―2004年10月―
side 秋山悠理
剣聖黛大成の下で修行を始め半年が経った。対武器戦闘を学ぶと言う事で訪れていたわけだが大成さんの教えは無手である俺にとっても非常に有用なものが多く、日々が充実していた。と言うのも今現在の鍛錬相手のおかげもあるのだが・・・・
「行くぞ由紀江」
「はい、何時でも」
「せぁっ!!」
「はぁーぁっ!!」
最近、主に由紀江と組手をする時限定だが手袋を装備するようになった。と言うのも素手で刀を弾き、防ぐだけの技量は今は無いのでそれを補うためのものだ。防刃防弾繊維で出来ており技術さえ磨けば刀を正面から止め、銃弾をも防げる(オヤジ談)との事なのでいずれは出来るようになりたいものだが。
「せいせいせいせいせいっ!!」
「っ!おぉ!」
しかし由紀江は日増しに剣速が上がっている、今はまだ眼で追いきれているが後二、三年経ったらどうなるかは分からない。俺も負けずに鍛錬せねばと思う・・・・
「そこまで」
その掛け声と共に俺の拳は由紀江の水月を、由紀江の刀は俺の首を撃つ寸前で止められた。
「おうおう、しっかりやってるみてーだな」
オヤジと一緒に現れたまさしく武士、な格好をした人こそ剣聖黛大成。普段の立ち居振る舞いからは想像がつかないが相当の強者でオヤジ曰く「大成は俺と同じで普段はおとなしくするの」との事だ・・・・オヤジが大人しい?・・・・まぁ気にしないでおこう。
「まぁな、由紀江に追いつかれないようにするのが精一杯だがな」
「いえいえそんな、悠理さんに追いつく私の方が必死で・・・・」
由紀江は、俺と始めてあった頃はかなり人見知りだった。笑顔を出そうとして逆に不自然になりものすごい睨み顔になるほど不器用だった、が俺が組手ついでに相談にのったりしているうちに少しづつ解消されてきたようだ。と言うのも彼女の妹の話なのだが・・・・
「で?二人揃ってどしたい?」
「あー実はな」
オヤジの話を聞くとどうやら川神院からオヤジへの帰還要請が出たらしい、と言うのも数多くいる師範代候補生たちから師範代の要職にある人物が長々と川神院を空けているのはどうなのだ?そのような人物が本当に師範代の地位にふさわしいのか?と言う議題が上がっているらしいのだ。
当初は反論もしようと思ったのだがあちらの方が正論である以上川神院に戻っておとなしく門下生の指導に精を出すか師範代の座を投げない限りはあちらも収まらない、となれば師範代を辞める気が無い以上戻ると言う選択肢を選んだらしいのだ。
「で?俺は残る期間ずっとここ?」
「いや、それも考えたがな・・・・お前のバトルスタイルと黛流じゃ合わないからな・・・・そこで俺の人脈を駆使してとある人物に残る三年半の期間をお願いする事にした」
ならば良い、由紀江や大成さん、最近仲良くなってきたこの辺の子供たちや近所の爺様、婆様と別れるのは寂しいが俺にも目指す場所がある以上仕方の無いことだと思う。
「で?誰に頼んだんだ?」
「それはだな・・・・」
「俺だ、赤子」
「!!?」
突如背後に現れた気配に思わず振り向いて拳を構える。
「ほう、あの一瞬で身構えるまでするか・・・・想像以上に育てたようだな立花」
「オヤジ・・・・?」
「紹介する、今からお前の師匠となる・・・・ヒューム・ヘルシングだ」
ヒューム・ヘルシング、確か鉄心さんに聞いた事がある。鉄心さんの若かりし頃からのライバルであり鉄心さんと共に今もなお現役最強を争う人物であると。
「宜しくお願いします、ヒュームさん」
相手が俺の師となる人物であるならば敬意を払い接すべきだ、何より今は貪欲に学ぶべき時なのだから。
「ふむ、切り替えが早いな。なら明日までに荷物をまとめろ、俺と共に行動してもらうぞ」
「はい!」
去りゆくヒュームさんに頭を下げる。その姿が見えなくなった頃に頭を上げ、由紀江の方へと振り返る。
「と、言う事になってしまった」
「うぅ、せっかく仲良くなれたのに・・・・寂しいです」
おぉう、既に涙目だ。
「あ・・・・・じゃあ由紀江、約束だ」
「ふぇ?」
ゆっくりと右手の小指をピッと差し出す。
「俺は後三年半、目一杯修行して限界まで強くなるつもりだ。だから・・・・由紀江も三年半精一杯修行して・・・・」
左手で由紀江の右手を取り、小指を絡める。
「三年半後に必ず会おう、お互いに『これだけ強くなったぞ、どうだ』って言えるように修行して」
「・・・・はい!」
うん、やっぱり女の子は笑顔が一番だ。特に由紀江は可愛いんだから笑顔じゃないと。
―翌日―
由紀江や大成さんと別れを済ませた俺は今、ヒュームさんの運転する車に乗っていた。
「どこへ行くか?とは聞かないのか?」
「ヒュームさんともあろうお方が理由も無く俺を連れ回すと言う事は考えにくいと思いまして。ならば敢えて問いかけるのも失礼かと思っておりましたので」
「成程な、少しはマシな赤子のようだ」
心なしか愉快そうにしているヒュームさん。
「まぁ敢えて言うならば今は京都に向かっている」
「京都、ですか」
「ああ、先ずはお前を鍛える前にどれほど使えるかを見なければならないからな」
それは道理だ、しかしそれと京都に行く事と何の関係が・・・・
「今俺は九鬼財閥で執事をしているのだが・・・・」
だから燕尾服なのか、まぁ妙に威圧感たっぷりだが似合うと言えば似合う格好だ。
「先日、当主である帝様に隠し子がいた事が判明したのだ」
九鬼財閥の事は俺でも分かる、世界で指折りの企業と言うぐらいの知識だが・・・・
「そしてテロリストがその隠し子の情報をどこからか仕入れ人質に取り九鬼に身代金を要求してきた」
「・・・・まさか、とは思いますが」
「そのまさかだ、その奪還作戦にお前にも加わってもらう」
「・・・・俺の存在が足かせになるとは?」
「鉄心や立花が鍛えていたのだ、少なくとも下手な連中よりは使い物になると信じたいものだ」
少しプレッシャーだな、言ってしまえばここで俺が必要以上に足でまといになれば鉄心さんやオヤジをはじめとした川神院の指導者たちは何を教えているのだ、となってしまう。大恩ある川神院の名に傷を付けるような真似を避けたい・・・・以上は今自分が持てる全てを駆使し与えられる任務を忠実にこなすしか無いのだろう。
「承知」
だが貴重な実戦経験を得るチャンスでもある、今まで戦う相手と言えば川神院の師範代たちに修行僧、百代、一子、小雪、それと街の不良たちぐらいだったからな。
――――――
ヒュームさんに連れられて来たのは長野の山奥、移動中に教えられた情報によれば中腹にある旧日本軍の研究施設を居城にしているらしい。当初は長野在中の従者部隊だけで対処しようと考えたらしいのだが実力者が一人いたらしく失敗、自分たちの手には負えないと判断したらしく応援を要請しそれに呼応し動いたのがヒュームさんをはじめとした日本在中の上位ナンバー陣だった。
「ヒュームさん、誰ですそのガキ」
「俺の弟子だ」
『は?』
メイド服の女性・・・・相当腕が立ちそうな人の質問、そしてヒュームさんの答えにその場にいた他の従者部隊の人たちも固まった。うん、いろいろな意味で至極真当な反応だと俺は思う。
「冗談だろ?」
「俺が、冗談を言った事があるか?」
なんだろう、誰も口を開いていないのに「ない」と言う言葉が脳内に響いた気がした。
「今回は正面の陽動部隊の一員として参加させる、あずみ、ステイシー、李で面倒を見てやれ。俺は一度帝様の下へと戻る」
ヒュームさんが残像すら残さずその場から消えると三名の女性がこちらへと歩み寄ってくる。
「まぁ仕方ねぇ、アタイは忍足あずみ。九鬼家従者部隊序列11番だ」
と茶髪の、やたら目つきが悪いメイド。
「序列56番、李静初です」
黒髪短髪のメイド。
「序列57番のステイシー・コナーだ」
金髪ツインテールのメイド。・・・・うん、『従者』部隊と言うだけあって全員メイドだ。
「秋山悠理です、宜しくお願いします」
まぁとにもかくにも挨拶だ、丁寧な挨拶は信頼される第一歩・・・・と全然礼儀正しくないオヤジと宇佐美さんが言っていたしな。
「おう、しっかしまぁ本当なのか?ヒュームの弟子っつーのは」
忍足さんの問いかけに無言で先ずは頷く。
「元々は川神院ですけどね、ただ暫し川神流から離れたところで己を鍛え直そうとしたら・・・・オヤジの紹介でヒュームさんの弟子に」
「災難だったな」
「そうですかね?」
世界最強に近しい人物の教えを得られるのだ、確かに大変だろうがむしろ願ったりと言うところだ。
「さぁおしゃべりはそこまでです」
一人の老執事がパン、と手を叩くと他の従者たちも集まってくる。全員で30名ほどだろうか・・・・全員が並々ならぬ闘気を放っている、流石は世界の九鬼財閥誇る従者部隊の精鋭と言ったところだろうか。
「正面の陽動部隊はとにかく派手に攻め込んで下さい、可能ならばそのまま押し込んで
「あずみさん、あの人は?」
「序列三番のクラウディオ・ネエロ、今回の指揮官だ」
と言っている間にも作戦説明は続いていく。
「正面の陽動部隊の指揮は私が行います、潜入部隊はあずみ。貴女に任せますよ」
「はっ!!」
「では各自持ち場についてください」
との言葉にそれぞれ散っていく従者たち、の中を縫いクラウディオさんが歩み寄ってくる。
「初めまして、秋山悠理ですね?私は九鬼家従者部隊序列三番のクラウディオ・ネエロと申します」
「ご存知とは思うが秋山悠理です」
「ヒュームから軽く話は聞きました、今回の任務は陽動です。なので・・・・無理をしない程度に立ち回ってください」
「はい」
一礼した後にクラウディオさんの後をついていく。
―――
クラウディオさんの号令により開始されたこの作戦だが・・・・現在超乱戦中です。どうやら事前の報告よりも相手側に数がいたらしく潜入部隊も迂闊に動けないため陽動部隊が更に派手な立ち回りをしなければならないらしい。
「っらぁあっ!!」
川神院の修行僧たちを相手にするよりは大分楽と言えば楽だがそれでも気は抜けない、何分相手は銃を持っている者もいるのだ。クラウディオさんやステイシーさんがそういうのを率先して倒しているとはいえ気は抜けない。
「・・・・っ」
一旦離脱し状況を見る、しかしよくもまぁ20人で200人近くいた奴らを押し込めるものだ。
「なんでこんなところに子供がいるのかなぁ?」
「!?」
今まで感じ取れなかった気配に振り向く、全身黒で統一したスーツを身にまとう男。
「・・・・成程ねぇ、ただの子供じゃないんだ?」
思わず振り返りざまに構えを取ると男がニヤリと嗤う。
「ずーっと暇な相手ばっかりでさぁ?君は・・・・僕を退屈させないでくれよ?」
冷や汗が滴り落ちるほどのドス黒く澱んだ怖気を孕んだ闘気、鉄心さんやルー師範代、釈迦堂さんやオヤジのような度を超えた力はないだろう。だがそれでも今の自分には十二分に脅威足り得る実力者・・・・おそらく『壁』は越えていないであろう相手、今の自分がどこにいるのか・・・・
「川神流秋山悠理・・・・参る」
試してやる―――
TIP集
・手袋
防弾防刃仕様の特注品。これから先、長年に渡ってお世話になる悠理の相棒。
・赤子
ヒューム・ヘルシングが使う二人称。九鬼家の主君たちと鉄心、マープル、クラウディオ、ゾズマの他一部を省いたほぼ全ての相手へと使われる幅広い名詞。
・うん、やっぱり女の子は笑顔が一番だ。特に由紀江は可愛いんだから笑顔じゃないと。
単純な褒め言葉、だがこの時のやり取りでフラグが立っている事を悠理は知らない。
・「俺が、冗談を言った事があるか?」
「ない」、その一言しか返ってこない一言。