Reincarnationer with Will.Century Of 21 in Infinite Dendrogram   作:RAINY

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第十八話 付けの清算・後編

『じゃあ、最後は俺の番だ』

 

 酷く真面目でシリアスな声音、シュウの綺麗な低温が馬車内に響いた。おしっこ漏れそうだ。

 

『お前は、何者だ』

 

「……曖昧すぎてなんとも答えられん。もう少し訊きたい事を明確にしてくれ」

 

 そんな喉元にナイフ突き立てるようなシュウの質問。俺は無駄な足掻きと自覚しつつも、答えを先延ばしにかかる。

 

『この3日間、〈月世(げっせい)の会〉のメンバーたちが交代でお前の馬車を見張っていた』

 

 シュウが語るのは明確にした質問ではなく、さらにナイフを押し込むような捕捉。もう言い逃れできないだろうと思いつつ、俺は一縷の望みにかけて静聴する。

 

『なのに、ログアウトした形跡が確認できなかった。【グローリア】を足止めしている時点で3日間ログアウトしてなくて、合わせれば6日間。リアル時間に換算すると、2日間だ』

 

 やっぱり駄目みたいです。リアル時間の事持ち出されてるんだったら、その異常に気付いているだろう。

 

『2日間もログアウトしていない。考えられるその理由は大別して2つ。リアルで起きる必要がない状態にあるか、そもそもお前のリアルがここなのか。そのどちらかだ』

 

 さすがは才能の化け物(ハイエンド)に相当すると称された男。完全に推測されている。

 ただ、まだ言い逃れる余地はあった。

 

「正直に話そう、シュウ・スターリン」

 

 何故ならば、その推測はどちらも完全すぎるが故――

 

「俺も、どっちか分からない」

 

――どちらが正しいのか分からないからだ。

 

『どっちか分からない?どういう事だ』

 

「俺はお前たちがリアルとする世界に居た記憶がある。その記憶の最後は、駅の階段を踏み損ねて転び、一瞬だけ猛烈な頭痛が襲ってきた瞬間だ。そうして気付けば、俺はお前たちがゲームとするこの世界に居た」

 

 俺は素直に、原作どうちゃらとかの大事な部分を省きつつ、真実を明かした。

 

『……植物状態になって誰かにデンドロの端末を被されているのか、一時期流行ってたフィクションジャンルみたいに転生したのか。お前には判別付かないのか』

 

 細かく説明するまでもなく、シュウはその結論に至ってくれた。

 ありがとう、天才。騙されてくれて。

 

「そうなんだよ。ただ、正規の手順を踏んでないのは確かだな。そのせいで管理AIたちに警戒されてる。俺がPKしてるは、あいつらと交渉した結果なんだ。見逃してやるから雑用しろってなもんでな」

 

 管理AIに注目されている。俺はそんなシュウとの共通点を持ち出し、親近感を抱かせようとした。肩を竦めて溜息を吐き、お互いの苦労を分かち合うような雰囲気を形成する。

 

『じゃあ、なんでお前は【邪神(ジ・イーヴィル)】の事を知っていた。今のところ、【邪神】に繋がる話がない』

 

 残念ながら、シュウは雰囲気に流されてくれなかった。鋭く矛盾点を指摘し、問い詰めてくる。全然騙されてないわ。

 

「……俺が何者であるか、その3つ目の可能性を提示しよう」

 

『3つ目?』

 

「そう、3つ目だ。俺が何故【邪神】やその他諸々の情報を知り得ているのか、その理由が大方説明できてしまう3つ目の可能性」

 

『……』

 

 俺はあえて一拍置き、これから真実を話すかのように思わせた。シュウは固唾を飲みながら耳を傾ける。

 

「そうあれかしと作られた存在、そんな3つ目の可能性だ」

 

『そうあれかしと、作られた……?』

 

「言っておくと、俺はこの世界に来た瞬間、奇妙にも既視感に襲われた。見た事があるような、これから起こる事がなんとなく分かるような、そんな既に視てきたような感覚があるんだ」

 

 俺は原作知識を既視感と言い換え、前述2つとも辻褄が合うように言葉を選んだ。

 

『……リアルで生きてきた記憶が全て作り物で、このゲームの情報を頭に突っ込まれた存在。そういう事か』

 

 俺は内心シュウの推理力に感嘆する。

 いや本当に、よくこれだけの情報でそこまで推測できるな。

 

「実際、ドーマウスもその可能性を追っていた。だから、管理AIたちの間で、俺への過干渉が危険だっていう意見も出てる」

 

『……この世界の、何らかの防衛システム。……それこそ、管理AIたちに対抗するためのプログラムかもしれないのか』

 

 シュウは思案し、思考を独り言ちていた。しかも随分ヤバそうな思考を漏らしている。

 俺が対現管理者プログラムとか、勘弁してくれよ。13人に勝てる訳ないだろ。

 

「結局、自身が何者なのかは、俺も分かってないんだ。もしかしたら、ある一定の条件を満たした時に役割を自覚するよう、設定されてたりしてな」

 

 俺は苦笑を浮かべた。シュウの思考に沿うような推測をしてみたが、俺としてはできれば当たって欲しくないそれだ。この推測が当たっていない事を、切に祈る。

 

『【邪神】の情報だけなら、3つ目の可能性が出てくる根拠が薄い。他にも既視感とやらがあるんだろう?』

 

 シュウは俺の持つ情報を絞り出しにかかった。

 実に聡いところが、俺の3つ目の可能性を信じたい(てい)で、俺の持つ情報を絞り出そうとしているところだ。俺が何をどの程度知っているか、探りに来ている。

 

「じゃあ、王国に現在所属している〈超級〉マスター5人について」

 

 そうはさせないと、俺は(てい)に乗っかり、シュウがすでに知っている事を開示する事にした。

 

「1人目は【破壊王(キング・オブ・デストロイ)】、シュウ・スターリング。〈エンブリオ〉は【戦神艦 バルドル】。Typeはガーディアン・フォートレス・ギア・ウェポン」

 

『……他4人は?』

 

 本人の目の前で本人の情報を言い当てたせいか、シュウの凄みが増した気がした。凄まれた俺は、否応なく続きを語る。

 

「2人目、【超闘士(オーヴァー・グラディエーター)】フィガロ。〈エンブリオ〉は【獅星赤心 コル・レオニス】。Typeはぁ……、アームズ系?」

 

『なんでそこだけ疑問形だ?』

 

「情報がないからだよ。心臓を代替してるのは知ってるが、Typeは知らん。一部置換だからボディではないってくらい」

 

 原作で明かされてないから知らないとは、口が裂けても言えない。

 

『……なんでそんな微妙なところだけ知らないんだ』

 

「俺に言うな」

 

 これも全部、情報を小出しにした原作者が悪い。俺は悪くない。

 でもあの小出しにされて焦らされるの、好きだったよ……。なんて感傷に浸っている場合ではない。

 

「3人目は【女教皇(ハイプリエステス)】、扶桑月夜。〈エンブリオ〉は、ああ~なんちゃら【カグヤ】だ。Typeはメイデンwithインベイジョンワールド」

 

『今度は〈エンブリオ〉の方か』

 

「なんでもは知らないんだよ。原作に載ってた(知ってる)事だけ」

 

『微妙に名作の名言パクるな』

 

 なんと、シュウに『化物語』の名言が通じた。嬉しい。でもそんな事はどうだって良い。重要な事じゃない。

 

「4人目はレイレイ。メインジョブは知らね、【毒手拳(ポイズン・フィスト)】には就いてるってくらい。〈エンブリオ〉はなんちゃら【エデン】。Typeは知らね」

 

『もう歯抜けどころか虫食いクマ』

 

「だって知らないもんは知らないんだもん!俺は悪くねぇ!!」

 

『ネタがさっきから古いクマ』

 

「でも通じてるじゃん」

 

『『化物語』も『テイルズオブジアビス』も、古き良き名作だからな。そりゃ履修してるクマ』

 

 シュウが履修するくらい、その2つは後世にも名作と語り継がれたらしい。

 だけど、『古き良き名作』ってところに哀愁と言うか、ジェネレーションギャップと言うか、そんな感じの寂しさを俺は覚える。時代は変わってしまうんやなって。

 

『さっさと次に行くクマ』

 

「……最後に【犯罪王(キング・オブ・クライム)】、ついでに【聖女(セイント)】のゼクス・ヴュルフェル。〈エンブリオ〉は【始源万変 ヌン】。Typeはボディだ」

 

『……逆にあいつのは全部埋まるのか』

 

 今までの知識、それらの歯抜けに反し、まさかのゼクス全埋め。そんな意外感があったようで、シュウは難しい顔をしていた。

 ……なんで着ぐるみが表情豊かなんだよ。

 

『とりあえず、3つめの可能性を信じても良いクマ。むしろ、3つ目の可能性が強くなったクマが。……それで、しばらくはどうするクマ?』

 

 途中途中もそうだったけど、ようやくシュウのふざけた『クマ』語尾が完全に帰ってきた。彼の警戒が解けた証だろう。

 

「当分は王国に居るさ。俺の既視感が最も強いのは王国だからな。既視感が強い分、未知がなくて安心できる。まぁ、管理AIとかカルディナに振り回されるだろうが……」

 

『同情するクマ……』

 

 伊達にファトゥムやハンプティダンプティに振り回されていないシュウ。彼なら俺の苦労がよく分かるだろう。

 

『良し。じゃあ王国に新たな仲間が増える事を祝して、これをやるクマ』

 

 少しお茶らけたシュウが送ってきたのは物品ではなく、フレンド申請だった。

 

「良いのか?自分で言うのもなんだが、結構色々と怪しい奴じゃないか?俺って」

 

『良い奴と悪い奴の区別は匂いで付く。こいつはくせぇ!ゲロ以下の匂いがプンプンするぜぇ!』

 

「怪しい匂いするんかーい!」

 

 あからさまにこっちに合わせて『ジョジョ』の名言を言い放ってくれているが、だからって悪い奴判定はされたくない。

 と言うか、シュウから悪い奴判定、ひいては敵判定されるなんて、命がいくつあっても足らない。

 

『冗談クマ。短時間だが、お前は悪いじゃないって感じたクマ。これは、そんな悪くない奴への友好の証クマ』

 

「そ、そうなの……?まぁ、そう思ってくれたなら、俺は有り難いが……」

 

 ショウの声音が優しげであるため、嘘をついていない事は読み取れる。しかし、少し話しただけで俺の人となりを分析されたとなれば、その観察力に恐怖を感じてしまう。

 

『されじゃあ、俺ももう行くクマ。また会おう、英司』

 

「……そうだな。また会おう、シュウ」

 

 差し出されたシュウの手を、俺は握り返した。

 どうせ長い付き合いになる。なら、仲良くはしておきたいもんだ。

 そんな俺の意思を見抜いてか、シュウは笑顔でハンドシェイクし、後は何も言わず馬車から下りた。

 

「……期せずして、〈アルター王国三巨頭〉とフレンドになっちまったな」

 

 静かになった馬車の中で、俺は増えたフレンド欄を見つめ、感慨にふけるのだった。

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