指揮官の日常はKAN-SEN達に侵略されているようです   作:烏丸蓮

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初投稿です。どうぞよろしくお願いします。


第一話 指揮官はKAN-SEN達の意見・要望を聞きたいようです

 

 

 

 ある晴れた昼下がり、今日の通常業務を済ませ一段落がついた頃、指揮官はKAN-SEN達からの匿名意見書に目を通していた。

 彼の前には山積みとなった意見書が我が物顔で陣取り、指揮官はそれを片っ端から片付けていく。

ある程度片付いた後、指揮官は宙を見上げぽつりと言う。

 

「あー……これどうしようかな……」

 

 

 

 

 

 指揮官のいるこの場所はアズールレーン基地……主に4つの陣営―ユニオン、ロイヤル、鉄血、重桜―が在籍している対セイレーンの最前線基地である。

指揮官は一年ほど前にこの基地に着任し、KAN-SEN達と奮闘していった。

 とはいっても、最近はセイレーンの動きも前ほど激しくなく出撃回数も減っている。いや、むしろ穏やかな程である。

 そして、徐々に戦闘行為も減っていき、束の間の平和がやってくるようになり、それに応じるかの如く指揮官の業務にも余裕ができるようになった。

 

 

 そんなある日、時刻は早朝、指揮官が執務室に行くと扉の下に白い紙が挟んであった。

指揮官は不思議に思いながら紙を拾い上げ、中を確認すると

 

 

 『食堂のメニューをもっと増やしてほしいです』

 

 

 短くこう書かれていた。名前は書かれていないがおそらく、KAN-SENの誰かではあろうと察しはつくし、わざわざ遠回しで伝える辺り、現状のメニューに不満はないがもっと色々食べてみたいという要望なのだろう。

 

 

(よし、それならメニューを増やそう)

 

 幸い、戦闘回数が減ったことでこの母港には暇を持て余しているKAN-SENも出始めている。

 調理の人数を増やすことで、食事メニューが増えても大きな負担にはならないだろうと考え、一週間後には要望を反映するようにした。

 

 

 

――――結果は好評であった。

 

 

 

 なかなか食べることのない他の陣営の郷土料理はそれだけで食文化を豊にしてくれる。

料理の研究に付き合ってくれたロイヤルメイド隊や東煌やアイリス等のKAN-SEN達に感謝だ。きっと要望を出してくれた子も満足しているだろう。

 

 そこで指揮官は考える。他にもなにか意見や要望があるKAN-SENがいるのではないかと。

いや、もしかしたら人に言えない悩みや相談があるかもしてない。それならば、指揮官がやることはひとつ……意見箱もとい目安箱を設置することであった。

 匿名を条件に皆の生の声を聴くことで、組織としてもっと円滑になるのではなかろうか。いや、なるはずだ。……よし、早速実行あるのみだ。

 

 

そして一ヵ月前、食堂前に目安箱は設置された。

 

 

 初めは目安箱に投函される枚数も少なかったが、時間とともに段々と右肩上がりに増えていった。

これには指揮官もニッコリ、KAN-SEN達はホッコリ……とはならなかった

問題は内容である

 

 

『最近、駆逐艦の子達に避けられているのだが閣下、私はどうすればいい?』

 いや、知らねーよ。盗撮をやめればいいのでは?指揮官は訝しんだ。

 

 

『私のプリンを食べたのは誰ですか? 怒らないので名乗り出てくださいね』

 指揮官は存じません。でも後でプリン買ってあげるから怒らないでね?それとここは掲示板ではありません。…………つーか、これ俺が疑われてね?

 

 等々、当初の目論見ははずれ、こんな意見?ばかりが届くようになってしまった。心の中で毎回ツッコミいれるのも大変である。どうしてこうなったのだろう、これには指揮官も頭を抱えてしまう。

 

 

「お疲れ様です、ご主人様。紅茶を淹れたので一息入れましょう」

 

 

 頭を抱える指揮官の前に湯気をたてる紅茶が差し出される。顔を上げるとそこにはフリルに彩られたメイド服を着こなす銀髪の美女、ロイヤルが誇るメイド隊のメイド長ベルファストが立っていた。

 

「ありがとう、ベル」

 

 指揮官は感謝を言いながら紅茶に一口つける。甘味のある紅茶は疲れた頭にすぐさま効果を発揮し、心身共に癒される。

 

 

「進捗状況はどうですか?」

 

「いや、あんまり進んでいないな」

 

 ある程度、片付いたとはいえまだまだ意見書の山は机の半分を占めている。その山を見て今日の秘書艦ベルファストは提案する。

 

「では、私もご主人様に協力致しましょう」

 

「ありがとう、助かるよ」

 

 そう言うとベルファストは意見書の山を半分崩し、秘書艦用の机に持っていき作業を始める。一枚目、二枚目……と意見書に目を通しながら少し考えこむと、新しい用紙を取り出し凄まじい速さでペンを走らせていく。ベルファストは秘書艦としては長くこのような書類仕事に慣れており、次々と意見書の山がなくなっていく。

 

 

(これは俺も負けてられないな……)

 

 優秀な秘書艦に触発されて指揮官もやる気に満ちていく。よし、もう少しだ……頑張ろう!

 

 

 

 

 

『指揮官様はいつ赤城と新婚旅行をするのでしょうか? 赤城はとても寂しいです……』

 赤城と結婚した事実はございません。それと匿名でお願いします。

 

 

『エンタープライズ先輩と毎日演習がしたいです』

 毎日はできないが検討しよう。というか、これエセックスだろ?誰か分かるから直接俺に言ってほしいな。

 

 

『指揮官様と毎日演習がしたいです。きゃっ! 言っちゃった///』

 いや、どっちの意味の演習?言っちゃったじゃねえよ。心の中に留めておいて

 

 

『なぜ、アニメでは鉄血はあまり活躍しなかったのか……』

 まあ、気持ちはわかる。”びそくぜんしんっ!”に期待しよう!

 

 

『指揮官はどの娘が好きなんですか? わたし、気になります!』

 ノーコメントで

 

 

『指揮官様がお好きなのはこの大鳳ですわ!』

『いいや、私だよ!』 『それは拙者だな!』

『指揮官はこの前オサナナジミが好きって聞いたわよ?』

『『『誰に!?!?』』』

『私の記憶に』

 なんでこの子達普通に会話してんの!?絶対、裏で打ち合わせしてんだろ!

 

 

 こんなことがありながら紆余曲折、完全に無駄な業務から2時間が経過していった―――――

 

 

 

 

「ああ、もう……疲れた……」

 

 すでに指揮官に気力なし。得られたものは疲労感、その疲れから机の上に突っ伏してしまう。ただ、あと少し……そうあと数枚でこの地獄から解放される……それだけが指揮官にとって喜ばしいことである。

 

 

「ご主人様、こちらの書類整理は終わりました」

 

 顔を上げるとベルファストが数枚の用紙を指揮官の机に置く。彼女の机は綺麗さっぱり片付いており、膨大の山はすでにこの数枚の紙に集約されていた。流石は頼れるメイド長、これには指揮官も微笑まずにはいられない。

 

 

「ありがとうベル、ベルが居なかったらもっと時間を無駄遣いしてたよ」

 

「これぐらい手伝うのは当然です。なぜなら、私は’’あなたの’’メイドですから♪」

 

 指揮官は”あなたの“が強調されたことに些か疑問に思うが……まあ、この際は良しとしよう。では早速、この基地の皆の意見、要望、思いが集められたものを見ていこう。今日は疲れたし、早く自室に帰りたい。

 

 

 

 

『ここで問題よ。金髪まな板ツンデレ姉さんの胸はこれ以上成長するのか

 3択――ひとつだけ選びなさい

① 毎日のバストアップ体操の成果によって胸が大きくなる

② 改造によって突然大きくなる

③ 変わらない。現実は非情である                 』

                              

 

 

「……………………??????????」

 

 

 長い沈黙――――しんと静まり返った執務室からは壁時計の音がはっきりと聞こえてくる。まるで時が止まったかのように錯覚するが、チクタクとリズムよく流れる音は指揮官を現実に引き戻す。理解不能な出来事に脳の処理は追い付かなかったが、やがて指揮官はようやく言葉を発せられた。

 

 

「なにこれ?」

 

「ヒッパー様の胸部装甲についてのアンケートですね」

 

「………………?????」

 

 指揮官はまだ混乱している

 

 

「ちなみに皆様の選択理由もございます」

 

「……?」

 

 ベルファストから指揮官に渡される数枚の紙。

 

 

 

『綾波は③……です』

『うーん、私は③かな……? あっ、エンプラ姉とヨーク姉も③だって! 3票入れといて!』

『余はヒッパーの頑張りを知っておる。①だ』

『改造で大きくなるといいですね……②で』

『ちょっとオイゲン!! なんで、あんたこのこと知ってんのよ! バレてないと思ってたのに!!!』

『インディちゃんが一番だよ!』       

 

 

 どうやらアンケートに関するコメントらしい。本人らしきものと最後に関係ないコメントも混じっていたが指揮官は気にしない。それよりも、言うべきことがもっと他にもある。

 

 

「なんていうか……うん、色々言いたいことあるんだけどね……」

 

「はい」

 

「その……こんな悲しいアンケート見たことないし聞いたこともない。つーか、これただの嫌がらせだよね?……まあ、今はいいや。問題はさ……」

 

 

 指揮官は少し間を置き大声をあげる。

 

 

 

「なんで目安箱がアンケート箱になっているんだよ!!!」

 

 

 

 度重なるKAN-SEN達のボケに対して、指揮官はついに感情を爆発させた

 

「なんで!? 何があったらアンケート箱になるんだよ!? 目安箱は匿名で皆の意見とか要望とか悩みとかを調査する箱なの! いや、そもそもどうでもいい内容のものがほとんど占めているけどね!」

 

「お、お待ちくださいご主人様! これも皆様の立派な意見だと思います!」

 

「うるせえ! つーか、百歩譲ってアンケートはいいにしても中身が悪すぎるだろ! なんでヒッパーの胸についてのアンケートなんだよ! もっと他にあるだろ!?」

 

「……確かにご主人様の言うことも一理あります」

 

「一理というか真理だと思うけどね俺は」

 

「ですが、得られるものもありました。こちらをご覧ください」

 

 まだなにかあるのかよ。と指揮官は心の中で思う。しかしだ……ベルファストから得られるものがあると聞き少しだけ期待を寄せる。ベルファストから受け取った紙にはこう書かれていた

 

『KAN-SENアンケートの集計結果は①18票、②34票、③158票でした。ご協力感謝いたします』

 

 

「……いや、すげえどうでもいいよ! 得られたものは皆のヒッパーに対する認識ぐらいじゃねえか! 後、なんでほとんどのKAN-SENが参加してんの!? みんな暇なの!?」

 

「そうそこです。このアンケートは皆様が参加したことに意味があるのです」

 

 なに言ってんだこのメイドは?

 

「この基地には色々と個性豊かなKAN-SENたちがおります。その皆様が陣営の垣根を超えて一つのことに参加する……例え、変な内容のアンケートだとしても基地内の結束を生むことになります」

 

「…………ふむ、確かにそうだな」

 

 指揮官は思案する。そう、ここには多種多様なKAN-SEN達が存在する。ロリコンや変態、ヤンデレやツンデレ、ポンコツエロメイドやオサナナジミ、にくすべ、アークロイヤル…………あれおかしい、碌なKAN-SENがいねえや。

 しかし、そんな個性溢れる面々が一様に参加することは実は凄いことなのでは?と指揮官は考える。

アンケートに答えるのが面倒だと思うKAN-SENもいるだろう。ただ、それでもこんなアホな内容について意思表示をすることは良いことではないだろうか。本当に仲間のことがどうでもいいのならアンケートに答えないではなかろうか!いや、答えない!

 

 

「そうか……俺はどうやら思い違いをしていたのかもしれない……」

 

「……! ご主人様!」

 

「そうだよな……昔の皆ならこんなもの、誰も相手にしなかったと思う」

 

「はい……しかし、今は違います。ご主人様があの時一心に頑張って下さったからこそ、今の私達がいます」

 

「頑張るも何も……ベル達に変える勇気や変わる努力があったからこそ今があるんだよ。それに……」

 

 

 指揮官が初めてここに着任した頃、KAN-SEN達は今のように和気藹々とはしておらず、むしろ殺伐としていた。それもこれも前任の指揮官が元凶であり、その影響をもろに指揮官も受けることになった。KAN-SEN達は現指揮官の話を聞いてくれないし、聞こうともしない。あるのは指揮官に対する憎悪、怒り、悲しみ等の負の感情。だから、指揮官はこの基地を良い方向に変えていこうと決意した。もちろん自分の為でもある。しかし、一番は何といっても――――

 

 

「皆が楽しく笑いあえるのが一番だからな」

 

「…………ふふ♪ そうですね♪」

 

 ベルファストは微笑みを浮かべる。予想通り、この指揮官は私達のことを考えて行動してくれる。そんな指揮官だからこそKAN-SEN達は好きなのである。好きだからこそ――

 

 

「皆様はご主人様のことをもっと知りたいのです」

 

「えっ?そ、そうか……なんか照れるな……」

 

「はい、ですので…………」

 

 ベルファストは一呼吸置いて言う。

 

 

「これからはご主人様のことをもっと知るために、アンケートにご協力くださいませ」

 

 

「ん? ああ、そうだな。 KAN-SEN達ともっと親密になるのも指揮官として重要な仕事だからな!よーし! 早速アンケートについて答えるぞ!…………ってなるかあああああ!!!!」

 

 指揮官、本日二度目の絶叫

 

「なんでだよ!?なんでそんなにアンケートに拘るんだよ!つーか、このアンケートに答えて俺の何を知れるの!?」

 

「ヒッパー様の今後の成長について……でしょうか?」

 

「今後の成長って……胸だけじゃねえか! 意味ねえよ、そんなもの!……とにかくだ!」

 

 

「今後一切、アンケート用紙の投函を禁止する! 全KAN-SEN達に今すぐ通達するように!」

 

 

「……かしこまりました」

 

 ベルファストはほんの少しだけ不服そうな表情をして、指揮官に一礼をする。そして体を反転し、扉に向かって歩き始めるが、ふと何かを思い出し指揮官に向き直る。

 

「……最後でいいので、ご主人様は先ほどのアンケートについてお答えできないでしょうか?」

 

「ん? 俺か……まあ、そうだな……そんじゃ、④の神龍に大きくしてもらうで」

 

 ツッコミ疲れた指揮官は投げ遣りな態度で、これで終わるのならいいと何も考えずに答える。

 

 

「分かりました……では、ご主人様も入れて④は5票になりました」

 

「いや、他に4人もいんのかよ! そいつら頭大丈夫か!?」

 

「それではまず初めにヒッパー様にお伝えしてまいります。ご協力ありがとうございました」

 

「ヒッパーは一番駄目だって! 考え直して!」

 

 

「それでは今日の執務お疲れ様でした」

 

 

 バタン――とベルファストは執務室の扉を閉める。そして、後に残された指揮官にどっと疲れが押し寄せてくる。だが、もう少しだけ業務は残っている。といっても残り数枚の意見書だ。それに目を通せば今日の仕事は終わりだ。

 

(もうちょっとだ、もうちょっとで終わる……)

 

 終わりの見えてきたゴール。いかに疲れていようが構わない。いや、疲れている時こそ終了したときの解放感は気持ちがいい。その後は酒だ、そう酒を飲もう。お気に入りのグラスにビールを注いで、肴はチーズやソーセージ。鉄血の皆に教えてもらったスタイルで今日を過ごそう。……よし、気力が漲ってきた。これで―――終わりだ!

 

 

『当選おめでとうございますにゃ。あなたに10,000ダイヤを進呈することが決まったにゃ。手数料として500ダイヤを明石のとこまで持ってくるにゃ』

 分かった、この紙は後でローンに渡しとくわ

 

 

『タッカラプト ポッポルンガ プピリットパロ!!』

 日本語でおk

 

 

『敗北を知りたい』

 今すぐオーガと闘ってこい

 

 

『指揮官!今度、綾波ちゃん達と怪談話をしましょう!』

 ああ、それはいいな。最近、また暑くなってきたからな。うん、予定空けとく。

 

 

『誇らしきご主人様、大変申し訳ございません。今日の朝、ご主人様のお部屋を掃除していたら、ご主人様が大切にされているグラスを割ってしまいました。そこでご主人様。この卑しいメイドに罰を与えてくださいませ!』

  おいおい、大丈夫か?怪我はなかっ………………は?

 

 指揮官は最後の意見書の意味を反芻する。どうやら、ポンコツエロメイドが自分のお気に入りのグラスを割ったらしい。そもそも、今日は自室の掃除を頼んでいないしグラスは戸棚の奥に閉まっていた。なんで発見したのだろう?というか、なんでそんな大事なことを目安箱で知らせたのかが、指揮官は疑問に思ったが―――途中で考えるのを止めた。

 そして、指揮官はある決心をする。

 

 

「うん……もう目安箱撤去しよう……」

 

 

 指揮官の呟いた言葉は宙へと消えていった――――

 

 

 

 

 

 

 

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