突然ながら―――
「メープルパンを温めると、ディ●ニーランドテーマパークの味がする!」
という店長の独断で100個(当社比20倍)発注されて大量のメープルパンを前に今、生まれて初めて人に対して敵意ではなく殺意の波動に目覚めた瞬間だった。
と、言うわけでこんな感じで、私のバイト日記、始まります。
51話 【迷惑電話の撃退法】
あれから――、QUEEN of MUSIC が終わって数日経った。
歌姫マリアの宣戦布告や何たらかんたらといろいろありましたが、私は相も変わらずバイトに勤しんでいます。
そして、そんなある日、一本の電話がかかって来た。
「お電話ありがとうございます。スリーセブン――」
「ハァハァハァハァ。ねぇ、今何色のパンツ穿いてるの?」
うっ…!まさかの迷惑電話!?
こんなの、漫画やアニメだけかと思ったのに、まさか現実でも起こるなんて…!それに、本当に気持ち悪い!
それに、松駒さんや渡利さんの話だと、こういった電話は一度や二度ではなく、何度も来ているらしい。本当に迷惑だ。
こういう時、どうすれば―――、
「―――」
そのとき、ニーチェ先生が無言で受話器を差し出すように手を差し伸べてきた。
私はその受話器を仁井さんに渡すと、彼は―――、
「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空空即是色受想行識亦復如是舎利子是諸法空想不生不滅不垢不浄不増不減是故空中無色無受想行識無限耳鼻舌身意無色声香味触法無限界乃至無意識界無無明亦無無明尽乃至無老死亦無老死尽無苦集滅道無知亦無得以無―――」
「――――」
しばらく経って、彼は受話器を電話に戻した。
「悪霊の類かと思いましたので一通り祓っておきました」
それ以来、迷惑電話が掛かることは亡くなったので、念仏の汎用性凄まじいと思った次第です。
52話 【安らぎ無き
「ありがどうございまじだ~…」
最近、体調が悪い。
その証拠に、喉の調子も悪くなっている。風邪かな…?
「小日向さん、風ですか?」
「え?」
「鼻声と顔色で一目瞭然です。ちょっと待っててください」
そう言い、仁井さんはマスクを棚から出し、自腹でそのマスクを購入した。うそっ…!もしかしてそれ、私にくれるの?
仁井さん、今まで変な人だと思ってごめんなさい――
「どうぞ」
―――が、しかし、マスクを渡した相手は近くにいた柴田さんと黒木さんだった。
二人はマスクをつけると、そのままこちらを向いて――、
「半径2m以内に近寄らないでいただけますか?」
と、慈悲無き言葉を容赦なく仁井さんが言い放った。後に聞いたが彼は男女平等主義とのこと。だとしてもこれは結構心にダメージ負いました。
そして悟った。この場所に、安らぎなど存在しないのだと。
* * *
あのあと、結局早退して、病院に向かった。その間にも、どんどんと体調が悪くなっているような気がする。
響も心配して着いてきてくれた。今忙しいのに、本当に私は良い親友を持ったと思う。
「未来、大丈夫?」
「大丈夫だよ。あ、呼ばれたからそろそろ行くね」
そう言い残して、私は審査室へと入った。
「う~ん、風邪かもね。ちょっと、口あ~んしてね」
そう言い、検査をしてもらって、結果は―――、
「風邪の症状は出てるんだけどねぇ~、多分、おそらく?まぁそこまで深刻化してないから、大丈夫なんじゃないかな~~?」
と、ゆるふわな診断を下され、病状が刻一刻と悪化しているのを感じる。
「風邪ってさ、免疫の低下が主な原因だからね。例えば、不規則な生活とか、ストレスとか。そう言うのには気を付けた方がいいよ」
生活リズムは崩しているつもりはない。と言うことはストレスが原因だと思うけど、別に、ストレスなんて―――、
・響への心配 ※また危険にならないかの。
・オーナーの過剰発注 ※初の殺意の波動に目覚めた瞬間
・松駒によるオッサン好きの話 ※どうでもいいのでそれがストレス
・渡利による宝くじ話 ※これも松駒と同じ理由
・柴田の裏社会の人間説(濃厚) ※いつも裏の話らしき話を聞く度にストレス
・黒木さんによる脅迫 ※最近『死』を感じた瞬間がストレス
・仁井による冷や冷やする毎日 ※客への穏やかな暴言など。
最近 ウイルス扱いされたこと。
―――心辺りありすぎて、何から考えればいいのか全く分からない。
* * *
薬局にて。
『18番のかた、お薬ができました』
「あ、呼ばれた」
「じゃあ行こっか」
そう言い、受付まで行く。そこでお姉さんに薬を渡される。
「風邪薬です」
「ありがとうございます」
「こちら服用にあたってですが―――」
あ、副作用とかのことかな?しっかり聞いとかないと。
「異常行動を起こすかもしれないので、薬を使ったあとは鍵をかけた部屋にこもったり刃物を片付けておくなどの工夫をしてください。お大事に―」
「「―――――」」
なんでそんなお薬に認可降りてるの―――?
53話 【認可薬?】
後日、復活してバイトに入りました。
「あ、小日向さん、復活したんですね!」
「今度は体調管理はしっかりしてくださいね」
と、まずあの二人にそう言われた。私のストレスの一端が一体何を言っているのか…。あんなことしておいて、普通に話しかけてくるなんて…。図々しいのか、ただ単にもう忘れているだけなのか…。
しかし、考えていても仕方ない。この人たちには何を言ってもほとんど無駄だってこと分かってるし、わざわざそんなことに労力を使う必要もないか。
と、そんなこんなで薬の誤飲談義で盛り上がるバックルーム。(松駒さんと渡利さんを入れての五人で)
「で、朦朧として錠剤をシートごと飲んじまったらしいぞ」
「え~!痛そうですね…」
「そういうの、結構あるらしいですね」
「座薬を飲んじまった話も聞くよなァ」
「本当ですか!?」
と、いろいろ盛り上がっている所に、柴田さんが大声で笑った。
「アッハッハッハ、分かります分かります~~!僕もお父さんが使っている白い粉薬を間違って飲んじゃって大変な騒ぎになったことありますー!」
「……いやいやぁ~」
「こわいこわーい…」
「ははは、そうなんですねぇ~…」
その白いおクスリ、所持だけでも重罪に値する薬物でないことを確認できないでいる。
54話 【病は広がり】
「えっ、風邪?分かったお大事にね、うんうん!」
そういい、店長は電話を切る。
「今週風邪や体調不良で休みの人、三人目ですね」
「紛れもなく小日向さんのせいですね」
「なっ…!決めつけられるのは心外です!!」
「風邪の発症から治癒までの帰還と小日向さんの体調不良になった時期が一致しているのですが」
「――――」
「病原体を保有して出勤なんてバイオテロもいいところです」
反論の手立て失っている。
「それと、どうやら渡利さんも風邪だそうですね」
「人数ぎりぎりですね」
そんな時、渡利さんから電話が掛かって来た。
「渡利さん…?どうしたんですか?」
『未来ちゃん!聞いてくれよ!宝くじが当たったんだよ!サマージャンボの一等だよ、一等!!』
あれ、なんか話がおかしいような…。
私はバックヤードから出て、イートンコーナーに貼られている宝くじの張り紙を見て、それを確認する。
「渡利さん。抽選日どころか発売日もまだじゃないですか…?」
『ん?そうか夢か!じゃあ正夢になる日も近いな!六億当たったら一緒に飯食いに行こうよ!約束したからね、じゃあね!』
と、勝手に約束を取り付けられたが、その約束が叶う日は永遠に来ないだろう。
それよりも―――通常運転なのか風邪薬による異常行動なのか判断がつかない。
55話 【復活後】
どうしたのかな…?大丈夫かな…?
私は今、とある心配をしている。
「どうされました?」
「いや…20分くらい前にトイレに入った男性のお客さんが出てこないなあって…。大丈夫かな…?」
もし中で倒れていたりでもしたら、大変だし、私のせいで風邪が流行っちゃったし(もう認めました)、これは流石に考え過ぎか…。
でもとても気になる。
「―――。小日向さんにも鈴木さんが見えるんですか?」
「えっ?見え…、えっ…?」
彼は霊が見えるような発言はいくつもしてきたが、そんなことは今はどうでもいい。ともかく、現実逃避現実逃避――、
「そう言えば、渡利さんがドリンク補充から戻ってきていませんね」
と、暗い雰囲気を作った本人から話題を変えてくれた。
そう言えば、まだ戻ってきてない…。ちょっと様子を見に行こうかな。雰囲気替えも兼ねて。
「―――って!寝てる!?」
ウォークイン倉庫*1で渡利さんがぐっすり寝ていた
「冷蔵スイッチ切ったままで…!商品がぬるくなっちゃいますよ!叩き起こしましょう!」
さっきの恐怖を紛らわすために、怒りで自分らしくない言葉を連発する。
が、しかし、仁井さんが人差し指を口元に置いた。静かにのサインだ。
(そうだった…渡利さんはまだ体調が万全じゃないんだった…。私が原因でもあるんだし、私がとやかく言う権利なんて―――)
バチン?一体何の音――?
「寒ッ」
その時、倉庫の中が段々と冷気が充満していっている。
まさか仁井さん、倉庫のスイッチ入れたんじゃ…!
「せっかくですのでコールドスリープさせましょう」
病み上がりにも慈悲のない鉄槌を目の当たりにしている。
おまけ。
「こちら、控えです」
ニーチェ先生がお客さんの持って来たものにハンコを押して、その控えを渡した。
「いやあね~なにこれ。インクがにじんで汚らしい!押し方が全然なっちゃいないわ!」
と、文句を言うお客さん。
多分だけど、大方この後の展開が予測できてしまう。
「……申し訳ございません」
そう言いニーチェ先生はハンコをお客さんに向けた。
「押しかたを、ご教授いただけませんか?」
そう言い、そのお客さんがやった結果、上半分しか使い捨ての紙についていなかった。
「口ほどにもないですね」
その紙をクシャクシャにしてゴミ箱にポイ捨てするニーチェ先生。
お客さんの矜持に消えない烙印を押す接客業怖いなって。
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