第八話
宮中での騒動から一か月の時間が過ぎた。
今各地の諸将は洛陽と帝を解放するべく兵を結集して連合を形成していた。
事の発端は一か月前にさかのぼる。
洛陽は十常侍と大将軍何進の派閥争いが激化しもはや漢の滅びは目前に迫っていた。
だがそれに待ったをかけた人物がいた。
霊帝の妹、劉協とその家臣、董卓である。
新皇帝となった劉協はその助けとして董卓を相国とした。
そして宮廷内から腐敗の元となる者達を強制的に排除し各部署に手を入れ改革を推し進めた。
そのどれもが民の為になる改革だった。
その時、洛陽の民もこれで漢は良くなると誰もが信じていた。
だが急激すぎる改革は反発を生むのは必定だった。
真っ先に反発したのは冀州の州牧の袁紹だった。
元々袁家は漢において三項を輩出した名門中の名門だった。
そして彼女はそれを誇りに思っていた。
それに妾の子供とはいえ実質当主は彼女だ。
そんな彼女からしたら何進の大陸徴用で洛陽に来た涼州の田舎者が
相国などという漢の最高位についていることが面白くなかった。
その地位は名門袁家の当主である自分こそが相応しいと考えていた。
だが自分達だけでどうにかなると考えるほど袁家も馬鹿ではない。
いや彼女はそのつもりでいたが軍師の田豊が進言し檄文を袁紹に書かせた。
そして彼女自身は各地の州牧達に檄文を送り兵を集めて洛陽にいる董卓を倒し、
自分が董卓の位置に成り代わろうと考えていた。
だがそんな事そのまま書いても州牧達は参加してくれるわけがないので
董卓を悪者に仕立て上げたという訳である。
そして彼女の思惑通り諸侯は兵を集め、連合に参加した。
参加を見合わせたのは益州軍位である。
その結果に袁紹はホクホクだった。
ところ変わって数日前の洛陽の一室。
この場には連合に対抗する各軍の指揮官と軍師たちが集まっていた。
この場に集まる者達の中で一番位の高い総司が話始める。
総司「まず、俺達は決めないといけないことがある。」
華雄「何を決めるのだ?布陣じゃないのか?」
荀彧「それもだけどそれより大事なことも有るでしょ。」
朱儁「ああ、そうだな。」
徐栄「ですね。」
楼杏をはじめとしたその他の将軍たちも頷く。
総司「ああ。この戦、俺達が勝つのはほぼ不可能に近い。
なら俺達が考えるべきは何を得るか。正確には何を捨て何を得るかだな。」
張遼「そやな。」
朱儁「まず最も守るべきは何と言っても帝だろう。」
徐栄「その次は董卓様でしょうね。もしかしたら真っ先に狙われるでしょう。」
皇甫嵩「そうね。今回の件だって献帝陛下からの命令だったみたいだし。」
総司「ならこちらの勝利は陛下と董卓を守るとして何を捨てますか?」
徐栄「私たちが捨てられるものは限られています。」
朱儁「というか俺達全員の地位しかなくないか。捨てられるのって?」
総司「いや、まだあるでしょう。」
朱儁「なにが?」
朱儁の問いに総司は人差し指を立てて下をさす。
総司「洛陽。董卓様と陛下を同時に守るなら洛陽を捨てるしかない。」
朱儁「まさか!本気か。」
総司「ええ。本気です。どの道この戦俺達の勝利は一般的な勝利とは別のところにありますし、
この戦が終わればどうせ世は群雄割拠するでしょう。
そんな中で帝をお守りするなら洛陽を捨てるしかありません。」
朱儁「仕方ないか。なら帝はどこにお連れする?長安か?」
徐栄「長安なら既に防衛に適した施設がありますしそこに至るまでにも
地形戦で有利を取れる土地は多くあります。確かに名案ですね。」
総司「いやそれでも数で攻められると持たない。
だから今回は信頼出来る州牧に預ける。」
皇甫嵩「本気?」
総司「ええ。その選定も根回しも終わっています。」
朱儁「その案で行くとして誰に任せる?」
総司「徐州牧陶謙殿に。もう少し正確に言えば陶謙殿の後を継ぐ劉備玄徳に任せます。」
皇甫嵩「だから盧植将軍を劉備殿に預けたのね。不思議だったの。
盧植将軍程の方を何故、平原の相に預けたのか。」
総司「ええ。彼女を通じて既に劉備殿に陛下と董卓様を預ける旨の手紙を
送りました。同様の手紙を陶謙殿送りました。既に快い返事をいただいております。
後は誰かを護衛として付ければ何とかなるでしょう。」
朱儁「もし劉備が帝や董卓殿を使って出世を考えていたらどうする?」
総司「その時は俺達の負けです。どちらにしろ俺達に取れる選択肢は極端に少ない。
その少ない選択肢の中で取れる行動をとるしかない。」
朱儁「仕方ないか。ならその護衛は俺が引き受ける。」
総司「正直、朱儁将軍か皇甫嵩将軍か徐栄以外思いつきませんね。」
皇甫嵩「それしかないでしょう。」
総司「こちらの目標と戦後の動きに関してはこれくらいでいいでしょう。」
細かい事は皇甫嵩将軍にお任せします。」
皇甫嵩「任せて。」
総司「お願いします。さて今連合軍はこの豫洲の潁川群に兵を集めてる。
このまま行けば敵は河南群から汜水関に向けて兵を進めるつもりだろう。」
朱儁「あの袁紹だ、その可能性が一番高いが河内と潁川から攻めて
洛陽を囲む可能性もあるのではないか?」
賈駆「その可能性も考えたよ。でも洛陽を守る砦の中で一番堅いのは汜水関と虎牢関の二つだ。
なら諸将はいつか再び洛陽を攻める事を想定して
この二つを今の内からつぶしたいと考えるんじゃないかと思うんだ。」
朱儁「なるほど一理ある。献帝陛下も頑張っておられるがこの先はどうあがいても
乱世が来るだろう。なら土地を抑える戦いは一つでも減らしたいと考えるのは当たり前か。」
賈駆「その通りだと思うよ。それで布陣だけどまず汜水関には華雄、張遼、水燕、徐栄、
朱儁将軍に出てもらう。
そして残りは虎牢関だ。でも皇甫嵩将軍には今後の事で詰めたいから残ってほしい。
後、まだ陛下はやらなきゃならない事がある。
だから汜水関で十日、虎牢関で十日、計二十日耐えてほしい。虎牢関組は状況次第では他の砦へ
防衛に向かう場合がある。それだけは心得ておいておいてくれ。皆、任せたよ。」
武官全員「おう。」
総司「出陣は明日の昼すぎとする。それまでに準備を整えておいてくれ。
最後に一言。この戦、勝つぞ。」
全員「おーーーーーー!」
こうしてこの時代を代表する三大決戦の一つにして後に陽人の戦いと呼ばれる戦いに
今総司達は赴くのだった。