日に至るまで登校を拒否し、無断欠席を三日連続で続けていた。

 

「……まどかさん達、大丈夫かな?」

 

心配になるのはやはり、関わった魔法少女達の事であった。自分からその関係を拒んだ挙句、心配になるなんて言語道断のような気もするが、時間も経過して何か良い変化があればとか、気になるのも道理である。そういう意味では、今日は良い都合が出来上がっているような気もする。

 

「……何時までも、腐っている訳にもいかないか」

 

今日は見滝原総合病院の通院日だ。その通院後に登校するきっかけとしては、今の所これくらいしかないが苦肉の策である。

速人はそう心に決め、家を出た……

 

 




はい。と言うわけ前述の宣言通り、ここから大分オリジナル展開が始まります。

伏線がどんどん増えすぎている感は否めないですが、自分も良く考えたらかなり複雑なプロットでもあるので、小出ししていかないと多分ついていけないような気がします。

とは言え、キャラクターの動き方はHunter☓Hunter,幽☆遊☆白書を世に出した漫画家、冨樫義博先生の漫才で検証を繰り返して動かすというのをリスペクトしてやっているので、動きが結構鈍足になるかもしれません。

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