恋姫夢想 御使いの友(凍結)   作:秋月 了

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第十六話

二日後

 

再び虎牢関攻めが始まった。

攻め手は曹操率いる陳留軍。守る総司はバリスタや小型投石器を使い、数を減らしていく。

その中で活躍したのは夏候惇隊だった。夏侯淵率いる部隊による長距離射撃で援護を受けた

夏候惇隊は彼女を先頭にまっすぐ進んでくる。

まともに当たれば再起不能確実な攻撃をものともせずに突っ込んでくる。

 

総司「驚いたな。まさかここまでまっすぐ突っ込んでくるものがいるのか。」

 

荀彧「感心している場合ではありません、総司様。」

 

総司「分かっているさ、柱花。」

 

荀彧「ならいいのですが。第二弓隊目標を最前列の女に向けなさい。」

 

兵士「はっ!」

 

命令を受けた兵士達はバリスタの目標を夏候惇へ向ける。

 

荀彧「放て。」

 

兵士達はバリスタを打ち出す。

打ち出された大型の矢は夏候惇隊の先頭を走る者達を襲い兵士達を殺す。

だが夏候惇は生き残りまた前へ進む。

 

夏候惇「進め、進め―。我らの手で華琳様に何としても勝利をもたらすのだ。」

 

城壁の上ではまたあわただしく指示が出せれていく。

 

荀彧「何やってるの。ちゃんと当てなさいよ。」

 

総司「違うぞ、桂花。奴は弓の軌道を正確に見切り己の大剣ではじいたんだ。」

 

荀彧「そんなことが可能なのですか?」

 

総司「確かに見た。現に彼女は生き残っている。これは上がられてくるな。

   そろそろ投石器を下げろ。上は俺達が守る。張遼、呂布、下は任せる。」

 

張遼「任せえ。きっちりこなして見せるわ。」

 

総司「趙雲、周倉は左の敵を排除しろ。」

 

周倉「任せな。大将の期待には必ず応えて見せるぞ。」

 

趙雲「やれやれ先に言われてしまいましたな。」

 

反対へ向かう二人を頼もしく思いながら見送りながらまた前面を見る。

既に夏候惇を筆頭に一部の兵士が虎牢関の壁際にたどり着き梯子をかけて昇り始めている。

 

総司「桂花、俺から離れるなよ。」

 

荀彧「はい。」

 

そして最初に昇ってきた夏候惇に槍で突く。

それを夏候惇は自らの剣で受け止める。

 

総司「お久しぶりです、夏候惇殿。まさかあなたが最初とは思いませんでした。」

 

夏候惇「全くだ。どうだ。水燕殿。この私と一騎打ちでも。」

 

総司「武においてかの曹操殿が最も信頼する貴殿との一騎打ちはこちらとしても

   願ったりかなったり。是非受けさせてもらいましょう。」

 

元々夏侯淵を抑えるのが総司の役目だ。

曹純率いる虎豹騎は出ていない。夏候惇以外で目だった将は許緒と夏侯淵くらいだ。

だが許緒は既に馬を失い怪我をして後退しているし夏侯淵は長距離で弓を討つだけで精度はさほど

脅威にはならない。つまり夏候惇さえ押さえれば撤退に追い込むことも不可能ではない。

だからこそ夏候惇を自分に向けさせるために総司はあえて一騎打ちに応じた。

そうしておけば彼の優秀な部下が敵を排除してくれるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

始まった一騎打ちは終始総司の優勢だった。

元々槍と剣では得物の長さに差がありすぎる。

少々メタいかもしれが作者が近所に住む剣道家に聞いたところ

条件次第だが槍使いに剣で勝つには三倍からそれ以上の技量がいるらしい。

そしてこの場所は剣使いである夏候惇より槍使いである総司の方に有利な場所だった。

更に総司が初めて実戦を経験したのは九歳の時だった。

理由は山賊団討伐と己の数倍はある熊の退治だ。総司はそれを一人で行い尚且つ無傷で勝利という

結果を残している。それからも異民族討伐で武の腕を鍛え、

洛陽で働くようになってからも救援部隊として各地の戦に赴いている。

つまり得物の差は勿論だが技量、経験共にも夏候惇より総司の方がはるかに高く

最初から夏候惇に勝てる要素などどこにもなかったのだ。

それでも夏候惇は食らいついた。

周りから見ればもはや勝敗はついているが

そこは彼女の誇りがそうさせるのだろう。

夏候惇は足を怪我して膝を付き肩で息をしながら総司を見る。

その時撤退の合図が鳴る。

 

夏候惇「何故だ!まだ。」

 

総司「周りを見ろ。お前しかいないだろ。」

 

言われて夏候惇は周りを見た。

周囲には味方の兵士はほとんどおらず他の者達も既に撤退を始めている。

 

総司「行けよ。勝負は引き分けって事にしといてやる。」

 

夏候惇「くっ、勝負は次に預ける。」

 

捨て台詞だけ残して夏候惇も撤退していった。

 

総司「ふう、何とかなったな。」

 

荀彧「はい。ですが敵をここまで来させるとは申し訳ありません。」

 

総司「構わないさ。次に生かせ。」

 

荀彧「はい。」

 

総司「反省も大事だが先に負傷者の手当てと現状の把握、頼んだぞ。」

 

荀彧「お任せを。」

 

総司「頼む。少し休ませてもらう。」

 

言うべきことを言って総司は指揮官用の天幕へ下がっていった。

 

総司「夏候惇か。あいつはやばいな。やっぱ、歴史に名を刻む奴は

   それ相応の力があるわな。次が楽しみだ。」

 

総司は唯一怪我をした左腕を見ながら次に彼女との戦いに期待する。

その表情は晴れやかだった。

彼もやはり武人なのだ。

 

 

 

 


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