―2003年―
side 秋山悠理
季節は巡り春、百代は六年生に、それ以外のメンバーは五年生にあがった頃。ちょっとした変化が風間ファミリーに訪れた。
二人の少女の存在が波紋を呼ぶ。
椎名京・・・・今年大和、岳人のクラスメイトになり今もなおイジメ続けられている少女。大和が最近、少しばかりその事を気にし始めたようだ。オヤジに頼んで少し調べてもらったがどうやら母親の男グセの悪さがかなりのものらしく、それに加えて根暗に見える風貌故にイジメられているらしい。
「兄さんはどうしたら良いと思う?」
「なぁ悠理、私はどうしたら良い?」
大和と百代からほぼ同時に相談を持ちかけられた俺は、オヤジからの情報を待って二人を同時に再度呼び出した。
「多分さ、二人共互いに助けたい子がいてどっちか一人だけしかーとか思って相談してきたろ?」
無言で頷くこの二人、この姉弟は・・・・大和は元々小難しい事を考える奴だが百代まで柄に合わずに小難しい事考えやがって・・・・
「何のために俺たちがいるんだ?翔一や一子、忠勝、岳人、卓也も併せて八人だ。なら総がかりで二人助けちまえば良いだろ?それに・・・・きっとなんやかんやで皆賛成してくれるさ」
―――
結果としてファミリー全員の説得に成功した。まぁ岳人が渋ったものの大和の説得(?)により応諾してくれたので今は川神院の俺の部屋で椎名と小雪も呼んで作戦会議中である。
「まぁ椎名の方は学校で同じクラスの大和と岳人、それと他クラスに影響力がある翔一とお守り代わりの百代に任せるとして・・・・問題は学校違いの小雪か」
椎名の方は特に難しい事は無い、女子からの人気が根強い翔一に学年トップの成績の大和、同年代でパワー最強の岳人に既に近隣の小中学生の間で『睨まれたらおしまい』と言われている百代が一緒だと知れば最低限イジメは沈静化するだろうし後は当人次第になってくる。
問題なのは学校違いな上に家庭の問題である小雪の事だ、こればかりは俺たち子供が踏み込むには難しく危険な問題だ・・・・が止めてもこいつら首を突っ込むんだろうからせめて俺が制御しなけりゃとも思う。
「・・・・モモ先輩」
「大丈夫だぞユッキー、ここにいる皆は私の頼れる仲間なんだ。だからきっといい感じにやってくれるさ」
じーっと百代を見つめる小雪の頭を百代が撫でる。
「ま・・・・人事を尽くして天命を待てと言う言葉もある」
俺はゆっくりと立ち上がる。
「七面倒なのは苦手だ、正攻法で行ってみようか」
ニヤリ、と笑みを浮かべたならば先ずはオヤジのところへと向かって部屋を出る。後をついてくるのは大和と忠勝だ。
「で?正攻法って何をする気?兄さん」
「家庭の事情だと取れる正攻法って少ねーと思うぞ兄貴」
「ああいうのはな、現場を抑えるのが一番だからな」
『?』
――――――
俺が取った作戦は単純明快、現場を大人たちとともに抑え証拠のある状態で正当な手段を持って小雪を母親の下から救い出そうと言うものだった。ちなみに参加を応諾してくれた大人とは以下の人々だ。
「危険な事をしようとしていたのは褒められた事ではナイ、だが君たちのその心は尊いものダ。私で役に立てるなら力を貸そウ」
真面目で真っ直ぐなルー師範代。
「ま、どうせ暇だしな・・・・」
不真面目だが面倒見が良い釈迦堂さん。
「そういうの大好きだぜ?俺は・・・・」
真っ先に理解を示してくれたオヤジ。
「ま・・・・オジさんもそういうの見過ごせないしね」
忠勝の養父である宇佐美巨人さんも何故かついてきた。代行業と教師の二足わらじらしいのだが少なくとも教師には見えない。
まぁこれに俺を加えた五人で現在は小雪の自宅付近で待機中である。師範代三人組が小雪の気に乱れを感じたら真っ向から力づくで突撃、現場を抑える予定だ。
「・・・・ん、少し気が乱れ始めたネ」
「形部、リング準備しとけ」
「とっくにしてるよ、悠理もカチこむ準備しとけよ」
「言われずとも」
「流石は川神院、すんごい荒事慣れしてんのね」
音も立てずにドアの前まで移動した五人は壁に耳を寄せて・・・・一見変質者にしか見えない気もするが
『・・・・!!』
もめている事ぐらいしか分からない、が師範代sは不穏な気を感じ取っているようだ。
『いや!?』
『アンタさえいなければ!!』
『いやだ!!助け・・・・』
「っ!!」
小雪の、助けを求める声を聞いた瞬間に頭の中が真っ白になっていた。どうやったかは覚えていないが家の中に踏み入った先で頭を抱え込んでいる小雪と、小雪めがけて包丁を振り下ろす女性の姿。あれがおそらく小雪の母親なんだろう。
「小雪!!」
振り下ろされる包丁を弾くよりも小雪を庇う行動を反射的に取った、実際無理に包丁を弾くよりもそのほうが確実だった。
「っ!!?あぁあああっ!!!」
背中に走る熱い感覚、これが斬られた感覚なんだと理解する前に更に斬りつけられる、女性が何やら叫びながら更に斬り付けようとするが聞こえない。ただ次の瞬間にオヤジたちの声が聞こえてきたのだけは分かった。
『テメェ!!俺の息子に何しやがる!!』
『っ!!釈迦堂!急いで押さえつけるヨ!!』
『分かってるって、落ち着け信!!』
『こいつぁ酷ぇ・・・・直ぐに救急車だ!』
『ユーリ!!』
「俺は大丈夫だって・・・・だから・・・・」
そして俺の意識は落ちていく――――――
――――――
次に眼が覚めた時、俺の目に映ったのは真っ白な天井だった。それだけで病院と言う事は推測がついたが・・・・何故病院に?切られた傷ぐらいならば川神院でも十分に治療可能だろうに。
「眼が、覚めましたか?」
「っ!?」
その声に、一瞬起き上がろうとするが背中に激痛が走る。
「神経などには影響はありませんでしたがそれでも重傷と言うに些かの迷いも無い傷です、ご無理をなさらず」
との声に、やむを得ず顔だけをそちらへと向ける。そこにいたのは少年だ、ハーフなんだろうか・・・・やや日本人離れした整った容姿にどこか澱んだ目を持つ・・・・
「ここは葵紋病院、そして私は
葵紋病院、川神でも最大規模の病院。そして葵冬馬と名乗ったこの少年はつまり病院長である葵医師の息子と言うことか。
「・・・・俺は」
「秋山悠理君、ですよね」
そしてふと気づく重み、そちらに視線を移すと小雪が俺の寝るベッドに顔をうずめるような形で眠っている。
「休むようには言ったのですけどね、『ユーリが倒れたのはボクのせいだから』と聞いてくれませんでしたので・・・・やむを得ず私が付き添っていました」
「すまんな、感謝する」
「いえいえ」
訪れる静寂。
「少しだけ、相談に載っていただけますか?」
「俺が?」
「ええ、貴方の付き添いで来ていた川神院の師範代方にとも思ったのですが『面倒』『却下』『私よりも悠理の方が良い答えを出せると思うヨ』と断られましてね」
釈迦堂さん、オヤジ、ルー師範代の順番だろうか。しかしルー師範代も俺にそういうのを振ってくるか。
「まぁ明確な答えを返せるかは分からんが聞くだけ聞いておこうか」
「では・・・・」
それから冬馬は、包み隠さずに全てを話だした。自分の父親が裏で相当あくどい事をしていたと言う事、今日師範代たちが証拠を掴み冬馬の父親と副院長の二人を警察に突き出したと言う事、そして冬馬は目標だと思っていた父親が実際は思っていたのと正反対の存在であり目標を失った自分はどうしたらいいのか悩んでいると言う事らしい。
「成程な、まぁ俺もまだ11歳だし小難しい答えは返せんが・・・・」
「ええ、それで十分です」
「んじゃあさ、冬馬よ・・・・お前の目指してたのってさ『父親そのもの』か?それとも『今まで見てきた父親の姿』か?」
「!」
「もし『父親そのもの』なら問題外だが・・・・そうでないならお前はまだ先を目指して歩き出す事が出来る」
冬馬が眼を丸くしてから、笑いだした。何かおかしいことでも言ったか俺?
「ありがとうございます、ついでにお願いがあるんですけれど・・・・」
「なんだ?」
「私と、もう一人いるんですけどね。貴方たちの輪に加えていただけませんか?」
「おぅ、まーそこらへんを決めるのは俺たちのリーダーだからな。だから紹介はする、熱意は自力でなんとかしろ」
「はい」
冬馬の目は、いつの間にか晴れやかなものへと変わっていた・・・・
TIP集
・『睨まれたらおしまい』
MOMOYOの危険度を表す一言。
・リング
ホラー映画ではありません。釈迦堂さんの十八番の技、少なくとも何かに備えて準備しておくものではない。
・葵冬馬
どのような未来を歩んでも男女どちらでも行けちゃう人。