Reincarnationer with Will.Century Of 21 in Infinite Dendrogram   作:RAINY

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第四話 ピンチをチャンスに・上

 俺こと、川村英司の話を聞いてほしい。

 

「是非とも何をしているのか訊きたいのですが……」

 

「何をって見れば分かるだろう、ウィル子。土下座だ」

 

 話す前にウィル子が訝しんでくるが、俺は綺麗な土下座をしているだけだ。

 

「えっと、どういう事かなー?」

 

「ほら、この人も困っているのですよー」

 

「何?土下座の文化が伝わっていなかったか?じゃあ、うつ伏せで手を頭の上に置く方が分かってもらえるか?」

 

 悲しい事に土下座で謝罪の意は目の前の目隠れ青年に伝わらなかったらしい。

 俺は伝えるものを降伏へと変えつつ、うつ伏せになって手を頭の上に置いた。

 

「もしかして、僕の事を知ってるー?」

 

 少なくとも無知でない事は伝わったようだ。

 

「知っているとも、()()()()()()()。アルター王国の決闘ランク……2位だ」

 

「……君はもっと詳しく知っているように見えるなー」

 

 行動か言動か、俺の不審さを嗅ぎつけ、トム・キャットは追及する。そうするだろうとは分かっていた。

 

「……確かに知っている」

 

「……「はい」か「いいえ」で答えてねー」

 

 焦れたようにトム・キャットはその問いを投げかけた。おそらく、嘘を吐いているか分かる《真偽判定》を使っている。

 

 ヤバイ状況だ。しかし、逃げればなおの事怪しまれる。逃げ切る事自体難しいのだが。

 

「僕が運営側だって知ってるー?」

 

「……イエス」

 

「……君は〈エンブリオ〉に〈超級〉の先があるのを知ってるー?」

 

「……イエス」

 

「……僕が〈超級〉の先(それ)だって事、知ってるー?」

 

「…………イエスだ」

 

「……確かに知り過ぎてるねー」

 

 トム・キャットから呆れ、と言うより諦観の気配が醸し出された。

 そして、その諦観が敵意に変わった瞬間、ウィル子の方からも刺々しい雰囲気が放たれる。

 

「マスターに危害を加えるようなら、貴方をデリートします」

 

「待て、ウィル子!彼だけが来たって事はまだあっちも本気じゃない!まだ戦いは避けられる!」

 

 トム・キャットに指差しで何かしようとしていたウィル子を制止する。ここでの攻撃は敵対を明確に表してしまう。

 

「君は僕たちと事を構える気はないのかなー?」

 

「ああそうだ、()()()()。お前たち管理AIにとって俺は〈イレギュラー〉だろうが、俺はお前たちを邪魔する気はない」

 

 敵対しない意思を言葉にしながら、管理AIたちの知られたくない事を知っている風に仄めかす。ない頭で考えた結果の融和と脅迫だ。

 

「僕たちの目的まで知ってそうだねー」

 

「……お前たちの目的が何であろうと、俺はそれに興味がない。俺はただ、生きたいだけだ」

 

 転生して二日目だ。ここで死亡は笑えない、笑う体がなくなる事と笑える程喜劇じゃない事の二つの意味で。

 

「君は、『プレイヤー』じゃないのー?」

 

「とりあえず、『プレイヤー』ではない。どちらかと言えば『ティアン』の方だ」

 

 少なくとも俺に〈Infinite(インフィニット) Dendrogram(デンドログラム)〉へログインした記憶はない。そも、俺が生きた時期とそのゲームのプレイ可能時期が違う。というか世界が違う。俺は〈Infinite(インフィニット) Dendrogram(デンドログラム)〉の中の世界に転生してしまった、この世界の生命なのだろう。

 だから、ゲームプレイヤーである〈マスター〉のようにリスポンはできない。デスしたらそれでデッドエンドとなる可能性が濃厚だ。

 

「〈マスター〉の力を持つティアンかー……」

 

 トム・キャットは首を傾げて思考する。それ程に俺の存在は埒外、例外(イレギュラー)すぎる〈イレギュラー〉なのだろう。

 

「うん、僕だけじゃ判断が難しいかなー。という事で悪いけど、僕たちの拠点へごあんなーい」

 

「ふぁ!?」

 

「マスター!」

 

 トム・キャットが茶化した言い回しをした瞬間、俺は妙な浮遊感に襲われる。

 ウィル子が俺に手を伸ばすが、その手が俺に触れる前に、ウィル子は何処かへ消えた。

 いや、消えたのは俺の方なのだろう。周りの景色が一変している。そう、まるで宇宙船の一画を思わせる空間に。

 

「僕らの能力は一応適応できるみたいだねー」

 

 トム・キャットはアバターの姿ではなく、正体であるチェシャの姿を晒していた。

 

「こぉれはこぉれは。つくづぅく不可解でございまぁすね」

 

「構成データも〈マスター〉であり、ティアンでもある。ただ、ブラックボックスがあるわね。私でもデータ全ては覗けないわ」

 

「ふむ。我々の理解の範疇であり、範疇外でもある。類を見ない、まさしく〈イレギュラー〉である」

 

 彼らがおそらく、マッドハッター、アリス、ドーマウス。チェシャと同じく管理AI、〈無限(インフィニット)エンブリオ〉である。

 さらに、黙しているが他にもここに集っている。

 

「おやおや……皆様、お集りのようで……」

 

 俺は冷や汗ダラダラで現実逃避気味に礼儀を重んじるような軽口を叩いた。

 

「全員じゃないけどねー」

 

「ええ、存じていますとも。お忙しい管理AIの皆様方です。私のような若輩に顔を見せる程暇がないのは重々承知していますとも」

 

「ほう、我々全員を把握しているという訳か」

 

 まずった。

 半獣半人のような男、おそらくジャバウォックにそんな解釈をされてしまう。実際どんな姿、どんな性格かは把握していないまでも、俺は原作知識で全管理AIの存在を把握している。

 計15体が彼ら管理AIの総数(明確に言うならとある2体が2体で1セットなので計14体か?)。その半数が俺に対する裁判へ参加していた。

 

「マスター!無事ですか!?」

 

「あら、この場所まで難なく侵入できるのね。〈イレギュラー〉と言うのだったら、その娘こそ〈イレギュラー〉じゃないかしら」

 

 虚空から現れたウィル子。そのウィル子を楕円形の薄い膜に囲まれた少女、おそらくハンプティダンプティが興味深げに観察する。

 

「ウィル子、とりあえず今のところは無事だ。だから落ち着こう。Koolになれ(Be kool)

 

「それもっと駄目になるヤツなのですよーーー!」

 

 『前原圭一』って言って伝わる人、最近の世代に居るんだろうか。

 

「とりあえずねー、僕たちも君たちの事は測りかねてるんだー。ここに集まっている面子は見定めたくてねー。一応、ここに居ない面子からも意見を貰っているよー。この船の管理担当は『保留』。モンスター担当は『保留』。自然環境担当は『保留』。“監獄”担当は『処分』。セキュリティ担当は『処分』。イベント及びクエスト担当は『保留』。時間担当は『処分』」

 

 順番に、0号、クイーン、キャタピラー、レドキング、バンダースナッチ、トゥイードルダム&トゥイードルディー、ラビット。

 

 俺はてっきり過半数が『処分』判決だと思っていたが、現実はその逆。奇妙な事に、『保留』がギリギリ過半数だった。まぁ、『保留』が肯定的かどうかは未知数だが。

 

「マスターをデリートするなら、ウィル子は貴方たちをデリートします」

 

「貴女は見たところ、私たちと同等の存在みたいだけど。〈マスター〉なんて邪魔じゃないかしら?私たちみたいに自由になりたくない?私はそのお手伝いをしてあげるわ」

 

 敵意をむき出したウィル子に、ハンプティダンプティは悠然と構え、俺のみを標的とする。

 マジ勘弁してください。

 

「お断りです。ウィル子は〈無限エンブリオ〉ではありません、〈虚数(イマジナリー)エンブリオ〉です。ウィル子の存在を証明し続ける〈マスター〉、ウィル子のマスターがウィル子の存続には不可欠となります。〈マスター〉を失えば、ウィル子は直ちに消滅するでしょう」

 

 ウィル子の説明で〈虚数エンブリオ〉の仕様を俺は初めて知った。

 そんな仕様だからウィル子は是が非でも俺を守らなくてはいけないのか。

 

「もし仮に、ウィル子が〈マスター〉を失って活動できるのだとしても、ウィル子はウィル子のマスターを守ります」

 

 ウィル子は寂しそうな顔でそう捕捉してくれた。

 嘘でも嬉しい限りだ。

 

「あら、そう」

 

 ハンプティダンプティはウィル子の様子を窺いつつ、一旦矛を収めた。

 

「端的に訊くけど。貴方、何なの?」

 

 アリスは俺を見つめて訊ねる。敵意は薄く、興味本位のような問いだった。

 

「……不甲斐ない話、俺も分からない。足を滑らせて転んだと思ったら、この世界に居た。な、何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何が起こったのか分からなかった……。頭がどうにかなりそうだった……。催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしいモノの片鱗を味わったぜ……」

 

「うーん……。脳だけ生きてる状態で、誰かがその脳にハードを被せたのかなー」

 

「それだと私たちを通さずログインできてしまっている事に説明が付かないわ」

 

「我々に関する情報を持っている事もな」

 

「〈虚数エンブリオ〉なんて特殊なエンブリオを持っている事もね」

 

 俺のポルナレフ状態を無視し、チェシャの考察へアリス、ジャバウォック、ハンプティダンプティが考察の矛盾を指摘した。

 

「何かしら有事に際して発動するようなプログラムを、前管理者が組んでいた可能性が疑われるのである。それでも、この者に以前の記憶がある理由は依然不明なのであるが」

 

 ドーマウスの考察に皆が黙考する。今度は誰も矛盾を指摘しない。

 

「ふむ。現状では不明な点が多すぎる。とりあえず、君の目的から訊こうか」

 

 シャバウォックは煮詰まらない議論を中断し、未知への切り口を変えてきた。

 

「もちろん、《真偽判定》は使っているからそのつもりで」

 

 おまけにこの事前告知。俺はナイフを首元に当てられている気分だ。

 

「……まず、俺のこの状態が不慮の事故なのか、誰かの故意なのか、それすら分かっていない事を前提に聞いてほしいんだが。現状、俺の目標はのんびり生きる事だ」

 

「ほう」

 

 声にしたシャバウォックも、その他管理AIも、意外感を皆等しく表していた。

 《真偽判定》が反応せず、これが本音であると証明されたのだろう。

 

「俺は俺の生存が保証されるなら、お前たちに手を貸すのもやぶさかじゃない」

 

「のんびりできなくなるかもしれないよー」

 

 協力の持ち掛けに、まさかのチェシャが忠告してくれた。

 ……そういえば、お前も雑用で忙しかったな。

 

「生存が最優先だ。背に腹は代えられない」

 

「手を貸すという事なのでしたら、貴方方と同等であるウィル子の処理能力を貸与できるのですよー」

 

 ここでウィル子がメリットを提示し、手を貸す選択の方を後押しした。

 

「ただし。マスターのあらゆるデータ管理はウィル子に任せるのと、〈超級エンブリオ〉分の処理能力は確保させてもらうのが、ウィル子の処理能力を貸与する条件なのです」

 

 ……メリットとデメリットがどっこいじゃないか?それ。

 

「雑用係が実質1人増えるのです。〈イレギュラー〉1つの情報より、貴方方なら働き手の方が欲しいのではないですか?」

 

 言われてみればそうか。

 彼ら管理AIたちは常に手いっぱいだ。自身らの目的を果たそうとする傍ら、自身らの敵対者たちを牽制し、世界の破滅も防がなければならない。

 

 彼らは人員不足なのだ。しかし、必要な人材は〈無限エンブリオ〉というスーパーコンピューター。補充したくてもできない。

 そこで降って湧いたのが、〈無限エンブリオ〉と同等の出力を持つ〈虚数エンブリオ〉。言い換えれば、メーカー不明のスーパーコンピューターか。……無茶苦茶怪しいな。

 しかし、怪しくても貴重な人材であるのは間違いない。

 

 さて、管理AIたちはどう判断するか。

 

「彼らの事情や人となりが分かったところで、一旦の結論を出そうかー」

 

 今、判決が決まろうとしている。 




 さすがに一月まるまる更新無しでは期待してくれてる方々も愛想が尽きるだろうと、まだ後編ができていないのですが投稿いたします。
 いやぁ、もうちょい余裕があるかと思ったんですが、なんか8月は無駄に忙しかったです。おまけに全然筆が進まず……。
 まぁ、言い訳はこれくらいにしましょう。
 とりあえず、月に一度の更新はどうにか守っていきたいと思います。亀更新ですが、どうか気長にお待ちください。
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