よろしくお願いします。
孫策に仕え始めて三週間が過ぎた。
現在第四師団改めて八咫烏隊は建業の町はずれに駐屯して指示を待っている状態だった。
それに伴いそれらの盟約が整うまでは客将という扱いになっている。殆ど形だけだが。
本来なら拠点を貰ってそこを改修する予定だったのだがそれは後回しになってしまった。
何故かというと単純に今の孫策は建業城とその周辺の土地以外領土を持っていない。
母親である孫堅が黄祖に討たれた際、袁術が救援に来てくれた。
その時に武力に物を言わせて揚州を占領されてしまったのだ?
と言ってもこれは袁術の指示ではなく他の文官や地位の高い武官の指示で
彼女自身の意向ではない。少し袁術の周りとこうなった経緯を話そう。
元々幼くして両親を亡くした袁術は野心のある者達から無理矢理当主に据えられたが
殆ど指揮権を持たずただのお飾りとして過ごしてきた。
彼女はそれを幼き頃より利用されているだけと理解していたし袁家はもうだめだと
諦めてせめて殺されまいと馬鹿を演じ続けた。
周りで彼女が信じていてまた彼女の演技に気付いたのは付き人であり軍師の張勲と
姉と慕っている紀霊という武官のみだ。
だからこそそんな中で人として対等に接してくれる孫堅や孫策の事も慕っていたし
孫堅や孫策の事を第二の母や姉と言っていたことも有った。
だからこそ孫堅から手を貸してほしいと言われた時も今までの恩を返せると思って
出陣したが孫堅は討ち死にしていた。
それどころか孫策が継承するべき土地を自分達が難癖付けて取ってしまった。
孫堅の死に加え恩を仇で返してしまった。しかもそれは諦めによって野心家たちを放置した結果だ。
彼女は辛くて夜部屋で大泣きしそして泣きながら孫策に手紙を書きそれを紀霊に託した。
武官である彼女なら孫策と接触していても不思議がられないと考えたからだ。
その手紙は軍議で鉢合わせた孫策に紀霊が誰にもばれずに渡し孫策はそれを読んだ。
内容は簡潔に話せばこうだ。
まず孫堅の冥福を祈る内容から始まり
揚州を奪ったことへの謝罪。
そして袁家の現状。
最後にいつか自分事袁家を潰してほしいという願い。
それらが書かれていた。
涙で字がにじんでしまっている箇所もあったがそう書かれていた。
これを読んだ孫策は張勲に一対一で対面し手紙を読ませて内容の是非を確かめた。
手紙を読んだ張勲はこれらを認めた。
そしてどうか力のない自分達の代わりに袁術を助けてほしいと願い出た。
孫策はこれを承認したが当時の孫家にそれほどの力はないので力を貯めるまで待つように頼んだ。
そして今総司達が孫策の下に集い戦力の上では整っている。
だがその前に黄祖だけは撃たなければと考えそして洛陽の井戸で拾った玉璽を
手見上げに黄祖討滅を願い出て許可を得た。
そして総司達は出陣の時を待っていた。
「そろそろだな。」
「はい。此方の準備は全て整っております。兵士は今回は五千を同行させます。
留守は周倉殿に指示させています。船も孫呉が用意してくれました。」
「それは感謝だな。此方としても早めにそれらを整えないと。瑠香に言っとくか。」
建業の門が開いた。
「来たな。俺達も合流しよう。」
孫策たちに合流した八咫烏隊は隊列に加わり船を使って長江をさかのぼり江夏を目指す。
船の中で装備や兵器の再確認をしていた荀彧に総司は話しかけた。
「桂花、兵たちの様子は大丈夫か?」
「はい。船酔いも心配しておりましたが今のところは大丈夫です。」
「分かった。今後も兵の状態には気を配っておいてくれ。
それと俺達は長江での戦いは初めてだ。頼りにしているぞ。」
「ありがとうございます。必ず役に立って見せます。」
「期待している。」
荀彧は満面の笑みを浮かべながら作業に戻った。
総司視点
甲板に上がると孫策が抱き着いてきた。
露骨に豊満な胸を押し付けてくる。
多分顔は赤くなっているだろう。
「孫策様。あまりその行動はよろしくないのでは?」
「別にいいじゃない。気にする必要はないわ。」
「それよりよく孫呉の兵士全軍を動員出来ましたね。
半分くらいには減らされると思っていたのですが?」
「玉璽を差し出した時に張勲と袁術ちゃん以外にも文官たちまで有頂天になっちゃててね。
それでうまくいったわ。それまでも忠臣ぶってたからね。」
「これまでの演技のたまものという事ですか。恐れ入りますよ。」
「そんなことないわ。それより祭から聞いたわ。王朗攻め大変だった見たいね。」
「ええ。袁術の兵が行軍は遅いわ。規律は緩いわで連携に苦労しました。
挙句の果てに攻めきれず一時撤退。その後は黄蓋殿と程普殿の隊と協力して
潰しましたが結局邪魔なだけですね。あれは。」
「アハハ!流石よね。なら今回も頼むわね。必勝の神使殿。」
孫策はそのまま去っていった。
それに入れ替わるように孫権が此方に話しかけてきた。
「随分姉さまと仲がいいようね?」
「ええ、良くして頂いていますよ。」
「今回の戦は孫呉の威信をかけた戦と言っていい。頼むぞ。」
「分かっていますよ。今はまだ客将とは言え孫呉に仕えて始めての戦。
此方としても意気込んでおります。孫策様や孫権様の期待に添える様働きますよ。」
「そこは疑ってないわ。それと少し相談させて。思春、いえ甘寧の事よ。
話は聞いているわよね。」
「ええ。何でも黄祖が家に直接訪ねてきたとか?」
「そうなの。私も甘寧が裏切るわけないと思っているんだけどどうしても疑ってしまうの。
どうしたらいいかわからなくて。」
「なるほど。そうですね少し無礼な喋り方をお許しください。」
「構わないわ。」
「なら自分から言えるのは彼女をしっかり見なさい。そして今まで自分が見てきたものを
全力で信じなさい。疑う必要はありません。それは軍師の仕事です。
それで裏切られたのなら自分の器もその程度だったんだという事です。」
「でもそしたらこの後の孫呉が。」
「家臣を信じる事が出来ない主が行う治世などたかが知れてます。
そんなものは最初からない方がましだ。真にこれからの孫呉を背負う覚悟があるなら
裏切りの可能性ごときで家臣への信頼を揺らがすな。確固たる意志を持て。
そして自覚するべきだ。今あなたと甘寧殿にとって孫呉を背負う覚悟があるかを
問われている試練の時であると。」
「試練?」
「そうです。それを見事になせるかどうか?それは誰もが見ていますよ。
貴方が孫策様の後を継ぐに相応しいかどうかを。」
「そうね。少し臆病になっていたわ。ありがとう。楽になったわ。」
「ならばよかったです。御無礼お許しください。」
「構わないわ。全て私の為を思っての事だもの。
それをここで貴方を処断してしまえばそれこそ私の器量を疑われるわ。
そんな主が孫呉にふさわしい訳ない。」
「その意気です。頑張ってください。」
「ありがとう。」
孫権は去っていく。
それからしばらく進み一行は途中黄祖の水軍とぶつかり撤退に追い込むが
中継地点に定めた柴桑の港に到着し積み荷を降ろす。
「ここまでは予定通りか。という事はおそらくだが。」
その時遠くの方から叫び声が聞こえてくる。
「やはりか。積み荷を降ろしている時が一番無防備だもんな。桂花、星、霞」
「はい既に部隊を整えております。」
「総司様ご命令を。」
「よっしゃー!行くで。」
「迎え撃つぞ。孫策様に奇襲を警戒を厳にするように頼め。」
「はっ。」
兵士の一人がかけていくのを見送りながら相手を見据える。
「黄祖の直属軍だな。だが数が少ないという事は伏兵もいるのか?
それとも出鼻をくじきたいのか?とりあえず迎え撃つか。総員突撃ー。」
『おーーー。』
三人称視点
一方孫呉本陣でも警戒態勢が敷かれていた。
「敵の突撃は水燕が抑えてくれるわ。ならこちらは伏兵に素早く対応できるように
警戒を厳にしてそれらの指示は祭と粋怜に任せるわ。それといらないかもしれないけど
援軍として梨晏、言ってくれる?」
「任せてー、雪蓮。私が行ってくるよー。」
太史慈は意気揚々と出ていく。
それとすれ違う様に八咫烏隊の兵士が本陣に駆け込んできた。
「報告。黄祖の軍が此方に攻撃を仕掛けてきました。水燕様が応戦中です。」
「数は?」
「およそ四千。」
「分かったわ。太史慈の隊を援軍に向かわせている。撃退せよ。」
「承知いたしました。では。」
兵士は本体に合流する為に走っていった。
丁度その頃敵軍は総司達に完全に正面を抑えられていた。
敵の指揮官は黄祖の指示を受けて孫策軍を惹きつける役目についていた。
だがいくら引き付けようとしてもくいついてこない。
それどころか孫策はこの場にはおらず此方ばかりが被害を受ける一方だ。
その間にも指揮官は黄祖の言葉を思い出す。
それは数刻前の話だ。
「孫策は此方が正面から攻めれば必ず向かってくる。
足止めしろ。だがあくまでお前の使命は足止めだが機会はあれば討っても構わん。」
「はっ。」
そう言いながら本陣を意気揚々と出ていった自分を殴りたくなる思いになっていた。
「(何が孫策は必ず前に出てくるだ。孫策どころかその将すら出てきていないじゃないか。
一部隊長に負けるだと?この俺が?そんなわけにいくか。だがどうすればいい?)」
指揮官は焦りに焦っていた。目的を果たせないどころか逆にいたずらに兵を失っている現状を
どうにかしなければと考えるがいい案は思いつかない。
だが彼は元々経験が足りなかった。黄巾の乱の時も揚州刺史への援軍の時も
反董卓連合の時も留守を守っていた。
だからこそ暫く戦場から遠のいていたし、それ以前もほとんど戦に出ていない。
家格で指揮官になれているがそこまで優秀という訳ではなかった。
黄祖は己の配下の力量を正しく理解している。
だからこそ殆ど捨て駒と言っていいこの役目を彼にやらせた。
足止めできれば良し。討ち取ってくれれば御の字と言うぐわいで。
だが黄祖は致命的な失敗を犯してしまった。
総司の存在である。黄祖は揚州に総司達が居る事は分かっていた。
王朗攻めにも参加していたのだ。調べればすぐにわかるだろう。
だがまさか袁術ではなく孫策に仕えているとは思わなかったのだ。
誰だってそう思うだろう。
実際遠くで長江で奇襲部隊を率いていた黄祖は焦っていた。
「(なぜ、程普や黄蓋が補給物資を守っている?まさか正面の誘因が上手くいっていない?
それならこの場で奇襲は意味をなさないな。明日には到着する黄忠達と組んでかかる方が
まだやりようはあるか。)撤退だ。」
「はっ。」
黄祖は奇襲する事なく撤退した。
なお正面の部隊は援軍として駆けつけた太史慈と総司の隊に蹴散らされ
指揮官は趙雲に打ち取られた。