がっこうぐらし! 称号『しょうがっこうぐらし!』獲得ルート【本編完結】   作:水色クッション

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これ(実況者)いる?

会話文は書いていて難しかったです。ひらがな多すぎて読みづらいよな、小学生が覚える単語か、前の文でこの言葉は漢字にしてたっけ、みたいに。
それでも書いてる間ずっとニヤニヤしてました。楽しかった。


※注意:ガールズラブ描写あり


ふたりぼっちで過ごす夜

 全身水浸しになって戻って来た万里花を見て、瑠璃はようやく安心感を覚えた。昨日から今まで丸一日近く、顔から足まで血塗れた姿で隣に立っていたのだ。

 友達とはいえさすがに恐ろしいものがある。

 

 幾分かは見える格好にはなっただろう。ちなみに今の彼女、何も服を着ていない。

 

「たっだいまー。えーと、あれ、タオルどこにあるんだっけ……?」

 

 拭き物が見つからないからと首を振り回して髪の水気を飛ばしている。ブルブルと震える行為はまるで犬猫の習性。それでも幼子が行えば愛嬌に満ちているのだから不思議なものだ。

 

「ぷへ、ちょっとスッキリした。あー、おふろにはいりたい。りーねえちゃんのところにはあるといいなー」

「ちゃんとふいて、かぜひいちゃうよ」

 

 万里花はそのまま職員室の中で一番偉そうと思った椅子にどっすんと腰を下ろす。水滴が零れ座面を濡らすが気にする様子はない。どころか今度は橙の髪を絞り始めた。ぼたぼたと大きな雫が垂れ落ちる、椅子は泣いていい。

 あちこち濡らして回る姿に呆れた瑠璃がタオルを渡す。受け取った途端に「うおー」と髪をゴシゴシと拭き始めた。当然、タオルを退けた後の髪は爆発している。

 

「ぷっ、あはは。なにそのかみがた、ほら、それ貸して」

「えーっ、いいよほっといても。どうせかわくし」

 

 口は尖らせながらもタオルは素直に返す。受け取った瑠璃は対象的に、その髪を優しく傷まないよう拭き始めた。

 

「泳いだあと、いつもこうしてもらったよね。りーねえちゃんから」

「そうだね、らんぼうに拭くとかみが傷むんだって、拭いてもらうたびにりーねーが言ってた」

「そんなに変わるのかな? わたしのかみ、さらさらだってみんな言ってくれたよ?」

 

 親友はどうにも自分に対して大雑把と言うか、ばっさり切り捨てればがさつであった。姉の影響か、早い段階でおしゃれに興味を持った瑠璃とは美意識に差があるらしい。

 拭いている最中、瑠璃はふと背中に視線を落とした。小さな切り傷、あの時かれらに押し倒された際に、床に散らばったガラスの欠片で切ったのだろう。血が止まりかける程度には治っている。

 

「このけが、いたくないの?」

「え、どこど──っ、 …… あー、水がしみたわけだ」

 

 傷に触れて初めて気がついた、と言った反応。見た目通り、ごく軽いものらしい。それでも見かけた以上、放置するのは気分が悪い。

 

「まってて、何かとってくる」

「つばでなおるよ」

「それでもダメ」

「ぶー」

 

 引き出しから絆創膏を探し出し、万里花の背中に貼り当てる。これで服に擦れて痛むことはないだろう。

 

「へたっぴ、一回しわくちゃにしたね。わたしはみのがさない」

「…………ん!」

「いだだだだだ!? ごめんつねらないで!?」

 

 傷の処置は終え、前側を拭くため正面に回った。万里花の瞳は若干涙目である。

 

「もう自分でふけるけど……?」

「だーめ、どうせふきのこしいっぱい残すんでしょ?」

「そうやって目で黙らせるところ、なんかりーねえちゃんに似てきたよね……」

「んー? なにかいったかなー?」

「ふひ、ちょ、くすぐったいって」

「あはは、さわるたびにビクってしてる。おもしろーい」

「もう目的わすれてるよね!? あ、ちょっと、ふひ、やめ、まってまって、いひひ」

「こちょこちょー」

「いひひひ! ストップ! ヒヒ、ストォーップ!」

 

 くすぐりに耐えかねて椅子から転げ落ちる万里花。馬乗りにされ、今度は床に押さえつけられいいようにやられ続ける。脇腹を触られ、気持ち良さと悪さが同居した不思議な感覚がぞわぞわと駆け巡る。耐えきれず大声で笑い続けた。

 

 

「ひーッ、ひーッ、ははっ……あの、もうかんべんし、て──よ…………泣い、てるの?」

「…………ごめんなさい」

「……なんで、るーがあやまるの……?」

 

 唐突に、消え入りそうな声で行われた懺悔。先程までのふざけあった雰囲気は消え、冷たい空気が漂う。

 

「だって……だってわたし、あなたにまもってもらってばっかりで……! わたしのせいで、まりーはけがをしたんだよ!?」

「大げさだなぁ、こんなのへっちゃらだよ」

 

 万里花は自分の側頭部を撫でた。かれらとなった担任に打たれた跡。腫れは見られないが、まだ触れるたび微かな鈍痛が走る。

 

「それに、あやまるのはわたしの方だよ。きのうも、わたしがダメダメなせいでこわい思いをさせちゃったもん」

「どうしてそう考えるの!? まりーがわたしのせいできずつくのなんて、もうわたしは見たくないのに! 」

「…………だって、その」

 

 額に落ちる涙を見ていると、考えていた言い訳が出てこなくなる。彼女は本気で心配していて、それを誤魔化そうなどと考えるのは、卑怯な気がしたから。

 

「まりーが辛くなるならいっそ、わたしなんか……わたしが、いなければよかったのに……」

「……それは、ちがう」

 

 万里花は瑠璃の顔を両手で掴み、自分の顔にまで引き寄せた。必然、至近距離で見つめ合うことになる。互いの潤んだ瞳に、泣き顔の自分達が映りあった。決して目を逸らさす、互いの奥底を見透かそうと。

 

「るーは、わたしのこと、すき?」

「……すきだよ。だいすきだから、きずついてほしくないの」

「わたしもすき。だから、たたかってほしくない。ころすのって辛いことだから」

 

 目を真っ直ぐに向けた、恥ずかしげもない即答。幼少ゆえ、大人の愛の言葉とは含む意味合いは少し違うかもしれないが、親愛という点において彼女達は強固に繋がっている。

 だからこその堂々巡り。大切に思うからこそ友の不幸を否定し合う。自分から進んで他人の不幸を背負おうとする。

 

「うん、そうだよね……理由は、それだけじゃないんだ。じゃあ、がっかりすること言っちゃおうか」

 

 だから万里花は、穢れ無き自己犠牲、思いやりの鎖、そこに醜い打算を加えた。親友はきっと賢いから、もう一つの本当を与えれば納得してくれると思って。

 

「ほんとはね、自分のためなんだよ。るーを、がんばって守ろうとするの」

「……どういうこと?」

 

 少しだけ言い淀んで、また口を開く。彼女に嫌われるのは、やはり怖い。

 

「ひとりだけじゃ、こわくてこわくて仕方ないんだ。あいつらの血がさむくて、つめたくて、頭がおかしくなりそうになる。だから、となりに誰かがひつようなの」

「それが、わたし?」

「そう、だね。だけど、るーには、変わってほしくなかった。ずっと、きれいなままでいてほしい。るーまでわたしと一緒のとこまでおちちゃうと、もういっしょにふざけあったりできなくなるんじゃないかって、思ったの」

 

 彼女にはいつまでも純粋なままで、日常を汚されないでほしかった。そしてその隣に居れば、自分も世界が終わる前の、あの時を思い出せるのではないか。

 もう落ちることのない血、纏わりついた死臭を忘れ、穏やかな日々へ逃避できると。

 

 二人で一緒に堕ちてしまえば、もう罪から逃避することはできなくなる。必死になって親友が戦わないよう振る舞ったのは、あくまで己が勝手に抱いた幻想が壊れてほしくなかったから。

 

「あなたが思った完ぺきなわたし、つまり今のわたしじゃない、りそうの友だちがほしかったの?」

「うん、そう思ってもいいかな。はは、わたし、ひどいやつだね。でも、あなたしかいないの。わたしには、かぞくも、きょうだいだっていなかったから。今はもう、あなただけがようやくできた、つながりだから」

 

 万里花の顔に一筋の跡が作られる。見つめ合うからこそ、零れる場所は目の辺り。だから、流れるこれは決して自分の涙ではない。もう悲しくて泣かないと、朝に決めたばかりなのだから。

 エゴを押し通す。あくまで自分の保身のために。

 

「だから、もうね、いなくなるなんで言わないでよ……? わたしのために、わたしが生きていくために、いっしょにいてよ」

 

 心のがらんどうを埋めるため、自分は友を必要とする。友もまた、自分が居なければきっと生きていけないから頼ってくれる。

 歪んだ友情。依存関係。愚かしい執着。何と言われようがどうでもいい。此処に彼女以外に傷を舐めてくれる者などいないのだから。こうしなければ、とっくに狂ってしまったから。

 

「……わたしのこと、きらいになった?」

「ちょっとだけ」

「なっとくしてくれた?」

「……ほんの、ちょっとだけだよ」

「あはは、もう、これいじょうは話せないよ」

 

 ちょっとだけ、つまり、まだたくさんあなたが好きだと言ってくれる。友は歪つを曝け出して尚、衰えることなく好意をぶつけてくるという優しさの傑物らしい。説得は諦めるしかないのかもしれない。

 

「わたしも、たたかえるようになりたいの。まもられるだけはいやだから」

「……とても辛いよ。気持ちわるくて、夢にだって飛びててくる」

「あなたといっしょなら耐えられる、でしょ。まりーが言ったことばだよ」

「……あはは、そう言われると、よわいなぁ」

 

 二人で共に、血塗られた道を歩む。止めなければ、と良心が囁くも、既に遅いのかもしれない。

 自分を助けに入ったあの時、ドライバーを刺した感触から気付いたが、既にあの『かれら』は息絶えていた。あの時はそれを認められず、己が殺したのだと振りまくように死体を破壊した。

 自覚無くとも彼女は一歩、沼中に足を踏み入れている。

 

 それに、自衛の手段はあった方がいい。己は万能ではないし、友達に生きてほしいと願うなら、生存率の高い方を選ぶべきだろう。

 身勝手な思いの果てに殺すことは、あってはならない。

 

「それじゃあ、よわっちいあたしをよろしくね。たよりにしてる」

「まかせて。こんどは、わたしがまもるから」

 

 これがベストな落とし所。二人で生き残る最善手。

 

 

 

「…………」

 

 しばし、無言で見つめ合う。その眼はまるで宝石のようで、ずっと見つめていたくなるような美しさ。茶と橙、二つの色は違えど美しさは勝るとも劣らず。

 嗚呼、記憶の中の親友は、果たしてこんな美しい色をしていただろうか。何故だろう。魅力的で、もっと近くで、見ていたくなる。触れていたくなる。

 

 馬乗りから床に寝転がり、横に並び合った。互いに顔を掴み、自分に引き寄せようとする。より一層縮まる距離。

 

 今度は自分から近づいていく。親友も負けじと距離を詰める。目一杯まで、限界以上に。

 

 鼻先が触れ合う、それでも遠い。もっと近くで求めていたい。近く、近く、顔が触れ合うまで、瞼を合わせるまで。心が熱く求めている。

 

 唇が、意図せず、触れ、合────

 

 

 

 盛大に鳴った腹の音。乙女にあるまじき胃の咆哮が静謐を切り裂いた。ポンと、かかった魔法が消えたような気がする。

 

「「………………」」

 

 呆けた顔を見て、自分の腹に視線を移す。相手の腹にも移した後、最後はまた親友の顔に。無駄にシンクロした動き、交錯する視線に一瞬のズレもない。

 

「「ぷ、あはは、あはははははは!」」

 

 二人同時に噴き出した。相手の顔が、瞳に映る自分の顔が、本当にそっくりな間抜け面を晒しているのが、あまりに可笑しすぎて。

 

「あはは、昨日からなんにも食べてなかったもん。……そうだ! すっかりわすれてたけど、いいもの見つけたんだよ」

 

 万里花が勢いを付けて立ち上がる。机の引き出しをを開け、小さなビニール袋をひっくり返した。ゴトゴトと転がる二つの容器。

 

「じゃっじゃーん。せんせい、引き出しにカップラーメンなんてかくしてたんだ。お湯もあそこにあるし、これ食べようよ! ね、ね、どっちの味にする?」

「うーん、みぎにしようかな?」

「えっ、わたしもこっちがいいな!」

「じゃあ、はんぶんこにしよっか」

「いいね、さんせー!」

 

 互いに腹を割って話したからこそ、さっきのように、さっきよりも綺麗な笑顔を咲かせられる。こんな世界でも、二人で一緒に笑い合える。

 

「ねぇ、ところでさ……ずっとはだかだけど、服、着ないの?」

「…………あ、…………えへへ、わすれてた」

 

 昨日は悪い日だったが、けれど今日は良い日になった。明日もきっといい日にできる。明後日も、その次も。

 こんな世界でも、明日を生きるための夢ができたから。




次回は連休中のどこかで投稿予定です。確定後また追記します。

追記:次回は水曜19時投稿予定です
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