小日向さんのバイト日記   作:龍狐

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26話~30話

~26話~ 【魔界】

 

 

 

「……てな感じでさ、また就職面接に落ちちゃったんだよね」

 

「は、はぁ…」

 

「一体どうしたら受かるのか…」

 

 

今現在、松駒さんから就活の話をされている。

松駒さんは今のところこの中で一番の常識人だ。

ここ最近で分かったここの人のこと。

 

結論から言うと深夜帯の人はヤバイ人ばかりだ。

宝くじしか頭にない渡利さん。

明かな犯罪臭がする―――と言うか犯罪を犯しているであろう柴田さん。

過剰発注をする店長。

そして―――人の情のない仁井さん。(ニーチェ先生)

 

深夜勤帯の人はヤバイひとばかりだ。

そして、唯一の癒しは夕勤の人たちと松駒さん。

最上の癒しである響は夜遅いから最近癒されてない。

 

この人はこの中で唯一の常識人だ。

 

 

「大変なんですね。就活って」

 

「本当にそうなんだよ」

 

「そうですか……。無理して体調崩さないようにしてくださいね?」

 

「あははっ。大丈夫だよ」

 

 

やっぱりこの人は正常だ。本当によかっt―――――

 

 

 

「スーツ姿のおっさんと合法的に話せるの楽しいし。そうそう!おっさんがネクタイを緩める姿、雨に濡れた体毛を身震いで乾かそうとする犬のようでかわいいと思わない!?」

 

 

 

前言撤回。

 

やっぱり彼も異常者の一人だった。

深夜勤帯の接客業自体が異常者を集める魔境なのか、それとも彼ら自身の性格がヤバイのか判断しかねる。

 

 

 

 

 

~27話~  【25箇条】

 

 

 

ある日、休憩室の壁に、こんなものが張ってあった。

 

 

一 一 一 一 一 避

目 自 他 精 笑 け

が 信 人 気 顔 る

輝 が に が が べ

い な 尽 な な き

て い く い い ・

い   さ     二

な   な     五

い   い     箇

          条

 

―――続く。尺の都合上カット。

 

 

こんな教訓だ。

なんか変な文字が見える気もするが無視だ。

 

 

「これ、良い教訓ですね。店長が自分で考えたんですか?」

 

「ううん。違うよ!ブス25箇条として宝塚の舞台裏に張られてるやつなの」

 

 

何故それをチョイスしたのか今だに謎だし。

それにこのお店が一体どこを目指しているのか私程度の頭では到底理解できそうにもない。

 

 

 

 

 

 

 

~28話~ 【汚れ】

 

 

 

「食品を扱うから汚れた制服はこまめに洗濯してね」

 

「はい!」

 

 

仕事終わり。私たちはオーナーにそう言われた。

なんでも、制服のクリーニングだけは自腹らしい。まぁそんなにかからないし、いいんだけど…。

 

 

「油汚れとか、落ちにくいですもんね…」

 

「そうだよね。油で揚げる商品を扱う以上、そういった汚れはあるよね」

 

「それに比べて柴田の服はすごく綺麗だよな。どうしてなんだ?」

 

 

渡利さんが柴田さんにそう言った。

実際、油で汚れた制服も次来たときはすごく綺麗になってたから不思議だった。

 

 

「あぁこれですか?」

 

 

 

「専門の業者さんに頼んでいます!お父さんの仕事で服を汚すんですけど、洗濯機じゃ落ちない汚れものばかりなので一緒に出してます。女性の従業員の方もいるのでせっかくですから皆さんもどうですか?」

 

 

 

血の汚れや硝煙の臭いを消す証拠隠滅に長けたプロが連想されたので、丁重にお断りした。

こればっかりは踏み込んではいけないし、関わってはいけない気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

~29話~ 【知れば知るほど】

 

 

 

「やっぱり面白いなぁ…」

 

 

今の時間は休憩室での出来事。

最近流行っている漫画、【快傑☆うたずきん!】。これがまた面白くてつい見ちゃうんだよなぁ。

 

 

「小日向さん。それはなんですか?」

 

「あ、仁井さん。これは最近流行っているうたずきんですよ」

 

「うたずきん?……知りませんね」

 

「えっ!?有名なんですよ!?映画化されるって噂もあるのに…!」

 

 

彼の意外な一面。流行りにはあまり詳しくないんだ。

だとしたら彼は普段なにを見ているのだろう?

 

 

「仁井さんって、普段どんな本を見てるんですか?」

 

 

たぶん、「純粋理性批判」や「幸福論」とかの本かな?

もしくは純文学…?

 

 

 

「別冊マー●レットです」

 

 

 

……それは確か少女漫画のはずでは…

彼について知れば知るほど疑問が尽きない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~30話~ 【悪霊白タイツ】

 

 

 

それは、バイトがいつもより早く終わったときのこと。

私は寮に向かう道を、仁井さんと一緒に歩いていた。

理由は単純。ただ帰り道が一緒なだけだ。

 

 

「今日は早く帰れてよかったですね」

 

「そうですね。まぁその分負担が松駒さんや渡利さんに行きますが」

 

「…………」

 

 

それを聞いてより一層空気が重くなる。

 

 

「そういえば、仁井さんって帰ってからやることってあるんですか?やっぱり勉強ですか?」

 

「それもありますが、ボクは趣味である写経をしたいですね」

 

「あぁ~~」

 

 

まぁ彼は仏教学部だからそれくらいは当然か…。

そのとき…

 

 

「あ、響!」

 

 

響がこちらに走っているのが見えた。

 

 

「えっ!?未来!?」

 

 

響はなぜか驚愕していた。

そして…

 

 

 

「見つけたぁ――――――ッッッ!!!!!」

 

 

そのとき、どこからか声がして、地面が吹き飛んだ。

 

 

 

「キャァァアアア!!!」

 

「しまったッ!人がいたのか!?

 

 

 

そして、赤い車が私たちめがけて吹き飛んできた!

私は顔を両手で塞ぐ。

 

 

「未来ゥゥゥゥゥウウウ!!!!」

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

 

そのとき、歌が聞こえて…

 

 

 

――ガンッ!――

 

 

 

「「「…ッえ?」」」

 

 

 

三人の、私を含めた女の子の素っ頓狂な声が重なった。

目の前に映っていたのは…。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

仁井さんが、片手で車を支えていたことだ。

え?あれ?おかしいなぁ?車って片手で持ち上げられる質量じゃないはずなんだけど…。

 

ていうか、響、その恰好なに?

 

 

「響……なにその格好?」

 

「えっ!?こ、これはその……」

 

「立花さん……」

 

「はいっ!な、なんでしょうか……」

 

 

「とうとう、救いようのない境地にまで至ってしまいましたか」

 

 

「ちょ!?仁井さん!」

 

そして、ニーチェ先生は般若心経を唱え始めた。

 

 

摩訶(まか)般若(はんにゃ)波羅(はら)蜜多(みった)心経(しんぎょう)――――――ッ

 

 

 

「あの…仁井さん?」

 

「なにしているんですか…?」

 

「…般若心経を唱えています」

 

「何故この状況で般若心経を!?」

 

「……立花さんへの祈りと、悪霊白タイツの除霊の意味を込めて…」

 

 

そうして仁井さんはあの白い服を着た女の子の方を見る。

あれが悪霊白タイツ…。見たまんまだ。

 

 

「誰が悪霊白タイツだぁ!!!!」

 

「鏡は見ましたか?その姿、紛うことなき悪霊白タイツ。おとなしく除霊されなさい」

 

「あたしは幽霊じゃねぇよ!!」

 

「それならばただの力を持った変態ですか…。恥ずかしくないんですか?」

 

「うっせぇ!!余計なお世話だ此畜生!」

 

 

……思ったけど、あれ普通に生きてるよね?

全然悪霊じゃないし…。でも、変な人だということは分かる。

 

 

「小日向さん。頭が救いようのない立花さんを連れて、逃げてください」

 

「ちょ!!仁井さん!?」

 

「仁井さんはどうするつもりなんですか!?」

 

「ボクは、あの悪霊を除霊します」

 

「だから悪霊じゃねぇつってんだろうがぁ!!」

 

 

あの女の子は怒号を上げる。

ニーチェ先生…。なにがなんでも悪霊で押し通そうとするつもりなんだ…。

 

仁井さんは再び般若心経を唱え始める。

 

 

摩訶(まか)般若(はんにゃ)波羅(はら)蜜多(みった)心経(しんぎょう)―――ッ

 

観自在菩薩(かんじーざいぼさつ) 行深(ぎょうじん)般若(はんにゃ) 波羅蜜多時(はらみたじー) 照見五蘊(しょうけんごーおん) 皆空(かいくう)

 

度一切苦厄(どいっさいくやく) 舎利子(しゃりし) 色不異空(しきふいくう) 空不異色(くうふいしき) 色即是空(しきそくぜくう)―――――

 

 

「「「………………」」」

 

 

私たちはなにを見せられているのだろう?

 

 

「……ええぇいい!!ワケのわからねぇお経唱えてんじゃねぇよ!!お前はどっか行っt―――グハァ!!」

 

 

そのとき、白タイツの女の子が突如として倒れた。

どうしたの!?

 

 

「ええぇえ!!???」

 

「ど、どういうこと…?」

 

 

「きゅ、急に胸が、体が…苦しい……ッ!!」

 

 

女の子はもがき苦しんでいる。

たぶん、原因は…

 

 

無眼界(むげんかいない) 乃至無意識界(しむいしきかい) 無無明亦(むむみょうやく) 無無明尽(むむみょうじん)――――ッ」

 

 

今だに般若心経を唱え続けている仁井さんだろう。

何故般若心経を唱えるだけでこんなにこの子は苦しんでるの!?

 

 

「あ、あの、仁井さん……」

 

「響…ッて、えっ!?」

 

「な、なんか私も苦しくなってきたんですけど…」

 

 

響まで!?

 

 

「あの~仁井さ――――」

 

 

その途中で、地獄は始まったのだろう。

 

 

 

得阿耨多羅三藐三菩提(とくあのくたらさんみゃくさんぼだい)!! 故知般若波羅蜜多(こちはんにゃはらみった)ァァァ!!」

 

 

 

響が悲願すると同時に、仁井さんは般若心経のペースを上げた。

 

 

 

「「ぎゃぁああああああああああああ!!!!!」」

 

 

是大神呪(ぜだいじんしゅ)! 是大明呪(ぜだいみょうしゅ)! 是無上呪(ぜむじょうしゅ)! 是無等等呪(ぜむとうどうしゅ)!」

 

 

「あ、あの仁井さん!!もうやめてください!!」

 

 

私はなんとか仁井さんに般若心経をやめさせられた。

 

 

「なにするんですか小日向さん。今がいいところなのですよ?」

 

「いいところ、じゃないですよ!響まで苦しんでるじゃないですか!あの子幽霊じゃないですけど、やってるの除霊ですよね!?なんで生身に効いているんですか!?」

 

 

あれは除霊だったはずだ。なのになぜ生身に―――

 

 

「何を言っているんですか小日向さん」

 

「え?」

 

 

「変態と言う名の悪霊を除霊しているではありませんか」

 

 

…彼の中ではすでに響は人としての扱いを受けていないのかな?

 

 

 

「はぁ…はぁ…畜生!こんな奴にかまってられるかぁ!」

 

 

あの女の子はすごい勢いで森の中に飛んで行った。

 

 

「あ、待ってよ!」

 

「ひ、響!!」

 

「未来…。ごめん。終わったら全部話すから!」

 

 

そうして響もあの子を追っていった。

一体、なにがどうなって…

 

 

「小日向さん」

 

「は、はい…」

 

 

「もう少し友人関係を見直した方がよろしいかと」

 

 

「…………」

 

 

響のことだからなにかあるはずだけど、彼の言葉も正論そのものでなにも言えなかった。

 

 

 

 




~この後~


私は黒服さんたちに事情を話された。
そしてその後の事…


「響……」


まさかノイズと戦っていたなんて…。
どうして言ってくれなかった?

響のウソつき…


「―――――」


そのとき、仁井さんも大量の書類を書かされていた後から戻ってきたのだろう。


「――――…仁井さん…」

「どうしましたか?」

「仁井さんにも、いろいろと聞きたいことがあるんですけど…」

「いいででしょう。今は気分がいいので。ですが、今はもう時間がないので一つだけですよ」


どうして気分がいいんだろう…?
取りあえず…


「あの、どうして般若心経であんなことが…」

「知らないんですか?」

「?」

「変態と言う名の悪霊―――と言うのは名目です。本当の理由は別にあります」

「そ、それは…?」


「守護霊とマスターは運命共同体。宿主の方を傷付けるのが難しいのなら守護霊の方にダメージを与えれば自動的に宿主の方にもダメージが行くんです」


「………?」


初めて聞く謎設定に思考が停止しました。





一方そのころ


「司令……」

『どうしたんだ?慎次?』

「100万円を、用意できませんか?」

『どうしたんだ急に!?』

「……一般人から、個人情報を書く代わりに、情報料をと…」

『な、何故そうなった?』

「説明は省きますが…。断ったら、般若心経でボクを含め全員が、腹痛を…」

『何故般若心経で腹痛を起こすんだ!?』

「と、とにかく、早くしないと、二課が…般若心経によって、全滅させられ…」ガクッ

『慎次ッ!?慎次ッ!?』


後日、仁井宅に100万円の小切手が送られてきたとかこないとか。



少し遡り。


「クリス……。あなたにもう用はないわ」

「はぁ!?どうしてなんだよフィーネ!!?アタシがもう用済みってどういうことだよ!?」

「何でって……般若心経なんかでやられたあなたに、もう用はないわよ


「…………」

「…………」

「………般若心経?」




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