無敵のバッテリー   作:ジェスタ

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プロローグ

『すごいよ!まるで、おとさんみたいだ!』

 

『えっ……?』

 

俺がまだ、小学一年生のアイツに出会った。

両親が共働きで、帰りも遅かったこともあって俺は家では独りだった。

友達なんていなかった。人と話すのは苦手で学校でもいつも一人だった。

 

そんな時、古い一本のビデオテープを家で見つけた。野球が好きな父さんや母さんの物だろうとは思っていた。

幸い、家にはビデオデッキがあったから二人がいない間にこっそり見た。

それは昔、外国で行われた試合だった。画質が荒くて少し見にくい動画だったが俺は夢中になっていた。

 

その試合で投げていた、外国人ピッチャーに。

 

体が大きく、長い金の髪を後ろに束ね、豪快なフォームから投げられる豪速球。相手のバッターに手も足も出させない。チームと観客を奮い立たせる圧倒的な存在感。

 

憧れた。この人みたいになりたいと憧れた。

俺は、練習した。近くの橋の下で壁投げしにいつも行った。父さんも母さんも休日の空いている時は、教えてくれた。

特に母さんは、真剣に教えてくれた。母さんもあの人に憧れてよく真似をしていたそうだ。

 

次第に、自分の投げる球がどんどん速くなっていくのがわかった。

 

 

でも、だんだん嬉しくなくなった。楽しくなかった。

 

父さんも母さんも言っていた、野球は独りでするものじゃないと。

 

俺は独りだった。友達なんていなかった。野球を続ければ自然と集まって来るかもと思ったけど結局誰もいなかった。みんな、サッカーとかの方が好きだった。

 

正直、もうやめようと思っていた。

 

そんなとき、休日にいつも通り壁投げしていると同じくらいの男の子が話しかけてきた。

 

『うん、むかしのおとさんみたいだ!すごいね、キミ』

 

『オトサン?』

 

オトサンというのはお父さんのことで彼は自分の父親をそう呼んでいた。

 

『俺、茂野 大吾。君は?』

 

『や、八木沼(やぎぬま) (はるか)…』

 

『オーケー、よろしくねハル!』

 

それが始まりだった。

 

大吾は俺に野球の楽しさを教えてくれた。ポジションもピッチャーか合ってると言ってくれた。だが、俺は自分が信じられなかった。小学四年になれば近くの少年野球部に入れる。一緒に入ることを約束したけどそこでピッチャーに成れるか不安だった。ピッチャーは特にメンタルに左右されやすい。心の弱い奴にピッチャーなんて務まらない。

その事を大吾に伝えた。

 

 

『大丈夫だよ!ハルならできる!』

『でも、……』

『なら、俺を信じて。俺もハルを信じるよ。そうすれば俺たちは無敵だ!』

 

その言葉に俺は突き動かされた。

 

俺は信じられないけど大吾は信じられる。

大吾を信じれば大丈夫だ。

そうすれば、無敵だ!

 

俺は野球に打ち込んだ。

二人なら無敵だと。アイツとなら無敵だと。

その想いを胸に俺はずっと投げ続けた。

アイツと無敵のバッテリーになるために!

 

 

『今日も大吾来てないなぁ……』

 

俺がアイツに誘われて三船ドルフィンズに入って少したった頃だ。

俺は練習のおかげか競争率の高いピッチャーになれた。

だが、アイツは急に来なくなった。学校が違うからアイツに会えるのはドルフィンズだけだったから理由を聞きたくても聞けなくなった。

 

 

『みんな、集まってくれ!』

俺が、ピッチング練習をしていると監督が集合をかけた。

 

 

暗い顔で監督は告げた。

 

 

 

『いままで休んでいた茂野だが、今日正式に辞めることになった。さっきお母さんから連絡があった。みんなによろしくだそうだ』

 

目の前が、真っ暗になった。

アイツは俺に無断で野球を辞めた。俺を誘ったくせに辞めた。

 

 

アイツは俺を、見捨てた。

 

 

少したってから、俺もドルフィンズを辞めた。

二人で無敵になるために入団したのにアイツがいないなら意味がない。

 

俺は、前以上に練習に励んだ。アイツがいないなら一人で無敵になるしかなかった。無敵になるために誰にも負けたくなかった。

 

少しして、学校で隣の席の女子に違う少年野球に誘われた。

橋の下での壁投げを偶然見られたのがきっかけだった。

 

初めは断ったが実は母さんがいたチームだったらしく勧められて入団した。

 

すぐにそこのエースになった。

試合では相手を塁に出したことはなかったし、打たせたこともなかった。

無失点が当たり前、打者になっても絶対塁には出てた。

 

エースで四番。初めての大会で無失点で全国優勝。

 

でも、無敵じゃなかった。全然、足りなかった。

 

 

 

そして、

 

 

『いやぁー、今日もヨユーだったねー。結局、コールドだし』

 

 

『……あぁ』

 

『ホント、遥のおかげで試合が早く終わったから助かったよ。おかげさまで、早く帰れる』

 

『沢はどうした?いつも一緒に帰ってたろ?』

 

『……弥生は、肘が痛いから病院』

 

『そうか、……』

 

地区大会の予選終わり。俺をチームに誘った女子と帰ってる最中だった。

チームで俺に話しかけてくる数少ない人間。いつも明るくふざけてるところもあるが野球は上手い。

俺と組んでたヤツが彼女ともう一人の女子を絶賛していた。

そのもう一人もピッチャーだったが、今日の試合で怪我したらしく急遽俺が出ることになった。

 

いつもは3人、正確には2人が勝手についてくるため3人で帰っていたがその日は1人が病院で2人になった。

 

 

『あっ、見てよ遥!試合やってるよ!』

彼女がそういいながら見えた野球場に指差す。

 

そこでは、他の所が地区大会予選をしていた。

 

『三船、ドルフィンズ……』

 

そこで戦っていた赤と青のユニフォームのチームがかつての古巣だった。

 

『へぇ~。遥が前にいたところでしょ?』

 

そうやって彼女は試合を見ている。大方、俺がいたところだから興味があるのだろう。

 

『おっ!ピッチャーイケメンだね~。中々球も速いし、知り合い?』

 

『……いや』

 

知らない男がピッチャーをしていた。同世代では球が速い。コントロールはまずまずだが、これから強くなりそうだ。

 

『じゃあ、遥が辞めてから入ったわけか。あのキャッチャーは?』

 

今度はキャッチャーのことを差した。あの速い球を取れるのは中々いないだろう。

 

 

 

『あれは……!』

 

その姿を忘れるわけなかった。背も伸びて、2年ぶりだが間違えるはずがなかった。

 

『なんで、どうして……!』

 

『遥?どうしたの?大丈夫!?』

 

キャッチャーを見た途端、隣からの声も聞こえなかった。それぐらい混乱した。

 

 

だが、

 

『あっ!ワイルドピッチ!』

 

彼女がそう叫ぶ。相手がスクイズをしようとし三塁のランナーが走る。それに驚いたのかピッチャーが暴投。

ボールはバウンドしてあらぬ方向に行こうとするがキャッチャーが体で止め、ホームに突っ込んでくる相手を先に刺そうとする。

 

『アウト!』

 

審判の判定が球場に響き渡る。判定はアウト。一点が入るのを防いだ。

 

『よっしゃー!』

『やったー!』

 

 

 

 

『ナイスだ!()()!』

 

『手は大丈夫!?()()君!?』

 

……シゲノ?ダイゴ?

 

マスクが外れ、素顔が露になる。

そのキャッチャーは間違いなく俺に黙ってドルフィンズを辞めた茂野大吾だった。

 

 

試合はドルフィンズの勝利だった。

 

古巣が勝ったことを喜ぶべきだろうが、そうはなれなかった。

アイツが、大吾が帰ってきた。

またしても、一言も告げずに今度は帰って来た。

 

なんで今さら帰ってきた?

なんで、辞めた?

どうして俺を見捨てた?

 

そして

 

『なんなんだよ!あのピッチャー!』

 

それが一番イラついた。あのメガネ。いい球を投げていた。

でも、俺の方が断然速い!俺の方が圧倒的にコントロールがいい!キレだってある!変化球も投げられる!

バッティングも相手のあの位ならホームランなんて余裕だ!

 

何でなんだよ!!どうしてあんなに楽しそうに野球をしてんだよ!なんでお前が笑っているんだよ!

 

悔しかった。今まで野球をやっていて一番悔しかった。

それを晴らすように俺は試合にのめり込んでいった。どんなヤツにも全力。無失点で三振。

 

無敵になればこの悔しさも消えると思った。負けなければ、圧倒的な勝利をし続ければ無敵になれると思った。

 

そして、

 

 

 

 

『八木沼君、残念だけど君の右肩はもう限界だ。半年、いや、最低でも1年は投球は禁止だ』

 

小6の時、そう医者に言われた。

最後の全国大会決勝で、俺は肩を壊しかけた。

控えのピッチャーがもういなかった。

 

前日からの連投と延長からの疲労。

それでも、負けたくなかった。誰にも負けたくなかった。無敵になるために、負けたくなかった。

肩が悲鳴を挙げているのはわかっていた。それでも、勝ちたかった。

 

大会には優勝したし、監督からは治療とリハビリに専念しろと言われた。

 

全て無失点。ノーヒットノーラン。大会新記録の球速も出した。

けど、足りない。無敵じゃない。

こんなんじゃ、無敵になれない。

 

俺は、右の治療とリハビリのためにチームを引退した。

 

中学は、親に薦められた私立に行くことになった。いままで、野球しかしていないため秋と冬は受験勉強で地獄だった。

偶然にもいつもの二人も同じ中学を目指すこととなり一緒に勉強するはめになった。

 

結果、合格し私立風林学園に入学することになった。

二人に野球部に入らされ、俺は怪我のためマネージャーをやることになった。

右を治していつか、必ず一人で無敵になると誓った。

 

 

そう思っていたのに

 

 

 

 

 

 

 

『では、一年生!自己紹介をしてください』

はじめての先輩達との顔合わせの日。

入部希望の一年生、俺を入れて4人が横に並び前にいる先輩達に挨拶をしていく。

 

『一年 沢弥生です。横浜リトルにいました。ポジションはセカンドです。よろしくお願いします』

 

横浜リトルの名を聞きざわめき始める。名門で去年と一昨年と全国二連覇しているのだから当然と言えば当然か。

 

『同じく!元横浜リトルの相楽太鳳です。ポジションはショート。よろしくお願いします~』

相も変わらず、ふざけた態度で自己紹介をする元チームメイト。

彼女にマネージャーをしてみないかと言われ、マネージャーになることになった。

 

『あっ、佐倉睦子です。三船ドルフィンズで外野をやってました、よろしくお願いします』

 

彼女は一度だけ見たことがあった。俺が抜けてからドルフィンズに入った人だ。

 

 

『八木沼遥です。マネージャー希望です。よろしくお願いします』

俺の自己紹介で新入部員4人の挨拶は終わった。

 

 

『最後にもう一人いますが、所用があって遅れています。もうすぐ着くはずです』

杖をついた監督がそう告げる。初日に遅れるなんていい度胸をしているなと思っていると。

 

 

 

『遅れてすみませーん!!』

 

 

その声を、俺は知っていた。

 

『おお、()()。丁度いい、自己紹介をしてください』

グランドに入ってくる風林野球部のユニフォームを来た男子生徒に監督は言う。

 

『はい!一年、()()()()です!三船ドルフィンズでキャッチャーをしていました。姉のように上手くはありませんが精一杯頑張るのでよろしくお願いします!』

 




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