Reincarnationer with Will.Century Of 21 in Infinite Dendrogram 作:RAINY
俺こと、川村英司の話を聞いてほしい。
『それじゃあじっくり、話を聞かせてもらおうじゃないかクマ』
シュウ・スターリングにテーブルを挿んで相対していた。
残念ながら、フィガロと扶桑も同じ卓を囲んでいる。〈アルター王国三巨頭〉に囲まれるとか、失禁ものである。
「あ、あのー……。まずよろしいですか?」
「何かな?」
震えた手を上げれば、心優しいフィガロが発言を許してくれた。でも脳筋だから油断できない。
「【グローリア】、どうなりました?」
「うちらがきっちり倒したさかい、安心しぃ」
『全員満身創痍、俺は気絶して2人はデスペナだけどなクマ』
「おかげで、再会するのに3日もかかってしまったね」
扶桑、シュウ、フィガロの弁を信じるなら、【グローリア】は無事討伐されたようだ。俺に構っている余裕があるのだから、そうだろうと察してはいた。でも、ちゃんと聞かないと安心できないものだ。
……と言うか、あれから3日経ってるのか。俺は起きて外を空気吸いに魔法馬車から出てみれば、〈月世の会〉に囲まれているという恐怖体験をしたのだが。
(きっちり3日間、熟睡してたのですよー。死んだように寝ていたので、ウィル子はとても気が気じゃありませんでした)
ウィル子からも証言が得られたので、俺はマジで3日間寝続けていたらしい。
「次は僕で良いかい?あまり訊きたい事もないし、言いたい事もそれ程ないからね」
「ええよー。うちは契約煮詰めないかんから、話し長くなってまうしー」
『……俺もあまり他所に聞かれたくない事を訊くから、それで良いクマ』
〈アルター王国三巨頭〉が話し合い、暗に話す順番が決まる。
最初がフィガロの話だ。いったい何を俺に言いたいのか、俺も興味がある。その興味を以ってフィガロを注視すれば、彼は唐突に頭を下げた。
「ありがとう、クレーミルを救ってくれて。君が救ってくれなければ、フォルテスラはこのゲームを引退してた」
唐突なお辞儀に面食らったが、俺はフィガロのその感謝で納得する。
フォルテスラは、フィガロにとって大切なライバルなのだ。フィガロは闘技場トップで、フォルテスラはまだ3位だけど、それでもいずれは王座を賭けて戦う事を約束した者同士。強敵と書いて友なのである。
「なんだ、そんな事か。気にしないでくれ。俺は俺がしたいと思い、できると信じたからやったまで。自己満足なんだ」
「それでもだ。ありがとう」
自分勝手な行動と俺は自嘲してみるも、フィガロは感謝を続け、あるモノを提示してくる。
それは、フレンド申請だ。
「何かあれば呼んでくれ。決闘しか脳がないから、力になれるかは分からないけど」
「いいや。お前との友好は助かるよ。何かあれば、メールで相談させてもらう」
フィガロは俺の喜ばしい反応を見納め、満足したように席を立った。
言いたい事は全て言い終わったようで、振り返りもせずに魔法馬車の扉を開けて退室する。
実に実直な男であり、そんな男と友誼を図れた事に俺は内心ほっとしている。
「じゃあ、次はうちな」
でも、まだ面倒事が積もっていた。言わずもがな、契約を詰めてこようとしている扶桑である。
おまけに、この後シュウとの密談も控えていた。この先生き残る事ができるだろうか。
「まず前提の話や。あんさん、アルター王国に所属する気あるん?」
扶桑が切り出したのは、本当にクランへ加入させるための質問。俺を絶対に加入させる気のようだ。
……もっと訊くべき事がありそうなもんだが、彼女にとってはクランが優先って事か。
「あるよ。今んところフリーだしな。今回の功績を出汁にすれば、王国に所属するのも難しくないだろう」
「せやな。じゃあ続いてはー。うちのクランの決まりゆうか、〈月世の会〉の教義を守る気はあるん?」
……本当にクランの事しか興味ないのかもしれない。
「『枷に囚われた肉体より離れ、真なる魂の世界に赴く』。それに、『自由なる世界で、己の魂の赴くままに自由を謳歌せよ』、だったか?つまりはこのゲーム内で自由に生きろって事だろ?そういう解釈で良いなら守れるが」
「その解釈でええよ。じゃあ、〈月世の会〉を笠に着て、悪行したりする気はあるん?」
「……」
その質問に対して、俺は言葉を詰まらせた。何故かって言うと、色々と複雑な事情があるせいだ。
「あるん?」
「な、ないんだけど……。ちょっとロール的にPKしなくちゃいけないし……、そのロールのせいでもうカルディナから指名手配食らってる……」
扶桑の目付きが鋭くなったので、ある程度はぐらかしながら複雑な事情を語った。
そう。俺は〈月世の会〉に悪影響を与えるつもりはないが、仕事柄後ろ暗い事をしなくてはならないのだ。その仕事を悪行と取られれば、扶桑の質問に否と答えねばならない。
『お前、カルディナで何やらかしたんだ』
「PKだよ、PK。ティアン殺しはしてない。そのはずなのに、何が琴線に触れたのか、ファトゥムまで出張ってきちゃって……」
静観していたシュウが呆れ交じりに口を開いた。カルディナ指名手配が命知らずの愚行と認識しているから、呆れずには居られなかったのだろう。
でも、俺は何も悪くない。悪くないのだが、シュウは呆れ果てたようで、閉口している。
「うーん……。あんまり悪評が立つんは勘弁してほしいなー」
『……今さらその程度の悪評なんて何も影響しないだろ』
閉口したんだけどつい小声でツッコミを入れてしまうシュウ。
実際、〈月世の会〉はすでにカルト教団扱いされているし、ちょっかいかけた時の報復を怖がられたり、強烈なまでの国教浸食行動を煙たがられていたりする。
そのほかは、現教主である扶桑が女狐と称されたり、か。
「なんか言うた?クマやん」
『これ以上下がる株はないって言ったクマ』
訊き返した扶桑にあえて言い直すシュウ。目の前で火花散らすのは止めて欲しい。とばっちり食らうのは俺なんだ。
「ま、不信心なクマのやっかみなんて、聞き流すに限るわ。で、そのロールって止められたりせぇへんの?」
「悪いが、止められない。ライフワークと言うか……。仕事なんだ」
(俺の)ライフ(を管理AIたちから守るための)ワークなのだ。強要されたところで、止められる訳はない。むしろ止められるもんだったら止めたい。
「PKが仕事?依頼でも受け取るん?」
「ああ、だいたいはな。今のお得意様はカルディナだよ」
『……カルディナで指名手配されてるのに、カルディナの仕事を受けてるクマ?』
「指名手配してきてるのも、仕事を斡旋してきてるのも、理由はカルディナ議長かファトゥムに聞いてくれ。俺だって現状は訳が分からん」
扶桑が困惑、シュウも困惑。そして俺も困惑で一同困惑。真実はカルディナ議長のみぞ知る。故に迷宮入りである。
なので、その理由について、シュウは追及しなかった。扶桑は代わりに、ニッコリ笑う。
「それ、うちも依頼できるん?」
なんと、まさかのお得意様開拓か。でもちょっと俺は渋い顔をする。
「……間違ってもティアンは殺さないからな」
だって、国教浸食のためにアルター王国国教のお偉いさん暗殺依頼だされそうなんだもん。
「なんや酷い風評被害やわー。うちも他の宗教とは仲良くしたいんよ?重役暗殺なんて頼まへんって」
「……」
扶桑は俺の誤解を解くように弁明してきたが、俺が別に重役暗殺拒否を匂わせていないのに、そう誤解していると考えている。
それって、そういう依頼を想定していたからではないだろうか。
「うちんとこに変なちょっかいかけてくる〈マスター〉を、ちょっとけちょんけちょんにやっつけてもらいたいだけやよ?そういう依頼はできへんの?」
「……最終的に依頼を受けるかの判断は俺がする。受ける目安を言うと、〈エンブリオ〉が6段階以下かどうかだ。準〈超級〉プレイヤーは相手次第。〈超級〉プレイヤーは受けないと思ってくれ」
一応お得意様になる可能性があるので、ある程度の依頼受注ラインを開示した。収入源が多いに越した事はない。
……依頼に思わぬ落とし穴がありそうだが。しっかり背景を調査してから依頼を受けよう。
「ふむふむ……。うちも利用できるんやったら、止めさせるんも不都合やなー。でも、ちょっと程度を弁えてくれへん?さすがにクランメンバーから国際指名手配犯を出すんは、うちも願い下げやわー」
「元よりそのつもりだよ。カルディナではやり過ぎたからな……。反省したんだ」
その内目を付けられてはいただろうが、もう少しキルペースを落としていれば、ファトゥムたちの動きも遅かっただろう。管理AIたちが怒らないキルペースを見極めるべきだった点も踏まえ、要反省である。
「ほなそういう感じで。これが【誓約書】や」
ちゃっかりしてると言うか、しっかりしてると言うか。扶桑はゲームシステム的な強制力を行使してきた。
当然、俺はその【誓約書】の内容を隅から隅まで見る。サラリーマンとしても、こういう物で見落としは厳禁だ。滅多にないが、事前の打ち合わせと違う内容だったりするし。
まぁ、そんな事すれば、そんな物持ってきた奴が信用を損なうのだが。目の前の女性が目先の信用を気にするのか、大変疑わしい。
「……良し。この内容で問題ない」
熟読した結果、質疑応答で擦り合わせた事と、扶桑と敵対しないとか王国に反逆しないとか、そんな常識的な範囲の事しか書かれていなかった。
俺は安心して署名する。
「これからよろしゅうな?」
「……まぁ、敵にならないよう心掛けるさ」
扶桑が妖艶な微笑を浮かべながら、差し出してきた右手。俺は、恐る恐る握り返した。
なんだか先行きが不安である。
「そんで、依頼やないんやけど。早速頼みがあるんやわー」
「……頼み?」
フラグが秒で回収されそうな気がしてならない。
「うちのレベ上げ、付き合ってくれへん?あのドラゴン倒すんに、うちのジョブレベル全部使ってしもたんよ」
「……ああ。なんだ、そういう頼みか」
微笑に苦みが混じる扶桑。
そう。彼女は原作でも、ジョブレベルを対価にして発動するスキルを使用し、ジョブレベル全てを捧げている。現在、彼女のレベルは0なのだ。ジョブは就いたままらしいが、ステータスは初期値になっているだろう。
何を頼まれるのかと不安だったが、そんなに大した頼みではなかったので、俺はほっと胸を撫でおろす。
「もちろんタダやないよ。レベルがそこそこ戻ってきたら、あんさんの左腕、再生さしたるよー」
「やりましょう、マイマスター」
「どぉわ!?」
扶桑が払う対価に、ウィル子が食い気味で姿を現した。危うく椅子をひっくり返すところだったが、ウィル子の反応も無理なからぬ話。
四肢欠損を回復できるスキルを持っているのは、【
そして、【聖女】は【
プレイヤーならデスペナ明けに四肢欠損も含めて全回復できるが、俺にそのデスペナシステムはない。
そのため、事実上俺が頼れるのは【女教皇】である扶桑のみ。ウィル子が食い気味なのも、俺の左腕を再生させるにはその頼みを聞き届ける以外ないからだ。
……ゼクスがオーナーを務める〈
「へぇー……。それが噂の、〝
扶桑は興味深く、ウィル子を注視した。
メイデンと言うだけでこの〈
そして、扶桑はそういう者こそ〈月世の会〉に求めている。何故かって、このフルダイブのゲームこそ真の世界だと、信者は掲げているからだ。まずこのゲーム内を別世界と認識しなければ始まらない教義なのである。
「……人に近しいガードナーかもしれないだろ」
「いいえ、その子はメイデンです。
ワンチャンぼかしにかかったが、問答無用で見透かされた。突如現れた、扶桑の〈エンブリオ〉、メイデンであるカグヤに。
ウィル子のTypeを見透かされてはしまったが、逆に言えばそれだけ。メイデンである事以上の情報、本当は〈
「……はぁ。好きに判定してくれ。俺はお前たちが見抜ける以上の情報なんて、絶対に与えないからな。手の内が少しでもバレちまえば、こっちは商売上がったりだ」
「生産系やから、フォートレスとかそこらやろ?生産工場の実体はないし、ワールドとかも混じっとるやろか」
「……」
俺はなんの反応もしないよう、唇を噛むくらいに口を噤んだ。扶桑はそんな俺の様子をニヤニヤ見つめてくる。
後ろめたい事は別にないんだけど、狐に睨まれているようで汗がにじんでしまう。
『おい、雌狐。契約は済んだんだろ。いい加減こっちに譲るクマ』
「そうやねー。もっとじっくり話したいさかい、今度はちゃんとした場を用意するわ」
必死に口を噤む俺の様子を見かねてか、はたまた待ちきれなかったのか。シュウは交代を急かした。
扶桑は何かご満悦のようで、シュウの急かしも邪険にせず、席を立つ。
「また今度なー、〝喪失時代〟はーん」
できれば二度と会いたくないが、正式なクラン加入のためにも頼みを聞き届けるためにも、絶対にもう1度は会わなくてはいけない。
俺はその未来を憂いながら、にこやかに手を振る扶桑へ、嫌々手を振り返した。ついでに、送られてきたフレンド申請も嫌々許可した。
そうすれば、扶桑とカグヤは二の句を続けずに、魔法馬車の扉を潜る。
馬車内は静かになった――
『じゃあ、最後は俺の番だ』
――凄く嫌な意味で。
(´・ω・`)<後書きももうないんだ。許して。