~6話 【ペンとインク】
「それで、商品を打ち間違えたときの取り消しの仕方は―――」
私は今、新人研修として、ニーチェ先生にいろいろと教わっている。
時間帯的に松駒さんと渡利さんはいない。あの人たちは基本深夜帯らしい。
ではなぜあのとき、夕方なのにいたのか?
それは単純な人手不足だかららしい。
それで、今はニーチェ先生の言っていることをメモに書き写している。
そんなとき…。
「あ、インク切れちゃった…」
どうしよう…?
変えのインク、今部屋にあるんだった…。
「…よければ、ボクのを貸しましょうか?」
「いいんですか!ありがとうございます!」
「どうぞ」
仁井さんから渡されたのは、持つところやペン尻のところが太い金属でできている、珍しい形のペンだった。
「へぇ~珍しい形のペンですね」
「実はこれペンを
「な、なんでそんなもの持ち歩いているんですか…!?」
「お客様から言質を取るために」
このとき、ニーチェ先生に初めて恐怖の感情を抱いた。
~7話~ 【掃除】
「コンビニに限らず、どんなところも清潔感を保つことが絶対です」
「はい」
それはよくわかる。
ちゃんと掃除をしないと汚いし、なにより居心地が悪い。
「では、まずは掃除の一環として、あれをこれで掃除してください」
ニーチェ先生が指をさしたのは…
「ねぇ、これやばくな~い!」
「うわぁ!マジじゃん!」
本を立ち読みしている男女のカップル。
特に目立つゴミはない。
「どこですか?」
「あるじゃないですか。喋っている、大きな大きなゴミが」
そのニーチェ先生の姿は、闇しか感じられなかった。
~8話~ 【タバコ】
「め、メンソールメンソール…」
「おい!遅っせーんだよ!!プロならタバコの銘柄ぐらい暗記しとけ!!」
「も、申し訳ございません!!」
このあと、なんとかそのタバコを見つけてお客様に売ることができた。
…接客業って、大変なんだな。
「小日向さん。大丈夫ですか?」
「あ、仁井さん…。ありがとうございます」
「いちいち気にしていたらこちらが持ちませんので、気にしないようにしましょう」
…今のは、彼なりの誠意なのかな?
とりあえず、話題を変える。
「そ、そういえば、私はタバコ吸う予定はないですけど、映画とかで観るとちょっとかっこいいなって思いますよね」
「…タバコは確かにカッコいいイメージはありますが―――」
続けて、ニーチェ先生はこう言い放った。
「実際は哺乳類の本能である「乳を吸う行為」をタバコに置き換えただけの幼児退行の表れですし、タバコの銘柄を間違えたくらいで逆上する方は、乳首依存患者として扱っています」
「乳首、依存患者…」
乳首依存患者という言葉の破壊力が凄まじすぎて全く内容が入ってこなかった。
~9話~ 【強盗の対処】
「もしもの、非常事態でのことですが、強盗が来たときの対処法を教えます」
「はい」
ほぼ低確率で、人生でバイトをして会えるかどうかわからない強盗。
でも、やっておくに越したことはない。
「えっと確か、店長さんにも言われましたけど、防犯ブザーがあるんですよね?それで―――」
「従来はそうですが、ここではボクの考えている対処法を教えます」
「え?」
「まず、二つ折りのケチャップ・マスタードを強盗に向かっております」
その最初から間違っていそうな彼の言葉で、こんな回想が浮かんだ。
~回想~
『おいこら金出せおら!!』
「すかさず犯人を目つぶし」
ケチャップ・マスタードがすごい勢いで強盗の目に入る。
「そしてカウンター越しにハイキック」
『グハァ!」
強盗が転がる。
「犯人がよろめいたところで背後に回ってチョーク*1を攻めて堕とす」
「それって格闘技のヤツですよね!?確実に危ないですって!」
「堕としたところで座禅を組ませ、礼の棒*2を取り出し、二度と犯罪に手を染めぬように―――セェェェエイ!」パァン!
「何故座禅を組ます必要が!?ていうか礼の棒なんてどこから取り出すんですか!?」
「セェェェエイ!」パァン!
「セェェェエイ!」パァン!
「ちょっと、やりすぎじゃ…」パァン!
「セェェェエイ!」パァン!
「堕ちてるんですよね?この人?」パァン!
「セェェェエイ!」パァン!
「もう勘弁してあげてください…」パァン!
「反省したことを確認したら」「堕ちてるんですよね?」「すべての関節を外します」
「何故!!??」
「ハイッ!」グキッ!
「ハイッ!」グキッ!
「ハイッ!」グ゙キッ!
「ハイィィィッ!」グキッ!
「…ちなみに聞きますけど、何のためにですか?」
「暴れださないためにです。そして最後に目つぶし」
「必要ですかそれ?」
「全く動けない状態になったところで警察に突き出します」
~回想終了~
…考えてみたけど、やることが何もかも理解の範疇を超えていて、私程度の頭じゃ理解することができない。
「ここまでやれば、強盗の再犯の可能性を限りなく少なくすることができます」
「私は、なにをしてれば…」
「―――小日向さんは、これ以上ないほどに慌てふためき、悲鳴を上げていてください」
「――――はい」
今度、店長にニーチェ先生を採用した理由を聞いてみようと思う。
~10話~ 【悩み事】
「はぁ~~」
最近、響どうしたんだろう…
「どうしたんですか?」
「あ、仁井さん」
「ため息をすれば幸運が逃げますよ」
「そう言われましても……」
「ちなみに、ため息をして不幸になった人間をボクは知っています」
「え?」
「例えば、渡利さん。今日の深夜バイトで、6億円が当たらないと嘆いていたところ、帰り道に全財産である106円を落としたそうです」
全財産少ない!そういえば、あの人って給金をことあるごとにすべてが宝くじに積み込まれているらしいし。
たぶん…いや、完全にそれが原因だよね…。宝くじ先輩、なんて言われてるし。6憶なんて当たるわけないのに。
「それは災難ですね…」
「そして、松駒さん。松駒さんは「また就職面接に落ちた……」と、嘆いており、それが原因で次の就職面接にも落ち、それで嘆いて再び就職面接に落ちると言う悪循環を繰り返しています」
「それ…もうダメじゃんじゃないですか!?」
「まぁ松駒さんに関してはため息が関係しているとは到底思えませんがね。なにせ、松駒さんはこれからも、落ち続ける運命にあります。そしてそれがこの世界のパワーバランスだと、僕は思っています」
松駒さん……!!
「さて、ため息をすると言うことは、なにかあるのでしょう」
「はい…。実は、響のことなんです」
「立花さんですか。それで、自分を見直しているんですか?」
「それが…。最近ちょっと、すごく変で」
「変…とは?」
私はニーチェ先生に響のことを話した。
最近、響はやけに帰りが遅い。授業中に出て行ったり、この前なんて、流れ星を見る約束をしていたのに…
「それで、それからと言うものの、ガタイの良い男の人と一緒に強くなるための訓練だ!って言って、学校を時々公欠してるんですよ…」
「それで、今日もですか?」
「お恥ずかしながら…」
「もはや、渡利さんと同じく救いようがありませんね」
「ちょっと!響を渡利さんと一緒にしないでください!」
「……そうですね。渡利さんとは比較できませんね。せいぜい立花さんは、ボクがその流れ星の日に見た【悪霊白タイツ】と同レベルでしょうね」
そうですよ!全く…ん?今、なんか変な単語が聞こえたんだけど。
悪霊白タイツ?
「あの、その悪霊白タイツのことを聞きたいんですけど!」
「あんな救いようのない鞭を振るって高笑いする変態タイツの悪霊の話はさておき、立花さんは要するに体を鍛えてるんですね?つまりそれには何かしら意味があるかと」
「あの、白タイツのことを…」
「親友なのですから、なにか話を聞いていないのですか?」
「いや、白タイ――」
「その反応を見ると、どうやらなにも聞かされてはいないようですね。では、ゆっくり待ってみるべきでは?無理やり聞いても無意味でしょう。待ってみるべきだと思います」
「あのだから―――」
「仁井さん!レジの交代お願いします!」
「分かりました」
「ちょ!仁井さん!」
ニーチェ先生はそのまま行ってしまった。
彼なりにアドバイスしてくれたんだろうけど、悪霊白タイツと言う謎の存在が出てきたために全く頭に入ってこなかった。
とにかく、危ない人だということは分かった。
後日、その話を響たちにしたら響がものすごく動揺していたことを覚えておく。
ちなみにですが、響はあえて【
理由としては、仁井経由でさらに自分のことを未来に疑われるのを避けるためです。