がっこうぐらし! 称号『しょうがっこうぐらし!』獲得ルート【本編完結】 作:水色クッション
……開幕ガバですね
死に至る病がその身を侵す六日目はーじまーるよ!
【WARNING!!】
・感染進行度が上昇しています! 直ちに治療薬を使用してください!
・感染が中期に達したため、全ステータスが減少します。体力、スタミナが減少し続けます。
カァッハッ! (吐血)
これはやばいですね。明日まで持つかどうかも怪しくなってきました。体さえ動けば、防犯ブザーでも鳴らしながら飛び込んで行くことでイベント達成なため、なんとか持ちこたえて欲しいところさん。
そして現在時刻は……11時!?
そんなに疲労を溜めた覚えは無いのですが……体内時計まで狂ってますねこれは。
寝起きもクッソ悪いです。『かれらの幻覚』のせいで休息の筈が正気度が寝る前より減る始末。直前のトランプで回復させていたのでまだ危険域ではないようですが。
それではソファから立ち上がりカーテンをふっ飛ばしてまずは靴を履いてから──
バタッ
……地面にへたりこんでしまいました。え、うそ、立てなかった?
頭痛がする、は、吐き気もだ……く、ぐう……。
「まりー、おきたんだね! ……かぜ、ひどくなってる。ねつがたかいよ……」
駆け寄ってきたるーちゃんに介護してもらいながら、なんとか立てました。あー……これやばい。歩行モーションもヨタヨタで、見てるだけで痛々しいです。
「きょうはもう、なにもしなくていいから。ずっとむちゃばっかりだっから、一日くらい休もう?」
もうこの体調では何も出来そうにないです。るーちゃんの言うとおり、体力を出来るだけ温存して明日に備えるくらいですかね。
あ〜立ってるだけでHPが減っていくんじゃぁ^〜。
「ほら、かぜなんだからねてなきゃ。あとお水、汗かいてるからいっぱい飲んで」
ん? 確かこの未開封のミネラルウォーター、二日目に見つけられた貴重品ですね。るーちゃんが七日目過ごすために大事に取ってた物です。
当然これは受け取れません。汲み置きしていた物もそろそろ飲用には危ないので、飲める水は本当に少ないんです。
「だめ、飲んで。かぜひきがむりしちゃためだよ」
いいえ、わたしは遠慮しておきます。
「……なら、すてるよ。いいの?」
…………受け取っておきます。いつまでも拒否してると本気でやってきそうな気配を感じました。
「あとこれ、ごはんだけど……ほんとうは、えいようある物のほうがいいんだけど、ごめんね」
そう言ってほぼ最後の食料も渡してくれました。
なんでるーちゃんが謝る必要があるんですか。この食事の貧相さは遠足に行き、食料を備蓄出来なかった私(とゲームデザイン)のせいです。
「……ばか、またそうやってじぶんをせめる」
こちらも受け取ります。感染すると、渇きよりも飢えの方が優先度は高くなります。
感染中期状態で飢餓を放っておくと、自分の爪や指を食べ始めることがあるんですね。自食症ってやつです。それを防ぐために腹は満たしておきましょう。
今日はこれで基準値は上回ってくれるでしょう。残りは……まあ、るーちゃんは感染もしてないし、一日なら抜いても死ぬ訳ではないので気にしなくていいですね。
横になるとHPの減少は止まりました。腹も喉も満たせたので、短い間ですが少しずつ回復もしていってます。
……。
……ほんとに何もしないのは落ち着きませんね。もっと何か明日に備えたほうがいいような……。
「こら、そわそわしないの。おとなしくねてないと」
怒られちった。お母さんかな? (ママー)
まあ、るーちゃんもこう言ってますし、今日は本当に大人しくしていましょう。ここで動いて体力消耗して、明日の発症が早まったとかマジで洒落になりませんから。
……ブルブルッ。
まりーちゃんが震えました。熱が上がってるんでしょうか。
「さむいの?」
平気っすよこんくらい。全然いけるいける。
「……下に、いってくるね。ほけんしつにふとんがあると思うから。まりーはそのままねてて」
えっ。
いや待って待って保健室って確か一階でしたよね? そこまで行ってくるってさっき言いました?
やめろ危険です! こんな理由でるーちゃん死ぬとかしょうもなさ過ぎる、直前で称号獲得を無為にしないでくれ。
「だいじょうぶだよ、まりーもぼうしひろってこれたし、わたしだってなんとかなるよ?」
下駄箱にちょろっと降りるのとかれらが待ち伏せする保健室では危険性が違うダルォオ!? 手が塞がった状態で階段登るのも危ないって、考え直して!
「……わたしいくね。あぶなかったら、すぐもどってくるよ、まってて」
あ、扉開けて走ってしまいました。……待てコラガキ! 早く力づくにでも引き戻さなくては、クソッ、ふらついてる場合じゃねぇぞはよ立って走れ!
ダッシュまで激遅ですねぇこれじゃ追いつけねぇ!?
三階のバリケードまでは走りましたが、既にスタミナが切れてしまいました。もたれ掛かって息を整えるしかありません。終わったら早く助けに行かないと──
──待てよ? このまま下の階に降りて、今のまりーちゃんには何か出来るんでしょうか。
一体ならギリギリ、でも囲まれてしまったらもう、逃げるための足とスタミナがもうありませんよ。最悪の場合るーちゃんを連れ戻そうとして、逆にるーちゃんにピンチを呼び寄せるのでは。
ホラー映画でよくある、足を引っ張る屑野郎の仲間入りかな?
…………一旦ここで待ってましょう。るーちゃんは覚醒してるので希望はある、はず。前例がないので未知数ですが。何か悲鳴が聞こえたらすぐに向かいます。
……。
…………。
…………遅いですね……。
本当に大丈夫でしょうか、今すぐ下に行ったほうがいいんじゃ……。
いや、時間はそんなに経ってなかったです。私がソワソワしてただけでした。もう少し、信じて待つことにします。
……。
…………足音です! 軽快に走るこの音はかれらではありません! 顔がひょっこり見えました、るーちゃんです! あ~よかった……。
「は、は、あ、あれ、まりー? へやにいてって言ったはずだよ?」
お前が心配で下に行こうとしてたんだよ! なーんでいきなりこう積極的な思考になっちゃったんですかね……。
「ご、ごめんね。まりーがつらそうだから、らくになってほしくて……それにわたし、たすけてもらってばっかりだったから、少しでもおんがえししたかったの……」
そんなことしなくていいから。それに恩返しなら既に三回ほど命助けられてんだよなぁ……。思い返すと、ガバのリカバリーは彼女がほとんど担当してくれてますね……。
怪我してないですよね。噛みつかれて感染でもしてたら全てがおじゃんですよ。
「だいじょうぶだよ、ほら」
腕まくりをして体を見せてくれました。うーん、どこにも傷はないですね。えがったえがった。
「どこもケガしてないって。ほら、はやくもどろ、ね?」
そうですね。いやーほんと、まりーちゃんのように感染したらどうしようかと。
「…………え」
ん? 立ち止まってどうしたるーちゃん。せっかく命懸けで持ってきた掛け布団も落として──
「かん、せん──まりー、それって……」
…………あっ。
しまっ、た。
「もしかして、あいつらみたいに、なっちゃうの。うそ、やめて、やめてよ」
やばいやばいやばいやばいィ! 失言してしまった! どうする、ごまかせるのかこれ!?
「ね、だまってないで、なにか言ってよ。うそだって、言ってよ」
ヒッ! ハイライトを失った瞳が見つめてくるぅ! さすがりーさんの妹、その恐怖は姉に勝るとも劣りませんね……。
えーっと、えーっと、そう、嘘、嘘でした。ごめんねーたちの悪いジョーク言っちゃって!
「ごまかさないでよ! わたしだって、おかしいって思ってたもん! ただのかぜって聞いたのに、ちっともよくならないじゃない!?」
やっぱりこれでは無理がありましたね……。他には、他は……
「まりーがあんなふうになっちゃうの、そんなの、いや……」
その、あれだ! 病院に行ったら助かりますから! 根拠はないけど、そんな気がします! 診断してもらって、ちゃんと治療を受ければ、きっと治るさ!
……なお、病院は稼働していない模様。
「ほん、と? それは、それだけは、うそじゃない、よね?」
絶対。ウソジャナイ。たぶん、きっと、おそらく、メイビー。
「しんじて、いいよね?」
もちろん!! …………。
「よかっ、た。まりー、あいつらみたいにならなくてすむんだよね……ほんとに、よかった…………」
るーちゃんが感極まり、まりーちゃんの服を掴みながら崩れ落ちてしまいました。
……まあ、後日治療薬打ち込んだとしても、衰弱が激しすぎて可能性が半々ですし、希望はあんまり残ってないんですけどね……。アニメ太郎丸みたいな感じです。
えぐえぐ泣いちゃったるーちゃんの頭を撫でておきましょう。嘘つきまくりの裏切りまくりで心が抉りとられそうですが、これも称号獲得のため致し方ない犠牲なんだ……。取得にはこれしか方法が思いつかなったんです……。
そのまましばらく撫で続けます。ショッキングな事実()で減ったるーちゃんの正気度を少しでも回復させておきます。
「……もどろっか」
元よりそのつもりです。無駄な消耗は明日に響くので大人しく寝る予定ですよ、そんなに心配しなくても。
……
…………
………………
あれから三時間くらいごろごろしております。またトランプでリベンジでもしようかと思いつきました。
……ん? なんだ、バリケードのあたりから音がするぞ?
「なんの音だろ……わたし、あっちの方もういっかいみてくるね」
私の聞き間違いでもないですね。るーちゃんが後ろのバリケードを見に行ってくれました。率先して動いてくれるの助かります。
「うそっ!? なんで、ずっとこなかったのに!」
なんだなんだ、やたら切羽詰まった声ですね。私も様子を見に行って──
「来ちゃだめ! あいつら、上がってきてるっ!!」
……は? いやいやおかしおかし一度バリケード作れば雨降るまでそこはセーフゾーン化して奴らは入って来れなくなるはずですよ。バグかな、バグですねこれは。ほらこのゲームフラグが複雑な影響で壁抜けとか多いし、挙動を理解した人はショトカジャンプを多様してRTAしたりとかね。
まだ明日でしょ今日はちゃんと晴れてますよほら窓から天気を確認して──
──あれ、あれ?
ほんとに雨降ってます。
は?
○
「来ちゃだめ! あいつら、上がってきてるっ!!」
半ば悲鳴のような叫びが響きわたった。瑠璃の顔に映る焦燥が、この警告が冗談でも遊びでもないと伝えてくる。
(どう、して? 今までのぼってくることなんて、いちどもなかったはず)
奴等は階段を登りにくいのは今までの生活で理解している。よほどのこと、それこそ挑発でもしない限り、行き止まりも用意された階段へと足を伸ばそうとはしなかった。
つまりいつもとは違う何かが起きている。これまでの六日間には無かったイレギュラーが、行動に至る理由となった。
(っ……そうだ、外にいるあいつらは、どうして)
万里花は自分の直ぐ後ろにある窓から確認しようとする。
「……ぅ……っ」
立って後ろを振り向く。それだけの簡単な動きさえ鈍い。高熱と頭痛、倦怠感、重い風邪のような症状が動きを阻害する。ほんの二動作に大きく息を吐いた。割れた窓から体を乗り出し外を見つめる。
映るのは校舎に侵入するかれらの群れ。積極的で意味を持っているように、真っ直ぐ入り口へと向かう姿に奇妙さを感じてならない。そしてこの六日間には一度もなかった、空から垂れる雨。
「……このてんき……あめ?」
数時間前に輝いていた太陽は消え、雲が一部だけを覆い隠している。降り始めた雨はこの周辺だけで、遠くに映る隣町にはさんさんと日光が降り注いでいた。
ぽつぽつとまばらだった雨が、見る内に強まっていき、やがて音を立て始めた。この不安定な天気の外を、自分は好んで歩こうとは思わない。どこかで雨宿りを──
「──あ」
かれらは雨宿りのために屋内に入ろうとしていたのだと気が付いた。だがそれは原因を知っただけにすぎない。今を解決する策には至らない。
「……う、ぁあ……か……!」
逃げようと一歩踏みかけた矢先、先程までとは比較にならぬ頭痛が万里花を襲った。視界が黒白に点滅し、意識が途絶えかける。瞳が充血し、見える世界が赤く変色した。
膨張を続ける獣性が、遂に人格さえも破壊し始める。
『少し早かったけどこれで終わりだね。一緒になろう、われらと、共に』
(こんな、ときに、またじゃまを)
死線を前に、亡霊達は歓喜に満ちる。頭を震わせる雄叫びは、頭痛と共にコーラスを奏で吐きだすほど不快感を煽る。死者達の群れが幻影を成した。明暗する視界の中では、かれらとの見分けさえつけられない。
『われらが這い上がるぞ。肉を喰らい、まだ温かな臓腑を取り出してこねくり回そう。大丈夫、動けるほどの肉は残してやるさ。だから安心してその身を差し出すといい』
囁く声は常軌を逸する程に猟奇的で、甘い毒のように染み込んでくる。自分は同じになりかけている。それを幸福と思えるけだものの思考が、心の中に形成されていた。
『そう否定しないで。われらと一緒になることは不幸ではない。自我の境界線が消え、薄く遠く解け広がっていく。われらはそこで多くを共有出来る。僅かばかりのなりそこないと、不完全な触れ合いをするよりも孤独ではないよ』
(だまれ、だまれ、だまれ! うるさいんだよ、おまえたち!)
直接叩きつけられるような思念は、まったく注釈的で理解出来ない。脳内に無い知識を喋る何者か、それが意味するは、肉体が別人に操られかけているということか? それが本来の自分を覆いつくしたとき、己は動く躯と化すのだろうか。
『さあ身を委ねよう。あの子と一緒にー─』
(やめろ、やめろ、やめろ!)
万里花は大きく息を吸い込んだ。夢の中から抜き出すには刺激がいる。特にこれほどまでどっぷり浸かった中から抜け出すのは容易ではない。だからこそ。
「亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜ア゙ァッ!!」
声の限り絶叫した。頭を思いっきり掻き毟りながら、息の限界まで喉を鳴らし続ける。頭の暗闇を、全て口から吐き出すように。
全力で突き立てた爪が皮を剥いで、頭から血が滴り落ちた。血が頭中の汚泥を洗い流してくれる。
「は、は、もど、れた?」
全身が恐怖に震える。奴らの声が未だにこびり付いて離れない。脳を揺らす感触が続いている。この体がまだ自分のものなのか、確証が持てない。
「う、ぷ、えぇ……」
視界は未だに霞み続けるが、赤みは引いて亡霊は消えている。これでようやく今を直視できる。狂気の渦から、なんとか抜け出せすことが出来た。
「まりー、なにやってるの!? はやく、にげなきゃ!」
「……あ、る、う?」
「ほら立って、つらいかもしれないけど、今は走らなきゃ!」
瑠璃が膝をついた万里花の手を握った。そのまま強引に立ち上がらせる。既にバリケードの隙間を強引に抜けて、かれらが三階に入り始めていた。
ふらふらと不安定に走る万里花を、瑠璃が手を引いて誘導する。奇しくもそれは、始まりの日とは逆の格好であった。
足を引っ張るのは、既に万里花の方に逆転している。
「……ほんとに、ごめんね……あたしは──」
「あやまらないで! それにその後のことばを言ったら、ぜったいゆるさないからっ!」
「……あはは、ごめん、もう、いわないよ」
厳しい言葉に、万里花は力なく苦笑する。あの時の友の苦悩を理解できたから。こんな状況で足手まといの自分は、いっそ死にたくなるほど情けなく思えるのだ。
その自分を受け入れてくれるのが、とても嬉しくて悲しい気持ちになる。
「なおるって言ったんでしょ、そのびょうき! だからあきらめないで、ちゃんと生きてよ!」
「…………そう、だね。あたし、いきれる、よね?」
「なんで自分でうたがうの! もう、こう言わなきゃいけないの? まりーは、わたしの、ために、生きてよっ!!」
瑠璃もあの時の万里花と同じく我儘を溢す。それが、あの時のように救いになると信じて。自分は親友のために付き合ってあげているのだと。ただの重荷でなく、ちゃんと親友の願いを聞いてあげられていると、此処に存在する為の言い訳が出来る。
「…………うん、わかった。…………ありがとう」
自分でついた嘘が、今はほんの少しだけ信じてみようと思える。小さな、生きる希望として。
最終日は日を開けずに投稿したいです(願望)