~21話~ 【柴田健】
「あ、こんにちは!」
シフトの日、急に声をかけられた。同じバイトの人からだ。
「あ、こんにちは…」
「仁井さんから聞いてます。夕勤の人ですよね!」
「あ、はい…」
「ボクの名前は柴田健です!よろしくお願いします!」
「こちらこそ」
この人の第一人称は明るい人、かな。
まるで響を思い出す。
「実は僕、本来夜勤なんですけど、店長に頼まれて夕勤してるんです」
「そうなんですか…」
ここの人手不足は大変だなぁ…。
ちなみにだが、仁井さんも本来は夜勤体らしいんだけど、それが理由で夕方に来てもらえる日は来ているらしい。
噂だと、夜勤の人の自給だけ夕勤でも1000円らしいけど…。真相は定かではない。
まぁ本来夜勤の人に夕勤に出てもらっているんだからそれくらいの配慮はしてもらわないと困るけど。
「あ、もう小日向さんって一通り研修終わりましたか?」
「あ、いえ…。まだ入っ1ヵ月も経ってないので…」
「それでしたら、ボクもある程度教えることができますよ!」
「え、でも私の教育係は仁井さんで…」
「実は店長から、仁井さんがいないときはボクに任せるって言ってて…」
「本当ですか?」
「本当だよ」
そう言ったのは、本来柴田さんと同じく夜勤であるはずの松駒さん。
「ボクは忙しいから辞退したんだけど…」
松駒さんはちらっと違う方向を見る、そこには…
「………」
すごい形相の渡利さんがいた。
ちなみに、渡利さんがいる理由も二人と同じだ。
「俺が、やりたかったのに…」
「いやだって、渡利さんは店長が直々にダメって言ったじゃないですか」
「納得できねぇ!どうして俺じゃダメなんだ!」
「いやぁ…」
「渡利さんは、欲望が思いっきり顔に出てるからだと思います!」
「グホォ!」
あ、渡利さんが倒れた。
「あ~またか。渡利さん運ぶから、柴田くん。小日向さんのことよろしくね」
「わかりました!」
松駒さんが渡利さんを運んで行った後、柴田さんがこっちを向いて…。
「それじゃあ始めましょうか!」
「はい!」
そうして、柴田さんにもいろんなことを教えてもらった。
やっていることはニーチェ先生とほぼ同じだけど、新しい発見もあった。
「あの、そんなにバイト楽しいですか?」
「はい!」
「そうなんですね。ちょっと辛い作業もあるのに…」
「はは。まぁそうですよね。でも―――
「前は偽名使ったり年齢詐称を用いたりして指示された機材を運ぶ仕事をしてたので、法に触れないこの仕事が楽しいんですよ!」
即座に110と言う三桁の数字が浮かんだ。
~22話~ 【お仕事】
「付録を盗まれないようにするのと、綺麗な商品をお客様に買って頂きたいので立ち読み防止で雑誌を縛りましょう!」
「は、はい…」
さっきまでハイな気分だったのに、明かな犯罪者宣言で私の気分は一気にローになりました。
「まずはボクのお手本を見てください」
「はい…」
そうして、柴田さんは手慣れた手つきで本を縛っていく。
そして、できたのは…。
「できましよ!」
「えッ///!!!?」
俗に言う、亀甲縛り*1だった。
「ちょ!柴田君!」
松駒さんが飛び出してきてあの縛り方をされた本を投げ捨てた。
「ちょっと!!あの縛り方はダメだって!」
「あ!すみません!つい手慣れたもので、やってしまいました!」
…彼の謎の職歴を、洗いざらい吐き出させたい。
~23話~ 【夜間の食事】
『それでさ、やっぱり勉強しながら食べる夜のご飯はおいしいよね!』
私は響の言葉を思い出していた。
今はバイトの最中で、休憩時間だ。
何故この言葉を思い出したのかと言うと、単純だ。
深夜帯の人たちは廃棄でただでご飯が食べられるから、響が羨ましいって言っているんだよね。
それで突然思い出した。
「あの、仁井さん」
「なんですか?」
思い切って聞いてみることにした。
「仁井さんって本来は深夜帯なんですよね?と言うことは廃棄のお弁当とか食べてるんですよね?」
「ボクは食べてません」
「えっ!?お得なのになんでですか!?」
響なら喜んで食べるのに。私も実際お得でしかないと思っているし。
「勿体ないじゃないですか。それって深夜の人の特権じゃないですか」
「…………」
しばらくの沈黙のあと、ニーチェ先生はこう言った。
「深夜の食事は肥満、糖尿病、肝硬変、虫歯、逆流性食道炎、自律神経失調症などに繋がる恐れがありますので」
「……………」
手に持っていたスマホが、床に落ちた。
「高い医療費を支払うはめになるほうが、よっぽど勿体ないです」
響に伝えるべき?いや、あんなに深夜の食事がおいしいと言っている響にそんなこと言えるわけが…
ていうか、ただでさえ響は最近帰りが遅くて疲れていて夜の食事が至福のひと時だって言ってたし…。
「立花さんにも小日向さんからも言っておいてください。立花さんには今死なれたら困りますので」
「…………」
「親友だから伝えられないというのなら、ボクの方から言っておきます」
「………?」
そこで私は気になった。人を量産品扱いしている彼がどうして響のことをそんなに気にかけているのか?
もしかして、響のことが気になっているんじゃ…
なんだろう、妬ましく思ってきた。とりあえず聞いてみる。
「なんで、響のことそんなに気にしているんですか?」
「立花さんは大事な顧客の一人ですので。ボクがお坊さんになって
と、冷淡に言い放ったことがより一層仁井さんに忌避感と恐怖を感じさせた。
そして響に恋をしているわけではないと知ったことが、とても安心した。
~24話~
それは、とある土曜日のバイトの日。
「いらっしゃいませ」
一人の女性が来店してきた。
そしてその女性は私を見た瞬間、すごい形相で私の方にきて…
「あなたが、未来って子ね!!?」
「そ、そうですけど…。どこかでお会いしましたか?」
「単刀直入に言うわ!!仁井君は貴方みたいな女に、全く興味はないから!!」
えっ?
なに急にこの人?
「ちょ!
「邪魔しないで松駒君!仁井君をたぶらかすこの女をほおっておくわけにはいかないわ!」
その楓と呼ばれた女性は私に指をさす。
「松駒さん、彼女は…」
「この人はボクの幼馴染の塩山楓。仁井君に惚れてるんだ」
あ、理解した。
つまり彼女は私がニーチェ先生を取るんじゃないかと言っているわけか
「あの、大丈夫ですよ?私、仁井さんにそう言った特別な感情は向けていないので」
「今はそうでもこの先どうなるかはわからないでしょ!?」
「楓ッ!まだ夕方だから他のお客さんに迷惑が――」
「まだ誰もいないじゃない!誰のいないのだから別に今は問題ないでしょ?それともなに?松駒君は私のせいでこの店にお客がこないとでも言いたいの?」
「いや別にそう言っているわけじゃ――」
「だったらいいじゃない!それに、この店に客が来ないのはねぇ私の仁井君への愛が!他の客を退けているのよ!」
「それ結局客が来てないの君のせいだよね?」
……何この人。いろいろと壊れているんだけど。
「それに!今夕方なのにどうしてここにいるの!?楓は看護師じゃないか!」
この人看護師なの!?……こういう人にだけは診られたくない。
「今日は定時で仕事が終わったの。だから一秒でも早く仁井くんに会いたくて!」
「仁井君は基本深夜帯だよ?常連なのに忘れたの?」
「だって最近は夕方にもいるって!」
「それは単純な人手不足が原因です。今日は仁井君のシフトはないよ」
「なんで!?どうして!?なんでこんな日に限って仁井君がいないの?ちょっと店長呼んで?仁井君のシフトを深夜帯で毎日してもらうように言ってくる!」
「今店長はいないしそもそも仁井君の意見を尊重してあげて?」
――と、この話が永遠に続きそうなので、私が終わらせなきゃ。
「あの、楓さん」
「なに!?」
「私は本当に仁井さんのこと特別視してないので、そういう心配はしなくて大丈夫ですよ」
「それは今の話でしょ!?その後はどうなるかわからないじゃない!」
「いえ、男の人にはあまり興味ないので…」
「つまり、レズと?」
「ちちちちち違いますよ!!」
「じゃあ男に興味があるんじゃない!!」
どうしよう。話が一向に終わる気配がない。
とりあえず、なんとか別の話に切り替えないと…
「とりあえず!私はそういうことはないので安心してください!…ところで、楓さんは看護師なんですよね?どうしてそうなろうと思ったんですか?」
「明かに話を変えようとしてるのバレバレなんですけど!?」
「でも、仁井さんが怪我したときに助けたら仁井さんの目が楓さんに行く日もあるかもしれませんよ?」
そう言ったとき、松駒さんが苦い顔をして、楓さんの顔が明らかに変わった。
「そうよね!仁井君が怪我したときのためにね、いつもお薬を持ち歩いているの!ほら!!」
楓さんが服を薄いコートを広げると、そこには大量の注射器と薬が入っているであろうフラスコがコートに付けられていた。
「いつでも仁井君んが怪我したときのために準備しているのよ!」
「え…でも、重くないですか?それに、転んだ時にフラスコが割れでもしたら…」
「大丈夫よ!だって仁井君のためだもの!愛があれば!!何度だって準備するわよ!愛があれば!!」
もう彼女はダメだった。
………薄々感じていたが、彼女からはなぜか私と同じ何かを感じている。
~25話~ 【白衣の天使】
また、楓さんが来ました。
そのときは前回とは違いすごくおとなしかった。
「あの、前回聞きそびれたんですけど、どうして楓さんは看護師になったんですか?」
「そうだね…。病気や怪我ってなくならないじゃない?」
「まぁ確かにそうですね」
「誰かがやらなきゃいけない職業だし今までたくさんの人に助けられてきたからさ。今度は私の番かなって…」
へぇ…!二回しか会ってないけど、彼女のまともな部分が見れた気がする。
「それにね!」
「?」
「病院はどこにでもあるから困らないし、愛する人を地の果てまで追えるから!」
今一番治療が必要なのは私の目の前の人物なのでは?
~後日~
私は思い切ってニーチェ先生に楓さんのことを聞いてみた。
「あの、楓さんのことなんですけど」
「………」
「仁井さん?」
「できれば彼女の話は避けてください」
「ははは…やっぱり少し気持ち悪いですよね」
やはりニーチェ先生も彼女には苦手意識を出しているようだ。
「…………」
「あ、でも。なんて言ったらいいのかわからないですけど、彼女からは少し私と似ているところがあるんですよ」
「………」
「ちなみに、ああいうところじゃなくて、愛している人がいるってところですかね。私も響のことが好きなので」
「…それは…」
「?」
「それはloveですか?likeですか?」
「え、えぇっと…」
どうしよう。答えづらい。
「…………」
そのまま仁井さんは立って私の方に近づき…
「……同族嫌悪」
「え?」
そう言い残して、休憩室から出て行った。
え?今のなに?私が楓さんと同類?確かに彼女は正直言うと気持ち悪かったけど、彼女と私が同類?
いやだ、認めたくない。認めるわけにはいかな――――
~とある病室にて~
「翼さん、片付けますね」
「あぁ、すまないな立花」
響は翼の病室を片付けようといろいろな場所に手を伸ばす。
そして、しばらくして、目にあるものが映った。それは…
「 」(※空白) 特典付きCD
1.般若心経
2.般若心経 off voice
「……………」
「あ、ついでだ。それをラジカセで流してくれないか?」
「……………」
「立花?」
響はついている特典を見る。
『あなたの戒名考えます』
「……………」
「どうした立花?そんなにだんまりして」
「……………」