がっこうぐらし! 称号『しょうがっこうぐらし!』獲得ルート【本編完結】 作:水色クッション
名残惜しいけど仕方ない。思い出を力に変えて、気持ちを入れ替えて頑張ろう。
今日から始まるのは──
すべてを終わらせる時……! 七日目にして最終日はーじまーるよー!
これからの手順をもう一度確認しましょう。まず廊下に出てかれらの大群が迫って来ることを確認します。すると時間経過後にかれらの大群ラッシュが始まるので、適当に逃げ回って時間を稼ぎましょう。
そうすればNPC……今回はるーちゃん固定ですが「ここはもう駄目だ、〇〇まで撤退しよう」的なことを言うので従います。指定の場所まで下がった後、立てたフラグによっていくつかの選択肢が出現します。
①校内放送を使う(放送不可)
②策を考える、外で囮になり時間を稼ぐ(放送不可)
③誰かを生贄にする(一人死亡)
④諦める(GAMEOVER)
今までのフラグによっては他にも選択肢が出るのですが、今回は省略。私が選ぶはもちろん③。(そもそも選択肢が)ないです。小を切り捨て大を生かす救済措置にして、小学校での唯一の手段。
さあその身を燃やし尽くすぞ、いざ死地へ赴かん──
……
…………
………………すいませ〜ん、木下ですけどぉ、ま〜だ(暗転明け)時間かかりそうですかねぇ?
…………ふ、フリーズした? いやメニューは開きますね、時間はきちんと進んでいますし……も、もう少しだけ待ってみましょう。
…………
………………えっと、これは、多分まりーちゃん意識を失ってますね。更にステータス見るとガンガンHPが減っていってます。出来ることは奇跡的に目覚めることを願いながら、命のカウントダウンを見続けることだけです。
まるでお世話ゲームで死神が取り憑いてしまったみたいだぁ……。三十分以内に先祖様を供養しなきゃ……ん、まりーちゃん家族構成が見れねぇぞ? まあどうでもいいです。ほんとにそんな機能はないですし。
……あれ? てことはもしかして。
・バリケード崩壊、屋上以外の部屋未占拠。
・装備ほぼ無し、防犯ブザー数個のみ
・まりーちゃん瀕死、犠牲選択肢出現せず
・通信機破壊済、助けは高校組のラッシュが終わってから
………………。
こ 無 ゾ
○
雨が強まる。振り始めてから十分も過ぎれば、大雨と言って構わないほどに勢いを増していく。乾きかけていた屋上の床も完全に濡れてしまった。
「まりー、おきて……わたし、どうすればいいの、ねぇ、こたえてよぉ……!?」
体を揺すっても意識は戻らない。屋根の無い屋上、雨が体を残酷に叩く。弱りきり、濡れそぼった体はあまりにも冷たい。命の灯火まで消えてしまいそうなくらいに。
「いや、いやだ、死なないで……!」
全身を強く抱きしめた。自分のありったけの熱を注ぎ込む。
万里花は答えない。どれだけの熱を伝えても、溢れる程の思いを注いでも、ぽっかりと開いた穴から流れ落ちる感覚。
こんな時どうすればいいのか、瑠璃には分からなかった。頼れる姉が、大人が、答えを指し示してくれることを祈って。
「りーねー、りーねぇえ! はやくきてよ、まりーをたすけて!」
叫びは雨音に掻き消えて、どこにも届くことはない。そして瑠璃は気がついてしまった。
「まって……りーねーたちのところにも、雨がふってたら……あ……たすけ来れな、くて」
視線は巡ヶ丘高校の方へ向く。雨雲は遠くまで続いており、あちらは晴れていると楽観出来るものではなかった。
瑠璃は高校にもかれらの群れが押し寄せて来るのではと予測した。かれらの始末に手一杯で、ここに倒れている親友のように犠牲を出す可能性さえある。そうなれば他のことを考える余裕もなく、今日中に助けが来る期待は持てない。最悪の場合、もう来ない可能性だってあり得る。
瑠璃は、続いて友を見た。子供の目でも今日持てばいい方だろうと判断出来る。いつ死んでも、かれらになってもおかしくない。今すぐに治療が必要だった。病院でもない高校に治療法があれば、の話だが。
「…………そんな」
詰みだった。ここにいる限り、助けを待つ限り、どうあっても万里花は助からず、自分も後を追う羽目になる。
あまりにも、救いのない終局。
「……ふへ」
揺れる感情。恐くて、辛くて、悲しいはずの心が矛盾していく。
「ひは、あはは」
口角が持ち上がる。友の出す仮面の笑みともまた違う。嗤いたいから哂っているのだ。
「ははは、はははははは!」
泣いて嗤うたびに心がぐちゃぐちゃに混ざっていく。自分が今、何を思っているのか分からなくなってしまう。悲しいのか、嬉しいのか、辛いのか、楽しいのか。全てが虚構に思えてくる。
絶望が突き抜け反転した。混沌とした感情が、本人でさえ理解不能な笑顔を作った。理性が溶けるたびに凄惨さを増す笑い声。笑っているからこそ、心が砕かれていくのかもしれない。
「あはっ、あははははは! ぁはっはっはっはハッハッハハハッ!」
世界はこんなにも不幸に溢れ、自分達を否定して。無様にしがみついででも生きようとする価値が、呪われた世界のどこにある?
せめて苦しまないよう彼女の命を断ち、そしてその後に自分も死のう。きっとそれがいい。思うほどに、それが最も手っ取り早く幸せな道に見える。
壊れた心、まるでかれらのように何も感じなくなった肉体でいた方が遥かに幸せで。この世に最早なんの楽しみも、心残りなど──
「アハハハハ、ハハハ、ははは…………は、は」
──心残りは、あった。
壊れる一歩手前で、瑠璃は躊躇した。目の前で浅い呼吸を繰り返す、死にかけた友を視界に入れた。
彼女は今も諦めてはいない。自分以上に絶望的でもまだ折れてはいなかった。自分の我儘を、『生きて』と言った願いをまだ叶えてくれている。
「はは……だって、もうわたしたちは……」
二人で交した約束があった。一人だけで逃げるのは、許されない気がした。
じくり、心が針で突き刺されたように痛む。
「もう、だれも、たすけてくれないのに……」
自分がいるから、万里花は今も生きている。傲慢でなく、瑠璃はそう感じていた。願いが命をつなぎ留めてくれている。
殺したくない。なら辛い道を歩いても我慢しなければ。
『ここにいる限り』救いはない、ならば──。
「……ちがう、ちがう! ちがう! まだ、わたしがいる! まりーを、わたしがたすけるっ!」
折れかけた心を再び集める。思考を再開させ、助かる道を模索する。
考えた答えは荒唐無稽で、可能性など万に一つ。子供の浅知恵に相応しい、夢物語の妄想であった。
「ぜったいにあなたを、たすけるからッ!」
彼女は意識を失っている万里花を、背中に担ぎ出した。扉の鍵を開けて、重い一歩を踏み出す。
つまるところ、歩き高校まで向かおうというのだ。背中に瀕死の親友を背負ったままで。
子供がたどり着ける距離ではない。道中にはかれらが潜み、そもそも道を正確に覚えていない。背中の重さは、ただ立つだけで膝が折れそうな程の負担。
脳裏にいくつも浮かぶ懸念の材料。それら全て棚に置いてこの道を選択した。出来る、助かる、根拠のない自信で自らを偽り、鼓舞する。
蜘蛛の糸を渡るが如き儚い希望。彼方に見える小さな光に惹かれるように、彼女は死と隣り合わせの世界に足を踏み入れた。
(まだあさ早いから、ちょっとしかあいつらは来ていないんだ。……ぬけだせるのは今だけ、しかないよね)
瑠璃は未だ薄暗い学校内を走る。背中の重みが何倍も負荷をかける。屋上の階段を降りただけで汗が滲み始めた。まだ、道中の百分の一も超えていないというのに。
殆どのガラスが割れ、乾いた血があたりに散らばる廊下を進む。三階は少しだけ綺麗にしていたが、また荒れ果ててしまっていた。
「…………おちつけ、つかまれたら、それで終わりなんだ……」
まばらなかれらに対してはその横を全力で駆け抜ける。背負うため塞がった手では抵抗は出来ない。振ったかれらが後ろから追跡してくるため、尻込みして止まることは死を意味する。
「は……はっ、おも……くない……だいじょうぶ……いける!」
万里花の背丈は、同年代の中でも低い部類である。当然体重も相応に軽い。瑠璃は今は彼女の小ささに深く感謝する。これ以上の体重は抱えきれない。
だからと言って、持ち上げるのが容易なわけでもない。小学生の同年代、両者の差はさほど大きくはない。筋力などほぼ無い幼子が、自分と同体重を背中に載せているのだ。ただ立つだけで限界に近い。
それでも彼女が動けるのは、思いの力があってこそだ。鉄の意思が肉体の限界を錯覚させる。
前へ、前へ、休むことなく足を動かし続ける。かれらを振り切り、階段を降りて──
「あっ!?」
気持ちが急ぎすぎ、冷静さを失っていた。階段の踊り場で倒れた死体に躓き万里花と共にうつ伏せに倒れる。
倒れた時の音と、反射的に出してしまった声。近くにいるかれらが数体反応した。
万里花が重しとなって、すぐに起き上がることが出来なかった。かれらが視線をこちらに向ける。致命的な隙。
(うあ、かまれ──)
それでも諦めない。瑠璃はせめて抵抗をと万里花をどかそうともがいて──ふと、気づく。
「ま、り……?」
「……………………」
万里花が、瑠璃を包むように体を広げてくる。動けない、いや、動くなと伝えているようにも瑠璃は思えた。
(どういうこと……もしかして、わたしをかくしてるの?)
瑠璃は親友に従うことにする。意識を失っているため何も疎通は無かったが、意図は読み取ることは出来た。
かれらがほんの目の前に迫った。腰を屈め、足元を確かめる仕草をした。呻き声に瑠璃の心臓が跳ねる。眼前に迫る血だらけの顔に冷や汗が止まらない。
「ッ……!」
(お、おちつけ……おとをだしたら、こんどこそ終わり……!)
叫び出したくなる心を必死に抑え込んで、万里花の行動を信頼を寄せる。何度も彼女のおかげで危機を超えた。今回も無駄な行動はしない──はずだと。
取り囲むかれらの一体と目が合った、気がした。
「…………」
視線が外される。首をかしげるような動きをした。
かれらが離れていく。不格好な歩き方で階段を下ろうとして、転げ落ちた。
「──ぷはっ……! あぶなかった……ありがと……」
止めていた息を吐き出して背中の親友に礼を言う。当然、返事はなかった。
(まりーがあいつらみたいになりかけてたから、なかまだって思われたのかな……かくされてたわたしは見えなくて。でも、それなら……)
感染はかれらと同族と認識されるほど進行していることになる。助かりはしたが、気分は更に焦燥を覚える。彼女に残った時間は一刻の猶予も無い。
「……いか、なきゃ、はやく」
瑠璃はゆっくりと立ち上がった。見つからないよう階段の上から一階下をこっそり伺う。
(走っていけば……いや、あそこに十人、それをとおった先にも…………そうだ、たしか昨日はこれを使って)
万里花の懐を弄り、防犯ブザーを取り出した。自分達が使える最後の道具、使いどころは今だと瑠璃は確信する。
(ぬいたらすぐにあそこと、そこになげる。そしたら、あいつらのいない左に行ってまどから出る。……だいじょうぶ、
広い場所にさえ出れば、動きの鈍いかれらの脅威は大幅に減少する。大回りで移動すればさほどの危険はないのだ。狭い屋内で大量に居るからこそ脅威である。
「……いち」
陽動を作るとはいえ、あれ程の群れに近づくなど自殺行為もいいところだろう。やけくそじみていると一人自嘲した。
震える手を深呼吸で抑えピンに指をかける。
「に、の」
三つ同時に引き抜いた。手の内からけたたましい音が鳴り響く。校内全員の視線が瑠璃に殺到する。殺気が襲いかかる。
ただ一人に降り注がれた悪意の渦。
「──ッ、さん!」
重圧を振り払ってブザーを投げた。注がれた視線が宙を舞うそれに移り、我先にと追い始める。
ここからが勝負。三つ全て、口に咥えて踏み潰すか噛み壊されるまでのほんの僅かな時間が外に出るタイムリミット。
階段を下りる、背中の重さを加えて倍の衝撃に足が悲鳴を上げるも無視を決め込んだ。かれらの後ろを壁伝いで左に曲がりすぐそばの窓に向かう。
正面は、未だ出入りするかれらに塞がれているためだ。
「い、やだ! わたしたちは、まだ──」
窓の枠に万里花を載せる。垂れた下半身を持ち上げれば、ずるずると外に押し出されていく。投げ捨てられた万里花はそのまま頭から落下した。
瑠璃も窓枠を乗り越えて後から続く。砂利に汚れた万里花を救い出して、再び背中に担ぎ上げる。
すぐ後ろの窓から伸ばされる幾多の腕。数秒遅れれば失敗していただろう博打を自覚し、今更ながら肝を冷やした。
「はは……やったよまりー、わたし、一人でがんばったよ」
そのまま校門へ歩を進める。まだ『登校』の少ないかれらの横を大回りで通りながら。
掛けた声に親友は答えない。
「がっこう、もうぬけたよ。もうしんぱいないから、だから」
雨が更に強まる。遠くでは稲光が垣間見えた。
大きな水溜りに足を入れてしまった。靴から浸透した水が、いやに気持ち悪く歩きにくい。
「ほんとに、にげるの、たいへんだったから……」
大雨の中、友を背負って瑠璃は歩き続ける。
命を賭けた。死ぬような思いをした。今日だけではない。一週間、あの学校で何度もあった。
もう二度と、あんな思いはごめんだと思う。新しい場所では、もう少しゆっくりしていたいと思う。
その願いがきっと姉と、友と、『三人』で叶うことを信じて。
「だから……あれ、もしかして、おきて」
首筋に温い息が吹きかかる。万里花が口を開けた証拠だった。
瑠璃は振り返れない。その理由はもしかしたら、彼女は既に──その先を考えたくなかったから。
「ま、りぃ?」
橙色の頭が動く。肩にゆっくり口が重なろうとして。
○
上下左右に一切差異の無い真黒の世界。万里花は黒の中を泳いでいた。
おかしなことに、落ちているというの感覚だけはあった。ぶくぶくと深い水底に溺れるように、ゆっくりと落ちていく。
無限の暗闇を一人静かに沈んでいく。果ても底もなくひたすらに落ちる。手を伸ばし藻掻こうと闇の内を漂うばかりで、大きな流れを変えられはしない。
『昨日の時点で終わりだと思っていたが意外と足掻く。本当に、敬意を表すよ、君のしぶとさに』
闇が歪み、紫の少女が形作られる。この三日程で見慣れた姿に、万里花は衝動的に唾を吐きかけたいほどの嫌悪を感じた。
頭を鳴らす声も相も変わらず頭痛を招く。そして理解する。ここは夢の中、外の自分は今頃意識を失っているのだと。
「……きえて、そしてはやくここから、出して」
『何故そこまで抵抗する。今も苦痛が体を蝕んでいるだろう』
ふらふらと彷徨いながら少女は言葉を紡ぐ。体が反転し、闇に溶ける。音もなく後ろに現れた。二人に分身し、すぐに戻る。
闇の中、存在を自在に操る少女。腕一つ満足に動けない自分。世界の主導権は明らかに彼女の手中。それが不味かった。
「ともだちが、外でまってるんだよ。ひとりはつらいから行ってあげないと」
『それさ。君にとってそれ程大事なものなのかい?』
「るーが、生きてっていってるから。だからあたしは生きていたいの」
『ふふ、なるほど。お前達に相応しい、歪んでいる。たった一本のか細い糸で繋がれている、ほんの容易く狂う関係だね』
瑠璃が「生きて」と願うからこそ万里花は必死に生にしがみつく。呪詛に囚われる万里花を罪に感じ、瑠璃は一人抜けることを良しとしない。
どちらかが降りれば、もう片方は即座に砕ける。この一週間で、それ以外の希望が何一つ見いだせなかったために。
瑠璃の方はまだましだろう。彼女には姉という関係がまだ残る。精神的な支柱が一つ残る。より深刻なのは万里花の方だった。彼女にはたった一人の友達以外に何も残っていない。
故に彼女は残ったそれに強烈に執着する。病的な関係に。
それの何が悪いと万里花は思う。たった二人で生きるには本当に、こうするしかなかったのだと。
依存的であることは、理解していた。共倒れの危機であることも。
『そして危うげで美しい友情、壊すのは君だよ、同胞よ』
「──やめろッ!」
嘲笑顔から一変、冷たい瞳が万里花を射抜く。
紫の少女の背後、無数に伸びる手。手、手、手。万里花に掴みかかる。
危うい関係、壊すのはより死に近かった万里花の側。ここで自分が死ねば、かれらになれば、彼女を喰い殺すこととなる。そうならずとも、彼女の心を壊すには十分で。
『君の全てを飲み込んで、われらの中に取り込んでやろう。蛆が悶えるような抵抗も、もう終わりさ』
躯達が体中を掴みとる。髪や服、掴めるものは何でも掴み、二度と離さぬよう底の底まで引き摺りこもうと。
「はなせ、はなせよ! あたしは、るーにまだ……!?」
『あの子が心配か。それもすぐに消えるとも。ともに、同じ場所に行けるのだから』
動けぬ体で必死になって抵抗した。無我夢中で腕を振り払う。ここで死ねば、今までの全てが無に返してしまう。
『いいや、この一週間に意味はあったとも。あの子と君の関係は依存し合う程に深まっているのだろう? 今のあの子は、姉以上に君を愛している。ならば、彼女は共に死んでくれるさ、そして──』
「やめろ、それいじょう、いうなぁ!!」
全力の叫び。隠したい秘密を暴き立てられるからこそ、懇願してでも言われるのを厭った。
『それは、
「ぁ…………ちが、う、おもってなんか……!」
心が揺らいだ。
刻々と迫る死は恐ろしく、何度かそれを考えたことがある。ろくでもない世界、増し続ける苦痛、望みを見出だせず、死んだほうが共に幸せなのではと。
自分から諦めるのは許されないから、思いに蓋をしていただけで。
『望みは叶えよう』
一時、緩んだ抵抗。その間に戻れないところまで引きずり込まれる。
彼女の弱さが、二人の友情を終わらせる。
亡者が口を開けて。
彼女を噛み砕こうと。
全部
消え──
「さっきのお話聞いてたけど、んまぁそう……よく分かんなかったね」
『ッ!?』
この場に居ないはずの第三者。何者かが一切の気配も無く亡霊の背後に立つ。
「彼女は子ども、私達と同じチルドレン。だから救う必要があったんですね」
園芸用のスコップが容易く、亡霊の胸を穿った。瞬間まで殺気すら出さぬ暗殺、腐り落ちた顔が驚愕に満ちる。
「おねえ、ちゃん、だあれ……?」
「またね」
夢の支配者が呆気なく消失した。謎の人物も忽然と姿を消す。夢が終わりを迎える。
○
「……るぅ」
「よかった……! おきたんだねまりー!」
ゆっくりと瞼を上げる万里花。霞んだ視界いっぱいにどこかで見た髪色が映る。鼻腔をくすぐる華の香りから、ようやくそれが瑠璃であることに気が付いた。
ここまで発症しないこと自体が奇跡。目覚めるなど、それ以上の何かである。
「……あたしたち、どうして、そとに?」
「もう待ってらんないから、自分でりーねーのところに行くことにしたの。しょうがっこうはもうそつぎょうだよ」
ひと目で分かる空元気。今までの自分がそうだったから、なんとなく分かってしまう。
背中に揺られながら、ぽつぽつと喋りだす。
「そうぎょう……そっか、ならあたしたち、とびきゅー、するんだ……」
「そうだよ、さいねんしょうてんさいこうこうせい、……なんて、ちょっとおかしいかな?」
「るーはかしこいからいいけど、あたしはバカだから……にゅうがく、できるかな。こうこうって、しけんがひつよーだって、聞いたんだ」
自然と笑い会う二人。
「じゃあ、たくさんべんきょうしないとね。わたしも、りーねーもおしえるからさ。ずっと付きっきりで、おしえてあげる」
「……あはは、かんべんしてよ。きょねんの夏やすみじゃないんだから……そういえばあれ、けっきょく、間にあわなくてしかられたし……」
「うーん、あれはさいごまでのこしてた自分がわるいんじゃないかな」
苦いはずが、思い出すたびどこか眩しくて。消えてしまった思い出たち。自分達がもっと強ければ、たくさんのものを守れたのだろうか。
「おなか、すいたなぁ……あ、だ、だいじょうぶだよ? まだおかしくは、なってないから」
「…………じゃあ、今なにが食べたいの?」
「ハンバーグ、からあげ、オムライス、ラーメン……あと、お菓子にプリンとか、ケーキとか……」
「……びょうきなのに、しょくよくだけはあるんだね……」
「おーなーかーすいたぁああ……」
今は、その手に一つだけしかない。
「……るぅ」
「なぁに?」
「よんでみた、だ、け…………」
「そっか」
最後の一欠片さえも取りこぼす。
「ねぇ……まりー?」
「………………」
「雨、まだあがらないね」
陽の光が、見えない。
「へんじしてよ……ひとりじゃ、さびしいの……」
また明日、同じように側にいられる日が来るのだろうか。
ここから実況者が消えます。